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14話 バイト生活の女神




「もう仲良しになれたんですね。…はい、お水です」



 水を汲みに行っていたルナは、持ってきたコップを2人の前に置いてあげた。



「ああ、すまない」


「いただくわ」



 2人はそれを手に取ると、お礼を言って一口飲む。



「それで何の話で盛り上がっていたんだすか?」


「別に今後の事を少し話していただけよ。新しい杖が必要になった時のデザインなどを相談してたのよ」


「杖のデザインですか?グラムさん、そういう仕事も受けているんですか?」



 ルナの杖は店に置いてあった物に、魔石だけを交換した杖を使用しているので疑問に思ったのだ。



「ああ、時間は掛かるがオーダーメイドの相談も受けてるぞ。もちろん代金は高くなるがな」


「なら先端のデザインをハヤテさんに出来ますか!」



 オーダーメイドが出来ると知り、先端を僕の姿にして魔石を持っているような形にしてほしいと言いだしたのだ。



「……いや、それはないんじゃないか?」


「……そうね…私ならそんな杖を持つのは絶対に嫌ね」



 ルナが僕を使って軽く説明したデザインを聞き、グラムはとても残念そうな顔をして、カレンは「絶対」の部分を強調して完全否定してきた。



(流石にそれは恥ずかし過ぎるよ……グラム、カレン、絶対に説得してくれよ!)


「?。そうですか?かっこいいデザインだと思うのですが…」


「……まあ杖の本体を作るのは、もっと良い材料を手に入れてから考えればいいさ。そうだな……杖にちょうど良い材料と言えば<ミスリル>だな。もしそれを手に入れる事が出来れば作ってやるよ」


(これは説得ではなく逃げだぞグラム!ミスリルがどれくらい手に入り難いかは知らないが、もし見つかってしまったらさっきのデザインで作らされるんだぞ……)



 そう僕が落ち込んでいると、カレンがグラムに小声で聞いて来た。



「ねえ、あのぬいぐるみってルナのお気に入りなの?」


「ああ、なんでも迷宮に持って行くほどらしいからな」



 その事を聞いてカレンは少し考え込んでいる。



「さて、私はそろそろ失礼するわ。魔法の事と水を出してくれてありがとう。おかげで冒険者にだいぶ近づけた気がしたわ。……それじゃあ、またね」



 カレンはそう言って店を出て行った。その横顔は何かを企んでいる黒さを感じた。



「さてと、遅くなったがこれがお前の杖だ。今度は4等級の魔石を5つ使ったから、少しは耐えれるだろう。ただこれ以上の物にするなら3等級以上の魔石を用意してもらわないとな。……正直、うちの店で3等級の魔石を仕入れるのは厳しいからな…」



 確かに3等級までならギルドから購入する事は可能なのだ。しかし、大半は国が購入する為に一般に出回る量は少なく、しかもそれらはオークション形式にしている為に、値段が飛び上がって高くなっている。



「そうですよね。でも3等級以上の魔石は下層に行かないと手に入らないと聞きますから、しばらくはこれでいきます。それにこの前みたいな魔法を使わなければ、壊れるような事もないでしょうし」


「今の言い方からして、使おうと思えば魔石を壊すほどの魔法を使えるって事か…ま、出来ればその魔法を使う機会がこない事を祈ってるよ」



 それだけを言ってグラムは杖の代金の話をし、ルナも納得してお金を支払った。



「今日も魔石の仕分けをしてもらったが、出来れば10日後にまた来てほしい。魔石の鑑定もそうだが、最近は客が多いから店員としても頼みたいんだ」


「分かりました。10日後ですね。予定を入れないように気を付けておきます」


「ああ、頼むぞ。じゃあ、迷宮探索を気を付けてな」


「ありがとうございます。それでは失礼します」



 そう言ってルナは店を出て行った。



「……さてと、武器相談は10日後と広告を書いておかないとな」



 そう呟いてグラムは日めくりのポスター制作に入った。







「ハヤテさん、そう言えばお腹が空きましたね。どこかで食べてから帰りますか」



 時刻は既に昼を過ぎて結構経っている。朝食を食べるのは遅かったが、グラムの店で働いていたので小腹が空いたのだ。



「そうだね。時間的に中途半端だから、屋台で軽くすませる程度にしておこうか」



 周りに人がいない事を確認していたので、僕は声を出して答えてあげる。そして近くにあった一軒の屋台を見付けた。



「いらっしゃいませ。注文は何にしますか?」



 屋台にはまだ子供のように思えるピンク色の髪をツインテールにした女の子がいた。



「えーと、このホットドックって言うのを2つお願いします」



 ルナは見慣れない食べ物を一通り見た後に、その中の1つを選択する。



(ん?。ホットドック?なんでこの世界にホットドックがあるんだ?)



