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20話 魔族襲来




 カレンの迷宮初体験を早めに終わらせたので、帰りにグラムの武器屋に寄る事にする。



「グラムさん。頼んでいた魔石の加工は終わっていますか?」


「お!ルナか。なんだ、今日はえらく大人数で来たんだな。……まぁ、魔石の加工は終わったんだが………」



 ルナの来店に気がついたグラムは、魔石の話になると少々困ったような顔をしていた。



「何か問題が起こったのですか?」


「いや…確かに問題と言えば問題なんだが………ちょっと待っていてくれ、現物を直接見た方が早いからな」



 そう言って店の奥に行き、戻って来るとその手には複数の加工済みの魔石があった。



「………な!?なんなんだこの魔石は!?こんなに力を感じる魔石は見た事がないぞ!」



 それを見たジェムスが一番に驚く。それもそのはず、グラムの手にあった魔石1つ1つから凄い力を放っていたのだ。



「見て分かるように、頼まれていた魔石を加工したらこんなに力を発し始めてしまってな。そのまま持ち歩くとかなり目を引く事になりそうなんだよ」


「ちょっと待ってくれ!失礼だがこんな店にあるような魔石じゃないぞ!それにその魔石は別格としても、その辺に置いてある魔法の杖もレベルが高い。この町の専門店と比べても勝るとも劣らない高性能の品揃えだ。それなのにこの価格……これでは原価の方が高くなるかもしれないぞ…」



 どうやらジェムスから見ればこの店の魔法の杖は、儲ける気が全くないように思えてしまい驚いているようだ。



「別に原価割れする事はないぞ?何しろこの杖だって4等級の魔石で作った杖だから、この価格でも十分売り上げは出るからな」


「これが4等級の魔石だって!?……このクラスの力を感じる杖なら、専門店では3等級の魔石を使って出来ている高級品のはずだ」



 驚いているジェムスに納得してもらう為に、グラムは身近にあった杖を1つ持って見せたのだが、それに使われている材料と性能の差で、更に驚かせる事になってしまった。



「この店は中層クラスまでの冒険者の事を考えて、安く武器を売っているからな。多少は他の店より安く感じるのは仕方がないよ」


「中層クラスって……確かに他の武器はそうだが、魔法の杖に限れば下層レベルの装備が置いているんだぞ?これをそんなに安く売っているんだ。驚くに決まっているだろ」


「ああ、それについては店の秘密だから教えれないが、確かに杖のランクは1段階以上は上がっているからな」



 ジェムスが何を驚いているかは理解出来たのだが、魔石の属性の事を話さないと約束しているので、言葉を濁すしか出来ない。



「……秘密って、ルナみたいな事を言うのね」


「え!?そ、そうか?とくにルナは関係がないぞ?」


(……グラム…動揺し過ぎだ…)



 カレンがポロっと呟いた言葉を聞いて、グラムは明らかな動揺を見せてしまう。その様子を見ていたカレンは何かに気がついたようで、横目でグラムとルナを交互に見る。明らかにバレていると気が付いたグラムは、更に普通の態度をとろうとして余計に怪しい態度になっていた。



「なるほどね……秘密なら仕方がないわ。それよりジェムス、そろそろ初心者用の杖から卒業したいと思うんだけど、どうかしら?」



 グラムの態度から、疑惑が確信に変わったので助け船を出す事にする。



「そ、そうですね。確かにMPの総量も上がってきてますし、魔力の操作もだいぶ上達していますから、1ランク上の杖を持っていても大丈夫でしょう」


「それも買うとして、店主が持っている魔石で作った杖も買っておきたいんだけどうかしら?まだ私には早いのは理解しているけど、このレベルの魔石で出来た杖ってそうそう出会えるとは思えないわ」



 どうやらこのクラスの魔石で属性を揃えて加工すると、相乗効果で1等級分ぐらいランクが上がるようだ。つまりグラムの手に持っている加工済みの魔石は、専門店などで買うと2等級の魔石で作られた魔法の杖に匹敵している。その事を初心者ながら理解したカレンは、将来の為に買っておきたいと思ったのだ。



