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16話 指名依頼




 初めて僕が倒した魔物ミノタウロス。その戦いの余韻に浸りながら魔石を回収し、僕がルナ達の所に戻って行くと、



「足止めだけで十分だったのに、倒しちゃうなんてね」


「流石ハヤテさん。お見事です!」



 ゼロは呆れたように感心して、ルナは素直に喜んで出迎えてくれた。



「ルナの魔法で僕から注意が逸れたおかげだよ。1人じゃ転ばせる事も出来なかったし、倒す事も出来なかった」



 ルナの魔法がなければ僕を無視する事はなく、もちろん転倒させる事も出来なかったのだ。そして転ばせる事が出来なかったら、最後の攻撃も出来なかったので勝てなかっただろう。



「それにしてもいったい何をしたの?最初の攻撃だって吹き飛ばされないで耐えれたようだし」



 ルナでも持ち上げれる僕がミノタウロスの一撃で吹き飛ばなかった事を、ゼロは不思議そうな顔をして疑問に思っていた。



「ああ、それはこの漬物石…じゃない、魔重石って言う魔導具なんだけど、これを使ったんだよ。これは魔力を流す事で、その重量を自由に変える事が出来るんだ。これを重くして攻撃で吹き飛ばないようにしたり躓かせたりして、最後はその重量で倒したんだよ」


「そんな便利な物まで持っていたなんて………ブサクマのくせに生意気よ!」


「なんでその名前を知ってるんだよ!?お前、あの時見てたのか!」



 ブサクマ、その名前は僕が最初の町に流れ着いた時に、川で拾ってくれた女の子がつけてくれた名前だ。その時以来、その名前で呼ばれる事はなかったのだ。なのにその名前を急に呼ばれたので、僕は驚いてしまった。



「?………あんた、他の人にもブサクマって呼ばれてたの?ぷっ、確かにお似合いの名前よね。アハハハハハハハハハ」


「くそ!一番知られたくなかった奴に知られてしまった」



 僕がつい口を滑らせた事で、ブサクマと呼ばれた過去がバレてしまい後悔していた。



「さあブサクマ、次の魔物を引っ張って来なさい。ついでに魔導具が落ちていないかも、しっかり探してくるのよ。プッ」



 相当面白かったのか、ゼロは悪乗りしてブサクマを連呼する。



「その名前で呼ぶなロリ女神!………ルナ、次を探しに行くけど大丈夫かい?」



 今だツボにはまっているゼロは無視して、ルナに状態を確認した。



「はい、まだ大丈夫です。次はハヤテさんに負担を掛けないように頑張ります!」



 ルナの状態を確認した僕は次の魔物を探しに迷宮を歩き始める。次に出会った魔物はグレートウルフだったので、サクッと倒す事が出来た。その後も何匹か引っ張ってきたが、ミノタウロス戦は楽勝とは言えず、水弾を何発も撃ち込まないといけないので苦労していた。

 そして一度、ミノタウロスの動きを見てゼロも戦えると思えたようで、階段から離れて参戦してきた。僕やルナは危険だと止めたが聞かず、防具を装備していない状況で接近戦を行った。

 余裕で攻撃をかわして…とは言えなかったが、それでも華麗に攻撃を避けながら装備していた短剣で斬りつける。しかし初心者用の短剣だったので切り裂く事は出来ず、軽く傷付ける程度のダメージしか与える事しか出来なかった。



