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11話 先見の看板娘現る




 ルナの杖を作る為に店主であるグラムは店の奥の工房に行ってしまった。その間、なぜか客であるアリサとルナが店番をする事になってしまったのだが……



「お客さん、来ませんね…」


「まあ、武器を買いに来る奴は迷宮探索を終えた後の夕方以降か、私達みたいに休みにしてのんびり武器を探すかのどちらかだから、客が来るならこれからのはずだ。……客が来るならな」



 グラムの武器屋は決して大きくはなく、品数も少なく綺麗な店とも程遠いのだ。そんな中、ルナ達が店番を始めて30分は経ったが、いまだ客は来ないので暇をしていたのだ。



「でも、こうやってゆっくりと武器を眺めるのは初めてですから、新鮮な気分になりますね」


「そうか?この店は初心者から少し上の冒険者用の武器を取り扱っているから、そんなに凄い武器はないぞ?」



 次々と武器を手に取り物珍しそうに見ているルナに、アリサは退屈そうにカウンターにもたれている。



「…私もナイフの1つでも持った方が良いのでしょうか?」



 今はナイフや小刀の棚にいたので、ルナがそっと呟く。



「戦闘での話ならルナは魔法でどうにかなるから必要がないと思うけど、迷宮で一泊とかするようになったら1本あった方が良いかもね。まあ、アリサが一緒にいるから今はいらないかな」