「そう…ですね。確かにこのランクの魔石を作るとなると、他の店では迷宮の最下層ぐらいで手に入ると言われている2等級の魔石が必要になるでしょう……最近、そこまで行ける冒険者の話は聞かないので、買っておいて損はありませんね」



 ジェムスも買う事には反対しないようだ。



「ちょっと待ってくれ。そこまで評価してくれるのは嬉しいが、身の丈に合わない装備は周りから危険を招く事に繋がるぞ?……ルナにも忠告したかった事だが、強そうに見えず、かと言ってまだ有名でもないから、強引に奪いに来る輩が現れて危ないかもしれないんだ」


(…それはありえるな…アリサはともかくルナとゼロが一緒に歩いていても、子供のおつかいにしか見えないだろうからな…)



 実際、滅多に手に入らないであろう高級な装備を子供が持っていたら、あの手この手で手に入れようと考える者が出てきてもおかしくないんだ。それも魔物とかがいるこの世界では、より命の危険があるとも考えられる。



「私は大丈夫よ。お父様はこの町の防衛隊長だから、屋敷まで帰れれば忍び込んでまで奪おうと考える人はまずいないわ」


「なんだお嬢ちゃん。あんたウェルダーさんとこの娘さんだったのか。…なら確かに安心だな」


「私も大丈夫だと思います。普段は今使っている杖を装備して、必要になった時だけそれを使うようにしますから」



 ルナが上位の杖を用意する理由は僕との共同魔法を使う為なので、そんな相手と滅多に出会う事はないから普段は必要がない。



「いや……持ち歩くだけで目立つから危険なんだぞ?」



 グラムは心配している内容を理解していないように感じて、頭を掻きながら困ったような表情をしていた。



「その点は心配ないわ。誰にも見る事が出来ない隠し場所があるからね。でもそうなると新しい杖も買う必要があるわね」



 ゼロとルナが全然心配していない事を感じたグラムは、非常識な2人の事だから何か想像も出来ないような対策があると信じて、半分諦めたように話を進める事にする。



「そうか……だが普段使わないなら、もう1つ杖を用意しないといけないぞ。そっちのお嬢ちゃんも今は買うだけなら、ちゃっちゃと杖を選んでくれ」


「そうね…どうせならお父様に頼んでミスリル鉱石でも取り寄せてもらおうかしら……良い魔石には良い材料で作った杖があった方がいいだろうし…」



 良い魔石のスペックを完全に出しきるには、良い素材で杖も作った方が良いのは確かだ。カレンもそう思って言ったのだが、その悪気のない言葉に反応した者が2人ほどいた。

 非常に拙い事を聞いたと思って冷や汗を流す僕と、まるでお目当ての物が見つかったかのように、満面の笑みを浮かべているルナだ。



(ちょっと待ってくれ!そんな簡単にミスリルが手に入るのかよ!)


「カレンちゃん!ミスリル鉱石って頼めば取り寄せてもらえる物なんですか?」



 ルナは勢い良くカレンの肩を掴み、ミスリルに関する情報を得ようとしだした。



(まずい!ルナは完全にグラムと約束を覚えている。このままじゃ恥ずかしい杖をルナに持たせる事になってしまう…)



 ミスリル鉱石は、前にルナの杖をオーダーメイドで作るかって話の時に出て来た素材で、それを持ってくれば杖の先端のデザインを僕に模して作ってあげるとグラムが約束したのだ。その約束の品が手に入ってしまうかもしれない……このピンチに僕は何も出来ずに話の流れを見守る事しか出来ない。

 考えてもみてほしい。本人が傍にいるのに、自分の全身像が目立つ魔石のせいで目立ってしまう事を。いくら自分で持っていなくても、じっくり見られるのは元一般人にとって恥ずかしさしかないのだ。


