シシ
生活のほとんどが新天地に移行しつつある中、ユキナとミズホの仕事との両立がだんだん難しくなってきた。
かといってファンの気持ちを考えたら急に引退というわけにもいかないし、とうしたものかと思案していたところに、親父が面白いネタを持ってきた。
「シシTVっていうのが始まるらしい」
シシっていうのはいま世界中で話題のスーパー高校生だ。
バスケで日本を世界一に導いたスーパースター。
タレントでもあるその彼が中心になって世界規模の配信チャンネルを作る計画があるそうだ。
配信となれば掛川くんの立体ホログラム「身代わりくん」が使える。
ファンのみんなを悲しませずに新天地での生活が成立できるかもしれない。
「まだ非公表だが私のツテで話は通せると思う。一度会ってみるか?」
「それはいい! 親父、ぜひ頼むよ」
「わかった。昔からの馴染みがナンバー2でシシに噛んでる。すぐにセッティングしてみるよ」
こうして私は獅子川ショウという稀代のスーパースターと会うことになったのだった。
―――――――
「やあ久しぶりです、田城さん」
「鈴木さん! お会いできて嬉しいですよ。お元気でしたか?」
「私も会えて嬉しいよ。無理を言ってすまないね」
「とんでもない! シシ、この人が鈴木さんだ。若いころに助けてもらった私の恩人だ」
「獅子川です。お会いできて光栄です」
「こちらこそだよシシくん。これが私の大切なパートナーのウミ……藤沢ウミだ。家族の契りを交わしている仲だよ」
「ウミです。初めまして。世界のシシに会えるなんて嬉しいです」
「シシです。単なるバスケ好きの高校生ですよ。こちらこそ会えて光栄です」
私は今回、若い姿で参加した。
シシという高校生と手を組むのなら年齢的にこっちがいいだろうという判断だった。
偶然にも獅子川ショウも、お父さんの名前が獅子川
湘で、息子がカタカナというのもいいご縁になるという流れでもあった。
そして。
良縁を知らせるサインが過去イチの大きさで鳴り響いた。
「ウミとショウ、海と湘、不思議なご縁ですね」
「それを言うならそもそもが私と田城さんですからね。縁しか感じませんよ」
「シシくん、実は私の実父も出版社とプロダクションをやってるんです。お父様の獅子川 湘さんの高名はよく父から聞いてました」
「私もですよ。お父様の藤沢 海さんのことは父から何度も聞いてました」
そうなのだ。
獅子川さんとは何度か顔を合わせたことがある。
同じ業界で同じ編集者。
私のポリシーとして同業者とはあまり関わらないようにしていたのだが彼だけは違った。
やることも先進的で刺激的だったし、悔しい思いも何度もさせられたものだ。
絶対に負けたくない完全なライバルだったのになぜか彼にだけはそんな思いが浮かばなくてたまに一緒に飲むような間柄になった。
我ながら不思議だったことを覚えている。
なにか縁があるのかもしれないと思ったものだが、ここにきてその縁が繋がったのかもしれないな。
その後、親父と田代さんが話をまとめていく。
シシくんは田代さんを完全に信じ切っているようで何の異論も挟まない。
「いい企画になりそうですね」
「本当ですね。双方メリットしかない」
その時、シシくんが田代さんに目配せをした。
少し違和感を感じたが、なんの合図だろう。
「ハンコをつく前にお願いがひとつ。ちょっとしたオカルトみたいで申し訳ないのですけど、シシと握手してもらえませんか?」
「「?」」
「すみません。ボクは縁起を担ぐたちでして。普段なら目を見て判断するのですがウミくんは珍しく判断がつかなくて。いや、決して悪い意味ではないです。むしろいい意味で、なんだろう、底が知れないと言うか……」
どうしたというのだろう。
彼からは会った瞬間から良縁を知らせるいいサインしか届いていない。
でも確かに私も彼にはなにか違和感を感じる。
彼が言うように悪いものでは絶対にないのだけど。
気が進まないが……神眼を使ってみるか。
「握手をすればいいんですか?」
そう言って握手をした瞬間、すべてを理解した。
―――彼が9番目だ!
