攻略
ダンジョンの攻略は順調に進んでいる。
いまは9階。
走っているとチラホラと冒険者たちを見かける。
その都度、神眼で調べてきたがここまでは特に怪しい者はいなかった。
「何にも引っ掛からないな」
「弱いモンスターしかいないしな。早く進もう」
「む、また進路に湧いたな。我が露払うぞ」
素早くリュカが速度を上げて現れたグールを切り刻む。
「ありがとな」
「当然だ」
そして辿り着くボス部屋。
きちんとした部屋になっているから明らかにそれだとわかった。
「これを開けたらバトル開始だよな。で、倒さないと先の扉が開かないってやつな」
「ほとんどがそうだな」
「ん? ほとんどって言い方なんだよ」
「たまにトラップで違うところに飛ばされたりすることもある」
「なんだそれ。めちゃくちゃだろ」
「なんでもアリなのがダンジョンだぜ」
「まあ29階までは踏破ルートだから大丈夫だろ」
「よし、行くぞ」
扉を開けるとそこにいたのはキングオーガの亜種だった。
「まあこんなもんだよね。最初のボス部屋だしな」
「どうする?」
「じゃあまあワシが出ようか」
ブラウがのそりと前に出てそのまま空を殴った。
その衝撃でキングオーガは粉々になったのだった。
「なんだよそれ」
「空殴りだ」
「まんまじゃん。強すぎるとかのレベルじゃないぞ」
「だろ。だから手合わせをだな……」
「絶対無理だろ! 殺されるわ」
「ウミは本当にわかってないな」
「自己肯定感の欠片もないぜ」
「主は謙虚なのだ」
宝箱と地下への階段が現れる。
「おお、宝箱だ」
「宝箱にもトラップがあるからな」
「えー」
「神眼持ちだろ」
「あ、そうか」
見てみると……金貨の山らしい。
まあこれも最初だしな。
開けずにそのまま収納するのだった。
―――――――
続くフロアは岩山ゾーン。
「洞窟の次は岩山か」
「まあまだ肩慣らしにもならんだろ。走るぞ」
走りながら運悪く前に湧いたモンスターはすべてリュカが倒していく。
時々落とすドロップアイテムは遠隔で回収していく。
そして程なく辿り着く19階のボス部屋。
次のモンスターはキングトロールの群れだった。
「ウミもやってみろ」
「ん、わかった」
ここはこないだ覚えた散弾銃アタックだな。
「てぃっ!」
ブラウ同じく一撃でキングトロールの群れを消し去る。
「おお、便利な技だな」
「だろー」
宝箱には謎の瓶が。
「お、エリクサーだって! いいやつだな!」
「そうか? オレたちにはマスターの魔法があるからなあ」
「確かにな。特段必要でもないか」
「ウミは欠損も治したらしいな。エリクサーなどいらんだろ」
「ならたくさんコピーしておくからブラウの兵にあげればいい」
「それはありがたいな」
―――――――
そして現段階の最深部、29階へ。
まだ出てくるモンスターもそこまで難易度が高いものではない。
なのに未踏であるのにはなにか理由があるはずだ。
「マスター、神眼ではどうだ?」
「んーと、あ。入った瞬間に床が落ちるらしい」
「なんだその罠」
「引っ掛かるやついるのか?」
「床が全部落ちるらしい」
「必死かよ」
「モンスターはブラッドベアだな」
「そんなスキルないだろ」
「毎回一緒に落ちてるっぽい」
腑に落ちないな。
これは当たりか?
「怪しいよな」
「ふむ。人為的な気配だ」
「この先に来てほしくない輩がいるってことだ」
さてどうするか。
床が落ちるならまあ飛ぶか。
「飛行して入ろうか」
「なんだそりゃ大丈夫なのかよ」
「ギルは飛べるだろ。ブラウとリュカだけ抱いて飛ぶよ」
「我は壁に爪を立てるから大丈夫だ」
「ならワシも足場を壁に作ろう」
「そっか。壁を使えばいいのか。なら床を作るよ」
扉を開けると同時に、壁に突っ張る形で床を張る。
ついでに落ちるブラッドベアも助けてやる。
「ボスモンスターも助けたのか」
「倒さなきゃ次に進めないぞ」
「いやでも落ちるのをほっとけないだろ」
ブラッドベアはキョトンとしている。
なんか様子が変だな。
ん?
