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19話 カレンの実戦




 ゼロの放ったプレッシャーに耐えれなかったのか、アラド達は警備する屋敷を見て回ると言って訓練所を出ていく。その案内をする形でアリサも一緒に着いて行った。ゼロもカレンが少し怖がっていたのに気がついて、練習の邪魔になると思い散歩すると言って訓練所を後にする。



「ねえ、一度迷宮で実戦を経験してみたいんだけど、今の私の実力はどこまで通じると思う?」



 いつも通りのMP回復中の座学で、カレンが質問してきた。



「そうですね…今のカレンちゃんなら2階層のゴブリンが限界でしょう。3階層もゴブリンがメインですが、数が多いので危険ですから…」


「…やっぱり私の魔法に即効性がないのが原因?」



 どうやらカレンは自分の魔法の欠点を理解していたようで、少し落ち込んだような暗い顔をする。



「…カレンちゃんの魔法は、相手を焼く倒し方になります。ですのですぐに倒す事は出来ず、倒すまで時間が掛かってしまうので、死ぬ気になった魔物が最後の攻撃に出て来る可能性があります。それに魔法を当てても吹き飛ばす事が出来ないので、距離を詰められる危険もありますね」


「やっぱりそうよね~…あーあ、私の魔法もルナの水やジェムスの土だったら良かったのに……。

 ねぇ、私の魔法をどうすれば強化出来ると思う?魔法にイメージが必要なのは分かってるけど、そんな都合のいいイメージが全然浮かばないのよ…」



 魔法の形は個人の創意工夫が盛り込まれた物なので、普通は他人に教えることなどしない。それを知っているカレンが聞いてくるのだから、自分だけじゃ手がかりも掴めないで悩んだ結果だと分かる。



「そう言われましても私の属性は水ですから、火の魔法の特性については分からないです。…ジェムスさんは、火の魔法ではどのような形を見た事がありますか?」



 カレンが今まで出会った魔法使いは、リーザとジェムス、カレンの3人だけなので、経験が豊富なジェムスにアドバイスを貰おうと考えたのだ。



「私が今までに見た事があるのは、火を矢のように細くして放つ形と広範囲に火を放って足止めをする形、火の玉にする形、あとは剣に火を纏わせて斬りかかる方法ですね。お嬢様は前衛で戦う事が出来ませんので、最後のはおすすめ出来ませんが…」


(なるほどね。全部良く見る火の魔法の形だな。やっぱり世界が違っても、考える事は皆一緒なんだろうな)


「ではその中で魔物を一撃で倒せそうな魔法はどれですか?」


「…今のお嬢様の火力では、どれをマスターしたとしても即効性は得られません。火力が上がれば広範囲で複数の敵を一撃で倒せる属性なのですが……大器晩成型なので、焦らず修練を続ける事しか思い付きませんね」



 ジェムスはルナの問いに、カレンの満足いく答えがない事を申し訳なく思いながら話してくれた。



「やっぱりそうよねー………。私も本で読んだけど、火の魔法は初心者泣かせの属性だって書いてあったもの」



 カレンも自分なりに本などで調べていたが良い結果が得られず、ルナならばもしかしての望みも断たれた事で、ガックリと肩を落として落ち込んでしまった。



(え!?。火の魔法が残念魔法?僕の知ってるゲームでは、火の魔法は序盤から一番使い勝手が良くて、人気の属性だったはずだぞ?それにこの世界の火の玉がどんな魔法かは見た事がないが、ファイヤーボールと言えば速度は早くはないが、着弾点の周囲の魔物まで巻き添えにして吹き飛ばす高威力の魔法のはずだろ?)



