表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/70

15話 再戦 ミノタウロス




 今日は朝から冒険者ギルドに訪れる。



「リーザさん、おはようございます」


「おはようルナちゃん。どうしたの、朝からギルドに顔を出すなんて?」



 リーザが疑問に思うのは尤もの事だ。迷宮探索がメインのルナが、朝からギルドに顔を出す理由がないからだ。



「実はこの方の冒険者登録をお願いしたくて来たんです。ゼロさん、こちらに」



 そう言ってルナの手招きで、ゼロがリーザの前に近づいてくる。



「え?この子が冒険者になるの?……見た目だけでは分からないのはルナちゃんで知ってるけど……大丈夫なの?」



 身長的にはルナよりも少しだけ小さく、白いワンピースを着たゼロを見て、リーザは冒険者になって大丈夫かと少し不安そうにしている。だが、小さいのに凄腕の魔法使いであるルナを知っていると、頭ごなしに無理とも言えなかったのだ。



「問題ないわ。ルナから聞いてテストがある事を聞いて分かってるから、さっさと始めてちょうだい」


「わ、分かりました。……これを持ってそこの階段を下りてください。そこに試験官がいますので、その人の合格印を貰って来れば合格です」



 どこからそんな自信が来るのかと思ったが、棚から一枚の紙を取りだして渡す。



「そ、ならちょっと行ってくるわ」



 紙を受け取ったゼロは、軽い足取りで階段を下りて行く。そして残ったルナに、不安そうな顔で問いかけた。



「…ルナちゃん。あの子は大丈夫なの?」


「はい、ステータスだけを言えば平均120はあるらしいですよ」


「120!?…あんなに小さいのに凄いわね……」



 ルナの話を聞いて、リーザは驚きを隠せないでいた。平均が120もあれば、新人冒険者のステータスからかけ離れ過ぎているからだ。





 そんな短いやり取りが終わると、さっき下りたばっかりのゼロが帰って来たのだ。



「あれ、どうしたの?誰もいなかった?」



 そのあまりにも早い帰りに、試験官がいなかったと思ったリーザは確認をとったのだ。



「?。何を言ってるの?終わったから戻って来たのよ。はい、これが合格印よ」



 そう言って合格の印が押された紙をリーザに渡した。



「え、もう終わったの?さっき行ったばっかりじゃない!」



 その印が本物である事を確認して、そのあまりの速さに驚愕していた。



「装備を見て分かると思うけど、私は短剣を使うから素早さには自信があるのよ」



 まるで当たり前の事をしただけと言わんばかりに平然と答える。


 ゼロは試験官との腕試しの際、開始と同時に真っ直ぐ向かって行き、相手の剣を軽くかわして剣を首にそっと押しあてた。

 そんな状況に簡単にされてしまった以上、試験官は合格を告げる事しか出来なかったのだ。



「さ、ギルドカードをちょうだい」


「は、はい。少々お待ちください。………これがギルドカードです。あとは貴女の血を一滴これに垂らしてもらえれば、登録は完了です」



 ゼロに急かされて慌てて取り出したギルドカードに、一滴の血を垂らして登録を完了させた。




ゼロ   ギルドランク  1


HP   166 / 166

MP    51 /  51


力    144

耐久力  122

素早さ  186

魔力    66




「ちゃんと機能しているようね。これで登録は完了よね?」



 ギルドカードのステータスが表示されている事を見て、リーザに確認させると、そのステータスの高さにまた驚いてしまっていた。



「だ、大丈夫です。問題はありません」


「あっそ」



 無事に冒険者登録が終わった事を確認すると、ゼロはカードを消してルナと一緒にギルドを出て行った。



「……まったく…いったいなんなのよ……」



 リーザはルナ達が出て行った方を見て、呆れるように呟いていた。







 今日はそこまで深い階層に潜るつもりはなかったが、迷宮に入る前に万が一に備え、前回使用してしまった分のポーションを購入する。


 目的はゼロの迷宮慣れとルナの新しい杖の慣らしだけだったのだが、2人のステータスの高さから、5階層に行っても魔物を発見したら瞬殺で終わらせていた。


 6階層のシャドーデビルは苦戦するかもと思っていたのだが、ルナのアクアライフルの未完成魔法でも一撃で倒せるようになっていたので、苦戦はしなかった。

 そうなるとリーチの短いゼロの心配をしたが、素早さはシャドーデビルより段違いで早く、攻撃を避けて懐に入り攻撃を繰り返して、単独でもノーダメージで倒してしまう。その動きはまるでダンスを踊っているように見えた。



