13話 見習い魔法使いカレン
お待たせしました。ここから第2章のスタートです。更新は毎週土曜日を予定しています。余裕が出来ましたら追加投稿も考えています。
ユニークスキル使いとの戦いから一晩経ち、この町の迷宮に潜む不安要素が払拭されて気持ちのいい朝を迎える。
「お姉ちゃん朝ですよ。そろそろ起きないとルドルさんとの約束の時間に遅れますよ」
基本朝は弱いアリサだったが、今日はいつもに増して中々起きてこないので、ルナが起こしに行ったのだ。
「……入りますよ」
少し待っても返事が帰って来ないので、ルナは不思議に思って部屋の中に入る。
「お姉ちゃん?」
「ル、ルナ……すまない………」
「お、お姉ちゃん!?どうしたんですか!」
アリサはベットの上から起きる事も無く、声も満足に出せずに苦しそうにもがいており、少し体を動かす程度しか出来ない状態で謝ってきたのだ。その様子に見てルナは目を見開いて驚く。
「ルナ……私は駄目だ……」
「どういう事ですか!?何が駄目なんですか!」
アリサは少し体を動かそうとする度に苦痛で顔をしかめる。
「ポ、ポーションです。これを飲んでください!」
「すまない……これはポーションじゃ治らないんだ……」
もしかして怪我でもしていたのかと思い、ルナはポーションを渡そうとしたが、アリサは辛そうに首を振って拒否する。
「そんな……何かの病気に掛かってしまったのですか!?」
もし病気ならすぐにでも医者に見せないといけない。更に難病なら急いでお金を貯める必要も出て来る。ルナは色々な可能性を想定し、その対策も考え出した。
「違う………これは……」
しかしアリサにはこの症状の原因が分かっているようだ。その言葉を続きを心配そうに待っていると……
「これは筋肉痛だ…」
「………………………はい?」
「だから筋肉痛だ。迷宮では動けなくなるほど戦ったから、そのせいで今頃筋肉痛になって、全身が痛くて動けないんだ……」
「……………」
その告白にルナの表情は固まり、時間が止まったように呆れてしまった。
「えーと……それでは何がすまないのですか?」
「ああ、今の私は体が痛くて動けない。で、ギルドマスターへの報告に行けないから、ルナに迷惑を掛けると思って謝ったんだ。あとお腹が空いたから朝食を食べさせてくれ」
散々心配させたのに、まるで何事もなかったように朝食を要求した言葉を聞いて、ルナは表情を凍らせたまま立ちあがった。
「……そうですか。それではルドルさんを待たせると悪いので、今すぐ冒険者ギルドに行ってきます」
それだけ言ってルナは、凍った表情のまま歩き始めてしまう。
「あれ?ルナ、怒ってる?なんで?ルナ、ルナーーーーー!!!」
流石姉妹。一瞬でルナが怒っている事を察して引き止めようとするが、体が動かない状態なので叫ぶしか出来ない。しかしルナのその歩みが止まる事はなかった。そして家を出て行った後もアリサの呼び声が響いていた………
「リーザさん、おはようございます。ルドルさんはいますか?」
冒険者ギルドについたルナは受付に行き、ギルドマスターへの面会を求める。
「ルナちゃん!?<アラド>さんに話を聞いてビックリしてたんですよ!それでどうです、怪我とかはありませんか?……あれ?アリサはどうしたんですか?」
相当心配をしていたのかルナの顔を見るなり肩を掴んで揺らし、取り乱したように質問してきたのだ。
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいリーザさん。私は大丈夫です。それにお姉ちゃんも今日は筋肉痛で動けないだけで、怪我とかはありません!」
普段は冷静な美女で通っているリーザの慌てぶりを見て、他の冒険者は驚いたように見入っている。
「リーザさん、皆さんも見てますから落ち着いてください。さあ、深呼吸でもして」
「……スーー、ハーー、スーー、ハーー、………すみません、落ち着きました」
律儀に深呼吸を終えて落ち着きを取り戻したリーザは席につき、頭を下げて謝っていた。
「それでルドルさんはいますか?」
「ええ、上の部屋で待っているわ。それと昨日の分の魔石の鑑定とギルドランクの更新をしておきますから、ギルドカードも置いて行ってください」
