古杉くんと三花くん②
結局、彼らとは仲良くなった。
アラートは良縁を告げるものだった。
今はサイン会が始まろうとしていた。
「なにやってんだテメエら! オヤジより先に!」
「ええー、ダメっすか」
「ダメだ! そういうのは慰問のあとだ!」
「マジすか」
「おふたりに会えただけでも十分だろうが」
「はい」(全員)
「失礼した。今日のところは引き揚げるよ。本当に迷惑かけちまって申し訳ない。ふたりもすまなかった」
「いや、こちらこそ」
「勘違いしてすみません」
席を立とうとする男の前に、私の電話番号を書いたメモを置く。
「いいのか?」
「拾ったんだろ」
「ハハハ、本当に面白い人だよ。叶うならもっと話したかったな」
「まあ……それは同じだな」
「ありがとうな。キレイな携帯から電話させてもらうよ」
「ああ、待ってるよ」
男たちは出て行った。
はー、疲れた。
改めて5人でダイニングのテーブルに座る。
「「すみませんでした」」
「仕方ない部分もあるよ。間が悪すぎた」
「てっきり仕返しだと思いました」
「追い返そうと玄関口で揉めてたらいきなり若い衆が押し寄せてきてそこからは乱闘になりまして」
まだ状況を把握しきれていないユキナとミズホに改めて何が起きたかを伝える、
「そんなことになってたんだねえ」
「全然気づかなかったよー」
「ていうかふたり強すぎない? 本職相手にあんだけやれるって」
「僕はそうでもないですよ。弓もなかったんで。ふるっちがヤバかったっす」
「柔道は実戦的だっていうけどさ、乱戦だとキツイだろ」
「このガタイなんで少々殴られようがそんなに効かないです。ひとりずつ確実に投げていきました」
「すげえな」
「でもミッチーも大したもんですよ。あれボクシングやろ」
「高校までジム行ってたもんで。意外と動けました」
覚醒したらこいつらもヤバそうだな。
「今日はバタバタしすぎたな。ふたりとも疲れただろ。帰って休め」
「いや大事な話があるって言ってましたよね」
「そうっすよ」
「まあ今度でいいよ」
「いや聞きたいです」
「お願いします」
ふたりの顔が真剣なものになった。
「社長、なんか隠してますよね」
「最近の社長、おかしいんですよ」
「え?」
「現場に来なかった日におかしいなと思ったんです」
「だよな。それ聞いて驚いたからな。必ず顔出しを欠かさない人がなんもなしになんてな」
「そしたら宝くじがあたったとか言い出したし」
「ふたりで絶対なんかあるって話してました」
「それぞれでユキナとミズホに聞いたらなんか誤魔化してんのがバレバレで、お互い確信しましたよ」
まあそこまで気にしてたんならいいか。
「そうか。心配かけてすまなかったな」
深呼吸をひとつしてこちらも真顔だ。
「ちょっと信じがたい話なんだけどな」
私は人差し指を立ててふたりの前に出す。
その指をリビングにある100インチのテレビに向けてゆっくりと動かしてから、収納した。
「「!?」」
ふたりは固まってしまった。
まあそうなるわな。
それから再び、大型テレビを元に戻す。
「「…………」」
「神さまにとんでもない力を授けられた。あとミッションも」
「「…………」」
「ミッションの内容は『世界を救え』だ」
「「…………」」
「ユキナにはすぐにバレたから話した。流れでミズホにも。ふたりにも話すつもりだったけどバタバタしたから遅くなった。すまないな」
しばらくしてようやく口を開いた。
「……見ちゃったからにはもう否定できませんね」
「……そんなことがあるのか。これ、ファンタジーの世界がリアルだったってことっすよね」
「そうだよ。フェスの日に私が過剰に反応したのはその日に何か起きるっていうお告げを受けていたからだ」
「え、でも何も起きませんでしたよね」
「いや起きたんだ。騒ぎにならずに解決できただけなんだよ。実はモンスターが転移してきた。大量のゾンビが現れたんだ」