「案外余裕ね。これならもっと下に行っても大丈夫よ」


「確かにそうだけど、よく行って8階層までだよ。9階層で現れるストーンゴーレムには、ゼロのナイフじゃ相性が悪い。あと、他の冒険者がいたらすぐに逃げる事!見た目が幼い2人だけで中層で無双してたら、目立ち過ぎるからね」


「分かったわ。私もルナに迷惑を掛けるつもりはないもの」



 その事だけ約束した後、ルナ達は更に下に進んで行った。







 結論だけ言うと、8階層のホーンラビットも2人の相手にはならなかった。そんな2人が一番疲れたのは、冒険者から姿を隠しながら先回りをする時だった。ほぼ一撃で魔物を倒して行くので、先に潜っていた冒険者にどうしても追い付いてしまうのだ。



「……ねえ、もしかしてルナの実力なら下層に行っても何とかなるんじゃないの?」



 8階層で次々と魔物を倒していると、ゼロは疑問に思い聞いて来たのだ。なにしろここまで出会った魔物は全て一撃で終わらせてしまっているので、そう思うのも仕方がない。



「んー……11階層から現れ始めるグレートウルフは素早かったからな…。もし魔法が外れたら、防御力の低いルナは危ないよ。それに12階層で出会ったミノタウロスに散々殴られたら、僕はHPを2000ぐらい削られたからね」


「に、二千ですか!?」



 僕が12階層で受けたダメージを聞いて、ルナはビックリしてこっちを見て来た。



「あんたの防御力はほぼ0じゃない。そんなの当てにならないわよ。それに2000程度じゃすぐに回復するでしょ」


「2000が程度!?……ハヤテさんっていったいどれだけHPがあるんですか?」



 中層レベルの冒険者でもHPが200もあれば多い方である。それなのに2000ものダメージをその程度と言いきってしまうのだから、驚かずにはいられなかったのだ。



「あれ、言ってなかったっけ?僕のHPは約20万だよ」


「20万!?………想像もつかないHPですね…」


「でも、そんなにHPが高くても痛みは一般人と同じだけ感じるだよ。だから死にはしないけど、死ぬほど痛いんだ。ほんと、誰かさんのおかげでね!」



 僕はジロリとゼロの方を見たが、その視線に対して全然違う方を見て目を合わせようとしない。



「その事なら謝ったでしょ。……でも死なないあんたを囮にすれば、下層でも安全に進む事が出来るかもしれないわね」


「…ちょっとゼロさん、僕の話を聞いていましたか?本気で痛いんですよ。なぜそんな発想が出たか、詳しく教えてくれませんか」



 半分冗談で言った嫌味に対して、ゼロは何か思い付いたように頷きながら囮と言いだしたのだ。



「確かにダメージを受ければ痛いだろうけど、操作術を使えるようになってるなら逃げ続ける事は出来るでしょ?」


「……確かに今の僕なら倒す事は出来なくても、逃げ続ける事は可能かもしれない……けど」


「そうでしょ。それにあんたが前線で動けるのは、アリサがいない今しかないのよ」



 そこまで聞いてゼロが何を言いたかったか理解出来た。

 アリサが迷宮探索を休んでいるのは筋肉痛が治るまでだから、長くて明日まで、早ければ今日で回復するかもしれない。そうするとルナやゼロが全力で戦えるのは、今日までの可能性があるのだ。

 今みたいに迷宮を潜るだけならまだ良いが、この前のような神の代理人との戦いに巻き込まれると、ルナの杖ではまた壊れる不安が残っている。その不安を払拭するには、下層に行って3等級以上の魔石を手に入れなければならない。



(ほんとは巻き込みたくないんだけど、死霊術のせいで僕が離れ過ぎるとルナは死んでしまうから、1人になる事も出来ないしな……。なら僕に出来る事はルナの装備を少しでも良くして、生き残れる可能性を上げてあげるしかない)



 そして早めに対策するチャンスは、ゼロの言うとおり今しかないのだ。



「確かにゼロの言うとおり、僕が自由に動けるのは今しかない。よし!9、10階層では魔物との戦闘は避けて、下層を目指そう。……ルナ、君の事は僕が絶対に守るから………一緒に下層に行ってくれるかい?」



 僕が囮になるにしても、絶対の安全は保障されない下層に行くのだ。その事を考えると、僕はいまだに気が引けている。



「分かっています。ハヤテさんは私の事を心配してでの判断ですよね。……私はハヤテさんを信じていますので、そこまで気をつかわないでください」


「なら話は決まったわね。夜になると危険だって話だし、急いで下層を目指しましょう」



 ルナの覚悟も聞いて話が決まると、少しでも早く下層を目指す為に2人は駆け足で進み始めた。戦闘は出来るだけ避けていき、ストーンゴーレムとは無理に戦わないで逃げに徹した。