「あ、そうですね。……それでは上に行かせてもらいます」
ルナは昨日の成果である魔石とギルドカードを預けて、2階に上がって行った。
「ルドルさん、ルナです。入ってもよろしいでしょうか」
「ああ、入ってくれ」
「失礼します」
了承を得られたのでルナが入ると、ルドルは対面テーブルに座って待っていた。
「すまなかったな、わざわざ報告に来てもらって。やはり当事者には話を聞かないといけないんでな。まあこっちに来て座ってくれ」
ルドルに進められるままにルナが席につくと、湯呑にお茶を入れてくれた。
「だいたいの話はアラドに聞いたが、前にお前を襲った黒剣の男を倒したらしいが本当だな?」
「………あの~……先程もリーザさんに言われましたが、アラドさんとはどなたですか?」
ルナはずっと疑問に思っていた。誰だか分からない謎の人物が、自分の事を話しているのだから当然の事だった。
「なに?お前、昨日まで一緒に迷宮に潜っておいて知らないはないだろ。リリカの兄、あのチームのリーダーの名前だぞ」
迷宮で一緒に一晩過ごしたのに名前も知らなかったのかと、ルドルは驚いていた。
「あ、そうなんですか。リリカさんのお兄さんがアラドさんだったんですね。ずっとお兄さんと呼んでいましたし、不便もありませんでしたので」
ルナのまるっきりアラドの名前に興味がなかったような話を聞き、ルドルは少し呆れるように頭を抱えている。
「あいつは顔も良いし、面倒見も良いから結構人気があるんだけどな。お前も女なら少しは興味が出なかったのか?」
「すみません。私はハヤテさん一筋なもので、他の男性に恋愛感情が湧く事はありません」
ルドルの問いに、少しも照れたり悩んだりしないでハッキリと答える。
「……確かハヤテってそのぬいぐるみの名前だろ?………お前は結構かわいい部類に入るのに勿体ないな」
そんなルナを残念そうな者を見るような顔で見つめて来たが、まるで気にしていないようで平然としている。
(まあ、どこまで本気かは知らないけど、普通そんな事を言われたらルドルみたいな反応をするよな)
「まあいい。今日はその話をしに来てもらった訳ではないしな。さあ本題に入るか…」
ルドルは他人の趣味に口を出すべきではないと判断し、当初の目的であるジンの話を聞き始めた。
「なるほどな、そうやって倒した訳か。その辺の話はアラド達も見ていないから分からなかったんだ。しかし何者なんだ、その黒衣の男は……。それにルナがそんな大出力の魔法を使えるとは知らなかったぞ。いったいどうやったんだ?」
やはりと言うべきか、ルドルの興味は僕とルナの魔法の使い方に集中しているようで、前のめりの姿勢で質問してきた。
「あの男性の事は私も分かりません。ですが、彼のおかげでお姉ちゃん達は命を救われ、私も生き残る事が出来ました。なので彼はいい人です。
そしてあの魔法をどうやってと言われましても……実は夢中でしたのでよく覚えていないのです。ただ普通に魔法を放っていては当たらないので、避けれないほどの魔法を…その一心で魔力を溜めただけですし」
(まあ確かに嘘は言っていないよな。もう一度あの出力の魔法を使うには、MPを3000ほど溜める必要があるけどね)
あの時は周囲の魔力を移しただけだけど、あの後でステータスで確認してみると3000ぐらいMPが減っていたので判明したのだ。
「リーザの話では魔法使いが溜めれる魔力は、最大MPの10分の1が限界らしいのだが……危機的状況でリミッターが外れる事があるのかもしれないな。どうだ、今からもう一度使ってみてくれと言われたら出来そうか?」
「おそらく不可能ですね。それにあの時の魔法を使った反動で、杖がこんな状態になっていますし…」
そう言ってルナは自分の杖を見せる。
「こ、これは……俺でも分かるほど魔石がボロボロじゃないか!……表面に傷はないから、これらのヒビは内部から発生しているな」
ルナの杖は大出力魔法の影響で、いままであった魔石の輝きは失われており、中心から外にかけて無数のヒビが入っている。誰が見てもこの魔石は死んでいると分かるほどひどい状態だった。