 実際僕がゲームで選ぶのはいつも火の魔法だった。なにしろ火が効かない敵ってほとんどいないどころか、弱点が火って敵の方が多かったぐらいだったからだ。


 僕はこの考えの違いを確認するべく、いまだ考え込んでいるルナに合図を送り、2人で話が出来る場所まで移動してもらった。





「どうかしましたか、ハヤテさん?」



 カレン達に一言言って訓練所を出て、周囲に人がいない事を確認したので話しかけてきた。



「ルナ。この世界の火の魔法が不遇ってホントなの?」


「そうですね。リーザさんも火の属性じゃなくて良かったと言っていましたし、カレンちゃんの読んだ本にも書いていたようですから、まず間違いはないかと…」



 自分で口にした事はカレンをすぐに強く出来ない理由なので、言葉にした事で力になれないと実感してしまい、ルナは少し悲しそうな顔をしていた。そんなルナに僕は更に問いかける。



「僕の世界での架空の話になるけど、そこでは火の属性は一番人気なんだ。なにしろ最初から使い易いし、最大魔法もほとんどが火の魔法ってぐらいに強いんだよ。

 ……そこで確認して来て欲しいんだけど、ジェムスが言っていた火の玉にして放つ魔法は、目標に当たった時にどうなったかを知りたいんだ」


「ハヤテさんがそう言うって事は、何かカレンちゃんにアドバイス出来る可能性があるって事ですね。分かりました。すぐに聞いて来ます」



 僕が言った事は全て正しく、悩みも解決してくれると信じ切っているようで、先程まで暗かった顔がまるで嘘のように晴れやかになり、ルナは駆け足気味にジェムスの元へ向かって行った。



(…そこまで信用されると、駄目だった時に言い難いな……)


「ジェムスさん!先程の話にありました火を玉にして放った魔法は、目標に当たった時にどうなりましたか?」



 ルナは戻って来るなり急に先程の話を聞いて来たので、ジェムスは少し驚いた顔をする。



「さっきの話?…ああ、火の魔法の形だったな。火の玉にしていたのは周りに被害を出さない為だ。だから敵に当たった時は、注意を引く程度で威力は全然なかったよ。でもそれを聞いてどうなるんだい?」


「すみません。また少し離れます」



 それだけを伝えると、またルナは急ぎ足で部屋を出て行く。そして質問の理由を聞いてきたジェムスを無視するように急いで部屋を後にしたルナを見て、カレンとジェムスは不思議そうに眺めていた。





「ハヤテさんどうでしたか?今の話で何か掴めましたか?」



 部屋を出るなりルナは、少し興奮気味に答えを聞こうと、僕を対面する位置に持ち上げる。



「ちょっと落ちついて!……結論から言うと僕の知っている火の玉、ファイヤーボールの魔法とは全然違ったよ。ジェムスが見たのは周りにダメージを与えないように、最低限の大きさにした火の玉。

 でも僕が知っているのは火を拳大ぐらいまで小さく圧縮する事で、着弾と同時に破裂して周囲もその爆風と熱で巻き込む範囲魔法だ」


「それって火力は威力に関係がないのですか?」


「確かに火力が高ければ威力も上がるけど、圧縮から解放される時の爆発で敵を吹き飛ばすから火力は関係があまりない。それに圧縮中は酸素不足になってるはずだから、解放時はバックドラフト現象も起こって、瞬間的に火力は実力以上になるはずだよ」


「バックドラフト現象?酸素不足?」



 ルナはその辺の言葉の意味を理解出来なかったようなので、少し時間が掛かったが説明してあげる。




「……私…まったく知りませんでした。流石ハヤテさんです!」



 カレンの悩みを解決する可能性を見せた事で、ルナは自分の事のように喜んで僕を抱きしめて褒めてくれた。



「そんなに凄い事じゃないよ。それとカレンに伝えるイメージは、前にリーザが魔力撃の説明をしてくれたのと似てるから、細かい所を変えて説明してあげてね」


「魔力撃の説明でしたね。…確かに伝えやすいイメージです。分かりました、さっそくカレンちゃんに伝えて練習に入ります」



 そう言って悩んでいるカレンの下に駆けて行く。





「ルナ……もう少し落ち着きなさい。そんなに走り回っていたら良い考えも浮かばないわよ」



 行ったり来たりを繰り返していたルナに、カレンは意味が分からず少し呆れるように注意したのだ。今一番落ち込んでいるカレンは、目に分かる成果が出にくく、地味な反復練習しか方法がない事でモチベーションが下がっていた。