 そしてそれを持つルナも左手にぬいぐるみ、右手はそれを模した杖、背中に大盾を装備する姿は、誰が見ても変と言うであろう。



「確かに取り寄せは可能だけど、来るまでに何年掛かるか分からないわよ?ミスリル鉱石はこの辺りでは採取出来ないし、元々の採掘量自体が少ないはずだから滅多に出回らないもの」



 緊張の面持ちで聞いていたカレンの答えは、何時になるか分からないという嬉しい回答だった。その言葉を聞いた僕は、心の中で両手を上げて喜んだ。



「……そうですか…残念です…」


(あ~、良かった~。あ!グラムもホッと息を吐いてる。そんなに心配するなら最初からそんな約束をするなよ!)



 カレンの話を聞いたルナは明らかにガッカリしていたが、何かを思い付いたようですぐに気を持ち直した。



「そうだ!どうせ新しい杖が必要ですし、材料は今までの物でデザインを指定すればいいんですね。急いで必要な杖でもありませんし、時間は十分にありますので」



 その事にルナが気付いてしまった時、グラムは額に手を当てて天を仰いでいた。



(……その気持ちは僕も一緒だよ…滅多に使わない装備だからって、自分をモデルにされるのは恥ずかしいんだぞ…)


「それではデザインですけど………」



 そうして僕を使って杖の先端のデザインを話し始めた。その様子を見ていた誰もが、出来上がりの見た目の悪さに声を発する事が出来なくなっていたのだ。





 結果として、ルナの杖は明日には出来るらしいので後日引き取りに。カレンの普段使いの杖は魔石の交換で済まして、3等級の火の加工した魔石は購入して持ち帰る事にした。そしてちゃっかりジェムスも3等級の土の加工した魔石を購入して、自分の杖に取り付けてもらっていた。


 ジェムスはこの町でもそれなりに名前が広がっている魔法使いらしいので、襲われる心配はないだろうとグラムも判断したのだ。


 屋敷に帰るまでの道のり、ルナは理想の杖を持てる事で顔は緩んで完全に浮かれていた。その様子を生温かい目で全員が見ていたが、浮かれまくっていたルナが気がつく事はなかった。




 屋敷に帰って来た一行は、さっそく各々の仕事に戻る。カレンとジェムス、ルナは訓練所に、アリサとブランは見周りと言って屋敷の周辺に、ゼロはやる事がないから暇とか言って、実力が劣っているリリカを捕まえて鍛える事にしたみたいだ。



(リリカ……ゼロの暇つぶしを頑張れよ…。あと胸を強調すると妬みから、ゼロに削ぎ落とされるかもしれないから気をつけるんだぞ…)



 僕はゼロの後ろ姿を見ながらリリカの無事を祈ってあげる。しかし何かを感じたようで速攻で戻ってきて、無言で僕の顔を力を込めて握る。その行動の意味が分からず茫然とするカレンとジェムス。そしてため息を吐くルナの吐息だけが聞こえていた。



 カレンの修練は結果として今までと変わる事はなかった。最大MP不足と、魔力の圧縮の精度、それを行う時間の短縮。内容は変わらなかったが、これらの課題をこなす気持ちの持ちようは、実戦で得た事で更に真剣見が増していた。







 これらの修練を繰り返し行っていき、何事もなく依頼が完了するかと思われたが………7日目の昼頃を迎えた時、町が騒然となる出来事が起こる。つまり大量の魔物による町への襲撃が始まったのだ。



「いったい何が起きたの!」



 町から聞こえて来る悲鳴や怒声は屋敷の中にも伝わり、メイドや使用人達も騒ぎ出す。カレンはいったい何事かと驚いて、一目散に外の様子を見に行き、それに少し遅れる形でルナ達も後を追う。