「だが、迷宮から出て来る時は魔法を使っていたんだろ?その時はどうしていたんだ?」
ルドルが疑問に思っていたのは、魔法使いの中には杖がないと碌に魔法が使えなくなる者もいるからだ。それほど魔法使いにとって、杖の補助能力の影響は大きいのだ。
「威力は落ちますが私は杖がなくても魔法を使う事が出来ますので、何とかなりました」
「そうか……新人ほど杖に頼ってしまうものだが、お前はこのような状況も想定していたんだな。うむ、将来が楽しみな奴だ!お前には期待しているから、これからも精進するんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
ルドルの中ではトラブルを想定して訓練を積んでいる、と思っているようで、上機嫌で嬉しそうにしていた。
(優秀な冒険者が自分のギルドにいれば、ギルドマスターとしては嬉しいよな)
そうして報告は終わり、ルナは部屋を出て行った。
「あ、ルナちゃん。ルドルさんとの話は終わったの?」
「はい、ただいま終わりました」
ルナが下に降りて来たのに気が付いたリーザは声を掛けてくれた。
「これが魔石の換金分で、こっちが黒剣の男を討伐した報酬よ」
2階に上がる前に渡した魔石の計算も終わったようで、2つの袋をカウンターに乗せていた。
「え?討伐した報酬ってなんですか?」
「あれ、ルナちゃんは知らなかったの。ルナちゃんが倒した危険人物には、討伐の依頼が出ていたのよ。倒したって証拠はルナちゃんが預けていた黒剣と、アラドさんのチームの証言よ」
昨日、迷宮から出て家に帰る選択をした時、アラドに頼まれて黒剣を渡していたのだ。ルナは剣を使わないし、ルナを斬った剣など使いたくないとアリサも言ったので、アラド達に差し上げますと言ったのだ。しかし、あの男を倒したのはルナだから、「もらう訳にはいない、預かるだけだ」と念を押されていた。
「でも、あの時に戦っていたのは私だけではありません。ですからそれを受け取る事は出来ません」
「フフ、その心配はいらないわ。だって、これを渡すように言ったのはアラドさん達だもの。なんでも自分達では勝てなかっただけではなく、下手をすれば出会った時に全滅もありえた。それを救ってくれたルナちゃんにこそ、これを受け取る権利がある。そう言って置いて行った物よ」
「そんな事を……」
「だから遠慮はいらないわ。むしろこれを遠慮したら、アラドさん達を侮辱する事になってしまうわ」
「そう、ですか……分かりました。これは遠慮なくいただきます。……これで新しい杖が買えます」
そう言ってルナは少し嬉しそうにお金を受け取った。
「あれ?また杖を壊しちゃったの?」
「はい、ちょっと無茶な使い方をしたら壊れてしまいました。あ、そう言えばリーザさんに聞きたい事があるんですが、複数の魔法使いが魔力を集めて魔法を使う事は出来ますか?」
ルナはジンとの戦いの最中に使った僕との協力魔法の事をハッと思い出し、早速リーザに問いかけたのだ。
「……普通は無理ね。魔力は人それぞれ波長が違う物なの。特別な魔導具を使えば可能だけど、何もなしでそんな事をやったら、良くて魔法が発動しない、下手すれば魔力が反発して爆発が起こり自滅しちゃうわよ」
「そ、そうなんですか…」
(爆発!?……失敗する気はしなかったけど…凄い危険な事を試してしまったみたいだな…)
どうやらルナも自分達がやった事の無謀さに、肝を冷やしていたようだ。
「なに?そんな事を試そうと考えていたの?確かに大国には魔力を溜めて放つ、魔力砲と言うのがあるけど……生身でやったら駄目よ」
「はい、気を付けます」
「……分かってくれればいいわ。まあ、この事は本で読んだんだけど…」
リーザは昔読んだ協力魔法に関する内容を教えてくれた。協力魔法は、双子の魔法使いの一部が使えた実例があり、単純に2倍の威力で魔法を放てたようだ。つまり双子のように魔力の質が同じならば問題ない。
そしてその実験として魔力を魔法としないで直接放出する事で行い、その副産物として弱い魔法なら消し去る事が出来ると判明した。ただし高位の魔法使いでも新米魔法使いの魔法を消し去る事が限界のようで、放たれた魔法に対して相当量のMPが必要との事だ。