 その後しばらくしたら待望のお客さんが来店した。



「いらっしゃいませ」


「お、どうしたんだ?あのおっちゃんに娘がいる話なんて聞いた事がなかったぞ?」



 店に入って来た客は常連の冒険者のようで、アリサと同じようにおっちゃんとグラムの事を呼ぶ仲みたいだ。



「あ、私達は娘ではないんです。少しの間、お姉ちゃんと一緒に店番を任されているんです」


「お姉ちゃん?」



 その言葉を聞いた冒険者は、店内を見廻し始めた。



「そんなに探さないでもその子の姉はここにいるよ」


「わ!?なんだアリサか……て、もしかしてアリサの妹か?」



 後ろから声を掛けられて飛び上がるように驚いていたが、アリサに妹がいて更に驚いたようだ。



「ガサツなお前にこんなしっかりした妹がいるなんて驚いたぞ。それで、なんでお前まで店番をしているんだ?」


「ガサツは余計だ!………妹の杖を作ってもらっているんだよ。その間は店番をしろって、強制的に働かされているんだよ。それで<ブル>。お前は何を買いに来たんだ?」


「ああ、最近腕が伸び悩んでいてな。武器を新調して気分を変えようと思ったんだ」


「武器を変えたからって変わるとは思えないが、まあいろいろ見て行くといいさ。剣の棚はそっちだったはずだ」



 そう言ってアリサはブルと呼ばれた冒険者を連れて、剣の置いている場所に歩いて行った。



「どうやらお姉ちゃんの知り合いだったみたいですね」


「冒険者をしていると、同業者の知り合いが増えるんだね。……それにしてもあの人は、剣より斧の方が合うんだけどな」



 僕はブルのステータスを確認したら、スキルに両手斧術の才能が(中)とあったのだ。



「え?そうなんですか?」



 ルナは驚いていたが、水の魔法を使えると見破った時と同じ方法だと教えてあげたら、すぐに納得していた。その後、アリサと剣を見ているブルの下へ歩いて行った。



「お話し中すみません。ブルさん、たまには武器の種類を変えてみてはどうでしょうか?例えば斧なんかがおススメなんですが」


「僕が斧を?……確かに違う種類の武器を使ってみれば、何か見えて来るものがあるかもしれないが……。そうだ!なら妹ちゃん、俺におススメの斧を見付けてみてくれ」



 伸び悩んでいたブルにとって、ルナの提案も一理あると思ったのだろう。そして、どうせなら他人に選んでもらった方が、面白い発見が出来るかもと考えたのだ。



「おいおい、ルナは武器に詳しくないんだ。そんな子に選ばせるなよ……」



 武器の種類を変えるのは納得したが、それをルナに選ばせる事に関しては、呆れるような顔をはしていた。



「こういう時は何も考えないで選んでもらった方が、良い出会いがあるってもんだよ。だから頼む」


「分かりました。探してきますのでしばらくお待ちください」



 ブルは気楽に言ったが、冒険者の武器はそのまま命に関わる事なので、ルナは慎重な様子で斧を選びに行った。



「しかしルナも人が良いね。そこまでしないでも、あの冒険者なら無茶はしないと思うよ?」



 ブルは腕が伸びない事を悩んでいた。良い武器を探さないで腕を磨こうとしているので、そんな人が実力に合わない階層に行くとはとても思えないのだ。



「確かにそうですけど、今の迷宮には危険な人がいますから、少しでも備えになればと思ったのです」


「あー、迷宮は危険だからと言ってもそうそう聞くものでもないし、装備でカバー出来るかもしれないならその方が良いか……あ!ルナ、その形の武器がブルの才能に合う形だからそこから選ぶと良いよ。今持っている剣と同じぐらいのランクなら、右手の前にある斧とその両隣が良いかもしれない」



 鑑定眼を使って選び悩んでいるルナにアドバイスをしてあげた。実際ブルの中では、最低ランクの斧でも構わないと思っていたに違いない。何しろ気分転換程度に考えているのだからだ。


 3本まで絞ってあげた事で、ルナは重さが中間の斧を選んでブルの所に持って行ってあげた。



「お待たせしました。とりあえずこれを持って見てください。もし扱い難いと思いましたら、少し軽い方もありますのでそちらにします」



 そう言ってルナは両刃の両手持ちの斧をブルに渡してあげた。



「お!?……大丈夫だ。自分でも驚くほど持ちやすくて、すぐにでも慣れそうだよ。……うん、これをもらおう、気にいったよ」



 渡された斧を軽く振ってみたブルは、そのフィット感に凄く満足したようで即決で購入を決めた。



「おい、人の妹だからって気を使わないでも良いんだぞ?そんな理由で迷宮で死なれたら、私が気を使ってしまうからな」



 武器に関してシロートのルナが選んだ物なので、自分に対して気を使ったとアリサは思ったのだ。



「確かに最初はどんな物でも買うつもりだったが、さっきの言葉には嘘はないぞ。持った感じから恐らく今の自分の実力に合った武器だし、まるで始めて持った武器とは思えないほど扱いやすいと感じたんだ。もしかしたら、本格的にこっちに乗り換えるかもしれないぞ」



 アリサの言葉をきっぱり否定して、大絶賛のブルは興奮気味に説明していた。



「へー、そんな武器と出会えるなんて、相当ブルの運がよかったんだな。ま、本気で言っているなら私は構わないよ。会計をするからこっちに持ってこいよ」



 納得しての買い物なら文句はないと言って、アリサはブルを連れてカウンターに向かった。



「妹ちゃん、選んでくれてありがとうな。これで一段下の階層に行けそうな気がするよ」


「いえ、気にいってくれて良かったです。でも無理はしないでくださいね」



 会計を済まして帰る前に、ブルはルナにお礼を言って出て行った。


 その後は昼過ぎまでに3人ほど冒険者の客が来たが、その都度ルナが一言言って武器を選んであげた事で満足して帰って行ったのだ。

 






 そうして接客をしていたら奥から杖を持ったグラムが帰ってきた。



「待たせたな!ほら、これがお前の新しい杖だ」


「お!えらく上機嫌だが、満足のいく仕事が出来たのか?」



 少し興奮気味のグラムを見てアリサはそう感じたようだ。グラムは自分の仕事にプライドを持っているので、満足いく武器を作れると気持ちが高まるようだ。



「ああバッチリだ!出来た瞬間に分かったぞ。魔石の属性、これが長年悩んでいた原因だったんだってな!こんな気持ちになれたのは、杖を作り始めてから数回しかなかった。だが、原因が分かったんだから、今後もこの気持ちが続くだろうがな!」



