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18話 護衛任務




 魔法の実力を見る試験に圧倒的な成果を残して合格したルナ達は、ウェルダーに連れられて応接間に通された。そして席に着き、飲み物を用意されたところで話が始まった。



「正直合格するとは思わなかったんだが、見事な腕前だった。さて……わざわざカレンを置いて来た理由を何となく察しているようだが、私から詳しく説明させてもらう」



 もともと魔法使いの教育係を探すのに、何故かチームに所属している人を対象にしていたのを疑問は感じていた。つまり今回の依頼は1人ではなく、複数の冒険者が必要な内容だと想像していたのだ。



「…実は私の職業上、敵は多いのだが……今回は魔族が絡んでいるとの情報が耳に入って来たのだ。私の妻は既に亡くしていないが、息子が2人、娘が1人いる。

 上の息子は少し前に冒険者となり、実力が付くまで護衛に2人の冒険者を雇っているので安心だ。下の息子は私の手元で仕事を手伝わせているので守れるのだが、カレンはそうもいかない。それに自信過剰で人の言う事は聞かないは、勝手に出回るはで手を焼いていたんだ。そして挙句の果てには冒険者になると言いだした……。

 ……本当は大人しく家に居て欲しいのだが、あのお転婆を一カ所に留めておく事は出来ない。だからカレンの満足行く形で護衛をつけようと考えた訳だ」



 ウェルダーは額を押さえながら疲れたように話してくれた。カレンの行動力に悩まされていたのだろう、纏っている雰囲気に苦労がにじみ出ている。



「つまり子供にも敵の手が伸びるかもしれないから、護衛兼教育係の仕事を依頼したいという訳ね。でも依頼は1週間でしょ?その間に決着がつく保障でもあるの?」


「ああ、その点は大丈夫だ。何しろこの町を1週間後に襲うと予告状が届いたからな。本来ならこんな予告状を馬鹿正直に信じたりはしないのだが、これを届けに来た時に門番を瀕死の重傷にされてしまった」


「え?つまり堂々と門から来たって言うの?しかも初日は予告状を届けるだけで、門番以外には手を出さなかったと?」



 常識的に考えればわざわざ襲撃を予告する必要はない。そんな事をしたら警戒されるに決まっているのだから、せっかく来たのならそのまま襲えば成功率が高かったはずだ。それをしないとなると……



「おそらく実力はあるのだろうが、……馬鹿なんだろうな。何しろ高笑いをしながら去って行ったらしいからな」


「それは……愉快な方なのですね」



 ルナも何と答えたらいいのか悩んだ結果、苦笑する事しか出来なかった。



「でもそれだけじゃ、腕の良い愉快犯の可能性もあるんじゃない?」


「私もその可能性は考えた。なので報告を聞いたすぐに後を追わせたんだが、そのまま町を出た所で魔物の集団と合流して去ってしまったらしい。目的はハッキリしないが魔物を従わせている以上、魔族である事はおそらく本当だろう…。

 そして魔族が魔物を従えて襲ってくるなら大々的な戦闘になる。もちろん勝つつもりで戦うが、少なからず撃ち漏らしが出るに違いない。その時にカレンが巻き込まれるかもしれん」



 おそらくその時に見たという魔物の数より、多くの数を想定しても勝てると考えているのだろう。しかし町に被害を出さずに魔物を殲滅する事は出来ないと思い、その被害の中にカレンが巻き込まれるのを心配しているのだ。



「カレンに魔法を教えながら、降り掛かる火の粉は掃えと。そして出来れば身を守れる実力も付けさせてほしい、ってのが今回の依頼内容なのね。でも先に言っとくけど、ルナみたいな魔法使いになるのは不可能よ。この子はある意味、特別な存在だからね」


「それは分かっているし、そこまでを数日間で望みはしない。だがせめてゴブリンぐらいは倒せる実力を付けさせてほしい」



 そう言いながらウェルダーは頭を下げて来た。見た目子供にしか見えないルナ達に、頭を下げるほどカレンを心配しているようだ。その姿を見てルナ達は頷き、無言で了承し合っていた。



