アキラ
慰問は大成功だった。
ミズホのネタバラシには驚いたが、伊東組長はその人間力で塀の中でも周囲からは一目置かれる存在であったので、私たちとアキラの間柄については一切、外には漏れないよう取り計らってくれた。
「あいつは不器用だがいいヤツだ。よろしく頼むよ」
そう言って伊東組長は握手を求めてくれた。
「本当ですね。その言葉通りの男です。だから私も彼のことは……アキラのことは信じられるヤツだと思ってます」
両手で固くその手を握り返す。
塀の中ならもういいよな。
ていうか、もう外でも普通に会えばいい。
さっきから良縁を告げるサインが止まらないんだ。
アキラも伊東組長も、きっとこの世界を救うための大事な役割を持っているに違いない。
「いつ頃出られるんですか?」
「わからんなあ。ワシ自身が何かをしたわけじゃないのになあ」
「そうですよね。なんか変な話ですよ」
「まあのんびりするさ」
「お身体には気をつけてください」
「ああ。ありがとうな。アキラたちによろしく伝えてくれ」
再び固い握手を交わして私には堀の外へ戻ったのだった。
――――――
外には入るときと変わらず伊東組のメンバーが並んで待っていた。
素早く認識阻害を全体にかける。
「おかえり。ありがとうな」
「おかえりなさい! ありがとうございます!」(20人)
「……お元気そうだったよ」
「そうか。よかった」
「あ、私たち伊東さんの孫になったよー」
「改めてよろしくね」
「なんでそうなるんだよ。 ま、でもそうならふたりはオレにとっても大事な家族だな」
アキラはそう言って嬉しそうに笑う。
あーもういいや。
「……アキラ、そういうわけだからこれからはよろしくな」
突然名前を呼ばれたアキラは驚いた顔を見せた。
「……大丈夫なのか? あんたたちに迷惑はかけたくないんだが」
「もういいよ。それにあんたって呼び方ももうやめろ。オレはウミだ」
手を差し出す。
アキラはほんの一瞬躊躇してから――強く手を握り返してきた。
「政界に顔の利く知り合いがいる。ちょっとアキラのオヤジさんのことも調べてみるよ」
「それはありがたい。今さらこんなちっぽけな組を見せしめにしても意味がないんだ。なにかがおかしいと思ってた」
「だよな。なにか掴めたら連絡するよ」
去り際にアキラが声をかけてきた。
「ウミ! 忘れてた。明日から毎日1階にメシ食いに行くけどいいよな?」
「もちろんだ。あの店はオレの親父の店だよ。贔屓にしてくれ」
「なんだそりゃ」
「最近はやたら家族が増えるんだよ」
「あははは、ウミは面白いな」
「アキラたちも家族だぞ。ウチのユキナとミズホが親父さんに孫入りしちまったんだからな」
「……ウミさあ」
「あ?」
「親父のことだけでも感謝し足りないんだ。そんなこと言われたら……もう一生かけても借りが返せねえよ」
「バカ言うな。家族に貸し借りなんてねえよ」
そう言ってクルマに乗り込み出発する。
お互い涙を隠しながら。
アキラたちはクルマが見えなくなるまで手を振っていた。
「いい仲間が増えたね」
「そうなると思ってたよー」
「オレもそう思ってたよ」
「ウミさん最近涙もろいよね」
「あー! ほんとだー。ウミさん泣いてるー!」
「なんかなあ。歳取るとなそうなるんだよ」
「身体は若返ってるじゃん」
「そうだよ」
「うるさい」
―――――――
言った通り、それからアキラと子分たちは毎日親父の店に顔を出すようになった。
親父も「なんだかもうファミリーのための社員食堂になってるぞ」と笑ってた。
もともと人気店だからいい時間にはいつも予約が入っているので、家族の食事は開店前か開店後にしている。
今後は新規予約や飛び込みのお客様は受け付けずに古い馴染みだけ予約を受けることにするそうだ。
徐々に趣味の料理を仕事にすることからは手を引くつもりらしい。
なんせ家族がこれだけ増えたからな。
普通に家族の食事を作れれば楽しいとのこと。
店のファンには申し訳ないけどなんせ親父は賢者だ。
のんぴりシェフをやってる場合でもないという判断だった。
「なんだよ、アキラってオレと同い年なの!?」
「そうみたいだな」
「やっぱり裏稼業は大変なんだな。老けるわけだ」
「バカ言うなよ。ウミの若作りがやばいんだろうよ」
「んなことしてねえし!」
初めの頃は予約をして来店していたアキラだったがいつの間にか閉店後の家族メシに普通に参加するようになっていた。
子分たちはさすがに人数がきついので今まで通りに毎日予約して順番に来店している。
「まーた言い合いしてるし」
「言い合いっていうか漫才かな」
「ですよねえ」
「ほんと、仲良しだよねー」
「(それよりもうアキラには話していいんじゃねえか)」
「(そうであるぞ。念話か面倒だ)」
「(まあそうだよね)」
「(もういいよねー)」
アキラがいるときはギルとリュカが絡む会話は念話を使っている。
確かに少々面倒だったりするからな。
アキラなら普通に驚きもしない気もする。
「ところでさ」
「ん?」
「ずっと気になってたんたけどさ。ウミの肩にたまに乗ってるヤツはなんなんだ?」
「へ?」
全員がフリーズする。
ギルはこそこそユキナの頭に移動する。
「あ、今度はユキナんとこ行ったぞ。あいつそこも好きだよな」
「ちょっと待て。おまえギルが見えてんの?」
「ん? あいつギルっていうのか」
「いつから見えてんだよ」
「オヤジさんの店に通いだしてからかな」
「言えよ!」
「お前ら驚くと思ってたし。変なヤツだと思われたくないから言わなかったんだよ」
「おいおいマジかよ」
「でもなんかいいヤツっぽくて害もなさそうだし、もう言ってもいいかなって」
アキラは自然覚醒していた。
「よほどマスターと相性がいいんだな」
「うおっ、しゃべれるのかギル!」
「主、やはり影響力が凄まじいな」
「リュカも!?」
アキラは思わぬ展開にリュカを激しく撫でまくっている。
「なあ、ギル。こんなことあんのか」
「マスターのそばにいればいずれは覚醒するもんだけど年単位だよ。ちょっと異常だ」
「なんだよそれ」
呆れながら私たちはアキラに事の次第を伝えたのだった。