 11階層までの道のりは僕が知っているので、迷う事無く進む事が出来る。







 そうして11階層への階段に着く事が出来た。



「下の階層に行く前に、一度休憩をしましょう。ハヤテさん、すみませんがお弁当を出してください」



 そう言われて僕は収納の腕輪に入れていたルナの手作り弁当を3人分取り出した。



「!?。なにそれ!なんであんたがそんな便利そうな物を持ってるのよ?」



 僕が収納の腕輪を使う所を始めてみたので、ゼロは僕の腕を掴み物欲しそうに見て来た。



「これはこの迷宮の12階層で見付けた、収納の腕輪って言う魔導具だよ。10個まで生き物以外なら入れておけるんだよ」


「へー、迷宮では面白い道具が見つかるって話は聞いていたけど、こんな便利な物もあるなら私も1つ欲しいわね」



 どうやら魔導具に興味を持ったようで、ゼロは目を輝かせてやる気が上がっていた。


 そんな中で食事をしながら、僕は知っている限りの魔物の特徴を教えてあげる。それを踏まえての今後の作戦は、魔物を見付けたら僕を投げてもらって注意を引き、その隙にルナの魔法でダメージを与えてゼロがトドメをさす。


 ルナは僕を投げる事を嫌がっていたので、その役目はゼロがする事になった。





 そして11階層に足を踏み入れたら、すぐに魔物を見付けた。



「作戦通り行くわよ。ほら、頑張ってきなさい!」



 そう言って気合いたっぷりで僕を掴んで投げた。だが、山なりに飛んで行く予定だったのにゼロのコントロールは悪く、斜め下に勢い良く投げつけられたのだ。



「ぎゃ!?」


「ハヤテさん!?」


「あれ?ごめん」



 僕は受け身も取る事が出来ず、顔から地面に直撃して悲鳴を上げた。その様子を見てルナは心配して声を掛けてくれたが、ゼロは軽く謝っただけで終わらせていた。



「このノーコンロリ女神!ほとんど真下に投げるやつがいるか!」


「そんな事を言ってないで、さっさと前に行きなさい!こんな距離で戦闘になったらルナが傷つくわよ!」



 離れた所に見えるグレートウルフを無視して、僕はゼロの方に振り向いて怒鳴った。しかし反省の色が全く見えないゼロは正論を言って来た。状況は分かっているので、気持ちが納得いかない状態での戦闘が始まった。



「この事は後でじっくり話すからな!」



 それだけを言って僕は前に走っていった。



「うわ、足遅」


「うるさい!文句があるなら鏡に向かってに言え!」



 グレートウルフとの対面はかなり迫力があった。見た目は狼そのものなので、噛みつきと引っ掻きぐらいしか攻撃がないのは救いだった。不用心に近づいてくるので、ダメージは与えれないがゴーストハンドでとにかく殴り続ける。

 グレートウルフは何が起こっているか理解出来ていないようで、懲りずに何度も突っ込んできた。そして無防備な横っ腹にルナのアクアライフルが直撃し、苦しそうにのた打ち回っていた。


