ちょっとマズい?
オーガの群れに襲われていたキャラバンを救い出した。
倒れていた護衛たちもどうやら命は無事のようだが中には手足の欠損のある者もいる。
このままではそのうち出血多量で死んでしまうだろう。
「どうするんだ? 治せるのか?」
「残念だが無理だ。苦しむくらいならいっそ」
「ちょ、ちょっと待て。おいギル、リュカ、これなんとかならないか」
「我には無理だな」
(無理だ。マスターならなんとかなるんじゃないのか?)
「そうだな。とりあえずヒールは近くでたくさん見てきたもんな。やってみるか」
攻撃魔法は無理でも魔法はイメージ。
治療魔法ならどっちかといえばクリエイトに近い気もする。
なんとかしてみせるさ。
ゲームもそれなりにやってたしな!
超有名なあれこれミックスでいくか!
(みんな元の元気な姿になる! 手足も治る!)
「ボヘアリージャ!」
途端に周囲を優しい光が包み込む。
その光が晴れたときには全員が全快していた。
「やった!」
だがその後に起きた周りの反応がとんでもないものだった。
「んなあ!」
「ええええええ!」
「な、治ってる!」
「千切られた腕が!」
「オレの足が!?」
「嘘だろ」
「大魔道士か!?」
「いや大賢者だ!」
「だがあの剣技だぞ!?」
「まさか」
「え、まさか?」
「勇者……?」
「「「「勇者さまだ!」」」」
いかん。
やりすぎだったのか。
でもほかに選択肢なんてなかったよな。
「あなた様は伝説の勇者様だったのですね!」
「いえ! 決してそのような大層なモノでは……」
「勇者だ!」
「勇者が誕生したんだ!」
「「「うおーーーー!!!!」」」
ダメだ。
やらかした。
―――――――
なんとか皆を落ち着かせて勇者などという者ではないと伝えたのだが、誰もそんなことは聞いちゃいない。
町への旅の間中、羨望のまなざしで崇められ続けてしまった。
彼らを助けたのは森のほとんど出口だったようですぐに森を抜けて街道に出ることができた。
「改めまして勇者さま。私は王国御用達の商人、トールと申します。どうか王国に戻りましたらば国王に取り次がせてください」
「いやあの。お構いなく」
「そんなわけには!」
「本当に困るんですよ」
「勇者が現れたのにそれを報告しないなんてそれがバレたら私が磔にされます」
「いやそれはダメだ」
「ならぜひ」
「ええええ」
これは困った。
(なあ、これどうなると思う?)
(国を挙げて歓迎されるだろうな。主に相応しい対応だ)
(いやいや面倒は嫌だよ)
(なぜそんなに謙虚なのだ。王たる主には勇者の称号ではまだ足りぬと思うのだがな)
(おいギル!どうすんだよこれ)
(まあいいだろ。いざとなれば逃げればいいだけだ)
確かに。
でもまあ誤解だとすぐに分かってもらえるだろ。
ダメなら逃げよう。
「してトール殿。ここはなんという国なのだ?」
「え? ここはアーメリですよ」
「え?アーメリ??」
「あれ? 勇者さま御一行もアーメリを旅しているんですよね?」
「いやね、あまり人の目に触れずに旅をしていたもので。ここがどこだかも気にせずにあの森を抜けてきたんですよ」
そういって後方に大きく広がる深い森を指さした。
「え!? あの森を抜けてきた!?」
「え?」
「あれは帰らずの森ですよ!?」
「なにそれ」
「Aランクモンスターの巣窟ですよ!」
「そうなの? でもみんなも森にいたじゃん」
「私たちはほんの入り口です。それもオーガに追い込まれてやむなく入っただけです」
「そんなのズルいよ。みんなもいたから大した森じゃないと思って正直に言ったのに!」
「なに言ってるんですか」
聞けばここ何年もあの森を通り抜けた者はいないらしい。
さらに伝説を追加してしまった。
「でもそんなにすごいのはいなかったけとな」
「どんなモンスターかいたのですか?」
「クマだろ。なんか角生えてたやつ」
「はあ!? ブラッドベア!?」
「あとバカみたいにデカいイノシシ」
「デスボア!?」
「三本角のトラもいたぞ」
「ジャイアントホーンタイガー!?」
どれもAを超えたSランクだったらしい。
「なんだよ、異世界でもインフレしてんじゃねえか」
(だからそうだって言ってるだろ)
「さすがであるな」
「とうすんだよこれ。みんな土下座して祈ってんぞ」
なんか勇者神王になったらしい。
なんだよそれ。
やがて大きな町が見えてきた。
真ん中には立派な大きな城がそびえ立つなかなかに大きな町だ。
てかこれ町じゃないだろ。規模感は国だ。
「あの、アーメリって町じゃないの?」
「はい? アーメリは世界一の大国ですよ」
「えー、そんなにデカいの?」
(おいおい、アメリカそのものじゃん)
(そりゃそうだぜ)
(言えよ!)
(なんとなくわかるだろうに)
城の門で一度止められる。
商人のトールかこちらを指差しながらなにやら身振り手振りで伝えているがろくな気がしない。
そのうち城門が慌ただしくなり、衛兵が馬で城に向かい、そこからはあっという間に大騒ぎとなった。
城からは軍隊が現れ、なんかファンファーレまで鳴り出した。
「おい、確認もせずに勇者認定してないかこれ」
「いやこれは王様の登場だろ」
「いきなりかよ」
なにやら城から兵隊を率いた立派な馬車が現れた。
うわ、これガチで王様の登場だぞ。
やがて馬車が目の前に止まり姿を現したのは――大きなティアラをつけた女性だった。
「あなたが勇者さまですか?」
「いや違います。ただの旅の者ですよ」
「王女さま!この方は紛れもなく勇者に違いありません!手足の千切れた傭兵を何人もたちどころに治したのですよ!」
「そうです!命の恩人です」
「ほら見てください、ここに跡もある」
「勇者さまに違いない!」
「こう申していますけど?」
「いえ、ただの医術に優れた旅の者です」
「100体ものオーガの群れをほんの数秒で倒したんですよ!」
「帰らずの森を抜けてきたのです!」
「ブラッドベア、デスボア、ジャイアントホーンタイガーも倒したそうです」
「なんと!」
「いえ、単なる強めの旅の者です」
「「「強めて!」」」
「それが本当なら勇者さまに違いありませんね」
うーん、逃げるか。
その時、馬車の中からひとりの大男が姿を現した。
「おう、面白いやつだな」
途端にその場の全員が膝をつき頭を垂れる。
見るだけでわかった。
これが王だ。
威圧感が普通にそれじゃない。
まるでジビエに相対した時のようなヤバさを感じる。
「よう、よく来たな!まずは殺ろうぜ」
あかん。
テンプレだよ。
だめだな。逃げるか。
主人公が迷い込んだのは第一作、第二作と同じ異世界です。
今回はお気に入りの国王コンビのうち、アーメリの国王を最初に登場させました。
気になった方はいつか前作たちもお読みいただけたら嬉しいです




