無茶苦茶跳躍
カトレアのラビット・スキップの護衛に出たシンノスケとマークス。
出航して2日、まだ沿岸警備隊や宇宙軍の警戒が行き届いている管理宙域だ。
「安全な宙域だと思っていたけど・・・変な奴に目をつけられているか?」
レーダーに違和感を覚えるシンノスケ。
「はい、4時間程前から本艦の右舷前方を航行している船があります。登録上は個人所有のレジャー船です」
多くの船舶が往来する航路だ、他の船が航行しているのは当たり前のことだ。
それ自体に何ら不自然な点は無い。
しかしながら、シンノスケは確信に近い違和感を感じている。
「中古の船だが、レーダーだけは高性能の物に換装しておいて正解だったな」
シンノスケのシラヌイは中古の旧式のコルベットで、快速、高機動の艦ではあるものの、武装に関してはいささか心許ない。
そこでシンノスケはシラヌイのレーダーだけは最新型の高性能のレーダーに換装し、より早く危険を察知できるようにしたのだ。
「本艦の索敵範囲ギリギリの位置、おそらく該船のレーダー範囲からは外れている筈ですが、定期的に速度を落として接近し、我々の位置を確認しているのではないかと」
「・・・これは警戒した方がいいな。カトレアさんに通信を!」
「了解、繋ぎました」
モニターにカトレアの姿が映し出される。
『どうしたのかしら?何かありました?』
「カトレアさん、不審な民間船に監視されている可能性があります。様子を見るため、10時の方向に進路を変えます」
『狙われちゃっているかしら?』
「今からそれを確かめます」
『了解よ。後に続くわ』
シラヌイとラビット・スキップは進路を変更した。
通常航路を逸脱しないように、それでいて先の民間船から距離を取りつつ様子を見る。
結論はすぐに判明した。
「やはり、こちらの様子を探っているようですね」
マークスの言葉にシンノスケも頷く。
進路を変更したにもかかわらず、民間船、いや不審船は一定の距離を保ちつつシンノスケ達から離れる様子がない。
「確かにな。それに、あの距離からこちらの位置を確認できているということは、なかなかの性能のレーダーを装備しているぞ。個人所有のレジャー船には似つかわしくない装備だな」
シラヌイのレーダー範囲程ではないが、不審船もかなりの距離からシンノスケ達の様子を窺っている。
軍用ではないものの、業務用の高性能レーダー程度の性能はありそうだ。
それほどのレーダーシステム一式をレジャー用に個人で購入するには高価過ぎる。
仮に手に入ったとしても、あのクラスの船に装備するとなると、船のシステムに相当な負荷が掛かり、まともに運用できない筈だ。
船体はともかく、エンジンから制御システムまで組み替える必要があるだろう。
つまりあの船は単なるレジャー船ではないということだ。
「これはもう海賊の仲間、斥候役だと特定してよいと判断します」
マークスの報告にシンノスケも頷く。
「だろうな。・・・シラヌイからラビット・スキップ!狙われています。警戒を厳にしてください!」
『了解よ。・・・さて、どうしましょうか?』
狙われているというのにカトレアは相変わらず飄々としていて今一つ緊張感がない。
「付近に海賊本隊の姿は認められません。まだ襲ってはこないでしょう。おそらくはこの先、管理宙域を抜けて暫くしてからと推測します。それまでに進路変更を繰り返して斥候の追跡を振り切りましょう」
シンノスケの提案にモニターの先のカトレアは何かを考える様子の後にパッと何かを閃いたような表情を浮かべた。
『それもいいけど・・・それよりも、さっさと跳んじゃいましょうよ』
「はっ?跳ぶって、空間跳躍ですか?」
『ええ、まだ予定の跳躍ポイントじゃないけど、ここも跳躍禁止宙域ではないし、その方が手っ取り早いわよ』
カトレアがとんでもないことを言い出した。
空間跳躍は様々な条件をクリアして初めて安全に実行できるもので、様々な制限があり、好き勝手に行っていいというものではない。
特に、跳躍の始点と終点の座標計算は慎重に行わなければならず、それを誤ると大事故に直結するのだ。
故に、通常の航路では空間跳躍を行える宙域が定められており、逆に空間跳躍が禁止されている宙域も厳密に定められている。
シンノスケ達が航行中の現在地は空間跳躍が禁止されていないものの、推奨もされていない宙域で、ここで空間跳躍を行うのはリスクが高い。
「カトレアさん、この宙域から跳躍すると、安全に跳躍離脱できるポイントまで届きません。流石に危険ですよ!」
例え事故なく跳躍が出来ても、宇宙海賊の追跡を振り切れるとは限らない。
シンノスケ達の目的地の情報が宇宙海賊に漏れていたとすれば、空間跳躍後の宙域で待ち伏せしている可能性も十分にあるのだ。
『そんなこと言ってないで、先ずはあの五月蝿い船を視界から消しちゃいましょうよ。待ち伏せされていたら、その時はその時。しっかりと守って頂戴ね』
「そんな無茶な!」
『跳躍先の座標を送るわよ。跳躍開始まで10、9、8・・』
「ちょっ!おいマークス!座標計算を急げ!」
「了解・・・完了しました」
『3、2、1』
「ちょっ、ワー・・間に合え・・」
2隻は同時に空間跳躍を実行した。