 僕はルナの声を聞いて疑問に思い、少し顔を上げて店員の顔を確認した。



「あーーーーーー!!!なんでロリ女神がここにいるんだ!?」


「な!?なんであんたがここに!?………ゴホン、あーぬいぐるみが喋ってるー」



 僕の事に気が付いたゼロは目を見開き驚いた後、咳を1つして棒読みのセリフを言いだす。



「そんな下手な演技で誤魔化されるか!大体なんで自称女神がここで屋台をやってるんだ!」



 ここはややメイン通りから外れている為、周りに人はいない。しかしたとえ人がいたとしても、僕が叫ぶ事を止める事は出来なかっであろう。



「……………」



 おそらく誤魔化せないと思っていなかったのだろう、ゼロは表情を少し気拙そうしたと思ったら急に後ろに振り向き、脱兎のごとく逃げ出した。



「あ!?逃げやがった!ルナ、追いかけるんだ!」


「は、はい!?」



 ルナはそう言って追いかけ始めた。しかしゼロの足は意外にも早く、急成長しているルナの素早さでも追い付く事は出来ない。



「ちょっと!今はまだ話したくないから、追いかけて来ないでよ」



 この速度で走っていてもまだまだ余裕そうなゼロは、こっちを見て困ったような顔をしていた。



「くそ!ルナ、魔法で撃ち倒せ!」


「いえ、いくらなんでもそれは……」



 僕はこのままでは逃げられると思い、強引な方法を要求する。その言葉にルナは困った顔で戸惑っている。



「ごめん、近いうちにちゃんの話しに行くから、今は見逃して!」



 そう言ってるゼロが視界から消えそうになったところで、この追い駆けっこは終了した。



ドン!



「きゃ!?誰よ!これは女性の持ち上げ方じゃないわよ!」



 僕の方を見ながら走っていたゼロは、突然通行人の1人に首根っこを掴まれ、持ち上げられてしまったのだ。その行為に怒ったような顔で抗議する。



「ほう、こんな所で油を売っている暇があるとはな。お前がここにいるって事は、店は無人でほかっているんだな?」



 ようやく追いついた僕達が見た男の姿は、筋肉がムキムキでガタイが良く、顔は堅気には見えない迫力で、ゼロの首筋を捕まえて簡単に持ち上げている。



「お、親方!なんでこんな所に?」


「それは俺のセリフだ。だが店をほったらかす奴にもう用はない。お前はクビだ」


「親方、それだけは勘弁してください!」



 ゼロはクビと聞いて、慌てて撤回してもらうように懇願する。



「だいたいお前は細かい作業は出来んし、お釣りは間違えて渡す。新しい発想のメニューを出してきたから雇っていたが、店を無人にするとはもう我慢の限界だ。明日からもう来なくていいからな」



 そう言ってゼロを離し、店の方へ歩き始めてしまった。



「お、親方ーーーーー!!!」



 店をクビになったゼロは地面に膝をつき、ガックリと頭を下げていた。



「なんだか揉めていたようだけど、色々話をしてもらうよ」


「………」



 僕はルナに抱かれたまま打ちひしがれているゼロを見下ろした。しかしゼロは地面を見つめたまま、何も言わずに黙っている。



「流れが良く分かりませんが、あまり踏み込まない方が良さそうな展開ですね」



 そんな落ち込んでるゼロを見て、ルナは状況を理解出来ずに困っていた。



「さて、仕事がクビになって時間が出来たようだし、まずは何故逃げたかを説明してもらおうか」


「………そうね。あんたをそんな目に遭わせておいて、まともな生活を望むのは間違っていたわ。逃げた理由は、その……流石にやり過ぎたと思って……何を言えばいいか考えがまとまっていなかったのよ」