(この情報はありがたい。MPの量だけなら自信があるから、上手く使いこなせるようになれば、魔法を全て打ち消す事が可能だぞ)
僕は新たなMPの使い道を知り、心の中で喜んでいた。
「そしてギルドカードだけど……またステータスが上がっていたわ。…ちょっと異常な伸び率のような気もするけどね。……それとギルドランクが3に上がったわ。今までの魔石収集の功績と討伐依頼の功績で、一気に2つアップよ。アリサがランク4だから、もうすぐ追いついていまいそうね」
そう言って渡されたギルドカードを見てみると
ルナ ギルドランク 3
HP 154 / 154
MP 396 / 396
力 126
耐久力 110
素早さ 104
魔力 196
(確かに上がっているが……前に上がった時のインパクトが強すぎて、いまいち実感が持てないな)
「……確かに凄いペースで上がっていますね…まだ10日ぐらいしか経っていないのに…」
そのステータスを見て、ルナも少し驚いている。
「そうなのよ。このペースで成長していったら、1年後には凄い事になるわね。ま、今回は強敵との戦闘があったのも原因だと思うけど……本気で気を付けて生活しないと、すぐにばれて問題になるかもしれないわよ」
リーザは真剣な顔で忠告してくれたが、ルナはそこまで落ちむ様子がなかった。
「……でもこのステータスの伸びが続けば、迷宮の下層に行ける日が早まるって事ですよね。普段の生活では気をつけなければなりませんが、目標である迷宮の下層が近づいたと思えば嬉しい事です」
「え?……まぁ…そうとも言えるけど…」
その予想外の嬉しそうな返答に、リーザは呆気にとられてしまう。
「それでは杖を新調しないといけませんので失礼します」
「え、ええ、気をつけてね」
結局リーザの脅すような忠告は不発に終わってしまったのだ。
「…なんであの子は怖がらないのかしら……ハッキリ言って、ステータスだけなら下層に足を入れても良いレベルなのよ。新人が10日やそこらで下層レベル………何も問題が起きないと良いけど…」
ルナがギルドを去った後、リーザは祈るように呟いていた。
「そう言えば、ハヤテさんと2人で町を歩くのは久しぶりですね」
僕達がグラムの店に向かう途中で、ルナはふと思い出したように話しだした。
「そうだね。たぶん冒険者養成所の帰りぶりかな?」
そんな風に話をして歩いて角を曲がろうとすると、
「きゃ!?」
「痛っ!?」
そこには子供が歩いており、正面からぶつかって2人して尻餅をついてしまった。
「大丈夫ですか!すみません、よそ見をしていました」
ルナはすぐに立ち上がり、転んでいる子供に手を差し出して怪我がないか心配していた。
「……大丈夫なの。……私の方こそごめんなさいなの」
白い髪を三つ編みにして腰まである女の子は、少しのんびりした口調であまり表情を変えないで謝ってきた。
「そうですか。貴女に怪我がなくて良かったです」
女の子を立ちあがった後に、本当に怪我がなかったかを確認出来て、ルナはホッと息を吐く。
「?……何をそんなに心配しているの?……私がどうなろうと、貴女に関係はないの」
しかし、そんなルナの様子を見て女の子は疑問に思ったようだ。
「え?」
「……私が死のうと、それは運が悪かっただけなの」
(何なんだこの子は…なんでそんなに人生を諦めたような雰囲気を纏っているんだ)
女の子の目は、まるで既に死んでいるように力を感じない。全てに絶望している……そう感じたのだ。
「…なんでそんな事を言うのですか?死ぬのが怖くはないのですか?」
ルナも同じように感じたようで、この子の雰囲気が気になったようだ。
「……私は奴隷なの。だからこの身の生き死もご主人様が決める事なの」
「そんな!?この町には奴隷は存在しないはずです!」
どうやら奴隷制度はあるが、この町には存在しない。なので女の子が奴隷と聞いて、ルナは驚いてしまったのだ。
「……私はこの町に用事があって来たの。……だから驚く必要はないの」
「でも……」
それでも納得いかなかったルナは、まだ何かを言いたそうだった。
