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17話 家庭教師 ルナ




 ゼロが屋敷の門番ともめたのを見て、アリサが「こんな事をして無事にすまないぞ…」と呟いていた。


 もちろんアリサの言うとおり、ここで門番を倒しておいて何事もなく済むはずもない。すぐに騒ぎを聞きつけたようで、屋敷の中から数人の男達が現れた。



「おい!どういうつもりでこんな事をしたんだ!事と次第によってはタダでは済まさんぞ!」


「別に何もするつもりはないわよ。ただこいつ等が喧嘩を売って来たから、私はそれを買っただけ。当初の目的は、魔法の教育係の依頼を受けたからここに来ただけなんだけど……そう言えばどうなの?、ここはウェルダーの屋敷で合ってるの?」


「私はまったく悪くありません」と言わんばかりに、まるで反省の色が見えなゼロは、平気で最初の質問を聞き直した。


「……ウェルダー様と言え。おい!その子が言っている事は本当の事か!」



 後から来たリーダーっぽい男は一言ゼロに言った後、いまだ正座の姿勢をしている門番達に確認をとって来た。



「…はい。俺達がその御方の見た目から、浅はかな事を言ってしまいました。全て俺達に責任があります」


(おいおい、その御方なんて言いだしちゃったよ。余程さっきのゼロが怖かったんだろうな……)


「どうやら本当の事らしいな……。ではお前達はお嬢様の教育係候補と言う訳だな。今から門を開けるから着いてこい。だが、ここまで暴れたんだから武器は預からせてもらうぞ」



 門番の完全にひれ伏している状態を見て、どうやら僕達は完全に危険集団と思われたようだ。



(…完全に警戒されているな…)


「なんでよ!私達は悪くないでしょ!」


「まあまあ、ここでごねても話が進まないから素直に従おう」



 いまだ文句を言うゼロに、アリサは宥めるように説得した。



「分かったわよ!ルナ、一緒に貴女の杖も持って行ってあげるわ」



 怒りが収まりきらず、明らかに納得していない顔のゼロだったが、なぜかルナの武器も一緒に運んであげる親切心を見せたのだ。

 その事を不思議に思ったが、すぐに答えが出る。



「…ハヤテ、私のファントムナイフを預かってちょうだい。なんか嫌な予感がするのよ」



 どうやら親切心なんかではなく、僕に武器を預けたかっただけのようで、ルナの近くに来た時に小声で僕に言い、武器を渡して来たのだ。


 その後、ちゃんとルナの杖を持って、自分の短剣と一緒に男に渡す。しかし渡しただけでは信用出来ないようで、武器を隠し持っていないかチェックしてきたのだ。



「…よし、案内してやるから着いてこい!」



 武器を預かった男とリーダーっぽい男は無言で頷いた後、別れるように別々の方向に歩いて行く。その行動に不信感を持つ事になったのだが、僕達は声を掛けられてた方に着いて行くしかなかった。



(どうやらゼロの嫌な予感は当たりそうだな…)



 僕の緊張感はルナにも伝わったようで、案内されながらも警戒を解く事はなかった。


 実際、案内をしてくれている男に着いて歩いているが、ウェルダーの娘の教育係が仕事のはずなのに屋敷に入らず、まるで人目のつかない場所に向かっているようだった。


 そして散々遠回りをさせられた後、数人の男達が待ち構えている場所で、案内は終わったようだ。



「さて、お前達の案内はここで終了だ。あれだけ派手に暴れてくれたんだ。そのお礼も兼ねて少々痛い目に会ってから帰ってもらおう。なーに、お前達の武器はちゃんと売って俺達が有効に使ってやるよ」