 長年の悩みが解決した事でグラムは喜んでいたのを見て、ルナも嬉しそうにしていた。



「ルナ、店番をさせて悪かったな。あとこれは悩みを解決してくれたお礼みたいな物だ。金はいいから貰ってくれ!」



 そう言ってグラムは出来たての杖をルナに渡した。




水魔術師の杖 ・・・ ランク8 『水属性に特化した魔術師の杖。他の属性の魔法には補助がほとんど働かない。使用魔石は3等級の水3』




「でも、良いんですか?持った感じで分かりますが、これって相当良い物ですよね?」



 杖を受け取ったルナは自分の魔力を少し流して見て、その感覚から今までの杖とは比べ物にならない事に気が付き、それをタダと言われて戸惑っていたのだ。それもそのはずで、鑑定してみたら4等級の魔石を使ったしっかりした物だったのだ。



「やっぱり魔法使いにはすぐに分かるんだな。前に来た客も杖を持って不満そうにしていたから、すぐに分かるものだと思っていたんだ。だが遠慮はいらない!ただ1つ頼みがあるんだが、月に一度でいいから魔石の鑑定をしに来てほしいんだ。なにしろ魔石の属性が分かるほどの鑑定士は聞いた事がないからな」


「……おっちゃん、それって依頼料の前払いみたいな感じに聞こえるぞ…」


「!?。いや、そんなつもりはないぞ。もちろん鑑定をしてくれたら、その分のお礼も払う。なんならギルドに指名依頼を出しても良いぐらいだ」



 確かにアリサに言われたように聞こえると気がついたグラムは、その事を慌てて否定した。


 そして冒険者ギルドに依頼を出しても良いと言ったのは、ギルドに出した依頼に不正があったり、騙すような事があると、今後トラブルがあっても依頼を受けてくれなくなるのだ。即ち、困った時に助けてくれる保険が無くなるような物なので、誰もが敵に回したくない相手なのだ。それこそいろいろな町にある冒険者ギルドを敵に回すのは、どんな犯罪者グループも避けるほどの力であった。



「そこまでしなくていいよ。ただ、ルナが魔石の鑑定を出来る事は出来るだけ話さないでほしいんだ」


「は!?………いや、確かにそうだな。こんな事が分かると知れれば、他の魔石を使う店がほかってはいないだろうし、下手すると力ずくで来る奴もいるかもしれん。……分かった。口外しない事を約束する」



 アリサが何を危惧しているかをすぐに理解したグラムは、同じ商売人として少し申し訳なく思いながらも約束してくた。



「ありがとうございます。魔石の鑑定ですが、1人で決める訳にはいきませんので、また後日返事をさせてもらいます」


「まあ冒険者稼業がメインだから仕方がないな。だが、前向きに考えてくれると助かる」


「私はそれぐらいなら構わないと思うぞ?」



 恐らくアリサはチームを組んでいる自分と相談したいと考えていると思っているのだろうが、ルナが気にしているのは僕の事だった。



「で、でも……」



 ルナもアリサが勘違いをしている事は分かったが、それについて説明が出来ないので言葉を濁してしまった。



(ま、こうなるのは想定内だよな)



