ちゅーはできないよ(1)
バグを利用して入手した激レアアイテム『ストーリー・チャート』。
その性能は指折りで、異世界を攻略するにあたっての最短ルートと各ダンジョンの攻略法が示されていた。
しかし、このアイテムの入手過程において、ティアラが状態異常になってしまうという事態に。
たしかにティアラの魔法ゲージ自体は減少していたわけだが、陶酔調の話し方と、それに付随したとろんとした目付き―――これらの原因は、弓兵の放つ毒矢だったらしい。
さらにまずいことには、手元にある物語攻略指針―――その2763ページによれば、状態異常回復ポーションを持っていない場合、毒状態の冒険者を復帰させる方法は一つ。
口付けによる毒の除去……とのことだ。
俺は、ティアラをちらりと見た。
青い髪の毛が夕焼けに照らされた結果、ふわふわ揺れつつ光っている。昨夜、手違いから宿屋同室に泊まることとなった時、ドライヤーとケアにおよそ1時間近くも費やしていたティアラ。
いくら毒の除去を行うためとは言え、俺にそれを行うことは不可能に思えた。
しかし、どうしようも無いからティアラの回復を諦める―――ワケにもいかない。彼女と『ストーリー・チャート』獲得の喜びを共有し、異世界を脱出……そして元の世界で、ともに酒でも飲まないままではいられない。
「しかし、どうするか……」
ティアラの頭上には『毒状態 一時間につき、2500の体力を失う』とのポップアップが。試しに、この表記にも当たり判定が存在するのかを検証してみたが、あえなくその望みは潰えた。
浮かぶポップアップに俺の右手は透けた。小細工は通用しないみたいだ……
おまけに、この体力減少は元となる状態異常を回復させない限り、ポーションによる『体力ゲージの回復』が機能しないらしい。
ティアラの体力は、現時点で3650……
ついさっき全回復させた時は、4000ほどもあったはずだ。つまり、多く見積もっても残り1時間ほどでティアラの体力は無くなる。
最も簡単な方法は、もちろん毒状態からの回復―――それに必要なポーションを手に入れることだ。
しかし―――この異世界には、ショップという概念がない。
そもそもが『荒廃した世界』として振る舞うこの異世界においては、取引や物流といったものが機能していない。なにかアイテムが必要ならば、ダンジョンへ潜り、効率度外視でそれをドロップさせるしかないわけだ。
―――俺が、異世界から脱出したい理由。
それは、綺羅羅ちゃんのライブへ行く予定が、来月に迫っているから―――
覚えたコールも、ダンスだって無駄にしたくないから―――
ティアラが、異世界から脱出したい理由は―――一体、何なのだろうか。
彼女も来月に予定があると言っていた。彼女は初めて俺と遭遇した時、俺の壁抜けに強い興味を持っていた。また、どのようにして負けイベントを攻略したのか……ということにも。
必死に元の世界へと帰りたいことを話す彼女の目は、俺と―――
よく似ていた。
評価してねっ!!!