「……やっぱり来てしまいましたか…」



 屋敷にある見張り塔に登り、高い所から町の外の様子を知ったカレン達は、その魔物の数に息を飲んで動きも表情も固まっている。



「それにしてもなかなかの数ね。あれだけの魔物を連れてこれるなんて、噂に聞いていた魔族って結構大物だったりしてね」



 ゼロは軽い口調で話しているが、町の外にいる魔物の数は軽く5000は越えてそうな大群だったのだ。その数を見たゼロとルナ以外の全員が、その大群を見て最悪の想定を頭の中に浮かべてしまう。



「あれだけの数の魔物と迷宮で出会ったら大変でしたね」


「そう?むしろ囲まれる心配がないから楽かもしれないわよ?」


「確かにそういう風に考える事も出来ますね」



 町の住民の騒ぎ声が聞こえる中、2人は普段通りに話をしている。その様子を見ていたカレンが、信じられない者を見るようにこっちを見て来た。



「何でそんなに落ち着いていられるの?見てよ!魔物の数に対して、お父様の部隊の数は500人くらいしかいないのよ!絶対的に不利なのよ!」



 カレンは見るからに数が少ない守りに対して、不安でパニックになりそうな気持ちを怒鳴る事で誤魔化していたのだ。



「何を言ってるの、あんたこそ良く見なさい。魔物の数が多いからって、前の方にいるのはゴブリンの集団よ?もちろん今の勢いのまま攻められると拙いけど、雑魚相手に1対1で数を比較するのは間違っているわ」


「もしこちらの守りの方が素人の集まりなら危険かもしれませんが、心得がある兵の方がゴブリンと互角とは考えれませんから、数の不利は考えなくても良いかと。それに事前に襲ってくるかもと噂がありました防衛戦ですから、ウェルダーさんなら何か用意していると思いますよ」


「……確かにそうね…お父様がなんの対策もなしにいる訳がないから、近づかれる前に何か攻撃を仕掛けて数を減らせるでしょうね」



 2人の普段通りの落ち着きっぷりを見てカレンが安心すると共に、他の人達も落ち着きを取り戻していた。そして少ししたら、カレンの予想通り魔法や弓矢が放たれ始め、前方にいるゴブリン達を攻撃し始めた。



「……なにあれ?あんな魔法じゃ近づかれる前に殲滅が出来ないじゃない!」



 遠距離攻撃が始まっていて確実に魔物の数を減らしてはいるのだが、その中で放たれた魔法は、単体にしか効果がないような物だった。それを見てゼロが呆れるような顔をして文句を言っているのだ。



「えーと…ゼロさんは、いったいどんな魔法を期待していたんだい?」



 ゼロの口から出た殲滅という言葉に、アラドが代表して質問をする。他の人もこっちを見ている事から考えて、全員同じ疑問が浮かんだようだ。



「そりゃ火の魔法ならカレンのファイヤーボールより強い威力で大地ごと焼き払い、土の魔法なら大地を割って魔物を落とし、風の魔法なら竜巻を起こして、水の魔法なら大量の水で魔物を飲み込むようなのを期待していたのよ」


(確かにそうだよな……あれじゃぁ、弓より少しましってぐらいの魔法だもんな…)