グゥ~~~~。
その静寂を破ったのは、自分は奴隷だと言った女の子のお腹の音だった。
「お腹が減っているのですか?」
「……貴女は気にしないでいいの」
そう言って女の子は立ち去ろうとしていた。だが、奴隷と聞いて空腹と分かれば、まともな食事をしていないのかもしれないとルナは考えた。
「ちょっと待ってください。せめて先程ぶつかってしまったお礼として、食事をご馳走させてください!」
「……だから貴女に関係が」
グゥ~~~~。
また否定しようとした女の子は、自分のお腹に邪魔をされてしまった。
「フフ、私も朝食がまだなのでお腹が空きましたし、一緒に食事をしましょう。あ、断るのは無しですよ。無理やりにでも連れていきますからね」
そう言ってルナは女の子の腕を掴んで、強引に食事処に連れて行ってしまった。
「……貴女は変わっているの」
「そうですか?」
強引に席に着かされて食事が運ばれて来たので、女の子は諦めて食べる事にしたのだ。しかし、何故ここまでしてくれるのかが分からず、少し戸惑っているようにも見える。
「それで貴女の名前はなんて言うんですか?私はルナ。こう見えて冒険者なんですよ」
「っ!?……私はカナミティーなの」
少し驚いた顔をした後、何やら申し訳ないような雰囲気を出して名前を名乗った。
「カナミティーちゃんですか。…どうしたんですか?何やら心配事があるような顔をしていますけど」
ルナもその様子に気がついたようで、質問したのだ。
「……別に何でもないの」
そう言ってカナミティーは食事を勢いよく食べ始めた。その様子を見て、余程空腹だったと思ったルナは、これ以上聞くのをやめた。
「……ご馳走様なの。……こんな美味しい物を食べたのは、初めてなの」
カナミティーは満足そうな顔をしていた。その表情から、最初に出会った時の死体みたいな雰囲気は感じられなくなっていた。
「満足してくれたなら良かったです」
「……ありがとうなの。だから1つ忠告をするの。……ルナはこの町から出た方がいいの」
「え?」
食事が終わったカナミティーは、立ちあがると同時にそう言って来たのだ。急にそんな事を言われても、ルナはもちろん、僕も意味が分からなかった。そんなカナミティーが店を出て行くのに気がついたルナは、慌てて会計を済ませて後を追った。
「さっきの話はどういう意味ですか?なぜこの町を出た方が良いと?」
「……ルナは人が良過ぎるの。……もう少し警戒した方がいいの」
しかし返って来た言葉は、ルナに対する忠告だった。
「でもカナミティーちゃんは良い人のようですし、警戒する必要はありませんよ」
そんな忠告に対して、ルナは笑顔で答えてあげた。
「……私は魔族なの。だからもっと警戒した方がいいの」
カナミティーは言いたくなかったのであろう…表情が暗くなっているのが分かる。親切にしてくれたルナが、自分を怖がって逃げて去って行くのを見たくないようだった。
(この子も魔族!?…どこから見ても、普通の女の子にしか見えないな)
「貴女も魔族なんですか。全然人間と区別がつきませんね」
しかしカナミティーの心配は、無駄に終わってしまった。ルナは逃げるどころか、全然怖がっている様子が見えなかったのだ。
「……なんで?」
その事でかなり戸惑ってしまったようだ。
「なんでと言われましても……人に善悪があるように、魔族だからって全員が悪ではないと思っています。…それに、私の恩人で好きな人も魔族ですから、種族で否定はしませんよ?」
「……変わった人なの。……でも、そんな風に考えれる人が増えたら………この世界も少しは住みやすくなるかも知れないの……」
「カナミティーちゃん?」
ルナの話を聞いて、何やら聞きとれない声で呟いていた。
「……私はもう行くの。……もう一度言うの、ルナはこの町から出た方がいいの」
「待ってください!その理由を教えてください」
しかし歩きだした彼女は、歩みを止める事は無く町に消えていった。そんな彼女をルナは探したが見付ける事は出来なかったので、諦めて当初の予定に戻る事にした。
ルナがグラムの武器屋に着いた時、店内の雰囲気がだいぶ変わっていた。