 ゼロは地面に顔を向けたまま語り始める。



「つまりこの姿にしたのはやり過ぎだったと反省しているんだ。……その割にはスキルの説明も、かなり怒りが込められた内容だったよね?」



 僕が見たスキルの説明文はかなり挑発めいた内容だった。その事を考えると、今の反省している態度は信用出来るはずがない。



「あれは!?……あれは、あの時の怒りの気持ちで作ったからで……」



 ゼロが話をしている態度は、最初に出会った時のテンションの高さはなく、まるっきり覇気を感じれない。



「まあ、反省しているならいいや。じゃあさっそくだけど、女神の力で僕を人間の姿に戻してよ」



 この姿にしたのは目の前にいるゼロなので、僕はやっと人間に戻れると思い、ホッとしたのだ。



「それは………その……」



 しかしゼロは何やら更に言い難そうな声で、煮え切らない言葉だった。



「どうしたの?」


「ごめん……あんたを人間に戻す事は出来ないの」


「なんで!?」



 僕は希望を打ち砕かれたようなショックを受けた。実際に異世界に来たのだから、女神だというのは本当だったと信じている。その女神が無理だと言う言葉が信じられなかった。



「……私は今、女神の力を封じられてこの世界に落とされたの。…あんたが死んだ原因を作った事と、怒りのままにその姿に転生させた事への罰を受けて。

 ……だから今の私にはあんたを人間にする力がないの…」



 突然の事で理解が追い付かず、僕は茫然と見ている事しか出来なかった。



「……ごめん」



 そう言ってゼロはそのまま正座をして頭を下げる。前に見た強気な態度のゼロはここにいない。その様子を見て、僕は人間に戻れない事を思い知らされた。


 

「分かったよ。でも、とりあえず立ち上がってくれ。この状況だと、ルナがゼロを土下座させているように見えちゃうからね」



 地面に土下座をしているので、この様子を見た人はルナに悪い印象をもたれる。今は誰もいないがそれは避けたかったので、僕は立ち上がるように言ったのだ。

 しかし何の罰も受けていないゼロは、すぐに立ち上がる事はしなかった。



「もう良いから……それにゼロの力だけが僕を人間にする方法じゃないからね。だからもし悪いと思っているなら、まずは土下座をやめてくれ」



「…そうね…またあんたに迷惑を掛けちゃったわね…」



 そう言ってゆっくりと立ち上がるゼロは、まるで幽霊のように存在感すら薄く見え、目に少しも力を感じない。 



「…今の私に出来る事はほとんどないけど、……せめてあんたの望んでいた彼女に私がなるわ。あんたは不満だったようだけど、少しでも望みが叶うようにするから何でも言って…」



 ゼロは見てて辛くなるような笑顔を無理に作っていたのが分かる。僕がゼロに望んで、唯一叶えて貰えなかった事、彼女が欲しいという願いを身を呈して叶えようとし出したのだ。

 自分に対する罰として付き合おうと聞き、僕は苛立ちに近い感情が一気に膨れ上がった。



「ウッガーーーー!!!」


「な!?」



 突然僕が上げた奇声を聞いて、ゼロもルナも驚いた顔をしていた。



「いい加減にしろ!そんな取り変えしのつかない事をしてしまった、みたいな態度は、人間に戻ろうと魔導具を探している僕に失礼だぞ!」


「でも…」


「それにだ!僕はそんな気持ちの彼女なんていらない。それでもまだ納得いかないなら……僕が罰を与えてやる。出会った時のようなゼロに戻れ!辛いかもしれないが、それが僕が与える罰だ!

