まさかのトラブル
自宅に向かう途中でアラートが鳴った。
「来たな!……ん?」
ハグレの時よりも弱い。これはなんだろう。
強めだけど……なんか違和感があるな。
「ギル!」
「はいよー」
「アラートが来たぞ」
「んー? こりゃハグレじゃないな」
「場所がどこなのかわからないのがなあ。離れているから弱いとかあんのか?」
「ないな。距離は不問だぜ」
「こうなると便利なんだか不便なんだかな。明らかにヤバイやつでもないけどさ」
「神眼か鑑定があればシンクロして便利だって聞いたな。離れててもマップで位置特定もできるってさ」
「マップに出るなら赤青緑も分かるのか。かなり便利だな。それにしてもアラートが分かりにくいんだ。掛川くんのときの良縁との区別もよく分からないんだよ」
「それは訓練不足だ」
「まだ数回だぞ。アラートとサインの区別なんてつかないよ」
「だから神眼を取ればいいだろ」
「えー、人の心は覗きたくないんだよなあ」
「だからカット機能があるんだって。教えただろ」
「そういや聞いたような気もする」
とにかく自宅に急ぐ。
近づくにつれアラートは強くなっていく。
「家だな」
すぐにユキナの携帯にコール。
だが出ない。
ミズホも同じくだ。
もうなにか起きてるのか!?
「ギル、転移するぞ」
「オッケー」
認識阻害を強く。
クルマから飛び降りつセコイアは収納。
即転移へ。
屋上リゾートに転移すると――ユキナとミズホは携帯そっちのけで絶賛トレーニング中だった。
「んだよ!」
「あ、おかえりー!」
「おかえりー!」
ふたりが飛び込んで抱きつきにくる。
うん、平常運転なり。
「アラートが鳴ったんだよ」
「そうなの?」
「何にもないけどー?」
「だよな。感覚的にはもうなんか起きてる感じなんだけどなあ」
「ゾンビー?」
「いや、全然それクラスじゃない」
「なら大丈夫じゃない?」
時計を見るともうすぐマネージャーふたりを呼び出した打合せ時間だ。
「もうすぐ時間だ。とりあえず着替えてこい。先に下に降りてるぞ」
ふたりを追い立てて私は秘密リゾートを出る。
するとリビングがなにやら騒がしい。
事件はリビングで起きていたようだ。
隔離させすぎたのか。
バリアの加減は要調整だな。
一度秘密リゾートに戻り、ふたりに先に3人で話すことがあるから呼ぶまで待ってるように伝える。
心配をかけられないしなんかあっても嫌だしな。
改めて急いで階段を降りると、リビングは大勢の人でごった返していた。
「なんだなんだ」
見ると床に転がってる人間がふたり。
古杉くんと三花くんだな。
ありゃ、後ろ手に縛られてんな。
で、それを取り囲んでいるのが見るからに悪そうな方々。
それにしてもめちゃくちゃ人数いるな。
なんじゃこりゃ。
「おーい。これどういう状況?」
「社長!」
「逃げてください!」
気づいたふたりが声を上げて、ヤ◯ザさんたちに蹴られた。
「おい! 何してくれてんだよ。いま蹴ったヤツちょっとこっちこいよ」
途端に輩たちが騒ぎ出した。
「何いってやがんだコラァ!!!」
「てめえ状況わかってんのかあ?」
「ガヤガヤうるせえな。人んちで何してんだって聞いてんだよ。答えろよ。あと蹴ったお前、早くこっちこい」
輩たちと押し問答をしていると、奥から手下を押しのけながらひとりの男が出てきた。
通りすがらさっきふたりを蹴った手下を張り倒した。
「誰が手ぇ出していいっつったよ」
「す、すみませんアニキ」
そして私に向かってひとこと。
「やけに肝っ玉の座った人だな」
私と同じ位か……ちょい上かな?