その瞬間、あの鐘の音が鳴り響き、周囲の時間が止まって世界の色がグレーに変わる。
『なんとまあ。ここでふたりが出会うとはね』
「あーーーーっ! 神さま! やっと姿を現したな! いろいろ言いたいことがあるんだよ! あ、創造神だっけ、なんかすごいんだよね。……とかいいから!」
『ごめんごめん。こっちにもいろいろ都合があってさ。そう簡単には会えないんだよ』
「どうなってんですか! ナビゲーターの呼び出し方も教えないでさあ」
『あー、それね、すっかり忘れてたんだよ』
「なんそれ! 大変だったんですからね! 今日は時間大丈夫なんですよね? あとえーっとなんだ、聞きたいことだらけだよ。どれからだ! そうだ、Xデーってなんですか!」
『それなら世界が異世界と混じり合う日のことだね』
「やっぱり! そんな日が来るの!?」
『前ははっきり見えてたんだけどね。未来は変わるから明確にいつとは分からないよ。シシくんも対応してくれているからね』
「ならこれからはシシくんと手を組んで動けばいいんですね?」
『いや、それはダメだな』
「へ?」
『それぞれに意思がありそれぞれに役目がある。ウミくんとシシくんでは目指す形がきっと違う』
「どういうこと?」
『手助けはするけれどね。物事の結果に神の意思はないんだ。それは人が選ぶことだからね』
「だったら!」
『どちらが正しいという話じゃないんだ。どちらも正しいんだよ』
「ならなおさらいいじゃないですか」
『シシくんとウミくんに協力させることも神の意思になる。シシくんの目指す未来、ウミくんの目指す未来、どちらになったとしても私は歓迎する』
「どうすればいいんです? もう私たちは会ってしまいましたよ」
『それはそれさ。何かの弾みでお互いのしていることを知る日も来るだろう。その時にどちらかが意思を変えてもそれは仕方のないことだ』
「なら別に今だっていいんじゃないですか?」
『神眼で知りうるべきことではないんだよ』
「……あ」
『神眼などは実につまらないものだ。不思議なことだよね。ウミくんは出会った時からなぜか神眼を嫌っていただろう。悪人が持てば悪者との出会いが良縁のサインになり、良人との出会いにアラートが鳴るだろう』
私は言葉を発せられなかった。
確かにそうなると理解できたからだ。
『神がいつも正しい判断をするとは限らない。正しい判断だとしてもそれが君たちにとっていい結果になるとは限らないんだ。だから私たちは最後の判断を君たちに任せてきた』
「なんか言いたいことは理解できます。でも!」
『大丈夫だ。ウミくんのここまでの判断は素晴らしいものだ。私は心から喜んでいるよ』
「そう言ってもらえるなら……だったら私はまだ頑張れます」
『もっと自分を信じなさい。私の言葉になど意味はないよ』
ちきしょう。
神さまはやっぱり神さまだな。
すげーよ。
『ありがとう』
「心読むな!」
『ハハハ、相変わらず君は面白いな。これからも期待しているよ』
「このあとシシとはどうすれば?」
『ここでお互いの存在を共有するのは避けたいからね。悪いけどちょっと今だけはふたりとも神眼を切らせてもらうよ』
「へ?」
『大丈夫。君たちは魂で惹かれ合う。きっと親友になれるさ』
「ちょっと待って! オレは新天地を作ってる! モンスターは決して完全な悪なるものじゃないんだ!」
『ウミ、言ったよ。……もっと自分を信じなさい』
そこでプツンと何かが切れた。
ふと我に返ると私はシシくんと握手をしていた。
彼は彼でなにかキョトンとしている。
ん? なんだ? なんか変だ。
私たちはしばらく握手をしたあと我に返って慌てて手を離した。
「「なんか」」
当時に声を出してお互い驚く。
「「なんだろう」」
「「なんか」」
「「友達になれそうだね」」
私たちは立て続けに息もぴったりに同じ言葉を発して、それから一緒に大声で笑い合ったのだった。
それからトントン拍子に話はまとまり、ウミクリエティブからシシTVにレギュラーでコンテンツ提供をすることが決まったのだった。
第2作の主人公のシシが登場しました。
前作を読まずとも同じ任を持つ9番目としてだけ理解していたらきっと大丈夫だと思います。
でもでも!
もし未読の方がいらしたらぜひ一度ご覧いただけると嬉しいです。
(ついでに第一作もオススメです)
【第1作】
ゾンビが交ざる新世界までのカウントダウン 〜業界人が気まぐれな神からもらったチート能力で無双しながら現実世界を救う物語
https://ncode.syosetu.com/n0717kl/
【第2作】←シシ出演作です。
時空の狭間に落ちたら迷子の女神がいた〜神も超えたチート能力で芸能界とバスケ、野球を完全無双。タイムリープにモンスター退治までなんでもこなす神さま代行屋の物語
https://ncode.syosetu.com/n2453kq/