「分かりました。冒険者としてこの依頼を引き受けます」


「そうか、引き受けてくれるか!ありがとう、さっそく今日から泊り込みで頼むぞ」


「きょ、今日からですか!?」



 落ち着いて考えれば確かに護衛も兼ねてるので、すぐにでも依頼を始めてほしい気持ちも分かる。だが突然の事だったのでルナは驚いてしまったのだ。



「何か用事があるのか?」


「用事ってほどの事ではありませんが、見ての通り私とゼロさんは防具が拙いので帰りに見に行こうと考えていたものですから。……あと、私の新しい杖が出来たら受け取りに行こうとも思っていましたので、少し驚いただけです」


「思い出した!さっさと私達の武器を返しなさいよ!」



 この屋敷の門を通る時に預けた武器をまだ返してもらっていない事に気が付いたゼロは、怒鳴るようにウェルダーに請求したのだ。



「分かっている。もうカレンのいる所に持ってくるように伝えてあるから、その場所に向かってくれれば受け取れるはずだ。それと確かに防具に不安があるのは納得だな。護衛をしてもらう以上、防具に不安が残るのは問題だから、私の方で先程のお詫びを込めて少し提供させてもらおう」



 防具を着けていないゼロと、安物の皮の胸当てしか装備していないルナ。アリサはほどほどに防具を着けているが、身を守る為の最低限の装備なので護衛となると不安が残る。

 迷宮では攻撃をかわしたり近づく前に敵を倒しているので防具は必要なかったが、護衛となると自ら盾とならないといけないのだ。その点から見て、ウェルダーには不安に思ったのだ。



「え!?ほんとに良いの!なら私は綺麗なデザインのガントレットが良いわ。出来れば投擲用のナイフを収納出来るようになってると尚の事良いわね!あと、丈夫で動き易い服も欲しいわ!」



 防具をくれると聞き、まるで遠慮の欠片も見えないゼロは、細かい注文まで言いだした。その様子にアリサは呆れて声も出せないでいたのだ。しかしゼロの服はいまだルナに借りている物、防御力はもちろんなく、スカートなので動きにくかったのだ。



「ほら、ルナもアリサも欲しい物があるなら言っときなさいよ。自分に合わない装備をもらうのは邪魔でしかないんだからね」



 ゼロの言い分にも一理ある。ルナ達の戦い方を知らない以上、合わない装備を気を使って装備したとしても良い事はない。それなら必要な物をハッキリ伝えた方が、守ってもらうカレンと使う本人の両方が得をする事になるのだ。



「確かにゼロの言うとおりだな。なら私は腕に装備出来るタイプの小さめの盾が欲しいな」



 アリサもゼロの考えに納得し必要な物を考えた結果、護衛依頼であるので動きの邪魔にならない程度の盾を要求した。そしてルナは、



「私も盾をお願いします。出来れば背中に背負えるタイプにしてほしいですね」


「盾?ルナは魔法使いなんだから、もっと別の防具が良いんじゃないか?」



 ルナがタイプに合わない防具を選んだ事で、アリサが驚いていた。



「ですが背中に盾を背負っていれば、カレンちゃんを抱えれば守る事も出来ます。それに金属の胸当てや篭手などを装備したら、ハヤテさんが痛がってしまうかもしれませんし……」


「まあ、後衛のルナがガチガチに防具で身を固める必要はないわね」



 ゼロがそう言った後に、小声で「危ない時はハヤテが守るだろうし」と呟いていたが、その声は隣にいたルナと僕にしか聞こえなかった。



「本人がそれで良いのなら構わんが……いいのか?魔法使い用の軽量の防具だってあるんだそ?」


「たぶん大丈夫だと思いますよ。それにルナは頑固で一度言ったら引き下がる事はほとんどないが、まったく考えなしに決めたりする事はあまりありませんから」



 不安そうに心配するウェルダーに、アリサがフォローしてくれたのだ。



「分かった。なら装備は後で持って行くから、さっそくカレンの所に行ってくれ」



 防具は決まり、魔族が襲ってくるまでの護衛も話はついたので、カレンに魔法を教えに向かった。





 訓練所に戻って来た時には、カレンは一生懸命離れた的に向かって魔法を放っていた。



「あ、ルナ!ちゃんと戻って来たって事は、私に魔法を教えてくれるって事よね」



 僕達が戻って来た事に気が付いたカレンは魔法を放つのをやめて、笑顔でこっちに向かって走ってきた。



「はい。今日から7日間ですが、カレンちゃんに魔法を教える事になりました。私は人に魔法を教えるのが始めてなので上手く行くか分かりませんが、よろしくお願いしますね」



 ルナの当面の指導方法は、養成所で指導してくれたリーザの真似をする事にした。最大MPを上げる事で魔法の練習にまわせる時間を延ばすのが目的だ。




カレン


HP    12 / 12

MP    13 / 33


スキル  火の魔法(大)