 案内をしてくれた男は一歩下がり、高みの見物をするように待ち構えていた男達に顎で「行け」と合図していた。



「これって試験か何かなのかしら?」


「ぷっ。そんな訳があるかよ。こんな状況でおめでたい奴だな」



 待ち構えていた男達は全員が木刀を持っており、逃げ道をふさぐようにルナ達を囲っているのだ。



「ちょっと待てよ!そんな事をしたら、依頼人のウェルダーさんが黙っていないだろ!」


「なに、お前達はここに来ていない…だから何が起こっても俺達には関係のない話なんだよ」



 武器を奪われ不安そうなアリサは男達に忠告したが、今までも同じような事が何度かあったようで、慌てる様子がまるで見えない。



「さては私達にいやらしい事をするつもりね!この変態!」



 ゼロは自分の体を抱きしめるようにして、怒鳴り付けた。


 

(それはないな。とくにゼロなんて色気もゼロだし)


「はあ?いくらお前達が女だからってもなー」


「ああ、流石にガキに欲情なんかしないな」


「せめて、ない胸が成長してから言ってくれ」



 そしてそんなゼロを見て男達はいろいろな事を言ったが、皆の意見は1つだった。つまり、「出直して来い」と言っているのだ。


 そしてその答えを聞いたゼロから動きが止まり、「プチッ」っと音が聞こえた気がした。



「アハ…アハハハハ、いいわ。こんな気分にさせてくれるのそこの馬鹿だけだと思っていたのに………まったく男は全員こんな奴等ばかりなのかしらね~~~」



 笑いと共に黒いオーラ放っているゼロを見た男達は、まるで凶悪な魔物と出会ってしまったように、逃げる事も戦う事も出来ないほど、心の底から震えが出てきてしまっていた。



(あーあ、ゼロを怒らせちゃった。まったく馬鹿な奴等だったな)



 しかし、ここに案内をしてきた主犯格の男だけは、何とか正気を保つ事が出来ており、震えている男達に発破をかけて襲うように命じて来た。



「そ、そんなガキにビビってるんじゃねー!いくら迫力があっても武器も持たない奴等なんて、一気に襲いかかれば大丈夫だ!」



 その言葉で何とか男達は動き始める事が出来たのだが、硬直していた時間が致命的になっていた。


 既にゼロの手には僕から受け取った初心者用の短剣とファントムナイフが握られており、目の前にいた男の木刀は細切れにされて蹴り飛ばされていた。



「馬鹿な!?いったいどこに武器を隠していたっていうんだ!」



 主犯格の男の動揺はそのまま全員に伝染してしまい、全員ビビって動きを止めてしまった。そんな男達はゼロに簡単にのされてしまう結果になる。


 ついでに言うとゼロが武器を受け取った時に、僕の顔を掴まれて力一杯握られていた。

 その様子を見ていたルナには、「……ハヤテさんは本当に凝りませんね…」と、ため息混じりに呟かれていたのだ。



「さて、あとはあんた1人のようね。あんたは主犯だから、殴られて死ぬか、斬られて死ぬか、選ばせてあげるわ」


「え?、あえ」



 軽くいたぶった後に屋敷の裏口から捨てるつもりだった男は、こんな状況を想定をしていなかったのと、二択になっていない二択を突き付けられて、まともに答えを返す事も出来ないでいたのだ。



「そう、両方がお望みなの。分かったわ。私は優しい大人の女性だから望みを叶えてあげるわ」



 それだけを言うとゼロは一気に男との距離を詰めて、そのまま顔面に一撃を食らわして吹き飛ばしてしまった。



「ちゃんと手加減したから、まだ意識はあるはずよね?」



 確かにゼロの言うとおり男にはまだ意識があった。しかし殴られた顔を押さえて唸るだけで、一向に立ちあがる気配が見えない。



「……ゼロってあんなに強かったんだな。ルナから話は聞いていたが、実際見るまで信じ切れていなかったよ」



 待ち構えていた男達を倒した動きと、距離を詰めた今の動きを見て、アリサは感心するように驚いていた。



「そうですよ。ゼロさんはとっても動きが早くて、迷宮では一撃も攻撃を受ける事がありませんでした」



 アリサを残して迷宮に行く時に、安心出来るようにとゼロの実力は正直に話していたのだ。だがアリサは自分を安心させる為に、話を大きく伝えていると思っていたので、実際にその目で動きを見た事で驚きを隠す事は出来なかった。