「……お客さんが沢山いますね。どうしたんでしょう……この前はあまり来ませんでしたのに…」
店の入り口で立ち止まっていると、奥からグラムが声を掛けて来た。
「お?お前ルナか?ちょうど良かった。すまないが接客を手伝ってくれ。忙しくて手が回らないんだ」
「どうしたんですか?急ににぎやかになったように見えますけど」
ルナは店内に入って行き、グラムに質問した。
「ああ、なんかこの店で進められた武器を持つと才能が開花する、みたいな噂が広がっているようで急に客が増えたんだ。それに魔法使いの杖を1人に売ったら、1ランク以上高い性能を持っていると一気に話が広がって、こっちも客が来るようになってしまったんだ」
「そうなんですか。分かりました、お手伝いします」
「助かるよ。じゃあこれを着けて、店員だと分かるようにしてくれ」
そう言ってグラムは前掛けを1つ渡して来て、ルナの緊急アルバイトが始まった。
「店員さん、僕に合う武器って何かな?」
「……そうですね。お客様にはこの槍が合いそうに思いますよ」
「私にもお勧めを教えて」
「……とりあえず、このランクの短剣などが良いかと」
「店員さん…」
どうやら変な噂の通り、お客の大半が店員に武器を選んでもらおうとしてきた。ルナが適当に答える事は出来ないので、僕がこっそりスキルを読みとって武器を教えてあげた。中には武器のスキルを持ってはおらず、商売や看護などのスキルを持っている人がいた。そういう人達には正直に冒険者をやめた方が良いと言ってあげ、持っているスキルの仕事を勧めてあげていた。
そんな感じで接客を開始してお昼過ぎになった頃、お客は一段落ついたので休憩をとる事が出来た。
「すまなかったな。休みなのに仕事を手伝わせてしまって」
グラムはそう言いながらコップに水を入れて持って来てくれた。
「いえ、私は構いませんでしたよ」
「そうか?それで何か用があったんだろ?また杖の確認か?」
「あ!……前に作ってもらった杖の魔石が……その………壊れてしまいまして…」
流石に作って貰ってから7日で壊してしまったのは言い難く、ルナの言葉はどんどん小さくなっていった。
「は!?壊れたってどういう事だ?魔物に潰されたりしたのか?」
「これなんですが……ちょっと無茶な魔法を使う必要が出てしまったので、使いましたら……こうなってしまいました」
そう言ってルナは自分の杖をグラムに見せた。
「……これは見事に魔石の内部から砕けているな…。いったいどんな魔法を使ったらこうなるだ」
杖の魔石を覗くように見ていたグラムは、その様子にため息を吐きながら呆れていた。
「これに使っている魔石は4等級を3つ使っていたんだが……それでも耐えれないほどの魔法使いって訳か。これは作りがいがある客だ!」
ルナの心配が無駄に終わるように、グラムはため息から一転してやる気に満ちていた。
「でも忙しそうですよね。どれくらいの時間が掛かりますか?」
グラムの店は販売員から製作者まで1人でやっているので、売れた分だけ武器を作らないといけないのだ。よって、ルナの杖を作ってもらうには順番待ちをしないといけないのだ。
「……そうだな。本来なら店を閉めた後に作り始めるから、だいたい5日後ってところだ。だが、このまま今日は店員として働いてくれれば、その間に作ってやる事が出来るぞ。ま、ついでに魔石の鑑定もしてもらう事になるがな。…どうする?」
「それで作ってもらえるならお願いします!」
最初は3日以上は待たないといけないと思っていたのだが、それをすぐにやってくれると言うのだから、ルナは喜んでOKを出した。
「じゃあ、接客は任せたぞ。あと、今から魔石も持ってくるから鑑定もやっといてくれ。もちろん働いてくれた分は、杖の代金から引いてやるから安心してくれ」
そうしてルナは接客の合間に魔石の鑑定をして、グラムは店の奥に入って作業を始めた。
「すみませんがこの店の短剣の中で一番高いのはどれですか?」
昼からは客足も穏やかになっており、今は目の前のルナと同じぐらいの身長の女の子だけがお客だ。
「えーと、ここにあるので一番高い短剣はこれになりますね。……それでこれは何に使うのですか?」