 ……もし出来ないと言うなら、ロリ女神は悪いと思っていないと判断する」


「……………」



 僕の言葉を聞いて一瞬驚いた顔をした後、目を閉じて少し微笑む。



「…あんたは本当に馬鹿ね。今の状況なら、私をあんたの言いなりの恋人に出来たのに」


「僕が欲しいのはお互いに支え合える対等な彼女だ。それに絶壁に興味はない!」


「だからその態度がこの状況を招いたと反省しないのか!」



 僕のキッパリと言い切った話を聞いて、ゼロは怒った顔でアイアンクローをくらわせてきた。



「痛たたたたた!ギブ!ギブ!」



 僕のぬいぐるみみたいな顔は、ゼロの指の形に変形している。







「たく……ほんとに馬鹿ね」


「フン!僕は自分に正直なだけだ」



 ようやく僕の顔から手を離して呟いたゼロの言葉に、僕はそっぽを向いて答える。だが調子が戻った彼女を見て、僕は微笑んでいた。その様子を見てゼロも微笑む。





「それじゃあ、まずは自己紹介をしましょうか。私はゼロ。話を聞いて知っていると思うけど元女神よ。それで貴女は?……ん!あんた、結局死人を友達にしたの?……は~、そこまでして言いなりの友達が欲しかったなんて……」



 ゼロはルナの顔を見てすぐに死人と気がついたようで、呆れるような顔をして僕はため息を吐かれる。



「違います!ハヤテさんとはお友達ではなく、夫婦です!」


「否定する所が違う!」


「………あんた…そんな事を強要してるの?わ~マジで引くわ~」



 突然のルナの告白にゼロは、一歩下がって本気で引いていた。



「ちょっと落ち着いて、ゼロもそんなに顔で僕を見るな!……この子はルナ、僕がここに来て初めて正体を見破った子だよ。迷宮で変なスキル持ちの男に殺されてしまったから、助ける為に死霊術を使ったんだ。

 それと僕は何も強要なんてしていないし、見ての通り生前の性格のままで何も変わってない」


「……確かに死人だけど、あんたの魔力が繋がっているのと、魔力の質が同質化している以外は影響を受けているように見えないわね」



 ゼロはじっくりとルナの様子を見てそう判断する。どうやら神の力が封じられていても、ある程度人を見抜く力は残っているようだ。



「はじめまして、紹介にありましたルナです。ハヤテさんとは夫婦で、一緒に迷宮を潜るパートナーもしています。この度は、ハヤテさんをこちらの世界に送ってくれてありがとうございました」



 そう言ってルナは丁寧に頭を下げて来た。



「ルナそれはもう良いから……」


「あんたをこんな風に転生させて、まさかお礼を言われるとは思わなかったわ。ま、他の神の代理人と違って、HPが無くなると死んじゃうけどね」



 ゼロの話を「そうだよな」と聞いていると、最後に聞き逃せない事を言いだしたのだ。



「ん!?代理人って何?」


「あれ?説明してなかったっけ?あんた達はスキルを貰って私達のような神の代理人になったのよ。そしてその代理人同士で戦ってもらって、この世界で生き残った者には願いが叶えてもらえるの。もちろん選んだ神にも恩恵はあるんだけど……あんたは無理ね。だって攻撃的なスキルがないんだもの」


「そんな話は一言も聞いてないぞ。だいたいゼロに勝つつもりはないだろ?なんだよ女神の呪いって!そんなマイナススキルを与えておきながら、普通生き残るなんて出来る訳がないだろ!」



 女神の呪い…いまだ全容は分かっていないが、高いHPを無視して痛みだけは普通の人と同じだけ来るという物だ。おそらくこの姿も呪いの1つだろうが、ステータスで調べても詳細は出ていない、謎のバットスキルなのだ。



