敵をバグらせよう(1)
ゲームをしていると、こんな経験をしたことがないだろうか。
難関のダンジョンを突き進み、ついに辿り着いたボス部屋。
レベル差の大きいボス―――その戦力に呆然としながらも、簡単に諦められるか精神を拠り所に戦闘。
しかし、やはり力及ばず体力を大幅に失う。
このままでは負けてしまう……今までかき集めたアイテムやら経験値が全て無駄に―――しかしもう諦めるしかない、と思った時のこと。
ボスの挙動がおかしくなることが、なかっただろうか。
例えば、ボスを壁付近へ追い詰めた時。大抵のゲームでは、ボス部屋の壁にまで破壊判定が組み込まれていることは少なく、基本的にはただの風景として機能している。
そうした時、行動範囲を大きく狭められたボスが行動は、非常に単調な―――例えば、延々と無意味な近距離の―――攻撃のみを仕掛け続けるような状況が、多く見られる。
先ほどの、斧兵が繰り出した翡翠色のエフェクトを纏ったアックスの連続突き攻撃も、恐らくこの現象に近いものがあるはずだ……多分。レベル差が大きく、退いたり回避したりする必要がない相手の俺に対して、思考の幅を狭められた結果があの連続突きなのではないだろうか。
そして、ティアラが相手をしている弓兵。彼も非常に厄介で、女神からゲームテスターに任命された魔法使いが手を焼いている理由は簡単に分かる。
特に、輝く翡翠色の矢を高速で射出する技は、かなりヤバそうだ。食らえば、レベルがそこそこあるティアラにしたってひとたまりもないだろう。
だが、弓兵の攻撃だって諸刃の剣だ。上手く使えば、こちら側へ有利なものへと変えることができるが―――果たして、上手くいくだろうか。
「うおわぁっ……! し、しっつこいなこのクソ雑魚人形……ん? あ、熱っ! お、お尻燃えてませんかこれっ!?」
ティアラの尻に火がついている。弓兵の攻撃によって生じたものだろう。体力ゲージも半分を下回りつつあるのに、対する弓兵は四割減程度―――急がなくては……
しかし、周囲に壁がない中で、考え出した俺の作戦が上手くいくかどうかは分からない。下手を打てば、ティアラを危険な目に遭わせてしまう可能性も……
ティアラの放った魔法でスタン状態にあった斧兵が、むくりと立ち上がった。迷う余地はなさそうだが、ほんの少しの勇気が振り絞れない。
今までの俺には『壁抜け』『火炎放射器(無限燃料)』という頼もしい味方がいたが、現在は不在だ。斧兵の猛攻を前にしては、骨粉を利用した処理落ち作戦をする暇すらない。
まだダンジョンに入ってすらいないのに―――こんなところで終われるか。
そんな時、俺の心に馴染み深いメロディーが響いた。
「―――ゴーゴーレッツゴー大好き綺羅羅……ゴーゴーレッツゴー大好き綺羅羅……!」
このメロディーは……綺羅羅ちゃんの5thシングル『証明してみろ私へ愛』の間奏コール……?
そうだ……綺羅羅ちゃんは、いつだって俺たちに教えてくれた。壁はぶち破るものだって―――
抜ける壁がないなら……
「作ればいいだけだろゴーゴーレッツゴー大好き綺羅羅!」
俺は、5thシングルにおける間奏コールを叫びながら、高くそびえる塔の入り口へと走り出した。