「さてと、抵抗するつもりもないようだし、そろそろトドメをさすとしましょうか」



 そう言って短剣を握り直し、男の方に向かって歩き出した。しかしその歩みは屋敷の方から聞こえてきた声によって止められる事になる。



「すまないがそこまでにしてもらおう」



 現れた男は厳しそうな顔つきで、しっかりした体格の持ち主だった。その男の特徴と言えば、鼻の下にある跳ねあがったカイゼル髭と、誰もが口にするだろう。



「あんたは誰なの?こいつ等の仲間って言うなら同罪よ?」



 いまだ怒りが収まりきっていないゼロは、止めに入った男にさえ噛みつかんばかりの勢いがあった。



「紹介が遅れたな。私はこの屋敷の主であるウェルダーだ。今日は依頼を受けに来てくれたのに、こんなトラブルに巻き込んでしまってすまなかった」



 そう言って屋敷の主、ウェルダーは丁寧に頭を下げて謝罪をしてきた。



(へー、お偉いさんは全員威張りまくっていると思っていたけど、ちゃんと頭を下げれる人もいるんだな)


「そう、あんたがこの屋敷の主なのね。まあいいわ。体を動かしたら少しはすっきりしたし、あともう1人対象がいるけどそいつは帰ってからにしとくわ」


(あー……それって僕の事だよな…さっきの一撃では満足がいっていないようだな………逃げたい)


「それで良くここが分かりましたね。屋敷の建っている角度から考えて、こんなに早く気が付くとは思えないのですが?」



 いくら遠回りをさせられてここに着いたからと言って、屋敷の主がここに来るのは早過ぎだったので、ルナはウェルダーにその疑問を投げかけたのだった。



「ほう、まだ若そうなのにこのトラブルに震え1つ起こしていないとは……仲間への信頼か、それとも自分の実力に自信があるかのどちらかと見たな」



 そんなルナの態度にウェルダーは、髭を触りながら感心していた。



「それはもちろん仲間を信用しているからです。どちらかと言えば、ゼロさんがやり過ぎないか心配していただけですね」



 ルナは心配していたと言ったが、実際主犯格の男以外は結構ボコボコにされているのだ。……しかも下半身をメインに。


 しかし女3人のチームでこの痛みが分かる人はおらず、全員がやり過ぎとは思っていなかったのだ…。



「それで質問の答えだが…」



 ウェルダーが理由の説明しようとすると、聞いた事がある声が聞こえて来た。



「それは私が見付けたからよ!」



 その声がする方に振り向くと、そこには武器屋で出会ったカレンが腕を組んで立っていた。



「あれ?カレンちゃんがどうしてここにいるのですか?」


「それは…」


「それは私がここの娘だからよ。そして貴女を推薦したのも私よ!」



 ルナの疑問にウェルダーが答えようとしたが、割り込むようにカレンが話しだした。



「なんで私を?優秀な魔法使いの先生なら他にいそうなものですけど?」


「確かに、ほ…」


「お父様が何人か教師候補を集めてくれたんだけど、全員が堅苦しそうな男ばっかりで嫌だったのよ」



 カレンは掌を上に向けて、心底ウンザリしている気持ちを表現した。



「でも優秀な方に教わった方が成長も早いと思いますよ?」


「私もそう言ったの…」


「確かに今の私より優秀なのは認めるけど、基礎っぽい事ばかりやらせるのよ。目標に向かって火弾を正確に撃つ練習とか言って、威力やスピードよりも正確性ばかりをやらせるの。私はもっと派手に戦いたいのに…」



 どうやら相当不満が貯まっているようで、ルナの質問に対して全部自分で答えるつもりのようだ。しかし手ぶり込みで説明しようとして、言葉を全て遮られてしまっているウェルダーの向ける場所のなくなった手を見て、アリサは苦笑いで答えてあげる事しか出来なかった。



