カトレアの境遇
カトレアの仕事を引き受けたシンノスケだが、出港前に一つ、手続き忘れていたことを思い出し、再び組合へと足を運ぶことになった。
「この程度の手続きなら、端末通信で済むじゃないですか。わざわざ対面での手続きなんて非効率ですよ。私も忙しいんですからね・・・」
ぶつぶつと文句を言いながら手続きを進めるケヴィン。
シンノスケがわざわざ足を運んだ用件というのがシラヌイの定期点検の申し込みというのだから、ケヴィンが文句を言うのも仕方のないことだ。
それでも、シンノスケはこの星系に飛ばされてくる以前から、組合での手続きは情報収集を兼ねて対面で行っており、その習慣を変えるつもりもないのだが、それを知ってなおケヴィンの態度と口が悪い。
尤も、ケヴィンの口が悪いのはいつものことで、文句や悪態をつきながらもテキパキと手続きを進めてくれるし、なんだかんだでシンノスケの意図を汲んでちょっとしたことでも情報をくれるものだから、シンノスケとしては大助かりだ。
しかし、今回は真新しい情報も無いようなので、手続きが完了したら早々に退散することにする。
ケヴィンに礼を伝えて組合を出ようとするシンノスケ。
「おい、お前が流れ者の護衛艦乗りか?」
シンノスケとマークスが組合を出ようとしたところで背後から呼び止められる。
振り返ってみると、そこにいたのは5人の船乗り達。
男が4人に女が1人、それぞれデザインが異なる船乗りの制服を着ているから護衛艦乗りだろうか?
5人共、シンノスケを見る視線は好意的なものではなさそうだ。
「何か用ですか?」
声をかけられる心当たりがなく、首を傾げるシンノスケ。
「お前、カトレアにいいように使われているんだってな。何も知らないとはいえ、気の毒なもんだ」
男の1人が嫌らしい笑みを浮かべながら話すと、他の4人が声を上げて笑う。
いいように使われていると言われれば、確かにそのとおりだが、シンノスケ自身はそんなことは気にしていない。
「別に貴方達には関係のないことでしょう」
相手にするのも面倒そうだし、その必要もなさそうなので、そのまま立ち去ろうとするシンノスケだが、それを遮るように取り囲まれる。
「ちょっと待てよ!俺達はお前のためを思って大切な助言をしてやろうってんだよ」
「・・・・」
どう見ても親切心からとは思えない。
「あの女は護衛艦を雇う費用をケチって阿漕な商売をして、ヤバくなったら護衛艦を平気で切り捨てて自分だけで逃げちまうことも平気でやる。お前だって心当たりがあるんじゃないか?実際、その犠牲になった護衛艦乗りは1人や2人じゃないんだぜ。だから今じゃカトレアの護衛を引き受ける奴なんて殆どいない。だから、事情を知らない流れ者のお前がいいように利用されているんだぜ」
シンノスケはため息をつく。
「それが何か?別に規則違反でもないでしょう?護衛艦の仕事は護衛対象を守り抜くことで、道連れにすることではありませんからね。状況によっては護衛艦を囮にして逃げても問題はありませんし、逆に護衛艦が自ら囮となることを引き受けて、護衛対象を離脱させることも珍しいことではありません。何の問題も無いでしょう?」
気にもとめないシンノスケの態度に船乗り達は鼻白む。
「強がりかなんか知らないがな、お前、犯罪の片棒を担がされているのかもしれないんだぜ?それでもそんな態度が取れるのか?」
「犯罪の片棒?どういうことです?」
「本当に知らないようだな。カトレアが宇宙海賊と結託しているかもしれないってことを」
「はぁ?何を言っているんですか?」
組合に所属する自由商人が宇宙海賊に協力するなんてことは通常ではあり得ない。
確かに、その可能性はゼロではないし、過去に宇宙海賊と結託していた自由商人が存在したことも事実だ。
しかし、それはあまりにもリスクが高すぎる。
無論、宇宙での海賊行為は重大なる犯罪行為で、宇宙海賊に協力するのも同罪だ。
しかし、組合を通して仕事を引き受けた自由商人は、航行データの提出が義務付けられており、組合によって厳正に審査される。
積荷の横流しや、他の犯罪も含めて、宇宙海賊との共犯行為などしようものなら直ぐに判明してしまい、その事実が明るみに出れば、自由商人の資格を剥奪されると同時に逮捕されてしまうのだ。
そのリスクを冒してでも宇宙海賊に加担しようというならば、それは馬鹿者、愚か者に他ならない。
確かにカトレアは阿漕?な商売をしているが、それは規則の範囲内でのことであり、シンノスケの知る限り、カトレアは馬鹿者でも、愚か者でもない。
「何を言い出すのかと思えば、荒唐無稽なことです。貴方達のくだらない願望?いや、妄想に付き合う必要はありません。私達のことは全て自己責任の範疇ですから放っておいてください」
「本当に何も知らないんだな?カトレアの姉が特級の賞金首の宇宙海賊だっていうのは有名な話だぜ?カトレアだって背後で姉と繋がっていて、色々と協力しているってもっぱらの噂だ」
そんな話をシンノスケにしたところで、何の得もないだろうし、かといって本当にシンノスケのことを心配しての助言でもなさそうだ。
どうやら彼等は護衛艦乗りではなく、それぞれ貨物輸送を生業としている自由商人らしく、同じ自由商人のカトレアが荒稼ぎをしていることが面白くないのだろう。
つまらない嫉妬に付き合う必要も暇もない。
「有力な情報、ありがとうございます。ただ、私には関係のないことですし、興味もないことなので、失礼します」
相手にするのも面倒になったシンノスケは適当に切り上げて立ち去ろうとするが、その態度が癪に障ったようだ。
「ちょっとまてよ!流れ者が調子に乗るなよ!」
立ち去ろうとするシンノスケの肩を1人の男が掴む。
「おいっ!いい加減にし・・・」
丁寧な言葉遣いをする必要もないし、されるがままになる必要もない。
シンノスケが男の手を振り払おうとしたその時だった。
「なんの話をしているのかしら?その方、シンノスケさんは私の大切な取引相手なのですけど」
相変わらず足音も立てず、いつの間にか近づいていたのはカトレアだった。