「あーー……魔法使いの全員をその子みたいに考えてもらうと困るな…そんな馬鹿みたいな威力の魔法を使えたとしても、どれだけのMPが必要になるか分からないよ」



 ゼロの言った夢のような魔法に、ジェムスは額に汗を流しながら話す。



「そうなの?だってまだ冒険者になっていないカレンですら、ゴブリン程度ならまとめて倒せたわよ?それなのに大の大人が何をやっているのよ」


「確かにそう言われると耳が痛いんだが、お嬢様の魔法はその子が教えてくれたから使えるのであって、普通は1対1の魔法がメインなんだよ…」


「え、そうなの?………なるほどね。そいつが教えたからカレンの魔法はそうなった訳か…」



 ゼロはジェムスの話を聞き、カレンの魔法があの形になった理由に気付いたようだ。その証拠に腕を組んで僕の方を横目で見ている。



「でも数は減らしているようだし何とかなるでしょ。町を守る部隊なら、魔導具だっていくつか持ってる奴がいるだろうしね」


「確かに何人かいるだろうが、元々数が少ない魔導具を見付けても基本は冒険者がそのまま装備するから、世に出回る事自体が稀なんだよ」


「…そう言われてみればそうよね」



 自分も見付けた魔導具は装備している事を考えて、アラドの話に納得する。


 そう話している間に魔物の最前列がバランスを崩すように倒れていき、後列に踏みつぶされてしまっていた。そして大きな岩も幾つか飛び始め、魔物の集団を倒していく。



「あれらがウェルダーの用意していた対策のようね。……落とし穴と投石機とはまた面白い物を用意しているわね」



 飛距離はそこまでなさそうだが、木で造られた岩を飛ばす道具は複数台用意されており、次々に魔物の群れを襲っている。相手の足場を戦い難くし、こっちは待ち構える陣形をとっているので、このまま行けば勝てると誰もが思っていた。だが……



「……少し変ですね…ウェルダーさんが言っていた魔族の姿が見えません…」


「確かにそうなのよ。それにこの魔物の群れは統率がとれていないから、ただ町に向かって来ているだけにしか見えないものね…」



 ルナとカレンの話を聞いて、アラド達も慌てて指揮をしている者を探したが、それらしい動きをする者を確認する事は出来なかった。



「…まさか陽動?」



 その戦場の様子を見てリリカはボソッと呟き、それを聞きいた者の顔色が青ざめていく。



「おそらくその可能性が一番高いわ………そう考えると堂々と予告状を持って来て、目立ちたがり屋とか馬鹿とか思わせるのは演技で、伏兵を用意するはずがないと誤認させるのが目的だったと考えられるわね…」


「なら急いでその事をお父様に報告しに行かなくっちゃ!」



 ゼロの推測を聞いたカレンは、ウェルダーの所へ向かう為に慌てて駆けだした。その行動を見て、少し遅れる形でルナ達も追いかけて行ったのだが、カレンは見張り塔を出たすぐの所で立ち止まっている。



「そんなに慌ててどこに行こうっていうの?それより私と少し遊びましょうよ」



 カレンの少し前に立っている女の子は、そう言ってニコニコ笑っていた。



「あんた誰よ!ここは私の家よ、勝手に入らないでもらえるかしら」


「そんな事はこだわらなくていいわよ。だって……もうすぐこの町は終わるんだからね」


「お、お嬢様気をつけてください!こいつが屋敷に来たという魔族です!」



 歳のせいか一番最後に塔から下りて来たジェムスが、乱れた息を整える事も忘れてそう教えてくれた。



「この子が魔族?…どう見ての普通の女の子にしか見えないな…」



 アラドの意見にはほぼ全員が同じ事を考えていた。それもそのはず、見た目はゼロより少し大きいぐらいで、服装も黒のゴスロリのような物を来ている。どこかの貴族の子供が遊びに来ていると言われた方が、簡単に納得できるのだった。



「それであんたは誰で、なんの目的があってここに来たの?」



 唯一子供扱いしなかったゼロは、普通に問いかける。



(そりゃそうだろうな。相手を見た目で子供扱いしたら、自分がそう見られても文句が言えなくなるだろうしね)


「私の名前は<リリーナ>。目的は簡単、人間に絶望を感じてもらう為。その為の作戦はこうよ。

 ギリギリ勝てる魔物の大群を倒して喜んだ後に、守るべき者のいる町中が戦場にする。しかも広範囲で魔物が暴れるから対応も遅れ手遅れになり犠牲者もでる。部隊である以上、個人の意志では動けない中、身内が魔物に襲われているのに助けにも行けないのよ。そうなった奴は魔物を怨み、指揮者を怨む。その中には直接手を出す奴もいるだろうし、そうなると今度は出された家族が怨みを持つ。

