慰問
この世界にハグレ用の世界を作る。
ぶっ飛んだアイデアだが、思いつきにしては悪くない気がしてきた。
途中脱落した前任者たちがどのような資質を持っていてどんな作戦を狙っていたのかはわからない。
まだ活動中の9番目の救世主のことも、その人がいまどんな動きをしているのかも。
そして10番目の私だ。
攻撃魔法すら撃てないほど稚拙なのに、魔力量だけは無限。
クリエイトに関してはギルが言うには神をも凌ぐほどの才能があるという。
これはもうそういうことにしか思えなくなってきたぞ。
本気で相談してみるか。
「みんな、ちょっと話がある。……モンスター専用の新世界を作ってみようと思う」
―――――――
私は作戦をみんなに伝えてみた。
「これだけの拡張、クリエイトができるんだ。これが天命に違いないと思うんだよ」
「うん、説得力あるね」
「実際にこんな世界を見せられてるわけですし」
「確かにここだけでも相当数が生活できるよねー」
課題は明確だ。
「いいアイデアだが……モンスターの生態系をどう管理するかだな」
「まあ未知の生き物だから詳しいことなんてわからないよね」
「そこは大きな課題になりそうやなあ」
「リュカ、どうなの?」
「すまぬ。他の連中のことは気にしたことがない」
「箱は作れても管理が難しいってことか」
「なんせ新世界の運用だからな」
「本来なら国家事業や」
「仕組みも人間も足りないね」
課題はある。
だが反応は悪くない。
反対派とまではいかないまでも、シビアな忠告をしたのは三花くん。
その理由はシンプルに「魔素の問題」。
「水なしで魚を飼おうとするようなものだ」と言われて確かにと納得した。
「それは一理あるぜ。ここのメンバーもマスターの魔力流用ができてなきゃ派手に魔法を使えば即魔力切れになる」
内包している魔素だけでは活動に制限がかかりすぎるというのは間違いないだろう。
自己回復だけではかなり効率が悪いらしいからな。
ならば揺らぎに飛び込んで異世界に行き、魔素をこっちのハグレ世界に持ち込む方法を探すと言ったら、今度は女性陣が反対に回ってしまった。
理由は「危ない」のひとこと。
そりゃそうだよな。
ギルも「転移が使えるとは限らない」と忠告してきた。
むう、課題が多くて重いな。
でも一つずつ解決するしかない。
みんなで議論を尽くせばきっといい方法に辿り着けるはずだからな。
それからは各エリアの拠点にいろんな新世界モデルを作る毎日だった。
大草原モデル、ジャングルモデル、山脈モデル、高原モデル、水辺モデルなどなど。
三花くんのモンスター生息予想に基づいて試行錯誤をする毎日となった。
―――――――
そして刑務所の慰問の日を迎えた。
西東京にある刑務所に着くと、外には「彼ら」が並んで待っていた。
「やあ、約束を守ってくれてありがとう。今日はよろしく頼むよ」
「だからさ、気持ちはわかるけどこれはダメだって。なに出迎えちゃってんだよ」
「そんなことないだろ。慰問のことをニュースで知って御礼を言いたくて待ってたってのはアリじゃないか?」
「いやまぁそうだけどさ。目立って仕方ない」
「ひとりでよかったんだけどな、下のやつらがどうしても行くって聞かなくてさ」
そちらを見ると手下たちは古杉くん、三花くんと親しげに話し込んでいた。
「あんだけ大暴れした相手なのに。 仲良くなるの早すぎだろ」
「あれじゃないのか、拳を交えて分かり合えたみたいな」
「あはは、現実にもあるんだな」
「マンガだよな」
ふたりで笑い合っていてふと我に返る。
「いやだからダメだろ」
「めんどくさいな」
「ほんとそう思うよ」
いいヤツだし馬が合うからな。
本当はもっと話したいけどな。
「じゃあ行ってくるよ」
「そうだな、おい」
彼の合図で全員が再度整列する。
「よろしく頼む」
「「「「オジキ、宜しくお願いします!」」」」(20人)
おいオジギやめろ。
慌てて認識阻害をかけて私たちは刑務所に入ったのだった。
今日の慰問は歌だ。
仕事では歌わないユキナも今日はマイクを持つ。
ヘタなわけではなく、どちらといえばかなり上手い方だと思う。
だが「トップレベルではないのだからそこは専門家に任せよう」というのがユキナの意見だったので、これまでは歌のオファーは全て断ってきた。
今日だけは彼らの大切な人のためにデュオ結成だな。
マスコミにもリークしてないからこの慰問はある意味でレアすぎる。
―――――――
彼らの大切な人はとても温厚そうな方だった。
物静かにたたずむその姿は優しそうな老人でしかない。
ここには反社の人たちが多く収監されているが、彼だけは別の世界の人のようだった。
だがその落ち着いた所作はほかの囚人を不思議と圧倒していた。
なんというか、人間の格みたいなものだな。
ユキナとミズホを見て静かに涙を流し、そして嬉しそうに笑っていた。
言葉をかけるわけにはいかないけれど、想いはきっと塀を越えて伝わったことだろう。
そんなことを考えていたらミズホがぶち込む。
5曲ほどを歌って慰問は静かに終わろうとしていたタイミングで油断をついてきやがった。
「アキラのお父さんはどこかなー? 伊東組の組長さーん」
うおい。
いろいろ情報詰まってたぞ。
あいつアキラっていうのか。
で、伊東組か。
それはなんとなく耳に届く名前だな。
「……ワシだよ。やっぱりか。アキラの仕込みだったんだな」
「あ、組長だねー!」
「はじめまして」
「会えて嬉しいよ。わざわざ来てくれてありがとう」
「お孫さんに似てるんでしょー」
おいおい、辛い思い出を掘り起こすなよ。
「今日からは私たちが孫だからねー」
「もう泣かなくて大丈夫です」
あー。
こいつらはこういうヤツだった。
やめてくれよ。泣いちゃうだろ。
伊東組長は一度驚いた顔をしてから――少しだけ涙を流し、そして笑った。