「あ!?……すみません、慌ててしまって。カレンちゃんの悩みを解決出来るかもしれない答えを見付けたもので、つい嬉しくて……」



 ルナは自分が落ち着いていない事に気が付いて、カレンに頭を下げて謝った。



「………ん?ちょっと待って。悩みの解決って、まさか火力不足の?」



 ルナの言葉を聞いたカレンは、こんなに簡単に答えが見つかるはずもないと、疑心暗鬼になりながらも期待してしまっていたのだ。



「今の魔法の火力を上げる方法ではありません」


「……そうよね。そんなすぐに火力を上げれたら、火が不遇属性なんて誰も言わないわよね…」



 やっぱり駄目がと諦めたカレンに、ルナの次の言葉で光が照らされる事になる。



「今の魔法は無理ですが、複数のゴブリンでも一撃ですぐに倒してしまう魔法の形がありました」



 その言葉にカレンは勢い良く顔を上げてルナの方を見る。



「え?どういう事?火力が上がらないのに、攻撃力が上がるって事?そんな夢みたいな話があるって言うの?」


「はい!ですが私も実際に見た事はありませんし、属性が違うので見本を見せてあげる事も出来ません。でもこの方法は魔法のスキルを持っていない人が編み出した技術を一部使いますが、魔法使いのカレンちゃんなら割とすぐに出来ると思いますよ」



 ルナの話を聞いたカレンは、今だ内容の説明が全くないので良く分かっていない。しかしここまで明るく話してくれるルナを見て、どうにかなるかもしれないと思えてきたのだ。



「それで私はどんな練習をすればいいの?」



 そして悩みが解決するのなら今すぐにでも教えて欲しいカレンは、立ちあがり詳しい話を聞こうとして来る。



「ちょっと待ってください!。今の話からして貴女は見た事もなく、自分では出来もしない事を教えようとしているって事ですよね?方法は分かりませんが、いったいどうやってその答えに辿り着いたと言うんですか?」



 ここで水を差してきたのはジェムスだった。だが確かにその疑問はもっともだ。普通、少し走り回っただけで、見た事も無いものを知る事なんて出来るはずがない。



「それについては秘密です。たとえ誰に聞かれても答える事はありません。ですがその方法を使えばカレンちゃんの魔法が強くなる事を、私も教えてもらって理解出来ました」


「しかし!」



 今までの不思議だと思っていた事もまとめて聞こうと思っていたジェムスだったが、絶対に教える気がないと答えるルナに押されてしまう。しかしそれでは納得がいかないので、更に聞き出そうと声を出した時……、



「ジェムス。別にルナがどんな方法で知識を得たかなんてどうでもいい話だわ。今聞かないといけないのは、私の魔法が実戦で使えるようになるかどうかでしょ?

 ルナの仕事は私を強くする事であって、決してルナの秘密を教えてもらう事ではないわ」


「……確かに、そうですね」



 カレンの言う事に否定する個所を見付けれなかったジェムスは、素直に頷いて納得した。



「それでは、その方法とやらを教えてもらいましょうか」


「はい!それではまず………」



 そうしてルナはカレンに魔力撃の説明から入り、僕の記憶にあるファイヤーボールの魔法の説明に入る。そして始めは関係のなさそうな話に疑問を浮かべていたカレンだったが、説明が終わりに近づくにつれて可能だと思えるようになり、すぐにでも練習に入りたいとウズウズしだしたのだ。