そこまでを聞いて三花くんが立ち上がった。
「それ、それ、それって! ファンタジーの世界が本当にあるってことっすよね!!!」
「お、おう。そうだよ。さっきも言ったぞ」
「まじかまじかまじかまじなのっすか」
「おい落ち着け。三花くんは異世界転生モノに詳しいって聞いてな。それでいろいろ聞いてみたいと……」
「異世界キターーーーー!」
そのまま三花くんは階段を駆け上がっていった。
慌てて後を追ったら屋上でスキップしてくるくる踊っていた。
うん。しばらく自由にしてあげよう。
その間に古杉くんにお金についての相談をした。
「そりゃエグいですねえ。いま何億あるんです?」
「えーと80億くらいかな」
「宝くじは無課税ですけど競馬は課税対象ですわ」
「げ。ヤバいな」
それから10分ほどして三花くんは戻ってきた。
「すみません、嬉しさのあまり取り乱しました」
「大丈夫か?」
「はい、踊ったら落ち着きました」
「ミッチー喜びすぎー」
「ごめんミズホ。抑えきれなかったわ」
そこでユキナが吹き出す。
それを合図に全員が笑った。
ようやくチームに隠し事がなくなった。
話せてよかった。
―――――――
「なかなかハードなミッションですね。前任者はひとりを除いて全員失敗してるんだ」
「それも国家バレで殺されるとか怖すぎやろ」
「だからこれナイショにしなきゃいけないんだよー」
「もちろんっすよ」
「ていうか誰も信じへんやろ」
「あ、そうだ。屋上にいいリゾート作ったんだよ」
「なんすかそれ」
「小部屋を拡張した」
「ええええ」
「でもふるっちとミッチーは立ち入り禁止だよー」
「なんでやねん」
「いや見たいです! 拡張!」
「ダメだよーミズホとユキナ、ずっと水着だし」
「いや別にそれはどうでもいいんだよね。拡張が見たくてね」
「あ、ほかにもリゾート作ったよね」
「そうだ! どこかひとつだけなら5人用にしてもいいよー」
「そうだね!」
ということで屋上リゾートはマネふたりは出禁。
仕方ないので私の京都リゾートを5人用にすることにした。
どうしても拡張が見たいと三花くんが懇願するのでこのまま転移して連れていくことに。
初転移にはしゃぐ三花くんをどうにか落ち着かせて5人で京都に転移する。
「「え!?」」
一瞬でそこは和風モダンなリゾートになる。
「は、初転移キターーー!」
その場で三花くんが踊り出す。
「すごい……」
「ユキナもまだ慣れないな」
「ミズホはもう慣れたよー」
「それにここも広すぎや。なんやこの素敵空間は」
「表から見てみな。驚くぞ」
踊る三花くんを担いで一行は外へ。
やがて驚きの声があがるのだった。
初転移ダンスから拡張ダンスに変わった三花くんを担いで一行が戻ってくる。
「これは驚きましたよ」
「拡張キターーー!」
そこにギルが発現する。
「なんだなんだ大騒ぎだな」
「あー、ギルちゃんー!」
「え?」
「ここに妖精のギルがいるんだよ」
「な、なんやねんそれ」
「フェアリーもキターーー!」
当然、古杉くんにも三花くんにもまだギルは見えないのだが、存在を説明したら三花くんの拡張ダンスは妖精ダンスへと変化したのだった。
―――――――
結局、あれこれ披露させられた。
ようやく場が落ち着いたのはそれから2時間後だった。
バーベキューをしながら話が弾む。
「社長。マジですごいっすよ! もう絶対に一生付いていきますから! いやまあとっくに一生付いていくのは決めてたんすけどね」
「それにしてもユキナとミズホがもう魔法使えるとはな」
「羨ましすぎる!!!」
「ふたりもそのうち覚醒するみたいだぞ」
「「えええ!」」
三花くんの覚醒ダンスを見ながらみんなで笑う。
結局、帰りたくないとふたりが言うので彼らを残して3人は屋上リゾートで、ふたりはこのまま京都リゾートに泊まることになったのだった。