「ああ、そんなスキルも与えたっけ。あの時は失礼な事を言われて頭に来た状態だったから、私もどんな効果を込めたか覚えてないわ」


「ハヤテさんはどんな失礼な事を言ったのですか?」


「……思いだしただけでも腹が立つんだけど、私に向かって絶壁だとか無乳だとか言って来たのよ!あー、言葉に出したらまた頭に来た。ちょっとそいつを貸しなさい」



 自分で言ってまた怒りが湧いて来たようで、ルナに僕を渡すように言って来たのだ。



「フフフ、ルナは僕の味方だ。そんな要求を受ける訳がないだろう」



 僕は確信を持ってそう言ったのだが、予想に反してルナは素直にゼロに渡してしまう。



「なんでーーー???」


「ハヤテさん、女性の胸にそんな事を言うのは失礼ですよ。少しは反省してください」



 そんなルナの顔は笑顔のままだったが……とても怖いです。



「へー、ほんとに何も強要していないようね。じゃあ遠慮なく……ふん!」


「ぐわっ」



 ルナの様子に驚いたようにしていたゼロだったが、僕の顔を握る事をやめなかった。








「……なあ、確か俺の時にはスキルを1つだけとか言っていたよな。なんで他の奴は2つもスキルを持っていたんだ?」



 ルナに返された僕は話の続きをする。



「え?なんの事?」


「この前、黒川刃って奴がここの迷宮に現れて戦いになったんだよ。あいつはゲーム感覚だったし、倒したら消えてしまったんだ。そしてスキルが不治の剣と防御不可の剣ってのを持っていたんだ。これって別の神の代理人で、貰ったスキルだったんだろ?」


「へーもう戦ったんだ。しかも勝つなんて凄いわね。ま、回答としては、スキルは与える神の力によってその数が決まるわ。何しろ神の力を分けるんだから、与え過ぎると神の存在が危うくなるの。酷いと消えてしまうわ。ちなみに勝つ気がなかった私は、あんたに1つしか与える気がなかっただけよ」


「そんな気持ちで僕を巻き込むなーーー!しかも自分の力を分け与えるなら、もっとまともなスキルにしてくれ!」


「何を言ってるのよ。全部あんたの願い通りのスキル(笑)にしてあげたでしょ。なんて失礼な奴なのかしら」



 そう言っているが、ゼロの顔はニヤニヤ笑っているように見えた。



「なんだその顔は!絶対に曲解して叶えているじゃないか。それに力が1ってなんだよ。人間の時よりかなり下がっているじゃないか」


「は?何を言ってるの?その子が隷属者なら、その主であるあんたのステータスも上昇していたでしょ?あんたに与えた死霊術は、隷属者の数だけステータスが上がるものなのよ」


「え、まじで!?」



 僕は慌ててステータスを確認してみた。




矢矧 颯  (ブサイクベア)


HP   231990 / 231990

MP   231990 / 231990


力    3

耐久力  8

素早さ  5

魔力   13


スキル HP自動回復 ・ MP自動回復

    死霊術(1) ・ 操作術

    鑑定眼    ・ 女神の怒り

    