 流石下層の魔物とも言えるような耐久力を見せたグレートウルフだったが、2発目の水弾を顔に受けて気を失ってしまった。



「あれを2発も受けて生きてるなんて凄いな……。ゼロ、トドメを頼む」



 気を失っている事を僕が確認した後、ゼロを呼んでトドメをさして貰った。



「この調子なら12階層に行っても大丈夫ね。さあ、下の階層に行くわよ」


「ゼロは魔導具が欲しいだけだろ!まずはもう少し上手く投げれるようになれ!」



 僕は投げそこなった事を思いだし、ゼロに怒鳴った。



「おかしいわね……短剣を投げるのは正確に出来たから、コントロールは良いと思ったんだけど」



 怒っている僕に対してゼロは不思議そうな顔をしていた。



「でも、1つ心当たりはあるわね」


「……なんだよ、その心当たりってのは?」



 何となくまともな回答が来る気がしなかったので、少しジト目でゼロを見て話を聞く。



「あんたに触ったら拒絶反応が起こったのよ。アレルギーかも知れないわ!」


「アレルギーで俺を叩きつけた理由になるかーーーーー!!!」



 そんな風に叫んでいると、2匹目のグレートウルフが近寄ってきた。



「あんたが大声を出すから、魔物が寄って来たわよ!ほら、あんたの出番!」



 そう言ってゼロは、すぐに僕の頭を掴んで投げる。しかし軌道は前回と同じだった。



「いい加減にしろーーーーー!」


「ハ、ハヤテさーーーん!」


「あらあら、やっぱり短剣以外のコントロールは駄目のようね」



 僕の末路を見て、ゼロは頬を指で掻きながらそう結論付けた。





「やっぱり今度からルナが投げてくれ。あれは駄目だ…」



 戦闘自体は1戦目以上に上手くいった。真っ直ぐ進んで来るグレートウルフに、カウンターのようにゴーストハンドが直撃したのだ。突然の見えない攻撃で怒った相手は、僕以外は目に入らないぐらい盲目的になり、ルナの魔法が無警戒の後頭部にヒットする。

 倒したら消える魔物と言ってもその体の構造は動物と変わらないようで、後頭部に強烈な一撃を受けたグレートウルフはそのまま消滅してしまったのだ。



「……分かりました。私も覚悟を決めます」



 まともに投げる気がないゼロを見限った僕に、ルナは苦渋の選択を迫られたような顔つきで頷いてくれた。



「私はこのままで構わないと思うけどな~……ストレス解消になるし」


「俺をストレス解消の道具にするな!」



 そう叫びながらも進んで行くが、騒がしい一行なのですぐに次の魔物が襲って来たのだ。







「あんたがうるさいからここまで来るのに時間が掛かったじゃない!あー疲れるわ」


「怒鳴る原因はお前だ!それに一番負担が大きいのは魔法を使い続けているルナで、お前はトドメをさしているだけだろうが!」



 12階層へと続く階段を目の前にして文句を言って来るゼロ。実際、ここまで来る間に10回近くの戦いをしてきたのだ。



「まあまあ、2人共仲良くしてください。私はまだ大丈夫ですし、魔石も手に入っているので良いではありませんか」



 グレートウルフは下層から現れ始める魔物だったが、必ず3等級の魔石を落としてくれる訳ではない。それでも半数以上は3等級だったのは良いが、その中で水の魔石はまだ1つしか手に入っていないので、目的の杖を作る為にはあと2つは欲しい所だった。



「まあいいわ。12階層に行けば魔導具も手に入るかも知れないし楽しみだわ」


「先に言っとくが、魔導具が手に入る可能性は低いぞ。俺が見付けれたのはこの体じゃないと入れないような小道の先にあっただけだからで、普通に落ちているような物なら他の冒険者がとっくに拾っているだろうからな」


「そんなの分かってるわよ。でも9階層以降の道のりでは他の冒険者を見かけていないし、ちょっと前までは神の代理人が陣取ってたんでしょ?なら少しは期待が持てるじゃない!」



 ゼロが言っている事はもっともの事だ。神の代理人であるジンが9階層付近で居座っていた以上、その期間に他の冒険者が下層に潜ったとは考えられない。そしてジンの荷物から3等級の魔石が見つからなかったので、下層に行ったとは考え難いのだ。