 僕はこれ以上ルナが困らないように、手の甲にゴーストハンドで〇と書いてあげた。



「!?。……分かりました。月に一度の依頼を受けさせてもらいます」



 急に手を触られた事でビクッと驚いたが、すぐに僕が合図を送ってくれたと理解して返事をした。



「そうか!引き受けてくれるか!助かるよ。まあそんなに魔法使いの客はいないから、数は必要がないけどな」



 依頼を受けてくれると聞いて、グラムはルナの手を握って喜んでいた。



「今後の仕事も決まったし、新しい杖も出来た。もう時間があまりないが迷宮で慣らしをしに行くか」



 確かに慣らしは必要なので、さっそく店を出て迷宮に向かって行った。途中で屋台で昼食を食べていったので、迷宮に着いたのは日がだいぶ傾いた時刻だった。


 夜まで時間がなかったので2階層までしか行けなかったが、ルナの杖はかなり使い易かったようで満足していた。もちろんデュアルマジックも使って試したので、帰りに武器屋に寄ってグラムに確認してもらったのだが、とくに異常はなかったので今後使い続けても問題はなさそうだった。







 翌日、昨日新しい杖にお金を使わないで済んだので、迷宮に入る前に屋台でポーションを多めに買ってから探索を始めた。


 新しい杖のおかげもあってルナの魔法の発動スピードも上がっていたので、6階層まで危険な場面もなく来る事が出来た。6階層でもとくに苦戦するような事はなかったが、後列のルナの防具はまだ初心者用である事と、アリサの武器や防具もこれより下の階層に行くには不安が残るので、数日間はこの階層でお金を稼いで、装備を一新してから下を目指そうと決めたのだ。







 そして5日後、今日も6階層でシャドーデビルと戦っていると聞き覚えがある声で、ルナが声を掛けられた。



「あれ?ルナもここまで来てたの」



 その声の方を振り向いて見ると、そこにはリリカが仲間と思われる冒険者達4人と一緒にいたのだ。



「リリカさん、お久しぶりです。そちらの方々がリリカさんのチームですか?」


「ええ、経験を得る為に兄のチームに入れてもらっているの。ソロで迷宮に潜るのは危険だからね。ルナは2人でここまで?」


「はい、姉とチームを組んでいます。今はこの階層で装備を買う為のお金を溜めている所です」



 ルナとリリカで挨拶をしていると、そこに1人の男が近寄ってきた。



「やあ、君が妹の言っていた魔法使いの子か。養成所では妹が世話になったと聞いている。どうだい、今日は一緒にここより下の階層に行ってみないかい?なに、僕達は9階層まで行った事があるから心配はいらないよ」



 どうやらこの人がチームのリーダーで、リリカの兄のようだ。そして仲間に何の了解も得ずにいろいろ決めて話してきたのだ。



(……よくこんな人がリーダーでチームが崩壊しないな…)


「急にごめんね。兄は少し自信過剰な所があるのよ。でも面倒見がいいし実力もあるから安心して」



 リリカは少し困ったような顔をしていたが、ルナ達が一緒に行く事には反対している様子はなかった。



「ちょっと待ってください。……お姉ちゃんどうします?」


「そうだな。ここより下の階層は私も経験がないし、実力者と一緒に潜って魔物の動きを覚えれるのは良い事だな。よし!その言葉に甘えるとするか」


「おお、良い判断だ。そうと決まればさっそく下に向かうぞ」



 アリサの了承を得られたので、すぐに下に向かおうとするリリカ兄に、アリサは声を掛けて引きとめた。



「ちょっと待て!……あんた達の実力が高いのは信用するが、見ての通り妹の防具は初心者用の低ランクの物だ。そんな妹を下の階層の魔物から守りながら戦える自信はあるのか?」



 ただ戦うのと、守りながら戦うのとは別のものなのだ。その事を心配してアリサは聞いたのだ。



「それは大丈夫だよ。なにしろ僕達のチームは、護衛依頼を主にこなしているからね。守りながら戦うのは慣れてるよ。どうだい?これで少しは安心したかい?」


(…少々軽く見えるけど、経験が豊富なら大丈夫かな。リリカも信用しているようだし)