「私も基礎は教わりましたし、たとえ教える事になっても、正確に魔法を放つ練習はしてもらう事になりますよ?」


「それでもルナは何か違う気がするの。理由は分からないけど、私の感がそう言っているのよ」



 どうやら理由が分からない事で少し自信がないようだが、カレンも自分の感を信じて引く気がないみたいだ。



「ゴホン。つまり君は娘に選ばれた候補者と言う訳だ。本来なら娘のわがままで言った者など呼ばないのだが、君が魔法の才能を見抜いたと言われたからには、呼ぶ価値があると思ったのだよ」


「でも候補者って事は、何かやって選ぶって事よね」


「まあそうだが、とりあえず屋敷の方に行こう。あと君達はクビだ。さっさとそこから出て行きたまえ」



 何時までも外で会話もないだろうと屋敷に案内する前、ウェルダーはルナ達を痛めつけようとしていた男達を睨みつけクビを告げた。まるで蛇に睨まれたカエルのように、その厳しい眼光の前に男達は何も言えず、フラフラした足取りのまま屋敷を出て行った。



(今のはビックリしたな……流石、防衛隊長に着くだけの事はあるな。実力もかなり高そうだ)





 そして屋敷に入ると1人の男が駆け寄ってきた。



「お嬢様!もう修練の時間ですよ。立派な魔法使いになる為には時間を無駄にしてはいけません!」


「あんたの指導はもう懲り懲りよ。私はルナに魔法を教わるの!」



 そう言ってカレンはルナの後ろに隠れてしまった。



「この娘に魔法を教わる?馬鹿を言っちゃいけませんよ。魔法は子供の遊びじゃないんです!そんな事を言う暇があるなら、一回でも多くの魔法を使って下さい」


「うるさい!私は私の好きなように魔法を使いたいの!正確に魔法を使う必要性も分かるけど、毎日ちまちました魔法ばっかりは嫌なのよ!」


(どうやらこの人がカレンの嫌がっている今の魔法の先生のようだな。確かに僕でも選べるなら絶対にルナを選ぶよな…)



 カレンの先生は、いかにも魔法使いですって言うようなローブをまとっており、既に60以上の老人だったのだ。

 そんな老人と若いルナとでは、比べるまでもなかった。



「すまないがこの子も候補者の1人、ルナだ。どうやら娘の言っていた魔法の才能を見抜いた者がこの子らしいぞ」


「この娘が魔法の才能を?……お嬢様の嘘に付き合う必要はありませんぞ?魔法使いの才能を見出すのは、一定以上のMPを持つ者が冒険者ギルドにある水晶の魔導具に触れるか、相当適正に合った杖に出会って、正確に魔法のイメージ持たないと判明しないのですぞ」



 ウェルダーの話を聞いた男はルナを見て、まるっきり信じてはいないように見下してきたのだ。



「ルナは武器屋でバイトもしているけど、立派な冒険者なのよ!あんたなんか簡単に倒すぐらいに強いんだからね!」


(おいおい、ルナの実力も見てないのに、そんな巻き込むような発言はやめてほしいな…ほら、凄い目でこっちを睨んでるよ…)


「武器屋でバイトをする冒険者ですか…まぁ候補者に選ばれた以上、他の者と同じような試験を受けてもらいましょう。実力が足りなかったら場合、恥をかくのは本人ですがね」



 武器屋でバイトをしないと生活出来ない程度の冒険者と思ったようで、ルナを見て興味なさげな言い方をしてきた。アリサも少しムッとしていたが、ウェルダーの手前行動に出る事はなかった。しかし…



「ちょっと!!呼んでおいて最初から駄目みたいに言うのは失礼じゃないの!この子のセリフじゃないけど、ルナは中層ぐらいでは1人で無双出来るぐらいの魔法使いよ!あんたにそれが出来るって言うの!」



