壁抜けin風呂
リビングへと、壁抜けした俺が突入。
俺は焦った。何故なら、俺の姿が装備全解除状態だったからだ(つまり裸)。
間違いなく、魔法使いのティアラは表情こそ変えずも、俺を何らかの魔法で攻撃するだろう。仮にも、なかなか男勝りな性格をしている彼女だって女子なワケで。
取り乱した彼女から電撃魔法やら凍結魔法やらを喰らってしまったとしても、非は俺にあるので文句は言えない。
一瞬で覚悟を決めた俺は、両手を広げ、肌色の身体でこう叫んだ。
「すまんティアラ! 俺が悪い! 殺せ!」
さようなら綺羅羅ちゃん。来世でも推させてくれ―――
一筋の涙(不純物無し)が、俺の頬でキラリ輝いた。
―――が、いつまで経っても俺に魔法攻撃がくわえられることは無かった。
恐る恐る目を開ける。
そこにあったのは、あんぐりと口を開けた状態で俺を見つめ、何故か俺の財布の中身をまさぐっている魔法使い(20)の姿であった。何してんだオイ。
「―――い、今、貴方どうやってお風呂から、こっちへ……い、いやいや……壁をすり抜けて……」
あ、そうだった。
ティアラに『壁抜け』のこと話してなかった。
***
「「どういうことか、説明してもらいましょうか」」
セリフが重なった。
もう一度温まりなおす気には、どうもなれなかった俺。あの後、そのままルームウェアを着て、髪をさっさと乾かした。
今は、一つしかないベッドにティアラが座り、部屋の隅に設置されているソファへ俺がかけている状態だ。
「いやいや、説明してほしいのは私の方ですけど! 何ですか、さっきの魔法は。どう考えても、壁を抜けてましたよね? 手違いで転移してきたおじさん?」
「おじさん言うなよ……君には、まだ説明してなかったな」
「聞いてませんよあんなの。ジョブが魔法使いである私が知らない魔法なんて……一体、どんな種別の何属性の魔法なんですか」
青い髪を後ろ手で一つに結ったティアラは『うざったいから』と言って、バフ効果のあるらしい装備品『魔法のローブ』をその辺に放り投げ、俺と同じく宿屋支給のルームウェア姿に。
「俺もよく分からんのだが―――端的に言えば、あれは『バグ』だと思ってくれていい」
「バグ? ……と、言うと『壁抜け』……とか?」
「さすが、神から選ばれたゲームテスターティアラさんだな。その通りだ」
意外にも、それを聞いたティアラの顔が驚いた時のそれに変化するなどということは無かった。むしろ、無表情極まれりといったその表情は、ますます豊かさとは程遠い方面へ歩みを進めていく(ほんの少し、左の眉がぴくりと動いたということはあったが)。
口元に手を当て、しばし思考するティアラ。その姿は、宿屋フロントの接客NPCに、うっかり一人分の部屋の予約しか注文しなかった時とは打って変わって聡明に見えた。
しばらく考え込んでから、ティアラは俯いていた顔をこちらへ向ける。
こちらもバフ効果期待によるモノなのであろう、大きな眼鏡を外したその姿は、思っていたよりもずっと大人っぽく見えて、ほんの少し驚いた。
「……もしかすると、おじさんがこの異世界をとっとと脱出する鍵になるかもしれませんよ。そうと決まれば、とっととこの異世界を出ましょう。一刻も早く。一秒も早く」