(…最近ルナのステータスに見慣れたせいか、他の人のステータスが低過ぎるように感じてしまうな…)




ジェムス


HP    49 /  49

MP   110 / 158


スキル  土の魔法(中)




 カレンの指導員であるジェムスでもMPはルナの半分以下だった。それでも魔法使いなのにアリサと変わらないHPを持っている事から考えると、ジェムスの実力が高いのは分かる。



(それにしてもMPが減ってるって事は、僕達がここに来るまでの間は魔法の修練をしていたって事だな。きっとさっき見せたルナの魔法に触発されたんだろう)


「それでまずは何を教えてくれるの?」



 何か凄い事を教えてくれるんじゃないかと、期待の眼差しでルナを見て来る。



「まずは最大MPを上げる練習をします。限界まで魔法を使ってもらい残りMPが危なくなったら声を掛けますから、思い切って魔法を放ってもらって構いませんよ」


「え!?それだけ?…確かに魔法を思い切って使えるのは嬉しいけど…」



 ちょっと期待外れだったのか、カレンは明らかにガッカリしていた。



「まずは最大MPを上げないと、魔法の練習に掛けれる時間も短くなってしまいますからね。今のMPでは迷宮でもすぐにMP切れになってしまいますよ」


「確かにそうだけど………でも不思議ね。まだ一度も限界まで魔法を使った所を見せていないのに、私の最大MPが分かっているように話すのね」


「それについては秘密です。ただの感だと思っていてくれて構いません」



 笑顔で秘密と言ったルナを見て、これ以上聞いても何も教えてくれないと思ったカレンは、質問を諦めて魔法を放ち始める。ジェムスはプライドのせいか、僕達がいる所では魔法を放つのをやめていた。なのでカレンのMP回復中は、部屋を変えて座学を行う事にしたのだ。


 MPが回復してから戻って来ると、予想通りジェムスのMPは減っていた。




 そんな事を繰り返して初日の指導を終える。実際カレンのMPは上がっていたので、リーザの指導方法が正しかった事の裏付けが出来たのだ。しかも僕が細かくステータスの確認していたので、回復時間の無駄も無く効率良く訓練ができ、最大MPは一日で2も上がった。