「あまり無茶をするなよ!攻撃をかわせるのは分かったから、あとは僕に任せてルナの所に戻れ!」



 わざとギリギリで避けているのか分からない以上、見ている僕の方が気が気でないのだ。



「なに?私の事を心配してくれてるの?」


「当たり前だ!もうゼロも大事な仲間なんだから、心配するのは当然だろ!」



 僕はゼロのふざけているような言葉に怒鳴ってしまった。



「……分かったわよ」



 その事で渋々ながら戦線から離れようとする。



「でも、僕の事を心配してくれたんだろ?ありがと、今はその気持ちだけで十分だよ」


「な!?べ、別にあんたの為じゃないわよ!自分の実力が通じるか試したかっただけよ!」



 言われると思わなかったお礼の言葉を聞いて、ゼロは少し顔を赤くしてキッパリ否定した。



「そうなの?なら装備がしっかりしてから試してよ。見てる僕の心臓に悪いからね」



 そう言って僕はミノタウロスに突っ込んで行き、ゼロから注意を引く。



「まったく馬鹿なんだから…」



 文句を言いながら階段に戻って行ったゼロに、ルナは魔法を放ちながら…



「ハヤテさんの為に動いてくれたのは嬉しかったです。でも無茶は止めてくださいね。……それと、ハヤテさんは譲りませんよ」


「何でそうなるのよー!」



 ゼロはまた顔を赤くしながら、ルナに慌てて弁解の言葉を続けた。 







 その後もしばらく同じ戦法を行っていき、ようやく戦いも一段落したようで周囲に魔物の気配はなくなった。



「さて、そろそろこの階層の魔物数も少なくなって来たし、魔導具でも探しに行きましょうか」



 そう言ってゼロは階段から離れ始めようとする。



「ちょっと待って!?確かにこの階層の魔物の数は少ないようだけど、だからって油断していい所じゃないぞ!」


「大丈夫でしょ。あんな大きさの魔物がそう簡単に生まれるとは思えないし、そろそろ引き返さないといけない時間が近づいているのよ。私の魔導具を、今探しに行かないで何時行くのよ!」


「一番の目的は3等級の魔石採取だろ?その目的も達成したし、ここで無茶をする必要はないだろ」



 僕は危険と言えるゼロの行動を止めようと説得を続ける。しかしゼロの歩みが止まる事はなかった。



「一番は目的は達成してても、二番目の目的が達成してないわ。安心しなさい。もし危険な事になっても、ルナを最初に逃がしてあげるから」


「……はーーー…ルナも結構頑固だけど、ゼロも自分の考えを曲げないんだな」


「当たり前でしょ。これ以上ルナやあんたに迷惑をかける訳にはいかないのよ。その為にも使える魔導具が私には必要なの」



 そんな答えに、深いため息と共に僕は説得を諦めた。



「ルナを最初に逃がすのは良いが、ゼロも危険だと思ったらすぐに逃げるんだぞ。最悪、囮には僕がなればいいからね」


「いえ、ぜったいに皆で一緒に帰りましょう。ゼロさんもハヤテさんも一緒にです」


「ま、ルナならそう言うよね。分かったよ。途中までの全ての脇道にいた魔物は倒しているから挟まれる事はないと思うけど、周囲の警戒は解かないようにね」



 そうして12階層での魔導具探しが始まる。しかしそう簡単に見つかるなら苦労はしないのだ。



「……ないわね…。普通、少し脇道に行けば宝箱があって、そこにお宝があるものじゃないの?」



 ゼロは何もない迷宮に文句を言いだした。



「そんなゲームみたいに都合の良い物はないよ。だいたい海賊とかの宝じゃあるまいし、宝箱なんて迷宮に落ちてる方が不自然だろ。前に見付けた時は、床の上に転がっていたし」


「そうよ、あんたが前に魔導具を見付けた所を教えなさいよ。もしかしたら見逃した魔導具があるかもしれないでしょ?」


「確かにそこまで細かくは探してないけど、入口は小さいから………ゼロは小さいから入れるか。引っかかる物がないし」



 僕はゼロの体型を見て言い直した。



「……そんな事を言ってないでいいから、さっさと案内しなさい!」



 そう言って僕の顔はゼロの手によって握り潰されてしまった。







「…あそこの穴だよ。前は魔物がいなかったけど、気をつけてな」


「結構狭いわね。でも、何とか通れそうだわ」



 小さい体と防具を着けていないので、芋虫のように這って進んで行くゼロは、すぐに姿が見えなくなってしまった。



「奥は大丈夫なんでしょうか?」



 ルナは心配そうに穴の奥を覗いて見る。



「大丈夫だよ。奥もなんだかんだ言って狭いから、ミノタウロスくらいのサイズの魔物がいたら、まったく動けないよ」



 そんな話をしながらも周りを警戒している。そして魔物が現れる前にゼロは帰ってきた。



「何かありましたか?」


「フフフ、これを見なさい!」



 小道から出て来たゼロは、自信満々に手に持っているナイフを見せて来た。シンプルな作りの両刃のナイフ。その柄に虹色の宝石が1つ付いている。



「え!?マジで魔導具があったの?」



 僕は半分以上は見つからないと思っていたので、驚いていた。



「何を言っているの。それを確認してもらう為にあんたに見せているんでしょ」


「ああ、僕に鑑定しろって事ね」




ミラージュナイフ ・・・ ランク8 『消費MP 5  使用者の半径3メートル以内に、自身の幻影を作りだせる。幻影の姿はゆっくり動かす事が可能である。攻撃を受けるか、一定の時間経過で消滅してしまう』