「それではまず火を圧縮して玉にし、放つ練習を始めましょう」


「分かったわ!」



 MPの回復する時間も必要だったので座学をじっと聞いていたカレンだったが、許しが出た途端、飛び出すように移動して練習を始める。

 だが最初の一発目は圧縮するイメージが上手く掴めていないようで、ただ大きい火の玉が的に向かって飛んで行くだけに終わった。



「最初はそれで構いません。圧縮の私のイメージでは枠を作った中に残りの魔法を詰め込む感じですね」


「袋を作って、その中に無理やり詰め込むようなイメージって事ね!」


「そうです。でも最初から小さいのは難しいでしょうから、徐々に小さくするようにしましょう」


「分かったわ!」



 今までの闇雲に魔法を放つ練習とは違い、明確な目標が見つかった事で俄然やる気になったカレンは、今が楽しくてしょうがないって顔で次々に魔法を放っていく。

 そしてまだ圧縮率が悪く大きい火の玉しか放てていなかったが、MPが尽きかけた時には、的に当たった時の目で分かる変化に確かな手ごたえを感じていた。



「ハァハァ……魔法の圧縮って難しいわね…」



 確かな手ごたえを感じれたので、すぐにでも続きを始めたい衝動に駆られているが、MPが切れたので仕方なく休憩に入る事になった。



「これでも私達魔法使いは楽な方ですよ。魔法を使えない人は、魔力を直接圧縮して爆発させないといけませんから。それこそ長年の修行を越えた者が身につく技術です」


「そうよね。たとえ未完成でも圧縮が出来始めたのに、私が難しいなんて言ったら確かに怒られるわ」


「……それにしても驚きましたな。今までと違ってすぐに火は消えてしまいましたが、その衝撃は明らかに上がっています……。これなら火力がまだ低いお嬢様でも、十分な攻撃力を得る事が出来そうです」



 休憩中のカレンの所に、火の玉が当たった的の様子を見に行っていたジェムスが帰ってきた。



「そうよね。この魔法が完成すれば焼く事は出来なくても、私の望んでいた即効性のある魔法が手に入る事は間違いないわ!」



 ジェムスの感想に嬉しそうにカレンも答える。



「…あ!説明が足りてませんでした。この魔法は確かに爆風によるダメージもありますが、それだけではありません。これは火の魔法限定の現象ですが、ある程度完成した時には実力以上の火力で目標を一気に焼く事も出来るようになりますよ」



 説明を最後まで言っていなかった事に気がついたルナは、慌ててこの魔法の特性を説明した。もちろんこの説明で2人が納得するはずもなく、詳しく聞いて来たのでルナも分かる範囲で答えてあげた。



「バックドラフト……そんな言葉は聞いた事もありません…」


「それに酸素だっけ?火が燃えるのにそんな目に見えない物が必要なんて事、どの本にも書いていなかったわ」


「でもたき火などの火の勢いを強くする時に、息を吹きかけますよね?酸素が必要と分からなくても、今までの生活でなんとなく分かっている物ですよ」



 いまだ驚きを隠しきれない2人に、少しでも理解出来るようにいろいろ例え話をして説明をする。



「なら圧縮が小さくなればなるほど威力は上がるって事ね」


「そう考えてもらって構いません。それに外気に接する部分も減るので熱が逃げ難くなり、多少は火力が上がる効果もあると思いますよ」


「……ほんとルナは博識ね。いえ、教えてくれる人がいるみたいだから、その人の知識が凄いのかもしれないわね」


「そうですね。私の最も大切な人はとても凄い方です!」



 そう目を閉じて嬉しそうに言うルナを見て、カレンはそれが誰かと聞ける雰囲気ではないと感じてしまう。



(…そこまで言われると、恥ずかし過ぎるな………。ルナもちょっと大袈裟に言い過ぎだよ)



 ここまで信用される事に嬉しい事だが、少し照れてしまいルナの顔を見る事が出来なかった。





 今日一日練習した結果、カレンのファイヤーボールは直径50センチぐらいまで圧縮出来るようになっていた。この大きさから先はなかなか上手くいかないので苦労していたが、既に今の状態でも木の的は一撃で吹き飛んでしまうほどの威力になっていたので、カレンも確かな手応えがあり嬉しそうに練習に励んでいた。



