仕事は仕事!
足音もなく近づいていたカトレアの不意打ちと、浮かべられた笑みの裏にある迫力にシンノスケに絡んでいた船乗り達は思わず後ずさる。
「貴方達が何を思っていようが構いませんけど、余計なお話でシンノスケさんにご迷惑をかけないで頂きたいんですけど?」
呆れた様子のカトレア。
「めっ、迷惑も何も、お前の方がこの新入りが何も知らないのをいいことに、いいように利用しているんじゃねえか!」
1人の船乗りの男の言葉にカトレアは肩を竦めてため息をつく。
「はぁ・・・。人聞きの悪いことを言わないでくださいな。私はシンノスケさんを『いいように利用』なんてしていません。ちゃんと契約を結んで、その範疇で護衛をお願いしているだけです」
「お前の契約の範疇ってのが護衛艦を使い捨てにしているんじゃねえか!だから今ではお前の護衛を引き受ける護衛艦は殆どいないじゃないか。その新入りから見限られれば、また護衛無しで仕事をする羽目になるんだろうよ」
「それこそ大きなお世話です。それに、シンノスケさんはそんな薄情ではありません」
目の前で舌戦?が繰り広げられているが、それを眺めるシンノスケはうんざりした表情だ。
時間が惜しいので早々に立ち去りたいのだが、口論の話題が自分のことなので、黙って立ち去るのも憚られる。
「だがな、お前の姉が宇宙海賊だと分かれば此奴の考えも変わるんじゃないか?犯罪の片棒を担がされるなんてまっぴらごめんだろうからな」
「確かに私の姉が賞金首の宇宙海賊であることは事実です。でも、貴方達からそれを聞いてもシンノスケさんは関係ない、興味がないと言っているじゃないですか。それに・・・」
「あのっ!」
これ以上は聞くに堪えない。
シンノスケは我慢の限界を迎えた。
「「・・・・?」」
「カトレアさんの言うとおり、私には興味がないことなので、帰っていいですか?・・・というか、帰ります!」
カトレアと船乗り達を残して踵を返して歩きだすシンノスケ。
「おいっ、ちょっと待てよっ!」
「待ちませんし、くだらない話に付き合うつもりもありません。さあ、帰るぞマークス」
「了解しました、マスター」
「・・・チッ!ああ、そうかよっ!後悔するなよ!」
なにを言っても響かずに立ち去ろうとするシンノスケに船乗り達は舌打ちするも、諦めた様子でそれ以上は絡んでくることはなかった。
船乗り達に睨まれながら自由商船組合を出たシンノスケとマークス。
その後をカトレアがスルスルとついてくる。
「何か用ですか?」
振り向いたシンノスケにカトレアはニッコリと笑みを見せる。
「別に用があるわけでもありません。私も自分の船に帰るとこです。たまたま方向が一緒なだけですわ」
「そうですか。それなら結構です」
再び歩きだすシンノスケ。
「シンノスケさん、待ってくださいな。『それなら結構』って、ちょっとつれないんじゃありませんか?」
「つれないも何も、別に私に用件があるわけじゃないんですよね?」
「そうですけど、さっきの彼等のお話、少しくらいは興味があるんじゃありません?私の姉が賞金首の宇宙海賊って、事実なんですよ」
カトレアの言葉を聞いて立ち止まって少しだけ思案するシンノスケだが、直ぐにつまらなそうに首を振る。
「別にどうでもいいことです。私の仕事に影響はありませんね」
「私が裏で宇宙海賊と繋がっているとは思わないのですか?それこそ、貴方を利用しているとは疑いませんの?」
「思いませんね。カトレアさんの姉が宇宙海賊であることが周知の事実なら、貴女に対する必要な調査はとっくに行われているでしょう?自由商船組合はそこまでザルではないでしょう」
シンノスケの言葉にカトレアは呆気に取られ、ポカンとした表情を浮かべた。
「でも、私と姉の関係や、事情なんかを聞きたいとは思わないのですか?宇宙海賊の姉についての情報を聞きたいとは?」
シンノスケは肩を竦める。
「必要ありません。確かに情報というのは多いに越したことはありませんし、有力な情報は強力な武器にもなります。しかし、その情報も時として判断力を鈍らせる枷になったり、自分を傷つける刃にもなります。逆に少しくらい足りない位の方が柔軟な判断をすることが出来ますからね。今のところはカトレアさんの姉が宇宙海賊で、カトレアさんは姉と繋がっていないだろう、という程度で十分です。大丈夫、仕事は仕事。どんな事情があろうとも、引き受けたからにはしっかりとやりますよ」
そう言ってシンノスケはその場にカトレアを残して立ち去っていった。
残されたカトレアもそれ以上はシンノスケを追うことはしない。
「本当に変わった人・・・」
呟いたカトレアはシンノスケとは別の方向に歩み始めた。
カトレアのドックはシンノスケのドックとは逆方向だ。




