名前を聞けない相手
翌日。
京都リゾートに古杉くんと三花くんを迎えに行き、事務所へ戻る。
「快適すぎましたよ」
「早く覚醒したいっす」
「今日から改めてよろしくな」
「「はい!」」
「基本は今まで通りだ。アラートが出たら伝えるからオレの動きのフォローをしてくれ。場合によっては覚醒してるユキナとミズホも動かすこともある。現場の辻褄合わせを頼むよ」
「「わかりました」」
「優先順位はつけるけどできる限り不特定多数も助けたいと思ってる。身バレせずに動きたいからそのあたりわ助けてほしいんだ」
「社長が忙しいのは当然のことなのでその点は大丈夫でしょう。やっぱり問題はユキナとミズホですよね」
「オレがふたりを稼働するのはよほどの時だ。そうそうは無いと思いたいけどな」
「えー! つまんないなー」
「ユキナも社長と世界を救いたいよ」
「助けが欲しいときは頼むよ。いま突然に引退はできないだろ。仕事をセーブすることは決めてるから少しずつ環境は変えていこう」
「うん、わかった」
「わかりましたー」
「今日はユキナにはオレが付く。古杉くんはお金の件を筋道立てておいてもらいたい」
「了解です」
「これまでの資金の動かし方はメモしておいた。分かんないところは言ってくれ。いきなり検挙されても困るからな。納めるものはしっかり納めておきたい」
「わかりました。まずは見てみますね」
いちばん苦手なところをカバーしてくれるのは有難い。
頼んだぞふるっち!
「三花くん、ファンタジー世界のことは君が専門家だ。オレとユキナ、ミズホのステータスを書いておいたからアドバイスを頼む。あとモンスターリストがほしい」
「ステータスからは何を?」
「ギルがいるから使い方はわかるけどアレンジの方向にヒントがほしい。クリエイトがあるからいろいろ工夫すべきだしな」
「なるほど!」
「モンスターについては特に知能だな。コミュニケーションが取れるかどうかが知りたい」
「どうするつもりっすか?」
「転移が人為的なものじゃないなら彼らも巻き込まれた被害者だろ。共存できるものなら共存したい」
「難しいこと言いますね」
「これはみんなにもわかっててほしいんだ。知能があるなら話し合いたいし、むやみに倒すことを前提にしたくない。日本でいうならクマかな。危険な動物だけど棲み分けはできてるだろ。人里に出てくるなら対処するってことだ」
「難しい問題ですね」
「山ひとつバリアを張って管理するとかさ。拡張つかえばいいとかいろいろやり方があるんじゃないかな」
「なるほど。なんとなくわかりました!」
「ミズホも考えとくー! そういうの興味あるなー」
「移動とか待ち時間は動物保護に置き換えて話そう」「いいねー」
「ファンタジーマンガも貸すよ!」
「それは要らないー!……あー、でも必要なのかー」
「僕のコレクションからおすすめ持ってきますからみなさんもちゃんと勉強してくださいよ」
まさか異世界転生モノが教科書になるとはな。
でも確かに知識は必要だよな。
「それは大事かもな。コピー使って各拠点に図書館作るか」
「素晴らしい!!!」
そこに着信がくる。
知らない番号だな。アイツかな。
「はい」
「やあオレだよ。昨日は迷惑かけたな」
「ほんの行き違いだろ。もう気にしてないよ」
「そうか」
「まず聞いておきたい。越上とはどんな関係なんだ」
「あーそれな。ウチとは何の関係もない。かなり端折った言い方をしたってだけだ」
「どういうことだ?」
「ウチと敵対している真っ当な反社組織がある。越上はそこと繋がってた。で、その組織は越上を使ってウチに嫌がらせを繰り返していたんだよ。ウチはカタギに手を出さないからな。略してウチは越上に迷惑を被った」
「端折りすぎだろ」
「なんとかしてオヤジの慰問を頼みたかったんだよ」
「最初からそう言えよ」
「んなもん受けてくれるはずねえって思ってたよ」
「そんなことねえよ」
言葉足らずなやつだ。
無骨すぎて気持ちが伝わらないタイプだな。
「知り合いの店から、越上が来たときにミズホさんを狙うって息巻いてたって聞いたんだよ。だからとりあえずとっ捕まえといた」
「そうだったんだな」
「途中で逃げられちまったけどな」
「礼は言えないけどまあ気持ちは受け取るよ」
「これを理由にしたら話くらいは聞いてもらえると思ったんだよ。でも失敗したから正面から頼みに行ったんだけどな。あんな形になった」
「何やってんだよ」
「何回か手紙出したんだけど相手にしてもらえなかったからな」
「は? そんなもん届いてねえぞ」
「え?」
「事務所に届いた手紙はぜんぶオレも見てるよ」
「まじか。全部戻ってきたぞ」
「それ住所違うからだろ。そういう時はちゃんと注意書きのハンコついてあるはずだぞ?」
「そうなのか。ちゃんと見てなかった」
「そういう仕組みなんだよ。どんくさいやつだな」
「うるせえよ。手紙なんて出したことねえしそんなの知らなかったよ。気持ちを伝えねえといけねえと思って初めて自分でやったんだよ」
まじでいいヤツすぎて笑えてきた。
「お前ほんと面白いやつだな。わかったよ。慰問はいくよ。こっちで自発的に動くから組長さんの名前と収容されてる刑務所を教えてくれ」
「本当か。ありがたいよ。この借りは必ず返すから……」
「だからダメなんだって。ユキナのドラマとか映画観てミズホのCD買ってくれりゃいいよ」
「……わかったよ。ありがとうな」
その日のうちに事務所のポストに直接手紙が投函されていた。
最初からこうしとけよな。
刑務所への慰問っていえばなんとなく歌手がやってるイメージがあったので三花くんに相談したらすぐに段取りをしてくれた。
良縁なのは分かっているけど反社と認定されている以上、彼らとは表立って付き合えない。
歯がゆいがそれが社会のルールだ。
いつか名前を呼びあって酒でも飲める日が来るといいんだけどな。
それからしばらくして慰問が行われることが決定した。
場所は府中。訪問日は来月だ。
せめて彼らの慕う人の心になにかを残すことができればいいと願うのだった。