長身でオールバックで精悍な顔つき。
ブラックスーツにブラックタイを着こなしてる。
「……まず何が起きてるか教えてくれるか?」
「おいてめえ! アニキに舐めた口きいてんじゃねえぞ」
「誰だと思ってんだ!」
「ぶち殺すぞ」
「うるせえ。お前らは黙れ」
途端に静まりかえる手下たち。
へえ、なかなか良く躾けてるな。
「で? 聞いてるよ? 答えろよ」
「おーおー、本当になかなかのもんだな」
「そういうのいいから。何の用だよ」
「越上だよ。なんとなくわかってんだろ? アイツのおかげでこっちはえらく迷惑被っちまってな」
あーね。このタイミングはそうだよな。
「は? こっちに何の関係もない話だろ」
「ここのお姉ちゃん絡みだって聞いてるぜ」
「知らん知らん。越上がウチのタレントにちょっかい出してきてこっちは被害者ってだけだよ」
「本人から聞いた話と違うなあ。そっちが誘ってきたハニートラップだって言ってたぜ」
「よくそんなの信じたな。てかそれこそなんとなく分かってんじゃないのか?」
「まあな。でもまああれだ。こっちにもオチが必要でな」
「知ったことかよ。とりあえずふたりを解け」
アニキは黙って手下に合図を送る。
すぐにふたりは開放された。
「大丈夫か?」
「社長すみません」
「数が多くて。(ふたりは?)」
「気にしなくていい。(大丈夫。呼ぶまで降りてこない)」
「すまんね。で、このふたりは一体何者だ? こっちもかなりやられたもんでな。話もできないんで仕方なく縛らせてもらったところだった」
確かによく見ると手下たちはそれなりにダメージを受けているな。
お、奥にはかなりの数が倒れてるし。
やるなあ古杉くんに三花くん。
「で? どんなオチが望みなんだ?」
「簡単な話だ。頼みごとがある」
「何言ってんだよ。今ときはあんたたちみたいな人たちとはつるめないんだよ」
「わかってるよ。直接何かってことじゃない」
「無理だな。あんたらがここにいる時点でこっちはアウトだ。だからオレも名乗ってないしアンタたちの名前も聞いてない」
「そうか……まあそうだよな」
男はほんの少し考えてから続けた。
「……わかった。引き揚げるよ。詫びは改める。すまなかったな」
手下にハンドサイン。
すぐに手下が周りを片付け始める。
「すまないね。本当は話に来ただけだったんだが。すぐに揉めちまってな」
なんかなあ。
さっきからコイツ、いい感じなんだよ。
なんか気が合うんだよ。
困ったな。
こりゃアラートじゃなくてサインだったな。
もっとわかりやすくしろよな。
あとでクリエイトしてみよう。
「……まあ」
「?」
「あんたが独り言を勝手にいう分には別にな」
「……ハハハッ。あんたいいヤツだな」
「うるさいよ。さっさと言え」
「ありがとうな」
近くの椅子に座るように促して話を聞いてやることにした。
「すまんね。ウチは確かにあんたたちから見たら反社だろう。だけどいわゆるヤバい組織じゃない。なんていうかな。素人衆には手を出さない昔気質の地元ヤクザってのかな。そういう心意気で仕事をしてる」
やべえなあ。
そういうの嫌いじゃないな。
「実際に犯罪はしないしな。街の方々からの頼まれごとにはまあ場合によっては腕っぷしで対処することもあるよ。懐は苦しいが全員真っ当な仕事でメシを食ってきた」
あー。
「だがまあこんな時代だ。十把一絡に俺たちも反社認定をもらったよ。でもそもそもそんなシノギはしてなかったしな。別にやることは変わらんから特に問題はない。多少は人として生きにくくなったけどそれはまあ仕方ない」
うん。
「で、頼み事ってのは……刑務所の慰問に行ってくれねえかってお願いをしにきた」
ダメだ。
完全にいい話だぞこれ。
「ウチの組長が下っ端のケンカで責任取らされてムショにいるんだよ。見せしめだな」
なるほど。
「恥ずかしながら組長があんたんとこのユキナさんとミズホさんのファンでな。不幸な事故で亡くなったお孫さん姉妹に似てるそうだ」
ぐぬぬ。
完全にいいやつじゃねえか。
なに暴れてんだよ。ふるっちミッチー。
「……独り言だけどな。なんでこんなことになってんだよ。揉める話じゃないだろ」
「オレはひとりで来たんだよ。でも越上があんたらがヤバイやつらだと言ってたもんだから手下がこっそり数を用意しちまったみたいでな、見た目もあるんだろうけど、不器用な話し方になったもんだからすぐ揉めてさ。外で控えてたヤツらも加わってとんだ騒ぎになっちまったんだ」
「なんだよそれ」
ジト目でふたりを見るととんてもなく申し訳なさそうな顔になっていた。
「いや、まさかそんな話やったとは。越上の名前が出て、脅迫騒ぎがあったばかりやったもんで」
「てっきりこれがそうかと思いまして」
「かなり強気で対応してしまいました」
「「すみません」」
そこへ遅れてユキナとミズホが降りてきた。
呼ぶまで来んなって言ったのに!
「わ。なんだなんだ」
「お客様いっぱいだねえ」
「うおっ」
「まじか」
「ユキナさんとミズホさんだぞ」
「やべえ小さい!」
「女神か!?」
「女神だ」
途端にデレる手下たち。
いや拍手すんな。