 深夜、屋敷の中で働く人も床に入り始め静寂に包まれた時刻……



コン、コン、コン。



 ルナ達には各個人部屋が用意されいた。そんな一部屋で遅くまで話をしていた僕とルナは、そろそろ就寝しようかと思ったタイミングで扉がノックされた。



「はい、鍵は開いているのでどうぞ」


「ちょっと待ってルナ!?何か嫌な予感が凄くするんだけど!」



 周りに気を使う遠慮しがちな優しいノックだった為、ルナは軽く返事をして入室の許可を出した。

 しかし僕は感じる……直感とも言える感覚でこの扉を開けてはならないと。嫌な予感と共に、扉の向こう側から何となく見える黒いオーラを感じたのだ。

 僕は慌てて声をかけて止めようとする。



「フフ、何を慌てているのかしら……可笑しいわね」



 しかし僕の制止は間に合わず、ゆっくりと開かれる扉から、わざとらしい作り笑顔でゼロが姿を現した。



「何か寝付けないと思って原因を考えてみたら、昼間の事を思い出してね~……1人罰が残っているから、それを終わらせないとぐっすり眠れる気がしなのよ」



 そう言ってゆっくりと僕に近づいてくる。その一歩一歩が死のカウントダウンに聞こえるほど、少しづつ怖さが増してくる。



「ちょっと待って!既にあの時、僕の顔を掴んで来ただろ!まだ足りないって言うのか!」


「あ、た、り、ま、え、でしょ!あんたは常習犯なんだから、それなりに罰も重くなるのよ!」


「異議あり!そんなのは理不尽だ!それに僕は何も言っていないだろ!」



 例え無理だろうと思っていても、今の僕には異議を訴える事しか出来ない。



「ならあんたは失礼な事を考えなかったと言えるの?」


「……………」



 僕はその質問に何も答える事が出来なかった。その様子を見ていたゼロが一言。



「……有罪」



 それだけを告げたゼロは僕を顔を掴み、その後は何も言わずに力を込めてきたのだった。





 しばらくしてからルナが止めに入ってくれたが、すぐに止めなかった所を見ると、ルナにも僕が何を考えていたかを分かっていたようだ。



「ハヤテさんは、もう少し私達を女性として見てくださいね」


「…はい。ごめんなさい」



 笑顔で殴って来たゼロも怖かったが、今のルナも深く重い怖さを感じる笑顔である。そんな2人に挟まれている僕は、ただただ素直に頷くしか出来なかったのだ。


 そうしてようやく静かな夜を迎える事が出来た。







 2日目も同じ事を繰り返したのでカレンの顔に明らかな不満が出ていたのだが、夕方ぐらいになると自分でも最大MPが上がっている事が分かったらしく、驚きながら確かな成果に喜んでいたのだ。



 3日目はいつもと違い、杖に頼らずに魔力を集めて魔法を放つ練習をする事にした。その事を伝えると、カレンは顔を顰めてしまった。彼女はまだ杖に頼って魔法を使っているので、杖がないとまともに魔法を放つ事が出来ないのだ。



「でも杖がない状況なんて稀でしょ?そんな事を想定する必要があるの?」



 確かに魔法使いに杖がないのは、剣士が剣を持っていないのと同じ意味なので、まずありえない状況とも思えるのだろう。



「そうでもありませんよ。私は既に2回ほど杖が壊れた事がありました。それに自分で魔力を集めれるという事は、魔法の威力をある程度自由に調整が効くって事です。ですので大きな威力の魔法を使いたいカレンちゃんは、絶対に覚えないといけない技術なのです」


(確かにそうだよな…僕も魔力を集める事を練習したからゴーストハンドを使えるようになったし、ルナとの協力魔法だって使えたんだものな)


「確か武器屋で会った時は杖を修理に来てたんだったわね。……そういえばルナの威力重視の魔法ってどれくらいの破壊力があるの?一度見てみたいんだけど」



 最初に見せた魔法は、どちらかと言えばスピード重視だったので、カレンは攻撃力重視の魔法に興味が湧いたのだ。



「あー…でもこの部屋でルナの最大出力の魔法なんて放ったら、町にまで被害が出てしまうからな…」



 カレンの頼みを聞き、アリサは迷宮で一度見た視界の全て水にしてしまう大魔法を思い出していたのだ。



「あれはまぐれみたいな物です。なので普段使っている魔法の中で、威力重視にした物を見せますね」


「町に被害が出るほどの威力かー…ちょっとそれも興味があるけど、とりあえずは常識の範囲で凄いのを期待してるわ」



 カレンの期待に少し困った顔をしたが、ルナは木の的に向かってアクアライフルを放って見せる。その水弾は的を余裕で粉砕した後、後ろの壁を深く抉るまでに至ってしまった。



「訓練用に頑丈に作っているはずの壁なのに……」



 その水弾を見たカレンとジェムスは、驚愕して抉れた壁を見つめていた。



「これは水弾を圧縮して回転を加え、破壊力を上げた魔法です。これぐらいの魔法を使えば、迷宮の6階層に出て来るシャドーデビルを一撃で倒せますね」



 2人は驚いていたが、ルナにとっては使い慣れた魔法になりつつあるので、普通の事のように説明を始めていた。



「ここまでやれて、やっと6階層レベルなの…」


「…いえ、お嬢様。前にも言いましたが、魔法使いが1人で戦う事は滅多にありません。ですのでこの威力の魔法があれば、下層に行くチームが喉から手が出るほど欲しがるでしょう」


