里山さん
電話を終えた時には三花くんの異世界転生小説&マンガのセレクションが各種コースに分類されて持ち込まれていた。
仕事が早すぎるよ。
とりあえずまるっとコピーして屋上リゾートに図書館を作っておいた。
あとは図書館ごとコピーして各地にセットしておけばいいだろう。
私も今日から初心者おすすめコースその1を読むことにした。
初心者コースだけでもその10まであるんだけど。
深夜。
またしても潜り込んでいたふたりを置き去りにしてトレーニングに励む。
今日は神眼の解放を狙う。
スイッチのオン・オフが出来るそうだし、プライバシーは守れそうだからな。
「ギル。今日は神眼を狙いたい。どうやればいいんだ?」
「いつも通りのイメージだな。心を読みたいと思えばいい」
「誰の?」
「今日は相手がいないから無理だな」
「は? 言えよ!」
「無理だろ。いま言われたんだから」
「むぅ、確かに。ギルの心は読めないのか?」
「無理だな。妖精の心を読むなんてのはレベルが高すぎる」
さっそくやることがなくなった。
仕方なくギル監督の魔力コントロールを朝までやらされた。
地獄だった。
妖精なんてかわいいもんじゃねえや!
メンタルをやられたので昼まで寝ることにした……けど2時間も眠れなかった。
この身体は便利だけどこういうときはなんだかな。
たまには疲れて泥のように眠りたい。
さて誰かの心を読んでトレーニングしろなんて言われてもユキナとミズホの心を読みたいはずがない。
マネージャーコンビももちろんだ。
となると誰なんだよ。
そこにこのタイミングで携帯に着信が。
相手は里山さんで、最初のミッションクリアの報告だった。
「お住まいのマンションですが、オーナーさまから売却してもいいとの連絡がありました!」
「こんな早くに! すごいですね!」
「ええ、ラッキーでした! で、急なのですが、もし本日予定が合うならすぐにでも会いたいということなんです。できればゆっくりお話したいとのことなので少し長めにお時間いただけると幸いなんですが」
このタイミングにこれはそういうことだよな。
オーナーさん、トレーニングも兼ねさせてください!
「それはもちろん喜んで。オーナーさんと里山さんにご希望の時間はあるのですか?」
「何時でも藤沢さんに合わせるとのことでした。私は当然合わせます」
「今日はフリーに動ける日なので時間はお任せしますよ。場所はどちらに伺えば?」
「では11時でどうでしょうか。オーナー様はマンションの一階のお店でどうかとおっしゃってます」
「それはもちろん! あれ? でも今日は定休日じゃなかったかな?」
「今日面会になるなら特別に開けてくださることになってます。一階のお店もオーナー様が経営されているそうですよ」
「へえ! そうだったんですね。知らなかった!」
「ではそのように。事前に簡単にお話しておきたいので30分ほど私にお時間をいただきたいのですが、10時半に私と待ち合わせにするか、オーナー様とのアポを11時30分にするか、どちらがよろしいでしょうか」
「お店に問題がなければ早い方がいいですね」
「かしこまりました! ではそのようにお伝えしますね。後ほど宜しくお願いいたします!」
うん。いいテンポで話がまとまるな!
ユキナとミズホが起きてきたので今日は不動産を進めるので現場には行かないことを伝えておく。
ふたりを送り出してから身支度を整えて約束の時間を迎える。
約束の5分前に合わせて一階に降りると、里山さんが店の外で待ってくれてくれた。
「藤沢さん! おはようございます!」
「おはようございます。里山さん。お待たせしました」
店内に入るといつもの店主が穏やかな笑顔で出迎えてくれた。
「藤沢さん、いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」
「お世話になります。シェフ、定休日なのにすみません」
「もちろん。こんな大事な日ですからね。喜んでお迎えさせてもらいますよ」
この洋食屋さんはこじんまりとした店だが、とても雰囲気が良い人気店だ。
もちろん味も完璧。
洋食屋を名乗っているけれどそこらのイタリアンやフレンチにも負けてない……というか勝ってるよな。
カジュアルフレンチの隠れた名店だ。
賃貸契約の内見に来た日に訪れてから、プライベートはもちろんのこと、親密な仕事相手との会食も含めてかなりの頻度で来店している。
親密な相手に限っているのは私にとって大切なお店だからだ。
ユキナが初めてドラマの主演をすることになり座長として現場差し入れをすることになった。
そのことをシェフに相談してみたら、店名を出さないことを条件に喜んで引き受けてくれた。
数が数なので簡単にはお願いできないからこれまでにお願いしたのはその時とクランクアップの2回だけだ。
そしてそのロケ弁は業界で伝説になっている。
「お打ち合わせが終わったらランチを用意してますから召し上がっていってください」
「ええ! お休みなのにすみません。でも嬉しいな。楽しみにしてます!」
それからシェフの淹れてくれたコーヒーを飲みながら里山さんとの打合せに入る。
「オーナー様からはつい先ほどこの金額で提示がありました」
見るとそれは破格を超えた値段だった。
「え? これ間違いじゃないですか?」
「いえ、私もそう思ったのですがこの金額でいいそうです」
「いやこれではあまりにも安すぎる」
提示額は1億だった。
里山さんの見立てでは8億だったが、急な話なので予算は10億で伝えていた。
「私も電話では何度もそうお伝えしたんですがお譲りしてもらえなくて」
「ちょっと逆に不安になる提示額ですよね」
「そうなんです」
これはなにかあると見るしかない。
私の素性……ユキナとミズホが一緒に住んでいることも含めてオーナーはある程度こちらのことを知っているはずだ。
ふたりの知名度からも私にそれなりな資産があることも想像が付くだろう。
さらに急すぎる、いやあまりに不躾な申し入れにも関わらずこの提示だ。
こりゃ本気の神眼解放が必要だぞ。
答えが見つからないまま、もうすぐ待ち合わせの時間になる。
「オーナーさんのご職業を伺えたりは?」
「手広く仕事をされている実業家としか」
狙いはユキナとミズホ……海クリエイティブか。
それくらいしか思いつかない。
「気分を害してしまうかもしれませんが真意を聞いてみるしかないな。里山さん、私からそのまま聞かせてもらいますね」
「わかりました」
そして約束の時間の10分前となる。
私はクリエイトも発動しながら神眼の解放を願った。
……よし。ステータスに◯がついた。
神眼が発動した。
表に出てお迎えしようと立ち上がると、奥からスーツに着替えたシェフ出てきて向かいの席についた。
意味がわからない私たちにシェフが笑顔で告げる。
「お待たせしました。このマンションのオーナーの鈴木です」