 この世界の上下関係をまったく気にせず、沸点の低いゼロは当然のように男に噛みついていった。



(ゼロの言うとおりなんだが……火に油を注ぐのは…)


「フッ、子供の戯言だな。魔法使いが1人で中層に行くなんて危険な事はしない。魔法使いの仕事は遠距離からの支援と、物理攻撃の効かない魔物の相手がメインだ。そんな事も分からないとは…所詮は子供だな」


「え!?そうなの?ルナ……あんた、戦い方を間違ってるみたいよ」


「そ、そんな事はありませんよ!ちゃんと前衛には出ないで後ろから支援しているじゃないですか」


「確かにそうだけど……一撃で倒しちゃうのは支援とは言わないわよ?」


「それは……そうかもしれませんが…」



 敵を倒すという支援よりも上の事をしているのだが、本来の役割が支援と言われたので仕事をしていないと思い、落ち込んでしまったのだ。



「まったく、一撃で倒せる雑魚相手にMPの無駄使いをするとは……相当な初心者だな、君は」



 どうやらこの男は、相手のミスをとことん突いてくるタイプの人間のようだ。そして自分は偉いと思っているようで、絶えずルナを見下すように見て来る。



「まあ今までの実績はどうでもいい。それよりさっさと試験をしようじゃないか。もしカレンが口から出まかせで言ったのなら、今後はわがままを言わずに<ジェムス>の言うとおりに修練をするんだぞ」



 このまま話が進んでもキリがないと思ったウェルダーは、話を切り上げて要件をさっさと済まそうとしてきた。そしてその中にカレンに条件をつけて来たのだ。



「それならルナがもし合格したら、私が冒険者になる事を許してもらうわ。お兄様は冒険者になる事を許したのに、私だけが駄目なんて納得がいかないもの!」


「………まあいい。ジェムス、相手が子供だからって試験に手心を加えるなよ」


「分かっております。さあ、試験を始めるから着いてこい」



 そう言ってジェムスは先導するように歩き始め、ルナ達もその後ろをついて行く。



「ルナ、巻き込んでごめんなさい。でも私は冒険者になりたいの。今までお父様は許してくれなかったから、これは最後のチャンスだと思っているわ。ルナが不合格になっても怨みはしないけど……出来れば合格してほしい」



 前は偉そうな態度だったのに、今は泣きそうな顔で頼んでいる。どうやら冒険者になる事を説得し続けてはいたが、上手くいく望みは少なかったよだ。それでこのチャンスに賭けたのだろう。



「試験の内容によりますから絶対に合格するとは言えませんが、全力を出す事は約束します」



 ルナはそう笑顔で告げ、カレンはその顔を見て嬉しそうにお礼を言っていた。







「それで試験ってどんな事をするの?」



 ジェムスに連れてこられた場所は広い部屋だった。周りの壁は石造りになっており、少しぐらいなら魔法が当たっても大丈夫そうなので、ここがカレンの練習場だと分かったのだ。



「魔法使いとしての実力、魔法の命中率、魔力を溜めるスピード、そして破壊力を見せてもらう。試験の内容だが、その線よりこっち側に立って向こうの壁にある的を撃ち抜いてもらう」