「そんな事を店員である貴女に、わざわざ説明する必要はないと思うけど?」
どうやらこの子は相当気が強いようだ。見た目の赤い髪で赤い吊り目、少々そった立ち姿からも気の強さが溢れ出ていた。
「そうですね。失礼しました」
僕なら少しムッとするところを、ルナは何事もなかったように頭を下げて謝罪した。
「あら?結構素直ね。…いいわ。使い道を教えてあげます」
(なんだ…実は言いたかったのか…)
「私は冒険者になるのよ。だからその為の武器を買いにきたの。ふふ、今の内に知り合えて良かったわね。将来、私が有名になったら話を出来た事を自慢できるわよ」
今にも高笑いをしそうな姿勢で腰に手を当てて、ルナに向かってそう言って来たのだ。その様子に僕は呆れていたが、ルナは小さい子が言う事として可愛いと思っていた。
「ですが危険な冒険者になるには、貴女はまだ年齢が若すぎると思いますが?」
「なによ!武器屋の店員に何が分かるっていうのよ!」
いつでも襲って来そうな雰囲気で怒鳴って来る子に、ルナは大人の対応として冷静に説得をした。
「私も冒険者ですから分かるのです。迷宮に行くにせよ、依頼をこなすにせよ、危険が伴う事があります。だからもう少し大きくなってから目指してください」
「なんであんたが冒険者になれて、私が駄目なのよ!身長も見た目も私と変わらないじゃない!」
(プッ、確かに………い!?痛い!痛い!痛い~!)
僕はルナに力いっぱい絞められた。
「私はこれでも15歳の女性です。貴女とは違います!」
少々言葉が強くなっているが、一番力が入っているのは僕を絞めている腕だった。
「うそ!?その身長と胸で15歳!?……そう、可愛そうね」
(うそ!?このタイミングでそんな事を言うの!やめて、僕が絞めつけられるぅぅぅぅぅ!)
女の子は驚いた後に憐みを込めた顔で見ていた。そしてルナの顔は営業スマイルままだが、怒りの全ては僕に来ていた。
「………とにかく冒険者は危険な仕事です。それだけ分かってもらえればいいです」
「何を言ってるの?いくら冒険者だからって、なんで私があんたの言う事を聞かないといけないのよ。私がなるって言ってんだから、あんたには関係がない話よ」
「…冒険者になるには腕試しのテストがあります。今までに戦闘の心得はありますか?」
ルナは危険だからという事で説得は無理と判断し、テストがあるから諦めるように説得する事にした。
「それに合格する為に武器を買って訓練をするのよ!」
「ならすぐに冒険者になるって訳ではないのですね。そういう事なら頑張ってください」
今すぐにでも迷宮に行くと思っていたルナは、安心したように応援をしだした。そして機嫌が直った事で、僕を絞めつけていた腕の力も緩んだ。
「ま、私の才能ならすぐにでも迷宮に行けるんだけどね」
(……あれ?これと同じような事を言ってた奴がいたな?……誰だっけ?)
僕は記憶を呼び起こそうとしたが、その人物が出て来る事はなかった。
「それなら武器は初心者用にした方が良いですよ?」
「初心者が初心者用の武器を持つ必要はないでしょ?それにすぐに腕が上がるのよ。そんな私に相応しい武器を持って何が悪いのよ!」
どうやらこの子は相当の自信家のようだ。今も腰に左手をあて、右手でルナを指差して自信満々の顔をしていた。
「………才能ですか?」
(この子の才能か………あれ?この子、火の魔法が使えるぞ。へー、魔法使いを見るのは3人目だよ)
僕はこっそりルナにスキルの事を教えた。
「なによ。私には冒険者の才能がないっていうの!」
「冒険者の才能があるかは分かりませんが、せっかく魔法を使えるのですから、短剣ではなく杖を購入した方がいいですね」
そう言ってルナは杖を探しに行こうとしていた。
「え!?ちょっと待ちなさいよ!?何を言っているの?私に魔法の才能があるって何で分かるのよ!」
どうやらこの子は自分が魔法を使えるとは知らなかったようで、かなり取り乱してルナの後を追って聞いてきた。
「はい。火の魔法が使えますね。……気付いていなかったのですか?」
「そりゃそうよ!普通そんな事は魔導具でも使わない限り分からないわよ!」
