悪魔ルシル
縛られるものがなくなった悪魔はこれまでの経緯をすべて話すという。
「あんたの名前は?」
「ボクはルシル。ルシファーの息子だ」
「……ワシらと最後に戦った悪魔だな。ワシはお前の父を倒した一味だぞ」
「父は悪いことをしたから自業自得だ。殺されて当然だよ」
「なんでそんなに割り切れるんだ?」
「ボクは人間が憎めなかった。人間の友達がいたから」
「珍しいこともあるんだな」
「でもその子はお父さんに殺されたよ」
「……そうなのか」
「その日からボクは父親を家族だと思えなくなった」
「辛かったな」
「次の日にボクは悪魔の城を出て戻らなかった。その後の家族のことは何も知らない」
すべて事実。
少なくとも彼は嘘をついてない。
「ある日、ボクが隠れ住んでいた場所に父親の配下が来たんだ。そしてそのまま拉致された。父親が殺されたことはその時に聞いたけど何にも感じなかったよ」
全員がその独白を黙って聞くことしか出来なかった。
「その日からボクには常に監視が付くようになった。そして去年、ここに連れてこられた。監視はされていたけど他には特に何もなかったから油断していたんだ。いきなり従属の奴隷紋をつけられて従うしかなかった。奴らに無理矢理やらさらたのはボクの天性のスキル『異世界転移』を使ったなにかだ」
ここでそのスキルが出てくるのか。
だとしたらルシルによって私の世界への侵攻が行われていたということだな。
「なぜ解放された?」
「解放はされていないよ。まさか敵がここに辿り着くとは思ってなかったと思う。各フロアにさらにSSランクのモンスターを大量に投入してから、万が一に備えて自分は先に逃げたんだよ」
「ん? そんなすごいモンスターなんていたか?」
「フロアごと潰したんじゃないか」
「あーね」
のんびり残っていてくれれば一気にカタがついたのにな。
「このことを知ったらボクを取り返しに来るはずです。この力は他にないものだと言っていたから」
「間違いないぜ。異世界転移なんてレア中のレアスキルだ。聞いたことがないからな」
ギルの言葉を聞いてニヤリと笑う私を見てルシルは不思議そうな顔をする。
「どうしたんです?」
「ルシル。キミのスキルで襲われていたのはオレの世界だ。話を聞く限りオレとキミの敵は同じだな。オレたちは仲間になれる。手を組めるんじゃないか?」
ルシルは驚いた顔をする。
「一緒にワルモノを退治しようぜ」
ルシルの顔が笑顔に変わる。
「喜んで!」
そして彼の頬を涙が伝う。
「どうした?」
「嬉しいんだ。仲間は初めてだ。ずっとこういうのに憧れていた」
私は手を差し出す。
この手をルシルは力強く握ってくれたのだった。
―――――――
「一気に仲間が増えたな」
「確かに。熊公にブラドにルシルか」
「全員が規格外ってのがマスターらしいぜ」
「さすがは我が主である」
熊公とブラドは神獣になったから問題なし。
ルシルもダンジョンモンスターじゃないからこのまま連れ出しても大丈夫なはずだな。
「で、どうするんだ?」
「ルシルを取り戻しに来るってんなら好都合だ、迎え撃とう」
「ならワシの国だな」
「……いいのか? そうしてもらえると助かるけど」
「当たり前だ。ウチはこの世界の最大戦力を誇る大国だぞ」
「ありがとう。なら一度ケンターの迎賓館に戻って魔狼たちをピックアップしてからアーメリに戻ろうと思う」
「うむ。わかった」
私たちはまずダンジョンの入口に転移で帰還する。
ブラウが身分を明かしてダンジョン踏破を報告するとともに、29階の封鎖を通達した。
踏破の報告に沸き立つその場を後にして、そのまま迎賓館の部屋に転移した。
幸い、誰にも気づかれていなかったので迎賓館は平穏そのもの。
そのまま国王と一緒に王宮へと転移したのだった。
―――――――
「ルシル、別にありのままの姿でもよかったのだぞ」
「いえ、ブラウ国王の民に余計な不安を与える必要もないでしょう」
いまルシルは翼と尻尾、ツノを隠して普通の青年の姿をしている。
王の新しい側近として身分を新しくしたのだ。
「おいブラウ国王はやめろ」
「こうなったからには譲れませんよ」
「やめろ。今まで通りにしてくれ」
「無理です国王」
「こうして見るとルシルってイケメンだよな」
「せやな、なかなかのもんや」
「ブラドだってそうだぞ」
ブラドはブラドで10歳くらいの少年の姿になっている。
こちらはさすがにドラゴンのままでは国中が大騒ぎになってしまう。
それだけドラゴンというのはこの世界にとって力の象徴らしい。
というわけでブラドはルシルの弟で執事見習いという身分になっている。
アーメリに私たちが根を張る以上、敵も安易には攻め込めないはずだ。
この世界の種族、国家の絆は深い。
敵がどのような企みをしようとも国家レベルの争いにはなりようがない。
そしてこのアーメリは最強国家だ。
この最強国を相手に個が何かをできるとは思えない。
それゆえの策が必要になる。
この国の民に脅威とならない程度の隙間を罠として空けておくことにしたのだ。
―――――――
そしていまは緊急会議中。
私は針の筵になっていた。
「だからってこれはどうなんや」
「主、これはどうかと思うぞ」
「うむ。やりすぎであるな」
「ボクもそう思う」
「どうするつもりだウミ」
経緯で言うと、まず私は最初に城壁の外にクリエイトで小さな村を作った。
村の人口は3人。
私のほかにはリュカ、ブラドだ。
ギルはノーカウントだし、熊公と魔狼ちゃん選抜10匹もペット枠だからな。
たまに国王とフローラがお忍びで泊まりに来る楽しい村ライフを満喫していた。
で、そのペット枠がヤバいことになりつつあるということでブラウも加わって緊急会議が開かれているのだ。
まず落ち着いた頃合いで王国の外、通称「帰らずの森」に住まわせていた魔狼軍団を村に住まわせようとしたところ、その群れが爆発的に増えていた。
その数は490匹から2000匹に拡大していたのだ。
その時点で村を拡張せざるを得なかった。
ついでに町の周りに例の果樹園を植えたところ、それを口にしたモンスターが凶暴性を無くして次々に村の周りに住みだした。
すっかり懐いてしまったので仕方なく村をさらに拡張して彼らも住まわせることにした。
そんなこんなでこの村はひと月も経たないうちに村と呼べるような規模ではなくなっていたのだ。
「町でも厳しいぞ」
「でも住民は3人だよ」
「ペットがもうすぐ5,000匹に届くだろうが!」
「手当たり次第に絆を結びよって」
「ほとんどがSランクになったらしいな」
「せやで」
「それを言うなら人化できるやつがもう500人はいるけどな」
「「!?」」
「いや主、それは先々週の話だ。もう1,000はゆうに超えているぞ」
「「は?」」
「そうだっけ? なら家が足りないな。倍にしておくか」
「ウミあのな、それもうお前が領主をするレベルだぞ?」
「嫌だよ面倒くさい。誰だよこんなに増やしたの」
「「「「「お前(主)だ」」」」」
ということで緊急会議は終わり。
この村は町になった。
領地は帰らずの森すべて。
この広大なエリアを統治しなければいけないらしい。
領主は私だ。
町の名前は名字から「フジ」となった。
せっかくなので富士山を作ったらまた怒られた。