 指定された線から壁まではだいたい50メートルあり、的は木でゴブリンを模しているのが複数立てていた。



「あれを撃ち抜くだけで良いんですか?」


「ああ、…ただし30秒で20個の的を破壊してもらおう。ただし破壊力も見せてもらう為に木は分厚くしているから、速さだけではクリア出来ないぞ」



 的を数えてみると20個立っている。つまり30秒以内に全てを破壊しろというのだ。



「ちょっと待ちなさい!30秒で20個?今までの候補者には1分あげてたじゃない!これじゃ魔法を1つ放つのに2秒も使えないじゃないの!」



 ジェムスの試験内容を聞いたカレンが、血相を変えて抗議してくれた。



「こんな試験は無効よ!だいたいジェムスだって魔法を放つのに2秒は掛かるじゃない!自分が出来ないような事を、偉そうに試験にするなんて何を考えてるの!」


「そうは言われましても、私以上の魔法使いだと言ったのはお嬢様じゃないですか。なら試験内容を少し難しくしても問題はないでしょ?」



 カレンの揚げ足をとるような事をニヤニヤしながら言ってくるジェムスに、顔を真っ赤にしてカレンは黙り込んでしまった。



(いい大人が子供の発言の揚げ足をとるなんてな……それもあんなに得意気に…。あーあ、カレンが今にも泣きそうになっちゃってるよ。少しかわいそうになってきたな)


「試験内容は分かりました。それでは入口で預けた杖をお返しください」


(お!温厚なルナも流石に怒っているようだ)


「杖を預けた?そんな話は聞いていないが、杖を持っていない以上、そのままで受けてもらわねば困るな」



 どうやらこの男はとことん不利な状況を作るのが好きなようだ。ルナもジェムスの顔を見て、門での状況は聞いているが知らないふりをするつもりと気が付いているようだ。



「流石にそれは卑怯過ぎよ!魔法使いは杖を持たないと魔法を使えない人がいるほど大変になるのよ!私だってまだ使えないし、いくらルナだからって……」


「別にいいんじゃないの。つまりこの線から出ないで的を30秒以内に破壊し尽くせば良いんでしょ?他に何か条件を付け加えるなら先に言ってね。あとから難癖付けられるのは面白くないからね」



 いくらなんでも無理だと抗議しているカレンを止めて、ゼロはとくに気にした様子もなく試験を進めようと言いだした。そんなゼロに対して、「でも…」とカレンは納得出来ていなかった。



「フッ、確かにさっさと終わらせるとするか。帰りはあそこの扉を出て真っ直ぐ進めばいいからな」


「帰り道を教えてくれてありがとう。でも……合格するから関係がないけどね」


「なに?」



 ゼロの物言いに今まであった余裕の顔つきが一気に凍り付き、睨むように見て来た。しかしクルリと方向転換して、ジェムスを完全に無視する。

 その態度を見て怒りのあまり額に血管を浮べ、今にも魔法を放ってきそうな雰囲気を感じた。






「それじゃ、さっさと終わらせましょ」


「でも杖なしであの数を撃ち抜くのは……」



 ゼロは気楽に言ってきたが、いくらルナの腕でも厳しいようで顔色が優れない。もしかしたらカレンに頼られて、プレッシャーを感じているのかもしれない。



「…杖が必要ならこいつに作ってもらいなさい。魔石のように威力の増幅は出来ないでしょうけど、こいつのゴーストハンドを杖代わりにすれば魔力を集める手間は省かれるから、あとは魔法に変換するだけで済むはずよ」



 自信がなかったルナと僕、そっと2人だけに聞こえるような小声で話してくれるゼロ。その内容を聞き、前に2人で魔法を一緒に放った事があるので可能だとすぐに分かった。



「出来るでしょ?なら貴女達であいつに一泡吹かしてやりなさい!」


「ありがとうございます。それでは行ってきます」



 お礼を言ったルナの顔にはもう不安の影はない。指定の立ち位置に行くルナの顔には自信と、必ず出来るという余裕に溢れている。



(…僕に出来る事は、なるべく杖に近い形にしてあげて魔力を流し続けることだな。ゼロの言うとおり、あいつの顔を驚きで染めてやる!)



