国賓
アーメリを旅立つ朝。
見送りに来たのは王族のみんな。
王族といってもあの国王だからみんなとても気さくで良い人たちだった。
最後に挨拶をしてくれたのは孫娘のフローラ。
「少しだけお嫁さんもいいかなあと思いました」
「……ん?」
そういってフローラは私の頬にキスして去っていった。
「おいおいおい。王族に手を出しちゃもう逃げられんなあ」
「手を出すってか出されたよな、いま」
「そんなのが言い訳になると思うか?」
「いや無理だって。オレあっちに許婚がいるからな」
「2人目でいいぞ」
「いや……3人いるんだわ」
「なんだそれ」
「いろいろありまして」
「ほんっとに面白いな、ウミ」
いい国だ。
目指す形はここにもあった。
「ありがとうなブラウ。オレたちの国づくりのいいヒントをもらえたよ。でもおこづかいは足りなかったぞ」
「あのな。あの金貨一枚でそこそこの家くらいは建つぞ」
「……は?」
「あれは白金貨じゃないぞ」
「白金貨? そもそも金貨の価値からわからないんだけど」
「あれは我が国特有のミスリル金貨だ」
「へえ、なんか特別なのくれたんだな!」
「おいリュカ、こんなんでウミは大丈夫なのか?」
「異世界二日目であるからな」
「ちゃんと教えとけよ」
「あいわかった」
馬車に乗り込み、みんなに見送られながらアーメリを後にする。
みんな遠くになってもずっと手を振ってくれている。
「いい国であったな」
「そうだな。あ、リュカ、白金貨って幾ら?」
「主の世界で言うなら親父殿のごはん100回食えるくらいだな」
「ん? 親父のコースってフレンチにしたら安いけどそれでも一万円だったよな。ってこれ一枚で100万!?」
「違うぞ主。これはミスリル金貨だ。これ一枚で白金貨100枚になる」
「へ?………1億!? それが10枚? 10億!?」
思わず叫んでいた。
「ちょっと返してくるわ。すぐ戻る」
転移でブラウの元へ。
「なんだ早いな。冒険は止めたのか?」
「違うよ! なんだこれは! 貰いすぎだ!」
「何言ってんだよ。もっていけ」
「さすがにこれは無理だ」
「一度授けたものを返されるなんぞあり得んからな」
「マジかよ」
「代わりにここをお前の第二の故郷だと思え。十分釣りが来るよ」
最後までデカすぎるだろ。
かっこいいなあチキショウ。
「だーっ! わかったよ! ありがたくもらうよ」
「うむ。それでよい」
「いつか100倍にして返してやる」
「ハハハ、楽しみにしてるぞ」
「じゃあな。改めて行ってくる」
「またな」
最後まで楽しすぎた。
「返さなくていいってさ。ありがたいな。……なあリュカ。もらったのはいいけどさ。これまともに使える店なんてあんのか?」
「あー。ないな」
三度ブラウの元へ転移する。
ミスリル金貨一枚分を日常使いできる硬貨と白金貨に両替してもらったのだった。
みんな大笑い。
締まらねー!!
―――――――
「もうさすがに戻れないぞ」
「主。こんなこと言ってはなんだが、はっきりいってお金なんていらなかっただろ」
「え? いるだろ?」
「すべて整った豪邸代りのクルマもある。食事も何もかもアイテムボックスがある。足りないものはクリエイトできる」
「あ……」
確かに。
私はがっくり両手をつくのだった。
「いやすまぬ。そう、あれだ、町で聞き込むにも細かい金は必要だ」
「リュカの優しさが染みるぜ」
しばらく走ると教えてもらっていた町が見えてきた。
ここはアーメリの王城の周辺都市だ。
近くにダンジョンがあるのでその管理も担当しているそうだ。
「ダンジョンってなんかワクワクするよな」
「入ってるヒマはないのではないか」
「それな。入りたかったけど残念だ」
やがて城壁に辿り着く。
多くの馬車や人々が並んでいたが、魔狼に引かせている馬車とあって周囲は驚きを隠せない。
みんな避けるのですぐに列の先頭に来てしまった。
衛兵たちも慌ててこちらにやってきた。
「なんかすみません。みなさん避けてくださって順番抜かしみたいになっちゃいました」
「そりゃそうだろ! なんなんだお前は」
あっという間に大勢の衛兵たちに囲まれてしまった。
いかん、なんか大ごとになってしまったぞ。
私は馬車を降りて事情を説明する。
「私は旅の者で名をウミと言います。すみません、こんな騒ぎになるとは思わなくて」
「騒ぎにならないはずがないだろう! 魔狼が引く馬車など聞いたこともない。とんでもない危険モンスターだぞ」
そこへリュカが割って入る。
「横から失礼する。我はウミ様に使えるテイマーだ。この魔狼たちは我の使役するモンスターで何ら害はないものだ」
「そ、そうなのか? 本当に魔狼なんてテイムできるものなのか?」
そこでリュカは魔狼ちゃんたちに「お座り」、そして「伏せ」をさせた。
「おおお、すごい!」
「本当に魔狼をテイムしているぞ」
「なんだあの獣人は!」
衛兵も周囲の人たちも感嘆の声を上げる。
「皆の者。騒がせてすまなかった。この通り魔狼たちに害はない。どうかこのまま城下に入れてもらえぬか?」
「も、もちろんだ」
「ギルドカードを見せてくれればいい」
げ。ギルドカード?
そんなもんないぞ。
顔を見合わせる私たち。
「ん?どうした」
「いやギルドカード以外に代わりになるものって?」
「は? あるわけないだろ」
「なんだまさかギルドカードがないのか?」
ざわつく衛兵たち。
やばいな。
ブラウのやつ、そんなものが必要なら言ってくれよな。
ん? ブラウ?
「あ」
「なんだ?」
「ギルドカードはないけどオレ、ブラウの友達ってか客人なんだけどダメ?」
「おいおいよりによって国王の名前を出すのか」
「大丈夫か君。場合によってはよっぽど重い処分になるぞ」
「いや本当に。昨日も王室に泊まったし」
「いい加減にしろ。このままだと大変なことになる」
困ったな。
あ。ミスリル金貨!
確かアーメリ王室固有の金貨だったよな。
「証明になるかわからないんだけど……ブラウからもらったミスリル金貨っていうのならあるんだけど」
そう言って私はもらったミスリル金貨を見せる。
途端に衛兵と周りにいた人間がフリーズする。
「は?」
「ミ、ミスリル金貨!?」
「おい、本物か?」
「知るわけないだろ」
「見たことないぜ」
「えええ」
ざわつく中、奥からひとりの兵士が走ってくる。
「まてまてまて」
「隊長?」
「き、君がウミ様か?」
「え。そうだけど」
「いま、たったいま手紙が届いた。ブラウ国王からのお達しだ。魔狼を連れた旅の者ウミは我が国の大切な客人ゆえ粗相のないようにとのことだ」
周囲がどよめく。
「マジか。あれ本物のミスリル金貨か!」
「うわあ、初めて見たぞ」
「すげえ!」
衛兵は私たちに向けていた剣を一斉に胸に捧げる。
「失礼いたしました!」
「大切な客人にとんだ無礼を!」
「「「申し訳ありません!!」」」
「いや、こちらこそなんの説明もなく押しかけてしまってごめんなさい」
「おやめください。国王のVIPが頭を下げるなど」
「道を空けろ!ウミ様のお通りだ!」
「空けろ空けろ!」
いや止めてください。