「…だそうだ。直接的な攻撃能力はないけど、使い方次第では優秀な能力じゃないか?」


「でもちょっと微妙な能力よね。もっと直接的な効果が欲しかったのに、囮を作るだけなんてね……」



 魔導具の内容を聞いて、ゼロは使えないと思い少しガッカリしていた。



「…僕が自由に動けるのは2人しかいない時だけだから、その能力はあって損はないよ」


「あ、そう言えばそうね。なら案外使えるかもしれないわ」



 使い道が出来た事に気が付いたゼロは、機嫌を直して嬉しそうにナイフを見ていた。



「さあそろそろ上を目指さないと。もう時間がないよ」


「そうね。目的の物は手に入ったし、さっさと上を目指しましょ」



 そうしてさっさとゼロは歩き始めた。ここから先は少々駆け足気味に進んで行ったが、地上に出れたのはギリギリの時間だった。







 迷宮から出て冒険者ギルドに向かい、4等級以下の魔石を換金した後、すぐにグラムの武器屋に顔を出した。



「グラムさん、こんばんは」


「お前がこんな時間に顔を出すのは珍しいな。いったいどうしたんだ?」


「……実は預かって欲しい物があるんです。…これなんですけど」



 そう言ってルナは3等級の魔石をグラムに見せた。



「ん?……ちょ、ちょっと待て!まさか、これって3等級の魔石じゃないか?しかもこんなに沢山…」



 カウンターに置かれた魔石の数は15個もあり、これだけで財産としてはかなりの値段になるのだ。それをいきなり目の前に置かれれば、グラムじゃなくても驚愕するのは間違いないのだ。



「これが水の魔石ですので、余裕がある時に加工をお願いしたいのですが」


「いや、その前になぜ3等級の魔石がこんなにあるんだ!オークションがあった話も聞かないし、手に入れた方法が分からんぞ」


「そんな事をわざわざ冒険者に聞くの?だいたい魔石の出所って言ったら、1つしか思いつかないでしょ」



 いまだ取り乱していたグラムにゼロは、そんな事も分からないのかと呆れるように言った。



「……じゃあこれらはお前達が取って来たと言うのか?今日はアリサもいないようだし、たった二人で?しかも武器は昨日買った初心者用の短剣だけだろ?」


「フフン。今は短剣だけじゃないわよ。これを見てみなさい!、12階層で新たに手に入れたナイフよ」



 ゼロが得意気にミラージュナイフを見せて自慢した。そのせいでグラムは更に驚いてしまった。



「つまり12階層まではその装備で行ったって事なのか…正直信じられん」



 グラムは現物を見せられても素直に信じられなかった。



「ま、まあ、ほとんどルナが相手したんだけどね。私の買ったナイフじゃ8階層の魔物相手が限界だったのよ」


「そりゃそうだろ。普通は3階層くらいで買い変えてしまう程度の武器なんだぞ?」


「そう言う事だから、ストーンゴーレムにも通じるような短剣を見せてよ」



 最初に買った武器の限界はゼロ自信が理解していた。ミラージュナイフはランクが高いだけあって斬れ味は良かったのだが、刃渡りが15センチ程度なので大きな相手には通じない。だからゼロは新しい武器を買うつもりなのだ。



「それはいいが……高いランクの武器は価格も高いぞ?」


「……ルナ、3等級の魔石は水以外は必要ないんでしょ?」



 何か名案を思い付いたような顔をして、ルナに魔石の確認をしてくる。



「はい、私は水の魔法しか使えませんので」


「じゃあ水以外の魔石全部と交換ってのはどお?」



 3等級の魔石の価値を知らないゼロは、先程見せたグラムの驚きぶりから交換の対象になると読んだのだ。



「俺はそれで構わんが……いいのか?だいぶ俺の方が得する形になるぞ?それに魔石は2人で集めたんだろ」



 ここで黙っていれば大儲け出来たのに、グラムはそれを良しとはしなかった。


 3等級の魔石は、ギルドに持って行っても1つ10万ゼニーで換金してもらえる。だが、グラム達がそれを手に入れるには、ギルド主催のオークションで競り落とさないといけないので、倍以上の費用が掛かってしまうのだ。