 普段ルナの杖は見ていたが、イメージで形を作るとなると上手く行かない。それでも握りの太さなどは再現出来たようで、ルナは満足そうに、そして嬉しそうにしていた。



「それではカウントを始めるぞ!」



 ルナが指定の場所に立ったのが合図となり、ジェムスがカウントを始めた。だがルナは的には目も向けず、最初の5秒ほど魔法を一度も放たなかった。

 その様子を見てカレンは「やっぱり駄目か…」と表情を暗くした。ジェムスも諦めたと思い、小さく「フン」と呟いていたのだ。しかし……



「あ!?すみません、ボーとしてました。ここから一気に行きます!」



 声と共に我に帰ったルナは、慌てて連続で水弾を放ち始める。彼女は僕の魔力の温もりを感じて、手を繋いでいるような感覚に意識が集中していたのだ。



「な!?馬鹿な!なぜ杖も持たないでそんなに早く魔法が放てるんだ!」



 ジェムスが驚くのは無理もない。我に帰ってからのルナの水弾は1秒間に2発は放たれており、その一発一発は木のゴブリンの頭部を正確に撃ち抜いていたのだ。


 驚きのあまりカウントを数えるのを止めてしまっていたが、誰の目から見ても、残り10秒以上は残っていると確信出来たのだ。そのマシンガンのような魔法を撃ち終えた後、この部屋には静寂しか残らなかった。



「…これで試験は合格ですよね」



 誰もが声を出せなかった中で、ルナの声だけが静かに響いた。完全に舐めていたジェムスと、実力を見た事がないカレンやウェルダーはもちろん、一緒に迷宮を潜っているアリサも驚きを隠せないでいた。

 そして策を授けたゼロも、ここまで上手く行くとは思ってもみなかったので驚いている。



「あのー……合格で良いんですよね?」



 一向に返事が帰って来ないので、少し不安になったルナは確認するようにもう一度聞く。



「…ああ、問題無い…」



 何とか合格を告げたジェムスだったが、事前に万が一の時用に、難癖をつけて不合格にしようと考えていたのだ。

 しかしここまで不利な条件で、自分でも出来ないような難易度の内容を時間に余裕を持って終わらせてしまった以上、何も言えなくなってしまったのだ。



「え!?それじゃ、私が冒険者になってもいいのよね?お父様、ルナが合格したんだからいいのよね?」



 ジェムスの言葉を聞き、カレンは飛び上がるように喜んでいた。その様子を見ていたウェルダーは、自分から言い出した条件だったので渋々許可を出すはめになった。



「カレンちゃん良かったですね」


「ありがとうルナ!でも、本当に凄い魔法だったわ!魔法があんなに連続で出せるなんて私、全然知らなかったわ!私も出来るようになるかしら」



 喜んでいたカレンに声を掛けたら、ルナの方に目を輝かせて飛んで来た。その様子だけを見るなら、年相応の子供らしい行動と言えたのだ。



「さて、ルナの試験も合格した事だし、今回の依頼の内容をしっかり話し合いましょか。ウェルダーもそれで良いわね?」



 見た目は子供ゼロに呼び捨てで名前を呼ばれた事に少しムッとしたが、その瞳を見た時、全てを見破られているような感覚に陥ってしまい、先程まで不快と思っていた気持ちが消えてしまっていた。



「……まったく、ここまで見た目と実力が合わないチームは始めてだ。そのまま私の隊に入ってほしいぐらいだよ」


「私達は目的があって冒険者をしているの。だからその申し出には応えられないわ」


「分かっているよ。それじゃあここではなんだから、応接間にでも行って依頼内容の話し合いでもしよう。ただしカレンは魔法の練習だ!依頼のすり合わせと了承を得なければ、この子はまだ魔法の教師ではないからな」



 応接間に案内しようとしたウェルダーに、当然のように着いて行こうとしたカレンを制止させた。



「なんで!私の先生になるんだから、私が一緒に行っても良いじゃない!」


「……お前もこの子との実力の差は感じたはずだ。なら少しでも魔法の腕を磨かないと恥ずかしいだろ。ジェムス、お前をクビにするつもりはない!…だが、これからは慢心せずに修練を励めよ」



 ジェムスは静かに頷き、カレンは頬を膨らませて文句がありそうだったが無視して、それだけを言い残したウェルダーは僕達を連れて訓練所を後にする。



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