衝撃の再会
カトレアとの仕事に備えて細々とした物の買い出しのために街に繰り出していたシンノスケとマークス。
「カシムラ、そこにいるのはカシムラではないか?」
声をかけられて振り返ってみれば、そこにいたのは体色がグレーで瞳の無い大きな目を持つタスクリア人の男性とその背後に立つ2人のタスクリア人女性。
シンノスケのことを『カシムラ』と呼ぶタスクリ人は1人しかいない。
というか、元々シンノスケにタスクリア人の知り合いは1人だけだ。
「レグさん?・・・レグさんですよね?」
サリウス恒星州の自由商船組合に所属するタスクリア人の自由商人のレグ。
・・・に間違いないのだと思うが、タスクリア人の男性は皆同じ顔、同じ背丈、体型なので全く区別がつかない。
対照的にタスクリア人の女性は、体色と目は男性と同じだが、白い頭髪を有し、体型も人類の女性に似た体型をしている。
レグの背後に立つ女性2人のうち1人は長いウェーブがかった髪をしており、体型も長身でグラマラスだ。
一方はショートヘアで、長身でありながらスラリとした体型をしており、レグの護衛艦ジャベリンのクルーであるこの2人には見覚えがある。
「事故で遠方に飛ばされたと聞いていたが、こんなところで再会するなんて驚きだ。無事でいるという情報は得ていたが、こうして会えて安心した。マークスも無事でなによりだ」
無表情で無機質な話し方をするので全く驚いているようには見えないが、レグも心配してくれていたのだろう。
「ありがとうございます。どうにかこうにか助かりましたが、船を失いましてね、アクネリアに帰るためにここで商売をしています。レグさんも仕事ですか?」
「貨物船護衛でここまで来たが、明日には帰路につく予定だ」
そんな挨拶を交わすシンノスケとレグ。
「まあ、こんなところで立ち話をしていても仕方ない。互いに忙しい身だ。それでは、また会おう」
「はい、レグさんも道中気を付けて」
「ありがとう」
宇宙の彼方で偶然再会した割には素っ気ない会話をして、あっさり別れたシンノスケとレグだが、大宇宙を股にかける船乗りにしてみればこんなものだ。
感覚的には隣町で知人にばったり出会ったのとそう違わないのである。
立ち去るレグ達を見送った後に再び歩きだすシンノスケとマークス。
「そういえば、レグさんのジャベリンって暗黒大運河を跳び越える能力があったんだな」
シンノスケが不思議に思うのも無理はない。
レグが運用するD-21Fファランクス型フリゲートはハリネズミのように多数のミサイルを装備したミサイルフリゲート艦だが、運用していたダムラ星団公国宇宙軍でも全艦が退役した旧式艦の上、それを運用するレグ自身が船の見た目を気にしないため、外観はポンコツ艦にしか見えないのだ。
「まあ、タスクリア人の思考からすれば性能重視で、外観に気を配るのは無駄なのでしょうね」
「確かに。ジャベリンは見た目はともかく、武装は凶悪なレベルで強化されているからな。その他にも色々手を入れているんだろう」
そんなことを話すシンノスケとマークスだが、サリウス恒星州に帰るレグの船に乗せてもらおうとは微塵にも考えていない。
カトレアの仕事もあるし、シラヌイのローンも残っている。
これらを投げ出して帰るわけにはいかないのだ。
「しかしレグさん、一目でお前がマークスだと気づいたな」
「・・・確かに」
今のマークスはかつてのガチメカのボディではなく、子供のお友達ドール用の小型のボディだ。
見た目だけではマークスだと気づかないだろう。
「見た目を気にしないタスクリア人だから、独特の感性があるのかもしれないな」
「そうかもしれませんね」
そんなことを話しながらドックに戻るシンノスケとマークス。
明朝はカトレアの護衛任務のために出航だ。
【護衛艦カグヤ】
ミリーナ、セイラ、リナ、マデリアの女性4人組が乗る護衛艦カグヤはリムリア銀河帝国、その先のポルークス侯国の領域を通過して航行を続けていた。
「さて、この先1ヶ月間は寄港する惑星もステーションも無い不毛な宙域を航行します。通常航行が可能な航路ではありますけど、その先にあるのは暗黒大運河。暗黒大運河を跳び越えようなんて酔狂な船はなかなかいないので、宇宙海賊すら出没しない宙域ですわ。一方で救援も望めないからちょっとした事故が命取りになります。気を付けて進みますわよ!」
カグヤの艦長席で皆を鼓舞するミリーナ。
ミリーナの操艦でも全く問題ないが、この先は万全を期してカグヤの運用はマデリアが一手に引き受け、ミリーナは総括的な指揮を執る。
セイラとリナはマデリアとミリーナの補助という立場だが、現実的にはこの先に2人の役目はない。
やることいえば、マデリアの運用を見学して、勉強することくらいだ。
ミリーナにしても、艦長として運用指揮の役割はあるが、高性能ドールのマデリアが艦の運用をする以上、その出番はなく、艦長席に座ってマデリアの運用を眺めていることしか仕事がない。
「でも、ココナちゃんとタック君、元気そうで良かったですね」
セイラが話すのは先に寄港したポルークス侯国で再会したラーダ人の姉弟の2人ことだ。
採掘惑星の厳しい環境に悩んでいた2人だったが、再会した2人が殊の外元気そうだったことが嬉しかった。
「ポルークス侯国は戦後はリムリア銀河帝国だけでなく、その他の銀河国家からの支援、というか経済投資が始まり、その境遇が改善されつつありますからね。あと数年もすれば鉱物の輸出国として自立できると思いますよ。まあ、そうはいっても投資国が利権を手放すことはないでしょうから、厳しい立場には違わないでしょうけど、あの子達は政治家でもなんでもありませんからね、経済的に余裕ができればあの子達の将来の選択肢も広がるでしょうね」
ココナとタックとは初対面にもかかわらず、その持ち前の明るさと優しさで2人と仲良しになったリナも笑いながら話す。
カグヤの補給のために寄港したポルークス侯国で思わぬ再会を果たしたミリーナ達は僅かな時間だが楽しい時を過ごすことができた。
「さあみんな!気持ちを切り替えて行きますわよ!シンノスケ様とマークスが待っていますわ!」
「「「はいっ!」」」
ミリーナ達がソル民主共和国に到着するまでにはまだ少しだけ時間が掛かる。