「……確かに上がっているが、ちょこっとだけじゃんか…」



 ゼロの話で劇的な変化があると期待していた僕は、あまりの少なさにガックリと落ち込んでいた。



「そりゃそうよ。隷属者が増えただけで100も200も増えたら異常過ぎるでしょ。平均10も増えれば十分だわ」


「10?…魔力は少し多めに増えてるけど、だいたい2ぐらいしか上がってないぞ?」


「え?………あ!………平均2も増えれば十分でしょ。タダで貰ってるようなものなんだから、文句は言わない」



 僕の言葉で何やら思いだしたように驚いた後、ゼロは言いなおして開き直って来た。



「なるほど……本来は10ぐらいは増える所を、ロリ女神の呪いで5分の1まで落ちてる訳か」


「う!?……鋭くなってきたわね。て言うかロリは余分よ!」



 ゼロは内容がバレた事で少し驚いていたようだが、すぐに僕の一言に気が付き地団駄を踏んでいた。



「ま、互いの情報交換はこんな所で良いな。じゃあゼロ、体に気を付けてな。さ、帰ろうかルナ」


「ええ、そっちもほどほどに頑張ってね」


「それでは失礼します」



 ゼロが手を振って、ルナが軽く頭を下げて家に帰ろうとする。



「あ!?ちょっと待って。1つ頼みたい事があったわ」



 何かに気が付いたゼロは、こっちに振り返って追い掛けて来た。



「む、何か拙い気がする!ルナ、走って帰るんだ!」


「え?は、はい」



 ルナはなぜ逃げるのかは分かっていない様子だったが、僕に言われた通り走りだす。しかし、素早さはゼロの方が上だった為に、呆気なく捕まってしまった。



「ハァハァ、なんで、ハァハァ、逃げるのよ」



 しばらく逃げ続けた事で呼吸が荒くなっており、ルナの手を捕まえた状態で下を向いて息を整えていた。







「実はちょっと恥ずかしい話だけど、次の仕事が決まるまで泊めて欲しいのよ」



 ようやく落ち着きを取り戻したゼロは本題を言いだした。



「……これまではどんな生活をしていたんだよ。俺はここに着くまでは毒草と雑草食暮らしだったぞ」



 中途半端に良い生活をしているようなら、自分でどうにかしろと言えるように、僕の極貧生活時の食生活を教えておく。



「……仕事が見つかるまでは、食堂の裏で食べれそうな物を探してたわ。バイトが見つかっても宿に泊れるほどのお金はないから、雨風が防げる場所で寝泊まりしているの……」



 ゼロは恥ずかしそうにそっぽを向いて、胸の前で両手の人差し指を合わせてモジモジしている。

 僕は想像以上に落ちぶれた女神の有様に、これ以上の追い撃ちは出来なかった。よく見ると服は所々がほつれており少し汚れている。それに前に見た時は艶があった髪が、今はボサボサとまではいかないが、色褪せているのに気付いた。



「ゼロさん、私に家に泊ってください。私は冒険者なので昼間は家にいませんし、立派な家ではありませんが、外で寝泊まりするよりはましだと思います。……ハヤテさんもそれで構いませんね?」