「ねえジェムス。この魔法がもう少し使いこなせるようになったら、迷宮で何階層まで通じると思う?」



 今日の修練の最後に、カレンはジェムスに聞いて来た。



「そうですね…。魔物に先制出来るなら6階層のシャドーデビルと戦えると思います。ですがお嬢様は防御力が低いので、攻撃を先に受けてしまうとそのまま致命傷になりかねませんが…」


「そりゃそうよね。身体能力が上がっている訳ではないのだから、ゴブリンの一撃でも一気にピンチになりかねないわ。……でも今日の朝までは2階層が限界だったのに、ルナに教えて貰った魔法の使い方のおかげで、一気に6階層も可能になるなんてね。今でも信じられないわ」



 カレンは自分の手の平を見て、今日一日の成果を思い出していた。



「それは私も同感です。火の魔法にこんな使い方があるなんて始めて聞きましたよ。それに普通こういう魔法技術は、有名な魔法使いが口伝として伝える以外、他の者の耳に伝わる事なんてまずありえません。それを何でもないように理屈まで一緒に教えてくれるなんて………まったく大物なのか、それとも欲が全くないのか…」



 そう言いながらジェムスとカレンは、不思議な者を見るような顔でルナを見つめている。



「そんな……私は大物ではありませんよ。ただ私は周りの人に支えられてここまで来る事が出来ました。なので、少しでも周囲の人に恩返しが出来ればいいなって考えているだけですよ。

 ………でも、今はある人に貰った恩を返すのが最優先ですけどね」



 そう言いながらルナは自分の魔法訓練を行っている。



「…ほんと、ルナの魔法の発想は凄いわね。その魔法だってきっと誰も使っていない形よ?」



 カレンが驚いていたルナの練習中の魔法は、<アクアスラッシャー>。水を薄い円盤型にし、高速回転させて相手を切り裂く魔法だ。



(ま、この名前を付けたのは僕なんだけどね。…それにしても結構形になってきたな。もう実戦で使っても問題がないんじゃないかな)



 ちなみに、この魔法の名前だけでなく、その他に2つの名前も僕がつけている。アクアカノン、迷宮で使った大出力の水弾と、アクアライフルがそうだ。もちろんルナには意味が分からない名前だった。


 ルナはこの訓練所でカレンが休憩に入って教える事が無くなってからは、いつもこの魔法の練習を行っていたのだ。その成果が出ているのか、日に日に完成度が上がっている。



「そうなんですか?私としては、斬撃系の魔法が欲しかったので練習をしているだけなんですが…」



 ルナがこの魔法の必要性を感じたのは下層でミノタウロスと戦った時で、衝撃に強い相手を倒すのに今までとは違う攻撃手段が欲しかったのがきっかけだ。



「……貴女はいったい何を目指しているんですか?貴女の魔法を見てきましたが、最初に聞いた通り、確かに単独で中層の魔物と戦っても勝ててしまうしょう。そんな貴女が更なる魔法が必要となると……間違いなく下層の魔物を想定して練習をしていますよね?」



 ジェムスの推測は正しかったので少しドキッと驚いてしまったが、極力平然を装って誤魔化した。



「そうなの!?」



 ジェムスの言葉にカレンは驚いていた。



「…確かに私は下層を目指しています。もっと正確に言えば目的の魔導具があるので、より下層に行きたいと思っています。ですから下層の魔物に通じる魔法が必要なのです」


「そうなんだ……下層を目指して…」



 カレンにとってルナは高い目標として見ていた。しかしその目標が更なる高みを目指している事を知り、自分がもっと頑張んないと差が広がる一方だと気付いてしまい、ショックで愕然としていたのだ。

 しかし落ち込んでいても何も始まらないのはカレンも分かっている。なので……



「…ルナ。明日の修練は迷宮での実戦訓練をさせてもらえないかしら。少しでも実戦の空気を感じてみたいの…」



 そう聞いて来たカレンの顔は、前に見た「今すぐ迷宮に行っても大丈夫」という根拠のない自信から来る顔ではなく、少しでもルナの目指しているものを感じてみたいという真剣な顔つきだった。その顔を見たジェムスは、いつもだったら「駄目です」の一言で終わらせるところなのに、むしろルナに許可をもらう協力をするようにこっちを見つめて来た。