「ま、最低限の目的は忘れていないわ。あくまでもおまけ程度に考えているから安心しなさい」


「……分かったよ。でもミノタウロスは強敵だから絶対に攻撃は受けるなよ!とくにゼロなんか防具を装備していないんだからな」



 今までの戦いでは一撃も攻撃を受けていないから大丈夫だったが、ルナの防具は初心者用の軽装だし、ゼロに至ってはルナの服を着ているだけなのだ。

 初心者用の短剣に防具はなし。こんな無謀とも言える装備で下層に来る冒険者は、おそらくゼロが初めてではなかろうか。



「心配してくれてありがと。でも攻撃に当たらなければ関係ないわ。それよりあんたはどうやって注意を引くかを考えてなさい」


「分かってるよ」




 それだけを言い、僕にとっては久しぶりの12階層に辿り着いた。



「この階層はまだ下への階段は見付けていないし、ほとんど知らないと言ってもいいぐらいだからはぐれないように。………は~、そしてあれがミノタウロスだよ…」



 階段を下りてすぐに立ち止まった僕達の視界の先には、既にミノタウロスがこっちを睨んで待ち構えていたのだ。



「まさかいきなり出会うとは思わなかったわね。でも後ろが階段で脇道もないこの場所は、かなり良いと言えるわね」



 確かに囮の僕に引っ掛からない時は、すぐにでも階段を上って逃げる事が可能だからだ。



「あの時は気が付かなかったけど、ここに誘い込めば楽に魔石を稼ぐ事が出来るんじゃないか?」


「そりゃそうかもしれないけど、普通のチームで誰がそんな囮役をやるって言うのよ」



 魔物がウロウロしているような迷宮で、1人で引きつけ役をやるって事はかなり危険な事だ。そんな事を強要なんかしたら、間違いなくチームの崩壊に繋がる。



「でも作戦的には良いわね。さあ、行って来なさい!」



 そう言われて僕はルナから下りて、遅いがミノタウロスに向かって走っていく。



「緊張感がまったく出ないわね……」



 僕がトコトコ走る姿を見て、ゼロは呆れながらそう言った。ルナも苦笑いで返す事しか出来なかったので、同意見のようである。

 そうして僕達とミノタウロスとの戦いは始まった。…が、すぐに問題が発生する。


 噛みつこうと顔から攻めて来たグレートウルフとは違い、棍棒を使って殴って来るミノタウロスには、僕のゴーストハンドの攻撃範囲である50センチでは、どうしようもない事に気が付いたのだ。



「………まいったな。殴り飛ばされたらルナの方に向かって行くだろうし………痛いけど、また前回と同じように漬物石を使うしかないか」



 僕は収納の腕輪から魔重石(僕は漬物石と呼んでいるが)を取り出し、ミノタウロスの攻撃に合わせて重量を重くして飛ばされないようにする。



「痛っ!?…相変わらず死ぬほど痛い!!!」



 棍棒で殴られた時に鈍く響く音が響いたが、見た目と裏腹で吹き飛ばされない事で囮役としての仕事をこなし、ミノタウロスの注意を集める事は出来た。



「ハヤテさん!?」



 11階層では一度も攻撃を受けていなかったので、僕が殴られた鈍い音にルナは驚き、心配した表情のまま慌てて魔法を放つ。その水弾は頭に見事にクリーンヒットする。しかし確実にダメージはありふらつきもしたが、その膝が地面につく事はなかった。



「っ!?……見た目通りのタフさね。ルナ、どんどん魔法を放って数で押しなさい!」


「は、はい!」



 ゼロも僕が殴られた時の音を聞いて表情を曇らせる。ミノタウロスはかなりの耐久力があったが、ルナの魔法で決して小さくはないダメージが入っているのも確かなので、数で押すのは間違いではない。



「ヴォォォォォォォ!」


「今の攻撃でルナを脅威と見ている!近づかれる前にケリをつけるんだ!」



 僕の目の前で怒りの雄叫びをあげたミノタウロスの視線の先にはルナがいる。自分を倒せる力のない僕は無視して、先程の攻撃を仕掛けてきた相手に敵意を向けていたのだ。



「そんな事は言われないでも分かっているわ。あんたは出来るだけダメージを受けないように、少しでも時間を稼ぎなさい!それが今のあんたの仕事よ!」


「そんな事を言ってる場合じゃないだろ。絶対にルナの所まで行かせるものか!」



 僕はミノタウロスが動き始める前にルナとの間に入った。しかし相変わらず僕を無視するようで、こっちは見向きもしない。



「僕の事は無視か……でも、道端の小石だって油断すると足元をすくわれるって事を教えてやる!」



 その言葉すら無視して見向きもせずに通り過ぎようとした時、僕はわざと足元に行き漬物石の重量を重くする。

 重量を上げて体を張った障害物役は見事に成功し、ルナの魔法によるダメージで少し足にきていたミノタウロスは、僕の狙い通り躓き転倒する。


 僕はすかさず漬物石の重量を軽くし、転んだミノタウロスの背中に乗った。



「雑魚だと思って無視するからこうなるんだよ」



 ちょうど背中の中心ぐらいに辿り着いた僕は、漬物石に大量の魔力を流して重量を重くし、手の上から落とす。



ズン!!!!!



 ミノタウロスの背中に低くてかなり重たい音が響き、それと共に叫び声のような声を発して苦しみ出した。

 それもそのはず、ミノタウロスの下の床はヒビが入っており、そのヒビがドンドン大きくなっていくほど重たいのだ。



「ヴォォォオオオオオ!!!」



 漬物石を落とした時に背骨が折れ、内臓にもかなりのダメージが入ったのか、口から血を吐きながら苦しそうに吠えるが逃げれないでいる。

 そしてしばらく苦しんだ後何も言わなくなり、魔石を残して消えてしまった。僕は慌てて漬物石の重量を軽くして回収する。


 前回は逃げる事しか出来なかったミノタウロス戦。そのリベンジを達成した瞬間だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