「そうよね…あれで中層レベルなんて言ったら、レベルが違い過ぎて心が折れそうになったわ」



 ジェムスの言葉を聞いて少しホッとする。



「それを言ったら私もですよ。普通は水の量を増やしたり、速度を上げたりして威力を上げようとするのに、彼女は逆に圧縮して硬くし、回転を加える事で破壊力を上げています。この若さでこんな発想が出来て、しかもそれが理に適っているなんて……いったいどこでそんな知識を得たのか気になります」



 この話し合っている姿を見ると、2人が指導員と教え子だとは思えなかった。それほどルナの魔法の腕と比べると、差があり過ぎてしまっていたのだ。

 だが、ジェムスの名誉の為に言うならば、彼も迷宮に潜っていた若かれし頃はストーンゴーレムなどもチームで戦っていた経験がある。ただ彼の戦い方は、土の魔法を使って魔物の動きを制限したり、攻撃を防いだりする事に専念していた為、攻撃面をそこまで強化しようとは考えていなかっただけなのだ。



「とまあ、このようにただの水弾も魔力を多めに使って一手間加える事で、そのまま放つより威力を上げる事が出来ます。ですのでこのような事が出来るようになる為にも、魔石の補助なしで魔力を操作に慣れないといけません」


「…すぐにこれが出来るようになるとは思えないけど……魔力操作の必要性は理解出来たわ」



 カレンが納得してくれてルナは少しホッとしていた。どうやら上手く説明出来るか心配していたようだ。



「それで魔力を集めるのはどうやるの?」


「え?それは集めたい所に魔力を集めるのです」


「だ、か、ら!目に見えない魔力をどうやって任意の場所に集めるのかを聞いているの!私は杖が勝手に吸い上げてくれる魔力で魔法を使っているから、魔力を自分で感じた事がないのよ」


(あ、そうか!ルナは最初から魔力を感じていたからな……)



 ルナもカレンが魔力を感じれない事を知り、困った顔をして悩んでいた。



「ちょっといい?。少しルナを借りるわよ」



 そんな悩んでいるルナを見て、ゼロは有無も言わさず連れてカレン達と距離を置いた。



「今のあの子の悩み、あんたなら身に覚えがあるんじゃない?何しろあんたは魔法なんて存在しない世界から来たんだからね」



 カレンに話し声が聞こえない距離まで移動すると、早速僕に話しかけてくる。



「ああ分かるよ。僕の場合は自分の手を鑑定眼で観察しながら魔力の流れを認識したからね。だって見えない物を感じろって言われても、どうしたらいいか分からないもの」


「あ!?それって今のカレンちゃんと同じ悩みですね」



 ルナはハッと何か気付いたようで、ゼロが何を言いたいのか理解した。



「…ハヤテさんお願いします。カレンちゃんの魔力を見てあげてください」


「そう言う事か。分かったよ、少しでも魔力が集まったら合図を送るから安心して。それと魔力は体の中心にある感じかな。それを移動させていくのが僕のイメージだね」


「ありがとうございます。そのアドバイスもちゃんと伝えますね」



 そうしてカレンの所に戻り、ルナは僕のアドバイスをそのまま伝えた。そして練習も魔力を集めようとしているカレンの右手を、絶えず僕が鑑定し続ける事で少しでも魔力が手に移動が出来たら教える。

 鑑定眼で集中して見る事で、魔力の溜まる量はコンマ1単位で調べれたので、すぐに魔力を集めるコツを掴む事が出来たのだった。



「……こんなに早く、杖なしで魔法を使えるようになるなんて…それに普通は魔力を見る事なんて出来ないはずなのに、あんなに細かくお嬢様の魔力の流れを見ている。いったいあの娘の目には何が見えているんだ……」



 ジェムスはカレンの成長速度を見て驚いていた。それと同時にルナの異常とも言える指導方法に恐怖さえ感じ始めている。



「魔力を感じれるようになったのは良いけど……まだあまり多くの魔力を集める事が出来ないわね…」



 さっきまで杖なしで魔法を使えた事を喜んでいたが、その魔力量の少なさに少し落ち込んでいた。



「それは仕方がありませんよ。教わった話では魔法使いが集めれる魔力は、最大MPの十分の一ぐらいが限界らしいですからね。今のカレンちゃんではMPで言えば4ぐらいが限界ですよ」