「ジェムスさんの同意も得られているようですし私は構いませんが、冒険者ではないカレンちゃんが迷宮に入るには、5人の冒険者が付き添わないといけません。私達のチームは3人しかいませんし、そこにジェムスさんを入れても4人です。あと1人はどうします?」



 迷宮に潜るには冒険者資格が必要で、それを持たぬ者を連れていくには5人以上の冒険者が付き添うか、もしくはギルドマスターが許可を出さないと許されないのだ。



「それならブランを連れて行こうぜ」



 悩んでいたルナ達に解決策を出したのはアリサだった。しかし同時に疑問も浮かびあがる。



「…確かブランって斧を装備していた人よね?何でブランを指名したの?」



 皆の疑問を代表して聞いたのはゼロだった。



「え?いや、別に………そう!チームのバランスを考えたんだよ。剣の私と短剣のルナ、後衛には3人の魔法使い。なら今必要なのは、高い攻撃力を持ったブランだと思ったんだよ」



 アリサの意見はあながち間違ってはいない。魔法の通じ難い魔物との戦闘では、高い物理攻撃力を持つ者がいた方が助かるのだ。しかし今回はカレンに実戦経験を積ませるのが目的なので、魔法が通じ難い魔物が現れる所まで行くつもりはない。



「……それではお姉ちゃんがブランさんに話をして来てくれますか?」


「おう、任せろ!早速行ってくるよ」



 それだけを告げて、アリサは一目散にブランがいる部屋に向かって走って行った。



(あれはもしかして……)


「もしかしないでも、完全にアリサとブランはできてるわね。屋敷を案内している時も、2人は仲が良さそうだったし」



 どうやらゼロは、アリサが屋敷を案内している様子を影ながら見ていたようだ。



「やっぱりそうだったんですか。でもお姉ちゃんに好きな人が出来たのは嬉しいですね」



 ルナは嬉しそうにそう言って、アリサの出ていった扉の方を眺めていた。






 しばらくすると了承を得られたと、アリサが笑顔で戻って来て教えてくれる。



「それでは明日は迷宮に行くとしましょう。今日の訓練でカレンちゃんはだいぶ疲れているでしょうから、ゆっくり休んでください」



 そうして本日の訓練は終了を迎えた。







 翌朝は日が昇ってすぐに迷宮入りした。



「ここが迷宮かー。思っていたより普通なのね」



 初めての迷宮入りに興奮が抑えきれないのか、言葉とは裏腹に陣形を無視して1人で飛び出して行く。



「カレンちゃん!いくら危険が少ないとはいえ、1人で飛び出すのは駄目ですよ!」


「分かってるわ。でもこれは私の冒険者への最初の一歩になるんだから、少しは楽しみたいの!」



 そう言って迷宮内を駆け回り、スライムを見付けては火の魔法で倒す。



「お嬢様、そんなペースで魔法を使っていては、すぐに休憩が必要になりますよ。魔法使いなら自分のMP管理はしっかりしないといけません。そうしなければチームに迷惑が掛かりますよ」



 ここはまだ1階層だと言うのに魔法を使いまくっているので、カレンのMPは既に3割ほど減っていた。



「このチームなら上層の魔物なんて相手にならないでしょ?なら少しぐらい無茶をしても大丈夫よ」



 完全に浮かれモードになったカレンを止める事は出来なかった。それどころか興奮度は更に上がっていき、2階層への階段に辿り着いた時にはMPが1ケタまで減ってしまっていた。