「…分かった。そういう事なら安心できそうだ。今日一日頼んだ」


「じゃあさっそく7階層に向かうとしよう」



 急遽決まった7人のチーム。前衛6人は正直多過ぎるのだが、リリカはまだ養成所を出たばかりなので戦力としては見られていない。そしてアリサは冒険者になって結構経つが、7階層より下は経験がないので、リリカとルナを守る形で一歩下がっている。


 リリカ兄のチームは盾、弓、剣、斧の武器をそれぞれ装備しており、弓が敵を牽制して盾で勢いを止める。その後剣と斧で攻撃を仕掛けるという、綺麗な連携で現れるホーンラビットを倒していく。もちろんルナ達も気を緩めてはいないが、リリカ兄の連携によって後方にまで魔物が来る事は無かった。



(この階層でルナ達が戦うなら、接近前に魔法で倒すかアリサがカウンター気味に剣で斬り倒さないといけないな) 


「うーん、こいつ等と安定して戦うなら盾を持つ仲間を見付けるか、私が盾を持つようにしないと危険だな」



 アリサもリリカ兄達の戦いを見てそう呟いていた。



「そうですね。動きが直線的ですから、私の魔法でどうにかなりそうですけど……外した時の事を考えると盾があると安心出来ます」


「私は槍だから突進に合わせて構えるだけで済みそうだけど、複数に襲われると1人じゃお手上げね」



 ルナとリリカも自分達が戦う事をちゃんと想定していた。


 途中でリリカ兄に声を掛けられ、試しに1匹だけアリサ達に魔物を通してくれた。だが剣や槍の間合いに入る前に、ルナのアクアランス一発でケリがついてしまった。



「……この程度のスピードが相手なら、難なく魔法を当てれるのか……すまないが、次はリリカ達に戦わせてくれるかい」



 まさか一撃で終わらせるとは思ってもみなかったので、リリカ兄はルナに魔法を控えるように言ってきたのだ。



「私達もあの魔物に慣れておきたいから、ルナはピンチの時だけ手を出してくれ」



 リリカも同意見だったようで、アリサの言葉に頷いていた。



「す、すみませんでした。思ったより早かったので、慌てて魔法を使ってしまいました」



 ルナもアリサ達に何も経験させなかった事に気が付いて、素直に頭を下げて謝った。



「ハハ、慌てて放って一撃で倒すのか……将来が楽しみな魔法使いだな」


「いえ、新調した杖の調子が凄く良いだけです。前の杖ならきっと外れていました」



 実際新しい杖に変わってから、魔力の溜めに掛かる時間は短くなり、放たれた魔法の威力とスピード、精度が上がっていた。おそらく魔石の補助が上手く働いている証拠なのだろうが、まだ2本目の杖だった為に確証を持てなかった。


 その後、魔物を1匹づつアリサ達にまわしてくれたが、アリサもリリカも目の前で魔物が横に飛び跳ねた事で戸惑い、何度か攻撃を受けそうになった。だが、その都度ルナが水の槍ではなく水弾を使って、倒す事無く吹き飛ばしてフォローしていた。



「……何でルナはそんなに落ち着いて戦えるの?私なんか魔物の動きについて行けない時があるのに…」



 リリカは何とかホーンラビットを倒した後、ルナの所に寄って来て問いかけた。何度か魔物を送ってもらって、アリサは何とか動きに着いて行く事が出来て倒せるようになっていたが、リリカはルナの魔法で弱った後でないと倒せないでいたのだ。



「私は後列で距離も離れていますから、落ち着いて動きを見れるからですよ」


「それだけかな……」



 ルナの言葉だけではいまいち納得していない。それもそのはずで、リリカが戦っている最中の危険と思われるタイミングで、正確にフォローが入っているのだ。


 こればかりはステータスの問題なので、すぐにどうにか出来る話ではない。相手の動きが見えて、ついて行けるのは素早さが関係する。その差が離れ過ぎていると、目で動きを追う事も厳しくなってしまうのだ。