 ルナも見た目は小さい女の子のゼロの食生活に同情して、自分の家に来るように言ったのだ。



「流石の僕もその落ちぶれっぷりには同情するよ。それに自分の家の事だからルナの判断でいいでしょ」


「ありがとうごさいます。それでどうです?食生活が安定するまで家にいてもらって構いませんよ?」



 何故僕にお礼を言ったのかは分からなかったが、ルナは優しい顔でゼロに手をさし出す。



「うう、なんて良い子なの。こんなに小さいのにしっかりして…」



 ゼロはその優しさに感動して、座り込んで泣きだしてしまった。



「私はこれでも15歳です」



 年齢の事だけはしっかりと言って、ゼロを優しく起こしてあげた。



「……うん、決めた。私も冒険者になるわ。それで迷宮でルナの手伝いをしてあげる。安心して、私には短剣術のスキルがあるから、そうそう足を引っ張らないわよ」


「…でも短剣を持っているようには見えないけど?」



 意気揚々と冒険者になると言っているが、見た所何も持ってはいないのだ。その事に気付かれたゼロは、痛い所を突かれたみたいな表情になる。



「う!……それは先行投資と言う事で、私に買ってくれればいいわ」


「家に泊めてもらって、武器も買ってもらってから手伝うの?」



 案の定、何も持っていなかったゼロに、僕は呆れるように言った。



「ハヤテさん!そんな事を言っては駄目ですよ。さあゼロさん、武器屋に行きましょう。今からならまだ間に合いますので、貴女の短剣を買いに行かないと」



 そう言って武器屋に向かって歩き始める。



「ほんとよく出来た子だわ。あんた、あの子が悲しむような事をしちゃ駄目よ」


「そんな事をするつもりはないよ。死霊術の事だって、解除しても生きれる魔導具が見つかるかもしれないし、それを手に入れる為には努力を惜しむつもりはない」


「……そんな事を言っている訳じゃないけど……ま、良いわ。大事にする事には変わりがなさそうだし」



 ゼロは少し呆れたような顔をしていたが、意味が分からないので気にしない事にした。







「グラムさん、すみません。短剣を1つ欲しいのですが」


「ん?どうしたんだ、また来て」


「ええ、この方に短剣が1つ必要になりまして、それを購入しに来ました」



 グラムにゼロを紹介するように前に出てもらう。



「……お前が紹介するぐらいだから、見た目とは違って有望株なんだろうな。それで短剣はどれくらいの物にする?」


「そうね、斬れ味は程々で良いから、耐久力があって最悪の場面では投げれるような物がベストね」


「投擲も出来る物か……それならこれぐらいだな。刃は20センチほどしかないが、片刃で作りはしっかりしているから長く使えるし、精度はあまり出せないが投擲も可能だ」



 そう言って一本の短剣を持ってきた。



「…これでいいわ。お金が貯まったら良いのに変えるからね。その時にこれは投擲専用にするつもりよ」


「気にいったなら幸いだ。鞘はおまけとして付けてやるが、代金は8000ゼニーだ」



 グラムに代金を払い、ルナ達は店を出る。







「お姉ちゃん、只今帰りました」



 しかし声は帰って来ない。



「あれ?どうしたんでしょうか?」


「あ!ルナ、アリサは筋肉痛で動けないって言ってたじゃないか」


「あ!?そうでした。お姉ちゃん、大丈夫ですか!」



 アリサが動けない事を思いだしたルナは、慌ててアリサが寝ている部屋に走って行った。



「お姉ちゃん!」


「ル、ルナ……もう限界…ト、トイレに連れてってくれ………」



 朝に寝ていた位置からまったく動けないでいたので、トイレにも行けずにずっと我慢していたようだ。ルナも急いでアリサを支えてあげて、トイレに連れて行った。





「フー、ギリギリだったよ。ルナ、ありがとう」


「すみません。帰りが遅くなってしまって……」



 ルナは朝の事を思いだして反省していた。



「もういいよ。それよりご飯にしよう。もうお腹が限界だ」


「その前に紹介しますね。この方はゼロさんです。冒険者になるのですが、住まいがないようなので家に泊める事にしました。ゼロさん、お姉ちゃんのアリサです。2人共仲良くしてくださいね」



 食事の前にと、ルナは待たせていたゼロをアリサに紹介した。



「急な話で悪いけど、紹介にあったゼロよ。明日からルナと一緒に迷宮に行くからよろしくね」


「え?……見た目は若そうに見えるけど、ルナがさん付けするって事は年上か。実力は分からないが、ルナの事を頼むぞ。私はたぶん明日も満足には動けそうにないからな」



 そう言って痛い腕を伸ばしてゼロと握手をする。



「それでは食事にしましょう。ゼロさんの口に合えば幸いです」



 ルナ達は食事を始めた。





「それではお湯を用意しますから、体を綺麗にしましょうか。服は私ので合うと良いのですが……」



 食事を終わらせてアリサをベットに連れて行った後に、ゼロの為にお湯を用意してあげた。



「何から何まですまないわね。この恩は迷宮で返すわ」


「そこまで気にしないでもいいですよ。さて、ハヤテさんは外で待っていてくださいね」


「そうだね。外で待っているよ」


「もしかして、私の裸を見れると思った?」



 部屋を出て行こうと動き始めた僕に、ゼロは腰をくねらせている。



「いや全然まったく興味なし!」



 そんなゼロに僕はハッキリと言い切った。その事を聞いたゼロは動きがピタッと止まり、今度は僕の方へ歩いて来て……



「その態度がむかつくのよ!」


「うぎゃ!?」



 怒鳴り声と共に、ゼロは僕の後頭部を掴んで投げる。その勢いのまま僕は部屋の外まで投げ飛ばされ、壁に激突しまう。



「そこで少しは頭を冷やしなさい!フン!」



 それだけを言って部屋の扉を叩きつけるように閉める。







「…ルナはどうしてあんな奴を好きになっちゃったの?」



 2人っきりになったゼロは、思いきってルナに気持ちを聞き出そうとした。



「そうですね。優しい所でしょうか。困ってる人がいると、なんだかんだ言って手を貸してくれます。本人は隠しているようですが、夜中に操作術の練習を繰り返しています。努力も忘れない人なんですよ」



 ゼロの質問にルナは嬉しそう微笑みながら答え続けた。



「馬鹿みたいにお人好しだってのは分かるわ。でもその気持ちが死霊術によって持たされているかもとは疑わないの?」


「それはありえません。私が好きになったのは命を落とす前からです」


「……あいつはルナを死霊術から解放出来る魔導具を探すって言ってたわよ」


「ハヤテさんなら私が魔族のような立場にいる事を、黙って見てる事は出来ないでしょうね。でも私はこのままでも良いと考えています。だって今の私はハヤテさんと同じような生き物なんですよ。とても嬉しい事ではありませんか?」