「私は構いませんよ。そのまま持って帰ってもお姉ちゃんを心配させてしまいますし、ギルドで換金しても騒ぎになりそうですし」


「そういう事よ。もし納得できないって言うなら、…この投擲用のナイフを数本とルナの杖の加工代も付けなさい。あ、あと魔導具のナイフ用の鞘もつけて」



 ゼロが選んだ投擲用のナイフは初心者用の短剣よりは高いものの、数本分まとめても3等級の魔石1つに全然足りないのだ。それに杖の加工代と言っても、材料持ち込みでグラムが作業をするだけなので出費はほとんどない。



「…分かった。お前達がそれで納得してるなら、これ以上何も言わん。用意するから待っていろ」



 そう言ってグラムは鋼の短剣と4本の投擲用のナイフを用意した。




鋼の短剣  ・・・ ランク6 『鋼で出来た刃渡り30センチの短剣。鉄より頑丈に出来ているので、多少の無茶な使い方をしても耐える』


鉄のナイフ(投擲用) ・・・ ランク4 『鉄の投擲用のナイフ。投擲用として作られているので、持って使用するには不向き』 




「とりあえず持って来たが、お前1人がこれを全部装備するのか?いくらなんでも多すぎだぞ」


「大丈夫よ。ちゃんと邪魔にならないように持ち歩けるから」



 僕はその話を聞いて「いったいどこに?」と思ったが、ゼロには考えがあるようで気にしないで、そのまま武器を受け取っていた。



「それじゃ、用も済んだし帰りましょうか。あ!、あと私達が下層に行った事は内緒よ。もちろんアリサにも言っちゃ駄目だからね」



 帰ろうとした時、思い出したようゼロが振り向いて、グラムに口止めの約束をさせたのだ。武器の消耗の違いからルナとアリサの実力をなんとなく分かっているグラムは、ゼロが何を言いたいのか理解し、了承してくれた。






 店を出たゼロはいきなり僕をルナから奪い、今まで使っていた初心者用の短剣と投擲用のナイフを、押し付けて来たのだ。



「……つまりさっき言っていた邪魔にならない場所ってのは、僕の腕輪の事だった訳か」


「そういう事よ。必要になったら言うからちゃんと渡すのよ」



 それだけ言って新しい短剣とミラージュナイフを装備したゼロは、満足そうに家に向かって歩いて行ってしまった。





 家に帰って来たルナ達を、アリサは何故か笑顔で出迎えてくれた。理由を聞いても話してくれなかったのは不思議だったが、機嫌が良いので気にしないで夕食にする事にした。

 



 夕食を終えたルナ達は自室に戻っていた。



「しっかし、今日初めてあんたの戦う所を見たけど、操作術の使い方が変わっているわね。なんで魔力を覆う形で使ってるの?」



 今日一日の戦い方の反省会として場を設けた中で、ゼロが変な事を言いだした。



「は?操作術を使うのに魔力を流して何がおかしいんだ?魔法はイメージだから、人間だった時の手を思い浮かべて作ったんだよ」


「まずそこが間違っているのよ。操作術は魔法じゃないわ。一種の超能力みたいなものなの。つまり操作術を使うのにMPは必要がないのよ」


「え?だって魔力を集めたら簡単に物を持ち上げれるようになったぞ?」



 僕は漬物石をゴーストハンドで持ち上げて見せた。



「操作術も使っているのは間違いないわ。ただしそれは魔力を覆っている部分にだけどね。ルナ、魔法を使わないで体外に魔力を放出したらどうなる?」


「そうですね。魔法ならば最初にイメージした動きでまとまってくれますが、……魔力だけならすぐに拡散してしました」



 そう言ってルナは実際に右手に魔力を集めて、放出して確認してみた。



「そう言う事。魔力は体外に出ると留めておく事は、普通は出来ない程大変なの。あんたがそれを可能にしているのが操作術のスキルって訳よ。操作術もイメージは必要だからね。あんたの中では魔力は万能な力と思って、無意識の内に知ってる超能力と繋げたのね」


「魔力なしでも使える事は分かった。でも魔力を使わないと上手く使える気がしないな…」


「そこが操作術の難しい所よ。未知の力をしっかりイメージしろと言われても、そう簡単に出来るものじゃないしね。あんたの場合、操作術を魔法と思い込んじゃったから、魔力という力がないと認識出来なくなってるのよ。

