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捕捉

「空間跳躍完了、通常空間に戻った。艦の異常の有無と現在地、ラビット・スキップの位置を確認」

「了解、ラビット・スキップは本艦より4時の方向、±0。ラビット・スキップにも異常ありません。現在地は当初の跳躍離脱予定宙域よりも手前、時間的換算で通常航行で2日程の位置です」


 シンノスケはレーダーでラビット・スキップの位置を確認したうえで外部モニターでもラビット・スキップを確認する。

 等倍でも見える位置にピタリとついているが、マークスの報告のとおり、特に問題はなさそうだ。


 シンノスケはカトレアに通信を繋いだ。


「シラヌイからラビット・スキップ。跳躍離脱を確認。そちらに異常はありませんか?」

『こっちは問題ないわ』

「了解。・・・でも、無茶はしないでくださいよ。カトレアさんの船と違ってこっちは中古の旧式艦なんですからね」

『そんなのはシンノスケさんの腕でカバーできるでしょ?問題にもならないわ。それに、おかげで時間的な余裕ができたでしょう?』

「確かにそうですけどね・・」


 シラヌイとラビット・スキップは予定宙域のはるか手前で不規則な空間跳躍を強行した。

 安全が確認されている宙域外の強引な空間跳躍は非常に危険を伴うが、カトレアが言うとおり、シンノスケ達に余裕が生じたのは確かだ。


 宇宙海賊の斥候に監視されている中で予定通りに空間跳躍を行えば、跳躍離脱ポイントを予測されて待ち伏せを受けていた可能性が高い。

 しかし、カトレアの強引な空間跳躍によって予定宙域のはるか手前に跳躍離脱する羽目になったが、宇宙海賊にしてみれば、予想外のことでシンノスケ達をロストしたことだろう。

 マークスの報告どおりなら、通常航路に戻るまでに2日程掛かり、その間にシンノスケ達は襲撃に備えて警戒を高めることができる。


 一方で宇宙海賊にしてみれば、通常航路外、それも何処にいるのか分からない獲物を探しに行くことはリスクが高過ぎるし、通常航路で待ち伏せをするにしても、その時には準備万端のシンノスケ達を相手にすることになる。

 奇襲から一気に勝負をかける宇宙海賊のセオリーが崩れ、優位性が失われることになるのだ。

 

「並の海賊なら諦めるところだな」

「そうですね」


 シンノスケの言うとおり、並の宇宙海賊なら目標をロストした時点で撤退するのが定石だ。


『並の海賊ならね・・・。でも、私達を狙っているのが私の姉、エリザだとしたら・・・。嬉々として追ってくるでしょうね。獲物が私だと知っても、たとえ妹でも躊躇なくブリッジを撃ってきます。姉はそんな狂人なんですよ』


 怖い情報をサラリと言ってくるカトレア。


「どうやら敵は並の宇宙海賊ではなさそうだな。まあ、俺達の仕事なんて、そんなもんだよな」


 シンノスケは肩を竦める。


「俺『達』ではなく、マスターの引きの強さのせいでしょう」

「おい、俺だけのせいにするんじゃない!」

「いえ、私は工業機械なので、『運』とか『引き』という抽象的なものとは無縁の存在です。故に、これはマスターだけの問題であり、宿命です」

「裏切り者・・・」


 この時はまだ軽口を叩ける程度の余裕はあった。



 状況が急転したのは3日後だ。

 警戒を高めつつ通常航路に戻ったシラヌイとラビット・スキップ。

 通常航路とはいえ、そこは広大な宙域であり、宇宙海賊にしてみれば、その広大な宙域でたった2隻の船を見つけ出すことは困難な筈だ。


 しかし、それは起きた。


「レーダーに反応。数3」


 レーダーが不審な反応を捉えた。


「了解。識別信号を確認!シラヌイからラビット・スキップ、不審船に捕捉されました。警戒を要します」

『了解。しっかりと護ってくださいね』

「最善を尽くします」


 シンノスケは自動操縦を切り、操舵ハンドルを握る。


「識別信号なし。所属不明、アンノウンと確認・・・アンノウンの内1隻が急速接近、一直線に向かってきます」


 マークスの報告と同時にブリッジに警報が鳴り響く。


「襲撃にしても強引過ぎるな!警告を・・・」

「アンノウンが発砲。本艦とラビット・スキップの間、命中しませんが、我々の分断を狙っているものと推定」

「了解!回避行動は取らずに進路そのまま。先制されたから規定の警告は必要ない。直ちに護衛行動に入る」

「了解しました。目標を長射程カメラで捉えました、モニターに出します」


 手元のモニターに映し出された目標の姿にシンノスケは目を見張る。


「これは、民間船を改造したものじゃないぞ!生粋の軍用艦だ!」


 多くの宇宙海賊が拿捕した民間船を改造して使っているが、モニターに映し出されたのは船体に国籍表示や識別番号は無いものの、完全武装の軍用艦。

 それもコルベット等の小型艦艇ではない。


「艦影照合・・・エルガリア連邦のゴルドアス級巡航艦です」

「ゴルドアス級って、エルガリアの現用艦じゃないか!宇宙海賊が持っていていいものじゃないぞ」


 エルガリア連邦はソル民主共和国に隣接する連邦国家で、今回シンノスケ達が向かっているのもそのエルガリア連邦だ。


 ゴルドアス級巡航艦はそのエルガリア連邦で開発された巡航艦である。

 最新鋭とまでは言わないものの、エルガリアの一線部隊に多数配備されている重武装と高速性を両立させた巡航艦であり、この1隻だけでも中古のコルベットであるシラヌイでは分が悪すぎる。


『あの船は・・・私の姉、エリザの船に間違いありません』

「・・・またか!相変わらず状況が悪い方向にばかり引き寄せられる」


 カトレアの言葉を聞たシンノスケは己の引きの強さに呆れ果てた。


「しかも、女性の海賊。マスターの女難は健在ですね」

「・・・」


 シンノスケはマークスの言葉を聞き流した。

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