「あー……そこまで気持ちが行っちゃってるなら説得は無理ね。今後、他の神の代理人との戦闘になるって聞いても、ルナは進んであいつの手助けをしそうだもの」



 ゼロはルナの気持ちを確認した事で、ため息を吐いて諦めたような顔をしていた。



「もちろんです!ハヤテさんは命の恩人ですし、お嫁さんとしてしっかり支えていきます」


「…あいつは本気にしてないわよ」


「う!?、……それは、分かっています。でもいつか分かって貰えるように努力します」



 ゼロの言葉は自分でも分かっている事だったが、他人に言われると流石にダメージがあった。しかしこんな事で諦めるルナではなかったのだ。



「分かったわ。そこまで言うなら手伝ってあげる。少なくともこれ以上ルナが傷付くと、あいつは更に負い目を感じて気持ちに壁を作るわ。そうならないようにルナを守ってあげる」


「ありがとうございます。私ももっと魔法の腕を上げて、ハヤテさんの手助けを出来るようになります」







 何やら長い間話をしていたようだが、次にゼロが部屋から出て姿を見せた時は、汚れた髪も綺麗になり服もちゃんとした物になっていた。



「馬子にも衣装だな」



 僕のボソリと言った言葉に、ゼロは無言で近づいて来て頭を叩いてきた。



「あいた!?」


「ほんと、あんたは懲りないわね。いい加減、年長者を敬いなさい」



 頭を抑えている僕の方を見て、ゼロは呆れていた。



「年長者って事はロリバ、ぎゃぁ!?」



 僕が続きを言う前に後頭部を踏みつけられて、床に顔を押し付けられた為、その先の言葉を言う事が出来なかった。



「……その先を言ったら殺すわよ」


「はい、すみませんでした」



 頭の上から聞こえてくる声は、低くて冷たく、殺気すら込められているような迫力があったので、怖くてすぐに謝る。



「ふん、分かればいいのよ」



 そう言って僕は解放された。





「それでゼロは戦えるほどステータスは高いの?女神の力に制限を掛けられているんでしょ?」



 いくら短剣術のスキルを持っていても、肝心のステータスが低ければ危険な事には違いないのだ。



「確かにそうだけど、……そうね、分かりやすく数字で言えば平均120ぐらいはあるわ。HPは150ぐらいで、魔法は使えなくなっているからMPは50ぐらいまで下がっているの。ま、あとは他の人と一緒で、鍛えればちゃんと上昇するわ」


「へー、なら中層ぐらいなら何とかなるんだ。なら何で今まで迷宮に潜らなかったの?バイトするより、冒険者になった方が儲かるでしょ?」



 ステータスの平均が120もあれば、アリサの倍近くあるので当然のように疑問に思ったのだ。



「それは出来ないのよ。いくら魔物が相手でも、自分の為だけに殺すのは禁じられているの。だから今みたいに、ルナの為などの理由がないと駄目なのよ」



 その言葉の最後に、「あんたの為にでもあるけどね」と小さい声で言ったのだが、その声は僕達に聞こえなかった。



「人間に落とされたのに更にそんな制限までかけられるなんて、よっぽどゼロは信用されていないんだな。制限をかけた神の気持ちは分かるけど」


「何がどう分かるってのよ。フン、見てなさい。制限から外れた私の強さをね。明日は一気に下層まで行って見せるわ」


「いいえ駄目です。まずは装備を整えなければ武器が持ちません。明日は冒険者の認定を貰ってから、よく行ったとしても6階層でやめときましょう」



 強気の発言をしたゼロを止めるように、ルナが話に入ってきた。



「確かに初心者用の短剣で、ストーンゴーレムとかは厳しいだろうしね」


「そういう事です。さ、今日はいろいろありましたからもう寝ましょう。ゼロさんも一緒にベットに入ってくださいね」



 そう言ってベットにゼロの手を引いて向かって行く。



「いや、私はその辺で休ませてもらえれば十分よ」


「駄目です。私達はそんなに大きくはありませんし、3人で寝ても余裕があります」


「ゼロ、ルナは結構頑固だから諦めた方が良いよ」


「……分かったわよ。一緒に寝るわ。ただし…」



 渋々だが了承したゼロだったが、ベットの手前から僕、ルナ、ゼロの順番じゃないと駄目だと、顔を少し赤くして条件を出した。



「はい、分かりました。……それでは皆さんおやすみなさい」



 そうして3人は眠りに着く。


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