ヤバい
巨大リゾート計画とともに映画制作が決定した。
シシ側に映画を作りたいことを伝えたら二つ返事でOKがもらえた。
もちろん連続ドラマでも構わないとのこと。
「まずは台本だよなあ」
「ですよねえ」
「ツテはいくらでもあるけどなあ。どうしようかな」
「……ウミさん書けませんか」
「ん?」
「ほかの人が書くのはなんか違うんですよね」
「……それを言うなら掛川くんだろ。オレが発注を戸惑うのも同じ理由だ」
「ええ?」
「歌詞の解釈、メロディーの持つ世界観、どちらもいちばん理解していちばん多くの引き出しを持ってるのは君だよ」
「いやそんな。ウミさんの方が」
「オレはミズホが作り終わった曲の中からひとつ選んだだけだ。それに比べて君からもらった企画書な、あれは今でも覚えてるよ。いきなり『悩んだ別アレンジがあるなら聴かせてほしい』と言ってきただろ。あれが答えだ。あの曲には確かにもうひとつ最後の最後まで迷ったアレンジがあったんだよ。なんでそれが分かった?」
「……あれは……デモを聴いたときに出口が2つあるような気がして」
「ほらな。外にいたのにそれが理解できたんだ。今ならもっと書けることがあるよ」
「僕なんかでいいんでしょうか」
「オレが頼んでるんだからいいんだよ。決まりだな。……オムニバス映画で行こう。一話につきテーマは一曲だ。曲の並べ方にストーリーを持たせろ。時間ないからな。まずは全体プロットを、そうだな、明後日までだ。それが通ったら三花、古杉にも参加させて細部の打合せに入る」
「は、はい!」
「科学班と会社にはオレが連絡しておく。猫の手だろうけどサポートするよ。こっちは頼んだぞ」
「はい!」
きっといい作品になる。
予感はきっと確信に変わるだろう。
―――――――
その後、オムニバス映画のプロットを進めながら会社を動かし歪みにも対処していく日々が続いた。
そんな中、大事件が起きる。
過去と比較にならないアラートが鳴り響いたのだ。
「まずいぞマスター! とんでもない歪みが来る!」
「こっちも感じた! なんだよこれは!」
「エグいやつがハグレてくる!」
「場所は――大分だ」
「私の実家か。拠点があるね」
「すぐ行こう」
私たちは大分のリゾートに転移した。
「場所は熊本との県境か。……ここも人里とは離れてるな」
「毎回都合がいいよな」
「アキラもそう思うか」
「でもミズホのフェスのときは違ったよね」
「まあ、そうだよな。偶然……かな」
まだ少し時間がある。
今回は厄介な奴が来るので前線基地はいつもより離れた場所に配置した。
「ちょっと離し過ぎじゃねえか?」
「もっと離したいくらいだ」
その距離は10キロ後方。
歪みのポイントから1キロ離れた前線には私とリュカ、ギルのほかにアキラが付いてきた。
「魔法を撃たれたとしても一撃でへばるんだろ?」
「そうとも限らないぜ」
「なんでだ?」
「勘違いしているようだけどこの世界に魔素が全く無いわけじゃないぜ」
「そうなのか?」
「あっちに比べりゃ限りなく薄いってだけだ。魔力コントロールに優れたやつならかき集めれば少しは使えるかもしれない」
「そんなのありかよ」
「可能性があるってだけだけどな」
「頭にはいれておくよ」
「来るぜ」
いつものように景色が歪んであたりが白いモヤに覆われていく。
「濃いな。いつもと違う」
「ビリビリくる」
「そんだけ魔力が半端ないってことだぜ」
「主、気をつけろ」
「来るぞ!」
やがてモヤが充満するとそれが一気に晴れた。
そこに佇んでいたのは――巨大なドラゴンだった。
「!」
「ドラゴンか?」
「デケえ!」
「!?」
ドラゴンは全身がうっすらと透明にも見える鱗に覆われており、ぼんやりと光り輝いている。
「嘘だろ。ありゃ古龍だぞ」
「なにそれ」
「エンシェントドラゴンだ。世界の守護者だよ」
「主、あれはヤバいぞ」
「そんなのが!」
ドラゴンは辺りをゆっくり見渡してから、直後、真っ直ぐに私を見つめてきた。
その威圧感は半端ない。
これは今までとはケタが違うな。
『おぬしがそうなのか?』
静かな声でドラゴンが告げる。
「! 話せるのか」
「エンシェントドラゴンだぜ。古龍だよ! 神の力を持ってると思え」
「こんなのアリかよ。立ってるだけでキツイ」
「アキラ無理すんな。リュカも下がっていい」
「ふざけんな」
「断る」
再び静かで威厳に満ちた声が届く。
『答えよ。おぬしが災いを呼ぶ者か?』
えーい。意味が分からん!
「さっきから何言ってんだよ」
『答える気がないのなら消えてもらうぞ』
「ちょっと待て。意味が分からないんだよ!」
『ならば答えよ。おぬしが世界を滅ぼさんとする者か?』
「は? そんな訳ないだろ。どっちかといえば世界を守る者だよ!」
『どういうことだ』
「こっちが聞きたいよ。何しにこの世界に来たんだ」
『?』
ドラゴンは辺りを見回した。
『……ここはどこだ?』
「は?」
『なんだここは。我は邪悪なる気配を感じて深い森に来たのだぞ』
「ここは地球という星の日本という国だ」
『なんだそれは。聞いたことがないぞ』
「どこから来たんだ?」
『エルフの国の遥か南だ』
「それ異世界だろ」
『なんだそれは』
「いやウミ、異世界ってのはオレたちから見てってだけで国名でもなんでもないから」
「エルフの国の南……」
「あ、そうだな。あー、エンシェントドラゴンさん、ここは別の世界だ。きっとその邪悪なる者とやらに強制転移させられたんだろう」
『む。確かに深い森の中で白いモヤに囲まれたな。なんたる不覚』
「なんか災難だったな。そうだ、良かったらウチに来ないか? これもなんかの縁だ」
『そうであるな。どうすればいいのかもわからぬ』
「メシでも食ってから考えようぜ」
私とドラゴンが会話している裏でギルとアキラ、リュカが呆れていた。
「おいギル、なんでウミのやつ平気で神ドラゴンとあんな馴れ馴れしく話してるんだよ」
「本当だぜ。エンシェントドラゴンだぞ。マスターわかってんのか」
「主は天然入ってるからなあ」
「あ、連れてきたぞ」
「マジか」
「すげえ」
こうして伝説の古龍、エンシェントドラゴンを我が家に招待することになった。