「…それじゃあルナはどれくらい集めれるの?」


「私ですか?私は40ぐらいですね」


「「 40!? 」」



 そのルナの発言に驚いたのはカレンだけではなく、少し離れていたジェムスも同時に声を出していたのだ。



「ちょっと!40が十分の一って事は最大MPが400以上あるんでしょ?いったい何をやったらそんなMPになるって言うのよ……」



 このカレンの驚きぶりから見て、ジェムスのMPを聞いているのだろう。そしてジェムスも自分と比べて、その異常なMPに驚いていたようだ。



「私の事は秘密です。ですがカレンちゃんのMPもこの2日で5ぐらい増えていますから、このまま訓練を続ければドンドン上がって行きますよ」


「確かにそうだろうけど……ずっとMPを上げる訓練をする訳にはいかないでしょ?程々のMPまで上がったら実践経験もこなしたいし…そんな私が大きな魔法を使うのにはどうしたらいいの?」


「そうですね。……すぐ出来る方法の1つとしては、高い等級の魔石を使った杖を装備する事ですね」



 ルナは少し悩んだ後に、手軽な方法として装備でカバーする事を話した。



「良い杖を用意すれば簡単に大きな魔法を使えるようになるのね!」



 そのの打開策を聞いて、すぐにでも用意してもらおうと考えて浮かれているカレン。



「ですが!」



 そこにルナが水をさすように話を続ける。



「今使っている魔法の杖で分かると思いますが、杖には魔法を使う為に魔力を吸い上げる機能が付いています。

 ですので高い等級の魔石を使うと当然吸い上げるMPも多くなってしまうので、今のカレンちゃんではすぐにMPが尽きてしまい、何も出来なくなってしまいますよ」


「そうなんだ…やっぱりそんな上手い話はないわね。なら今は訓練を続けましょう。たぶんルナ以上に上手いタイミングでMP管理をしてくれる人はいないだろうからね」



 そう言ってカレンは杖なしで魔法を放ち始めた。確かにカレンの言うとおり、MPの管理は冒険者になってステータスを見れるようにならないと、普通は出来ない事なのだ。

 しかし冒険者になった人は既に訓練は実践になっているので、こんな限界まで追い込むような訓練方法はまずやらない。





「そう言えばこの家に住み込んでいますけど、カレンちゃんのお兄さん達には会いませんね」



 カレンのMPが切れて休憩しだしたタイミングで、気になっている事を聞いてみた。



「上のお兄様は夜の魔物との戦闘訓練と言って迷宮に籠っていて、下のお兄様はお父様と一緒に仕事に出掛けていて留守にしてるわ。最近何か急な仕事があるみたいで、ほとんど家にも帰れないのよ」


(…魔族が襲ってくるから、その対策に忙しいのかもしれないな)



 カレンは平気そうに話しているが、その瞳は少し寂しそうにしている。いくらお金持ちで英才教育を受けているからと言っても、まだまだ親に甘えたい年頃なのだ。



「そうですか。それではもし何かあった時は私達がカレンちゃんを守りますね」


「……それでそんな似合わない盾を背負ってるの?ハッキリ言って似合わな過ぎて違和感が凄いわよ」



 その意見には全員一致がしたようで、アリサやゼロ、更にジェムスまでもが無言で頷いていた。



「そうですか?結構可愛くて良いと思うのですが?」



 ウェルダーが用意してくれた盾は中心の宝石が付いていて、底から天使の羽がのびているような模様が描かれている。ルナがしゃがんで頭を下げれば完全に隠れる事が出来るほどの大盾だ。デザインについてはウェルダーが散々悩んだ結果、ある物から選んだのか、それとも急ぎで作らせたのかは分からないが、一番最後に用意されて持って来てくれた。

 しかもここまでの大盾となると、正規のタンクが持つぐらいの重量になっている。それをとくに気にした様子もなく、平気な顔をして背負って歩き始めたルナを見た時のウェルダーの顔は、口と目を見開いて声も出せずにただ驚いていた。それはもちろん盾を運んで来てくれた人達も同じだったのだ。