「リリカもその内慣れるよ。だからそんなに慌てなくて大丈夫だ」



 ルナに相談しに行ったリリカに、アリサは声を掛けて慰めてあげていた。



「……そうよね。ルナは養成所にいた時から少し異常だったし、そんな子と比べるのは間違っているわね」


「リリカさん、異常とは言い過ぎです。私、泣いてしまいますよ」



 そう言って冗談半分に泣き真似をしていた。



「ハハ、確かに言い過ぎだったわね。謝るわ」



 笑いながら話せた事で適度な緊張感を維持出来るようになり、少しづつだがリリカも動きに慣れて来たようだ。


 その調子で8階層も無事に抜けて、ついに9階層に足を踏み込む事になった。



「っ!?ちょっと待ってください!今この階層は危険です!」



 9階層に足を踏み込んだ途端、ルナは大声を出して皆に知らせた。



「お、おい。どうしたんだ急に?」


「…たぶんですけど、今ギルドで騒がれている危険人物がこの階層にいる気がするんです…」


(確かにこの感覚はルナが襲われた時と同じだ。……いや、あの時より嫌な感じが強いからこの階層に間違いなくいるぞ!)


「ならその危険人物は、僕達が捕まえてあげようじゃないか。なに、相手は1人だって話しだし、気をつけないといけないのはその剣だけだから楽勝だよ」



 話半分で聞いていたのか、リリカ兄はこんな時でも気楽に考えているようで、ルナの忠告を無視して先に進んで行ってしまった。



「ルナ行くよ。絶対にこの階層にいるとは限らないんだし、1人になる方が危険よ」



 リリカも少し不安になった程度にしか信じてはおらず、兄の所に向かって歩き始めてしまった。



「行くぞルナ。遅れるなよ」



 アリサもゆっくりだが歩き始めた。



「…なんで信じてくれないの……」



 誰もがルナの言葉を信じて引き返そうとはせず、進み始めてしまった事を悲しんでいた。



「ルナ、こうなったら腹を括るしかないよ。幸いルナは相手の顔を知っている。だから一番に見付けて隠れるか、先制攻撃を仕掛けるかを判断するんだ。戦う事になったとしても、恐らく相手は油断しているはずだ。なにしろ相手のユニークスキルは怪我が治らないから、2度目の対戦は想定していないはずだ」



 そう、怪我が治らない以上、戦った者はまず死んでしまう。油断した相手に近づき先制の一撃。それで決着がつくので、恐らくそんな戦い方をして来るに違いないのだ。



「出会わないのが一番だけど、それは叶わないだろう。だからルナが皆を誘導するんだ」


「……分かりました。やってみます」



 厳しい事を言っているのは分かる。全員の命運がルナに掛かっていると言われて緊張しないはずがないのだ。だがこれはルナにしか出来ない事なので、やってもらわなければならないのだ。


 この階層での現れるストーンゴーレムは弓や槍では相性が悪い。しかも一撃が重いので盾で防ぐにも、正面から受けたらそのまま潰されてしまうので、まともに戦えるのはリリカ兄と斧を使う冒険者だけなのだ。しかも厄介なのは巨体との戦闘で出る音だ。この音は9階層の全域に聞こえるほどの大きさなので、ルナ達の存在がばれてしまった可能性が高かったのだ。



「ストーンゴーレムかぁ……あの硬さを相手にするのは厳しそうだな…」


「そうですね。私の槍もあの表面を貫ける自信はありません。数回攻撃をしたら、武器が駄目になるでしょうし………」



 リリカ兄達の後ろで見ているだけになっているアリサとリリカは、相性の悪さと実力の足りなさをマジマジと感じていたのだ。



「ルナの魔法でどうにかなりそうか?」


「そうですね……練習中の魔法なら何とかなりそうですけど、今までの魔法では動きを一瞬止めるだけが精一杯ですね」



 アリサの問いにルナは少し考えた後に答えた。



「なら実践で通じるか試してみたら良いんじゃない?兄達もあれが相手では2人で戦っているようなものだし、邪魔にならないようにすれば問題はないはずよ」



 リリカの言うとおり、たまに囮として盾で防ぎには入っているが、実際2人で戦っているので攻めるのに苦労していた。ここにルナの魔法が入っても手助けになる事はあっても、邪魔になる事はないのだ。