「……カレンちゃんのMPが回復するまで、とりあえず階段で休憩をしましょう」



 カレンの残りMPを僕が教えてあげると、ルナはため息混じりで休憩を進言した。カレン自身もその事を分かっているようで、少し舌を出して可愛く謝っている。






 2階層に着いてからは流石に陣形を破る事はしなかった。ファイヤーボールの練習で魔法の圧縮が上手くなっていたので、放たれる魔法は無駄に拡散しなくなっている。結果として、普通に放たれるカレンの魔法も威力が上がっていたのだ。その為ゴブリン程度なら着弾と共に軽く吹き飛ばし、更に燃やしてしまうので安全に戦う事が出来るようになっていた。



「昨日はずっとファイヤーボールの練習をしていたから気付かなかったけど、最初に使っていた魔法まで威力が上がっていたわね」



 カレン本人もその事を実感出来ているようで、嬉しそうに自分の手を見て微笑んでいた。



「そうですね。その火の形なら、<ファイヤーアロー>と呼んでも問題はないでしょう」


「ファイヤーアローにファイヤーボール。いいわね!ますます魔法使いって感じが出て来たわ!」



 ジェムスの言うとおり、カレンの魔法は長細く圧縮されていたので火の矢のように見えるのだ。そしてまだ未完成ながらも、2種類の魔法を使い分ける事が出来るようになった事で、カレンはますます興奮しだす。


 2階層のゴブリン程度では相手にならず、ルナ達が守る必要もないぐらいに安定して倒していく事が出来た。あとの問題はMPの量ぐらいだ。

 カレン以外は魔物が近づかないように守るだけが今回の役割なので、攻撃は全てカレンが行った。その結果、3階層への階段でまた休憩が必要となった。



「各階層毎に休憩が必要になるなんてね。やっぱり最大MPを上げる練習は当分必要そうだわ」


「いえ、今回はお嬢様が1人で攻撃を行っていますが、本来ならこんな戦い方をするのは間違っています。ですからそんなに気にしなくてもよろしいかと」



 自分に対して厳しい評価を下すカレンを見て、ジェムスはフォローするように声を掛けてあげた。



「私の目標はルナよ。きっとルナならこれぐらいの数を倒すに休憩は必要ないわ」


「確かにそうでしょうが………まったく、お嬢様も大変な方を目標にしてしまわれた…」



 ジェムスはルナを目標とする大変さを考えて、ため息を吐きながら呟いた。しかし高い目標に対して向かって行くカレンを見て、嬉しそうに頬を緩ませていた。






 3階層に入って魔物の数が一気に増加する。しかし相手がまとまっている時にファイヤーボールを試したら、10体はいたゴブリンの半分以上を一撃で倒す事に成功した。そして生き残ったゴブリンも、少なからずダメージを受けていたので、その後に倒すのは苦労する事がなかった。


 本来ならこのクラスの魔法を見ればその威力に驚いてしまうのだが、ここにいるメンツはルナの魔法を見て知っているので、驚きも小さいもので済んでしまう。



「やっぱり良いわ、この魔法!私が望んでいた強力で派手な魔法が、こんなに早く手に入るなんて夢にも思わなかったわ!。それにまだ圧縮が未完成だから、伸びしろがだいぶ残っているのも今後のやる気につながるしね」



 始めて実戦で試したファイヤーボールの威力を見て、魔物への恐怖よりも自分の魔法に対する嬉しさの方が勝っているようで、終始笑顔が絶える事がない。


 しかし、まだ圧縮に時間が少々掛かってしまうので、アリサ達の護衛がないと危険なのもカレンは理解している。いろいろな問題点と今後の課題が見えたので、4階層への階段で一度休憩をとり、その後は地上を目指して引き返す事にした。







「ありがとうルナ。今回は私のわがままを聞いてくれて嬉しかったわ」



 地上に帰ってきたら、カレンがルナにお礼を言ってきた。どうやら自分でもわがままを言った自覚はあるようだったが、迷宮に入った事で得る物が多かったカレンは、満足そうな顔をして屋敷に帰って行く。


 このカレンの顔を見ると、誰も我儘娘とは言えないほどしっかりと成長していたのだ。


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