「そんな大盾を可愛いなんて……それに魔法使いのルナが、なんでそんな重装備を装備出来るのよ…」


「見た目以上に軽いですよ?ウェルダーさんが出来るだけ軽いのを選んでくれたみたいですね」



 そう軽くルナは言ったが、実際は重量を気にして選んではいない。それは2人がかりで盾を運んできた事から見ても明らかだった。

 しかしルナが装備している時は、とくに重そうにもせずに普通に歩くので、周りから見るとルナの言うとおり軽い盾に見えるのも事実だ。



「そうなの?でもそこまで護衛については気にしないでいいわ。ルナ達が来た時にクビになった人達の穴埋めとして、今日から護衛専門の冒険者が来てくれる話になってるのよ。ま、次の警備員が来るまでの代理だけどね」


「失礼します」


「あ!噂をすれば来たみたいよ。ついでに顔合わせを済ませてしまいましょう」



 カレンがそう言ったので冒険者が入って来るのを待つ。すると、



「あれ?」


「おや?」



 互いの顔を見た時、カレンとゼロ、ジェムス以外の全員が声を出して驚いた顔をした。



「なんでルナがここにいるの?」



 一番始めに声を掛けて来たのはリリカだった。



「護衛の冒険者はリリカさん達のチームでしたか。こんにちは、リリカさん。私達は彼女に魔法を教える依頼を受けてここにいます」


「そうなんだ。もう魔法を指導する依頼が来るなんて凄いわね。……でも、何なのその盾は?正直、変よ」



 ルナがここにいる理由を聞いて素直に驚いて褒めてくれたのだが、どうしてもその背中にある盾に目がいくので、リリカは我慢が出来なかったようだ。



「皆さんそう言うんですよね……見てください、杖とお揃いで羽が描かれているんですよ?可愛いと思いませんか?」



 そう言ってルナはクルリと回り、背中を見せてリリカの感想を聞いた。



「そのぬいぐるみのセンスもそうだけど、……貴女の美的感覚はおかしいと思うわ」


「そんな事はないですよ。ねぇ、皆さん」



 ルナは周囲の人に同意を求めたが、誰もが目を反らすようにして無言になってしまった。



「あれ?」


「ルナ……この際だから言っとくが、…これが世間一般の感想だ」



 誰もが何も言えなかったので、アリサが姉としてこれは自分の役目だと思い、しっかりと認識させようとしてキッパリと告げた。



「…そう…ですか………。でも別に構いません!他の人が全員そう思うなら、ハヤテさんを狙うライバルがいないって事です!だからむしろ喜ばしい事です!」



 世間とのズレに少し落ち込むように俯いてしまったルナだったが、周りから見れば変な事を言いながら拳を握りしめて元気になった。



「確かにそいつの外見を好きになるような物好きはそうはいないわね…」


(この姿の原因であるお前がそれを言うな!)



 事情を知るゼロが残念そうに僕の方を見て来たので、心の中で文句を大声で叫んだ。



「ま、まあ、ルナの美的感覚については置いといて、なに?貴女達は顔見知りなの?」



 カレンも少し気まずそうにしていたが、強引に話を元に戻して進める事にした。



「ああ、僕の名前はアラド。依頼を受けたこのチームのリーダーだ。さっきルナちゃんと話していたのが、僕の妹のリリカ。盾を持っているのが<ガル>、弓を持っている女性が<カリーナ>、そして斧を持っているのが<ブラン>だ。ルナちゃん達のチームとは少し前に迷宮で一緒になってね。その時に知りあったんだよ」


「そっちが紹介してくれたなら私もしないとね。私の名前はゼロよ。ちょっと前にルナ達のチームに参加したばかりで、短剣を主な武器として使っているわ」



 アラドが自分のチームを紹介したので、初顔合わせであるゼロも自分の事を教えた。



「そうか。そんなにちい…」


「あと!こう見えて私はアリサよりも年上だから、もし子供扱いでもしたら………今後、冒険者を続ける事が出来なくなる覚悟をしてね」



 アラドが子供扱いしてきそうになったのに気が付いたゼロは、話している最中に割り込んで警告を下した。その殺気混じりとも言える警告に、子供だと思っていたアラドはもちろん、チームの全員がアリサよりも年上だという年齢と、急にアラドに発せられた殺気に驚愕し、頷く事しか出来なかった。



(……女神のくせに、殺気を出して人を脅すなよな…)



 さっきまで賑わっていたはずの空間は、ゼロが出した脅しとも言える殺気で静寂に包まれてしまったのだ。



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