「相手は大きいですし、ここから魔法を放てば邪魔にはなりませんね。………アクアブリット!」



 ルナの放った水弾はストーンゴーレムの顔に当たり、少し後ろに後ずさんだ程度だったがリリカ兄達にとっては大きな助けとなったのだ。



「ナイスアシスト!その調子でドンドン魔法を放ってくれ!」



 魔法が当たった事で魔物に隙が出来たので、リリカ兄達は一斉に攻撃にまわれたのだ。



「やはりこの魔法ではダメージは与えれませんでしたね………なら、アクアライフル!」



 そう言って放たれたのは、僕が前にアドバイスした水弾の強化版。ライフルの弾のように回転を加えた水弾だった。魔力の溜めに少し時間がかかったが、その水弾はストーンゴーレムの顔に当たると半分以上を吹き飛ばしてしまった。



「……やっぱりまだ貫通とはいきませんか…魔力の溜めも時間が掛かりましたし、まだまだ練習が必要ですね」



 ルナは自分の放った水弾を見て反省をしていた。



「「「「「……………」」」」」



 しかし他の者はルナの放った水弾に驚き、声も出せないでいた。確かに今の魔法でも一撃で倒す事は出来なかった。だが明らかに表面の石を吹き飛ばし、明確に与えた一撃はリリカ兄達の今まで与えていたダメージより上をいっていたのだ。

 まだ倒せた訳ではないのでリリカ兄達は攻撃に戻ったが、明らかに動揺をしているようで動きが悪くなっていた。しかしそれ以上にストーンゴーレムの動きがダメージによって悪くなっていたので、無事に倒す事が出来た。



「やっぱり私達にこの階層は早そうですね」



 ルナはリリカ兄達でも20分ほど時間が掛かっている事を見てそう呟いた。



「……まあそうだが……この階層に来るのにそんなに時間は掛かりそうにないな…」



 アリサもルナと同意見ではあったが、先程の魔法に驚いているようで声に力がなかった。その隣にいるリリカは、まだストーンゴーレムがいた場所を眺めて固まっていた。



「……ええっと…ルナ君だったっけ。さっきの魔法はなんだったんだい?」



 戦闘を終わらせたリリカ兄達は魔石の回収を終わらせて、驚いた顔のままルナの方に歩いて来た。



「あれですか?あれはまだ練習中の魔法の1つです。まだまだ完成には程遠いので、お見せして恥ずかしいのですが…」


「……………」



 ルナは未完成の魔法を見せた事で少し恥ずかしそうにしていたが、その事を聞いたリリカ兄は固まってしまった。



「……えーと、あれでまだ未完成だって言うの?」


「?。はい、結構難しくて7日ほど練習をしているのですが、なかなか上手く放てないんですよ…」



 ようやく現実に帰って来たリリカは恐る恐るルナに質問したが、その回答に呆れてしまっていた。



「私には十分実践レベルだと思うけど……ルナはずいぶん上を目指しているのね。私も見習わないといけないようね…」



 あの破壊力があれば十分と自分では思ってしまうと考えて、リリカはその甘い考えを持たないように心掛けようと決めた。



「ま、まあ、ルナ君がいればストーンゴーレムとの戦いも楽になる。さあ、この調子でドンドン進んで行こう!」



 リリカ兄はそれだけ言って先に進み始める。







 しかしその歩みを止める事になる人物が姿を現せた。


 そう、ルナの命を奪った男……黒剣の男がこちらに向かって歩いて来たのだ。


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