「あのさ、短いから分かりにくいけど……あいつシッポ振ってね?」
「「「あ」」」
とりあえず異世界はエサだよな。
収納から焼きたて保存してある肉を取り出してみる。
おお、短いシッポをブンブン振ってるじゃないか!
近づいて手渡す。
クマはおじぎをしてそれを受け取る。
おじぎするのか!
やべえかわいい!
おかわりを何度かした頃にはすっかり仲良しになっていた。
投げたり投げられたり。
乗せてもらって走り回ったり。
抱きついて転がったり。
こりゃ楽しいぞ!
時間を忘れて遊び倒したのだった。
「だめだな」
「もう倒せないだろあれ」
「攻略はここまでであるな」
ブラッドベアはすっかり私たちに懐いてしまった。
毎回落とされ続けてうんざりしていたのだろう。
「主のことを救世主のように感じているのであろうな。うむ。見どころがあるぞお前」
「リポップしても記憶が残ってたってことか?」
「いやそれは聞いたことがないぜ」
「倒されてるわけではなく下に落ちてるだけだからな。毎回死んでないんだろう。時間とともにそのまま転移させられてるんじゃないか」
「そういうことか。とにかくここは一旦侵入禁止とするよ。あとで指示をしておこう」
で、当然困ったことになる。
「これどうやって出るんだ?」
倒してないから先に進めない。
同じく入った扉は開かない。
なんか手はないものか。
みんなで悩んでいると、ブラッドベアが唸りだした。
「ん? どうした?」
「グガアッッッ!!!」
突如ブラッドベアが私に襲いかかってきた。
もちろんそんな攻撃が当たるはずもない。
「なんだ? どうした?!」
それでもブラッドベアは攻撃を続ける。
何度躱されても攻撃を止めようとはしない。
本来の獰猛さを思い出したのか?
いや無いよな。
あるいはリポップの時間か?
ダンジョンモンスター特有のなにか時間的な縛りなのだろうか。
とにかく避け続けるしかない。
「……主」
「? なんだリュカ」
「倒してやれ」
「え?」
「我らのためにしておるのだ」
「なんだって!?」
「解っているのだ。これしか主をここから出す方法がないことを」
「そんな!?」
神眼でブラッドベアの心を読む。
(ありがとう)
「!」
(楽しかったな)
(もっと一緒にいたいなあ)
(嫌だなあ)
(ありがとう)
「お前……そんなのできるはずないだろ……」
(ありがとう、バイバイ、ありがとう)
涙がとめどなく溢れてくる。
それを見て、ブラッドベアも泣き出した。
(ああ、ごめんね)
「……ちきしょう」
悲しみが怒りに変わる。
それはどんどん膨らんでいく。
「マズい! マスター、落ち着け」
「……いいだろ。吐き出していい。ウミ! 下に向けろよ」
その声を聞いて私は少しだけ冷静になれた。
思い出す。
元凶は下にいる。
「ふざけんなよ! 待ってろ! すぐに行くからな!!」
怒りの拳を地面に叩きつける。
一点に集中したそれは全てを破壊することなく、ただ真っ直ぐに地下深くに穴を穿った。
「……ありがとうブラウ、やらかすところだった」
「これからはコントロールできるだろ」
「ダンジョンの自己修復が始まる前にこの穴から降りようぜ」
「なあギル、こいつは連れていけないのか?」
「ボスモンスターだからな。この部屋からは出られないよ」
「そうか」
私はブラッドベアを抱きしめる。
「連れて行ってあげられなくてごめんな」
「グァ」
「熊公、また遊びに来るよ」
その瞬間、私たちを白い光が包みこんだ。
「絆!? ダンジョンのボスモンスターだぜ!?」
「まあ完全に友だちになってたからな」
「さすがである」
すぐに神眼。
名前は熊公。
「神獣(見習い)」になっていた。