 でもそのおかげで、あんたの操作術はかなり強力になる可能性を秘めれるわ。なんにしろ、元々使い道がなかった大量のMPを活用できるようになったんだからね」


「確かにそうだな………ん?」



 ゼロの説明に納得して頷いていると、最後の一言に少し思う所があった。



「ちょっと待て、MPの使い道がないってどういう事だ?操作術が魔法ではないって事は分かったが、まだ死霊術あるだろ。あれを使う時に僕は大量のMPをルナに注ぎ込んだぞ」


「……それでルナの魔力の質があんたとまったく同じなのね。死霊術も呪いみたいな力だから魔法じゃないわ。それに普通は死んだ後すぐに使用しても、感情が薄くなったり、あんたの何気ない一言でも従おうとするんだけど、ルナにはそれらが全くないからおかしいと思ってたのよ。

 つまり原因はあんたが馬鹿みたいに魔力を流したからで、ルナの魔力が芯からあんたの魔力に染められてしまったのね。そのせいで隷属者と言っても同等の立場みたいになってるし、生身で受けたら死んでしまうような量の魔力注入を死んでる内に行われたから、それに耐えれるように身体能力も底上げされたのよ。

 まったく、人が想像もしなかったスキルの使い方をしてくれるわね」



 ゼロは僕のスキルの使い方に感心していた。



「ルナが特例みたいな存在だって事は分かったが………つまり僕は大量のMPを持っていても、魔法は1つも持っていないって事?」



 僕のスキルで自動回復以外では、操作術、死霊術、鑑定眼、女神の呪いなので魔法が1つもない事になるのだ。



「ないわよ」



 そのあっさりと発した一言で、僕の大量のMPもゼロの嫌がらせだった事が判明した。



「魔法が使えないのに、なに大量のMPをくれてんの!」


「え?あんた魔法が欲しいとは言わなかったじゃない。でも、なくならないMPは望んだからあげたのよ。それなのに何を文句言ってるのよ」



 確かに剣と魔法の世界と聞いて、なくならないMPだけは望んだ。ゼロの言い分に間違いはないのだが……納得いかない事だった。



「……ルナ!最初から持っているスキル以外で、魔法を覚える事って出来るの?」



 女神の力を封じられている今のゼロに期待は出来ない。なので自力で魔法を覚える事に望みを賭けた。



「そうですね。聞いた話では可能らしいですよ」


「ほんと!?」



 僕はその答えを聞いて、憧れだった魔法が使えると思い喜んだ。今すぐにでも練習を開始して、魔法を使えるようになるぞと決意する。



「ですが使えるようになるまで、50年ほどの年月が掛かったらしいですが」


「ご、50年……」



 が、それを聞いて上がったテンションが一気に落ちて、僕は頭から倒れ込んでしまった。



「馬鹿ね……そんな簡単に魔法が覚えれるなら、魔法使いが貴重な存在になる訳がないでしょ」



 落ち込んでいるそんな僕の頭をポンポン叩き、まるで残念な子を見るような顔で見つめてきた。



「それでも魔法がなかった世界から来たんだから、使ってみたいと思うのが普通でしょ」


「で、ですがゴーストハンドは魔力も使ってますし、立派な魔法だと思いますよ」


「…ルナは優しいな。でも僕は派手な魔法が使ってみたかったんだよ…」



 落ち込んでいる僕をルナは励まそうとしてくれた。その優しさは嬉しかったが、僕が望んでいる魔法と比べてゴーストハンドは魔力の手を伸ばしているだけなので、お世辞にも派手な魔法とは言えないのだ。



「では練習している魔力撃と合わせてみればどうでしょうか。普通の人は肉体が当たった時に魔力を爆発させて攻撃しますが、魔力の手なら離れていても魔力撃が使えますから、爆発の魔法を使っているように見えますよ」