 ……どう?負の感情が上手く広がる良い作戦でしょ」



 そんな人が人を怨むように持って行く作戦を、得意気に、そして笑いながら話すリリーナに怒りを感じる。



「そんな事をして何になるというんですか!」



 ルナも怒っているようで声を荒げていた。



「私達魔族は瘴気を吸収して核を強く出来るらしいわ。…その為にこんな作戦をする必要があるらしいのよ」



 ルナの問いに答えたのはリリーナは、微妙に確証を持っていないようだ。



「……抵抗しないで捕まってほしいの」 



 リリーナとは違う方向から声がしたのでその声の方を振り向くと、もう1人少女が立っていた。



「遅いわよ<カナミティー>!ボーとしてるあんたを連れて来てやったんだから、少しは真面目に働きなさいよ!」



 そのカナミティーと呼ばれた少女は、前に僕達と出会った魔族の少女と同一人物だった。そしてその表情は「逃げていて欲しかった」と悲しそうに語っていた。



「……私は強くなんてなりたくないの」


「あんたが強くなる必要はないわ!あんたの持つ貴重な闇魔法を私の為に使えばいいのよ!ほら、さっさとあいつ等に恐怖を味遭わせなさい!」


「……でも」



 カナミティーは手を出す事に、気が引けているようだ。しかしその態度がリリーナの癇に障る事になっている。



「あんた、また殴れたいの!いいからさっさとしなさい!」



 どうやらカナミティーはそのやる気の感じない性格から暴力を受けており、ちょうど良いコマとして使われているようだ。



「……痛いのは嫌なの」



 そう言って右手をこちらに向けて来る。



「……<シャドーミスト>」



 その声と共に放たれたのは、昼間なのに視界が0になる黒い霧だった。



「なんだこの霧は!?何も見えないぞ!」


「キャーーー!!!」



 全員の視界がふさがれた状態で響いたのはカレンの悲鳴だった。その声に全員が慌てたが、何も見えないので下手に動く事も出来ず、ただ名前を呼ぶ事しか出来ない。



「お嬢様!どうしました!?無事ですか!」


「大丈夫よ。この子はすぐには殺さないわ。だってこの子はウェルダーの前で無残に死んでもらわないといけないからね。クク、想像するだけで楽しそうだわ。町を守るリーダーが、娘と町とを天秤に掛けられた時に、どっちを選ぶかしら」



 残酷な二択をさせようと笑っているリリーナの声が響く。そんな事はさせないとジェムスは思い、すぐさま魔法を放とうとするが、相手の位置も分からずカレンが捕まってしまったので、不用意に行動がとれない状況だ。



「そんな事をさせる訳ないでしょ!」



 そんな状況をぶち破ったのはゼロだった。リリーナの声が聞こえた方向にすぐさま走り、黒い霧をぬけると同時に攻撃を仕掛けたのだ。



「な!?」



 予想以上に早い対応を見せたゼロに驚いたリリーナは、慌てて距離をあけようとする。しかし勢いに乗っているゼロのスピードと、カレンを抱えて反応が遅れたリリーナとでは逃げる事も出来ず、腕を軽く斬られた事でカレンを放してしまう。



「くそ!せっかくのおもちゃをみすみす手放す羽目になるとは…」



 斬られた腕を押さえて悔しそうにしているリリーナは、とりあえずゼロとの距離をとった。



「それで逃げたつもり?」


「なに?」



 気を失っているカレンを支えているゼロは、離れた位置で止まっているリリーナを見てそう呟いた。その言葉に疑問を持った瞬間、凄い勢いで飛んで来た水弾を右肩に受けて、回るように吹き飛ばされた。



「ぐゎっ!?……痛っ…いったい誰だ…」



 地面とキスをしてしまったリリーナは慌てて立ちあがり、先程の攻撃が飛んで来た方を睨みつける。



「カレンちゃんを殺すなんて事はさせません!」



 そこには黒い霧から抜け出ていたルナが立っていた。



「くそ、作戦変更だ!さっさと魔物を乗り込ませるのよ!……愚図が、遅れるな!さっさと着いて来なさい!」


「……分かったの」



 怒鳴りながら逃げるリリーナを追いかけるように、少しゆっくりしたスピードでカナミティーが後を追って去っていく。逃亡を図る相手に、ゼロ1人だったら追いかけて追撃も出来たのだが、カレンを抱えている状態では無茶も出来ないと判断してここに留まったのだ。