「そうですか?私も魔法使いですから分かったのかもしれませんね。それではこの初心者用の杖なんかが、魔法の制御がしやすいのでお勧めですね」
「な、ならそれを貰うわ」
今だ動揺の中にいる女の子は、ルナの言われるままに初心者用の杖を購入した。
「……あなたの名前は?」
杖を購入した事で、少し落ち着きルナの名前を聞いて来た。
「私の名前はルナです。貴女の名前は?」
「私は<カレン>。年齢は12歳よ。ルナは冒険者なのに、なんでここで店員をしているの?」
「前に使っていた杖が壊れてしまったので、新しい杖を作ってもらっているのです」
そう2人で話していると、奥からグラムが新しい杖を持ってきた。
「なんだ?接客の途中だったか?」
「あ、グラムさん。紹介しますね、この子は魔法使い見習いのカレンちゃんです。カレンちゃん、この方が店主でグラムさんです」
ルナはグラムが現れたのはちょうど良いとばかりに、互いを紹介してあげた。
「は?魔法使いだって?と言うか見習いってどういう事だ?属性は?」
「見習いって言うか、私が火の魔法使いだって知ったのはさっきなのよ。だからまだ一度も魔法を使った事はないわ」
完璧に冷静になったカレンは、落ち着いて考えてみると根拠は何もない事に気が付き、本人も魔法が使えるか半信半疑になっていたのだ。
「……ますます訳が分からんな。それでどうして魔法使いだって分かるんだ?」
「それについては私にもまったく分からないわ」
グラムとカレンの2人は頭に?を浮かばせた状態で、ルナの方を見つめて来た。
「…なんとなくです」
「そんなんで私に杖を買わせたの!?全然根拠がないじゃない!」
ルナの答えにカレンは怒鳴ってきた。
「まあまあ、魔力の移動は杖がやってくれますから、とりあえず杖の先端に火を出すイメージを持ってください」
そんなカレンを宥めるように落ち着かせて、杖を構えさせた。
「まったく……ハッキリ言って出来る気がしないわね」
そうは言ってもカレンは、とりあえず杖に集中しだした。
「じゃあ行くわね。…えい!」
あまり気が乗っていないのは誰もが分かったが、カレンの軽い掛け声と共に杖から火が飛び出した。
「え、うそ!?ほんとに火が出たわ!」
しかしイメージが甘かったようで、飛び出した火は天井に向かって飛んで行った。
「あら?危ない」
そう言ってルナは水の魔法で火を掻き消した。
「危なかったですね。あ!グラムさんも仕事を終わらせたばかりですし、水を汲んできますね」
火が完全に消えた事を確認した後、ルナは思いだしたように水を用意しに奥に歩いて行った。
「……本当に火の魔法使いだったんだな……」
「ええ、私も驚いているわ。それと1つ分かった事もあるわ」
残された2人は驚きでしみじみと語りだしていた。
「ああ、たぶん同じ事だろうが疑問だった事が1つ解決したぞ」
「……この店について流れている噂の事よ。もしかしたらで来てみたけど…」
「まあその事だよな。ルナが前にここに来て、少しの間だが店員をやっていたのが7日前だった………今思えばその後ぐらいだったな……才能を見抜く店員がいるとか、運命の武器と出会える店とかの噂が聞こえて来たのは………」
「たぶん間違いないでしょうね。なにしろ魔法の才能を、属性までなんとなくで見抜くんだもの。他の人に合った武器を進めるぐらいやってそうよ」
「そうだよな……これは武器の悩みはルナが来る日限定にしないと、悪い噂が広がってしまいそうで怖いな……」
「その方が良いわね。……ねえ、ルナって魔法使いとしての腕はどうなの?」
「俺は直接見た事がないが、中層クラスの魔法使いが装備する杖を、魔法を使うだけで駄目にするほどではあるな。お前が買った初心者用の杖は粉々に砕けたそうだぞ」
「粉々に砕けるってそんな事ってあるの?」
既にちょっとやそっとの事では驚かなくなったカレンは、淡々と質問を続けた。
「普通はありえないが多大な魔力を流して魔法を使い続けると、魔石の内部から駄目になるから、そのせいだと思うな」
「ようは見た目と違ってパワータイプの魔法使いかもしれないって事ね。それはおもしろい事を聞いたわ」
そう言ってカレンはニヤリと笑った所でルナが帰って来た。