 魔力撃、魔法を使えない人が魔力を圧縮して、敵に攻撃が当たった瞬間に爆発させて攻撃する技だ。これがまた難しくて、僕も練習はしているが圧縮の段階で躓いている。



「そんな技があるんだ……でもそれならあんたにも使えそうね」


「え?どういう事?魔力撃って難しくてまだ出来る気がしないんだよ?」


「なんで?魔力の手を作れるんだから、その中に入っている魔力を操作術で縮めれば簡単に圧縮が出来るじゃないの?」


「そ、そうか!今までは体内でそれをやろうとして失敗していたけど、ゴーストハンドを圧縮するだけなら簡単に出来そうだ。今度チャンスがあったら試してみよう」



 ほんとは今スグにでも試してみたいのだが、既に時間帯は夜。しかもルナの家の中で魔力爆発を起こしたら、近所迷惑どころか大騒ぎになりかねないのだ。


 その後も戦い方などの意見を出しあい、夜も遅くなってきた段階でお開きになった。







 翌朝になったらアリサの筋肉痛も治っており、今日から迷宮探索に復帰する事になった。アリサはルナと迷宮に潜るのを楽しんでいたので、また再開出来るので浮かれていた。


 しかし家を出て迷宮に向かおうとした時、1人の冒険者がギルドからの伝言としてアリサ宛に手紙を届けにきた。



「いったい朝から何なんだ?」



 アリサは出鼻を挫かれた感じになり、少し不機嫌そうに聞いた。



「内容は聞いてないよ。俺はこれを届けるようにギルドマスターから依頼されただけだからね」



 それだけを伝えた冒険者は、手紙をアリサに渡して帰って行った。



「ギルドマスターからの手紙なんて初めてだが……いったい何が書いてあるんだ?」



 そう言って手紙を読み始めた。



「なんて書かれてたの?」


「何やら指名依頼が入ったらしくて、今日は迷宮に行かずにギルドに顔を出して欲しいらしいな」


「なるほどね。アリサは身に覚えがなさそうだし、私は冒険者になったばっかりだから指名が来るはずがない。なら指名されてるのはルナって事ね」



 その内容を聞いてゼロはチーム内でルナが指名の対象と読んだのだ。



(僕もルナで間違いないと思うな。新人だけどやってる事はずば抜けてるからね)


「え?私も身に覚えはありませんよ?」



 ルナはキョトンとしていたが、新人魔法使いが中層で稼いでいて、危険人物も倒したとなれば注目されていない方がおかしいのだ。



「ま、とりあえずギルドに行くとするか。流石にギルドマスターが呼んでいるなると、無視する訳にもいかないしな」



 そうしてルナ達は冒険者ギルドに向かう事になった。







「リーザ、なんかギルドマスターに呼ばれたんだが、何かあったのか?」



 ギルドに着いたアリサは、さっそくリーザに内容を聞いてみた。



「あ!ちゃんと来てくれたのね。よかったー。…詳しい話はギルドマスターから聞くと思うけど、実はこの町の防衛隊長からルナちゃんに指名依頼が入ったのよ。それも昨日の夜中に急に入ったらしくて、慌ててアリサ達のチームを呼んだのよ」


「……やっぱりルナか……。それで依頼の内容はなんなんだ?」



 ゼロの予想が当たったかと、ルナ以外の全員が頷いていた。もちろんルナは驚いていた。



「ごめんなさい。私もそこまで詳しい話は聞いてないのよ。ギルドマスターは2階で待ってるから、急いで行ってあげてね」



 リーザにルドルの場所を聞いたので、「分かった」と一言だけ言って2階に上がって行った。





「それで依頼内容は何なんだ?確か防衛隊長は<ウェルダー>さんだったな。そんな人がルナに何の用があるって言うんだ?」



 部屋に入った所でルドルに勧められるままに椅子に座り、依頼の内容について話が始まった。



「そんなに警戒する必要はないぞ。ただウェルダーさんの娘さんが魔法使いの適性があると判明してな。その教育係を探しているみたいで、一定レベル以上の魔法使いがいるチームに片っ端から集めているみたいなんだ」


「……それは何か変ね」



 ルドルは気楽そうに言っているが、ゼロは何か気になるようで少し考え込んでいる。



「確か昨日冒険者登録をしたゼロだったな。いったい何が変なんだ?」


「だって教育係を探しているんでしょ?なのに何で魔法使いがいるチームを探しているの?教育係だけなら、別にチームを組んでいる必要はないじゃない」


「確かにそうだな。優秀な魔法使いなら、ルナより経験が多いリーザの方が先に声が掛かりそうなものだしな」


「先方の話だと、チームを組んでいる魔法使いの方が実践経験が豊富で、協調性も高いだろうとの話だ」


「ああ、魔法使いは天狗になってる奴が多いもんな。そう言う事なら納得だな」



 ルドルの話でアリサは納得したようだが、僕とゼロは少し引っ掛かったままだった。



「それでどうするんだ?お前達は迷宮探索がメインだから断っても良いぞ。先方にもその旨は伝えてあるからな」


「私は別に構いませんが、期間はどれぐらいの予定なんですか?」


「まあ何人かに声を掛けているようだから、全員が教育係になる事はないだろうが、聞いてる話では約7日間らしいぞ」


(あ、そうか。武器屋のグラムに店番の依頼が入っているんだった)