「お嬢様大丈夫ですか!?」



 やがて黒い霧が薄まっていき視界が何とか確保されたジェムスは、慌ててカレンの下へ駆け寄ってきた。



「大丈夫よ。少し気を失っているけど、怪我もなく無事よ」



 そう言ってゼロはカレンを預けた。



「それよりあいつ等が逃げて行った方向を考えると、おそらくもう一つの魔物の群れがいるのはウェルダー達が戦っている反対側よ。今から報告に行っても間に合わないかもしれないし、町の住民を避難させる事も出来ないわ。急いで対策を考えないと、被害は大きくなる一方よ」


「確かにそうだな………よし!人員の振り分けを行う。まず気を失っているカレンをジェムスさんがここで守る。そしてリリカがウェルダーさんにこの事を報告しに行き、残りは魔族を追って増援が来るまでの時間稼ぎを行う!全員それで良いか!」



 流石は経験豊富な冒険者とでも言うべきか、アラドは時間がない事を理解し、迅速に人員の振り分けを行った。その案に誰もが納得したようで、頷いて了承の意思を伝える。



「それでは行くぞ!」



 そうして各自が自分達の役割に向かって動き始めた。




 怪我を負い、余裕のなくなったリリーナの行動は短絡的な物だった。真っ直ぐ町の外に向かっているようで、途中にあった道具屋の屋台からポーションを1つ奪ったみたいだ。その事もあり、僕達は迷う事無く、あとを追うように町の外に向かって行く事が出来た。


 町を囲っている壁の入口を守っていた兵士が慌てていたので話を聞くと、見張り台から魔物の群れが見えたらしいのだ。そのせいでパニックになっていた兵士を落ち着かせ、門を閉めるように指示をする。



「だ、駄目です!門が閉まりません!どうやら何者かが金具を壊したようです!」



 すぐに落ち着いて行動を起こしたのは良かったが、閉門出来ずにまた浮足立ってしまう。



「これをする為に、襲って来るまで時間を空けたのか……」



 兵士の報告を聞き、アラドは予想以上に手回しがいい事に悔しがっている。普通に考えると襲撃まで時間を空ける以上、何かしらの裏工作を行っている想定をするものなのだ。それをただの目立ちたがり屋と決め付けてしまい、それらの警戒をまったくしなかった事を後悔していた。



「…仕方がない…君たちはここで門の修理を行って直りしだい閉門するんだ。それまでは僕達が町の外で時間を稼ぐ」



 アラドの最初の予定では、門を閉めて壁の上からルナの魔法で攻撃をしてもらおうと考えていた。しかし門が閉まらない以上、魔物をここまで来させる訳には行かなくなったのだ。



「皆にはすまないと思うが、この状況では1人でも戦力が欲しい所なんだ。悪いが着いて来てくれるかい?」



 魔物の数は囮に比べて少ないらしいが、それでも数百体はいると聞いている。つまりこの7人で足止めをする以上、命の失う危険はかなり高いのだ。それを踏まえてアラドは申し訳なさそうな顔をして、全員にその意思を確認してきた。



「このままじゃ、逃げる事も厳しそうだしな。仕方がないからアラドに付き合ってやるよ」



 ガルの言葉に皆が静かにうなづいた。



「別に死ぬつもりは全くないし、そこまで気にしなくていいわよ」



 ゼロの軽口を聞き皆の気持ちが少し楽になり、緊張が解れたように笑顔も見えるようになる



「すまないな皆。…よし、この門には魔物を一匹たりとも通さないぞ!」



 そうして僕達は門を出て、魔物の群れとの戦いに向かって行く。



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