「どうする?」



 この依頼はルナがメインなので、アリサは受けるかどうかを決めさせるようだ。



「そうですね。せっかくの指名ですし、一度行ってみたいと思います」


「そうか。ならこの依頼は受ける事にする。それで私達はどこへ行けばいいんだ?」


「ウェルダーさんの屋敷に行ってもらえば話が通る事になっている。ちょっと待ってろ。今から地図を書いてやる」



 そう言って紙に簡単な地図を書いてくれてアリサに渡した。それを受け取り、アリサ達はギルドを出てウェルダーの屋敷に向かった。







「ここが防衛隊長の屋敷か…やっぱりでかいな」



 僕達はウェルダーの屋敷を見上げていた。アリサの言うとおり屋敷はかなり大きく、外から見ても部屋数が10以上はあったのだ。



「あそこの門の前に人がいるから、ちょっと聞いてみましょ」



 ゼロの言うとおり少し先に大きな鉄格子の門があり、その前に鎧姿の人が2人立っていたのだ。



「ねえちょっと。魔法使いの教育係の依頼を受けたんだけど、ここがウェルダーの屋敷で合ってるの?」


「……なんだこのガキは?ここはお前のようなガキが来るような場所じゃない。さっさと家に帰って親にでも甘えていろ」



 ゼロの聞き方も遠慮がなかったが、見た目が幼女でしかないので門番達に子供と間違えられてしまったのだ。もちろんそんな事を言われて笑って済ませれるほど、ゼロの女神のくせに心は広くない。そんなゼロは言い返す前に体を動かしていたのだ。



「…あんた達みたいなガキが何を言ってるのかしら?もう少し目上の人を敬う気持ちを持たないと………死ぬわよ」


「え!?あ、ああ…」



 まともに喋れないほど驚愕している門番の首には、ゼロがいつの間にかに抜いていた鋼の短剣が当てられていたのだ。



「お、お前!そんな事をしてタダで済むと思っているのか!」



 もう1人の門番がいち早く正気に戻り、ゼロに向かって装備している槍を向けた。



「最初に喧嘩を売って来たのはこいつでしょ。で、どうするの?謝るの?それとも死ぬの?」


「いいからさっさとそれを下げろ!ガキをガキと言って何が悪いんだ!」


(あちゃー、ロリ女神の心はコップの水より浅いからな…そんな一言でも痛い目にあうぞ)



 僕の予想通り、ゼロは流れるような動きでファントムナイフを抜き、向けられている槍を切り落としてそのまま2人の膝を後ろから蹴る事で、まるで土下座をするような姿勢にさせた。



「あんたも口のきき方がなってないわね。最後にもう一度だけ言うわよ。謝るの?それとも……」



 慌てて立ちあがろうと顔を上げた門番達は、ゼロが目の前で構えている短剣を見て動けなくなってしまった。



「す、すみませんでした。口のきき方が悪かったです。今後は気を付けます」



 少しも冗談とは思えない目をしたゼロを見て、顔を青くして門番達は謝ったのだ。



「分かれば良いのよ。それとルナ。ちょっとそいつを貸してね」



 そうは言ったが、ルナの返事が返って来る前に問答無用で僕を奪い取り、思いっきり顔を握りつけてきた。



(ギブギブギブ!)


「……なんか馬鹿にされた気がしたからね」


「まったく…ハヤテさんは時々口が悪いんですから……駄目ですよ。人の悪口を言っては」



 僕の顔を潰すゼロに文句を言わず、まるで僕が悪いと確信しているように「やれやれ」と言うような顔をしていた。



(な、なんなんだこの2人は!?なんで僕の心の声が聞こえているように話が進んでいるんだ!?)


「それよりどうするんだよ?…こんな騒ぎを起こして無事に済むとは思えないんだが……」



 唯一、話に着いて来れていないアリサは、このゼロが暴れた現状を唖然として見ていたのだった。



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