リゾート候補地
空を飛べるようになった。
これは嬉しい。
誰もが夢見る能力だろ!
ふんわり飛ぶことはもちろん、一度ちょっとスピードを出してみたら飛行機を簡単に追い抜けた。
音速は超えてると思う。
なお、認識阻害をかけているので誰にも気づかれない。
これで緊急アラートにも対応できそうだな。
この速さなら都道府県ごとじゃなくもっとルーズなエリア単位で大丈夫だ。
ということで全都道府県の投資用マンション探しを依頼していた不動産の仲介業者にはキャンセルを伝えることにした。
私の担当は新卒の新人営業の里山さん。
飛び込みでたまたま担当になった子なのだが、とても勘がよく気が合ったのでそのまま47都道府県を任せることにしたのだ。
いきなり47件もの案件を得ることになりとんでもなく喜んでくれたので今回のキャンセルは心苦しい。
せめて顔を見て謝ろうと店に出向いてキャンセルを伝えたら里山さんは崩れ落ちて半泣きになっていた。
そうだよね。ごめん。
申し訳ないので今の賃貸マンションを買い取りたいと伝えたら持ち直してくれた。
オーナーさんにすぐに掛け合ってくれるそうだ。
秘密リゾート用の土地の買取りについても相談してみたら見事に食いついてくれた。
「とにかく誰も立ち入らないようなプライベートな場所を探してます」
「何に使われるんですか?」
「ひきこもり用です」
「え?」
「ちょっとまとまったお金が入ったのでしばらく自然の中にひきこもりたくなりまして」
「あ、そういうことですか。いいですねー! エリアはどのあたりにされます?」
「北から言うと北海道は道北、道東の中間あたりにお願いします。東北は青森岩手秋田の3県の真ん中あたり。その下は宮城、山形、福島の3県の真ん中に」
「え、え、多いですね。あちこちに引きこもるんですか??」
「あー、まあ気分であちこちに行こうかなと」
「ならホテルや旅館にされたら楽なのに」
「里山さん、売り上げ落ちちゃいますよ」
「あ。いけない」
「ま、使い道はいろいろあるんで。北陸は長野かなあ。これも北関東、中部の真ん中あたりに。関西は実家があるから大丈夫です」
必死にメモを取る里山さん。
「つぎに中国地方は……うーん四国もあるのか。どうしようかな」
「あ、この感じでしたら……あえて瀬戸内海の島をひとつ買われてはどうですか?」
「! それはいいアイデアですよ! 無人島欲しいです!!」
「良かった!」
「楽しみすぎですよ。無人島かあ!」
「子供みたいにはしゃいでますね。はい、お任せください!」
「あとはえーっと、九州は大分にひとつあるので……」
「鹿児島宮崎熊本をカバーしておきますか」
「さすがです。里山さんに担当になってもらえてよかった」
「そんなそんな。私こそ1年目で藤沢さんのようなお客様に巡り合えて幸せです!」
場所のイメージは共有できた。
次に条件。
「とにかく人気のないところを探してほしいんです。瀬戸内海以外は山奥なら山奥ほど嬉しいです」
「でも最低限のライフラインを考えるとそこまでは……」
「あ、ライフラインは一切気にしないで大丈夫ですよ」
「え」
「こう見えてめちゃくちゃキャンパーなので。もはやサバイバーとお考えください」
そのへんは魔法でチョロいんだよね。
「わかりました。本当にいいんですよね」
「大丈夫です。本当に山深くて絶対に人が入らないようなエリアというのが唯一のリクエストです。道路もいりません」
「マジですか」
「大マジですよ。でも湖や川があればそれはそれで嬉しいかな」
「……わかりました!」
「宜しくお願いします」
「はい! こちらこそ宜しくお願いします!」
「あ。そうだ。今回はご迷惑をかけてしまいましたから着手金を入れておきます。そのような形は取れますか?」
「え、そんなことはしなくても」
「いや、規模の大きな話ですし一度キャンセルもしてますから。こんな話、普通なら怪しまれて当然です。上司の方とあとで相談しておいてください」
「……わかりました! ご配慮ありがとうございます」
うん。いい人だな。
掛川くんと会ったときと同じ音がした。
もしかしたらご縁のある人なのかもな。
その後もいくつか確認事項を話し合って打合せは終わった。
帰りは表まで里山さんがお見送りをしてくれた。
「お騒がせしてしまいました。内容は変わりましたが引き続き宜しくお願いします」
「あの、藤沢さん……」
「?」
「あの、こんな大きなお話をいただけて本当に感謝してます」
「今度はキャンセルしないから安心してくださいね」
「あの……あの。……御礼がしたいです!」
「え?」
「お食事、あのお食事などご一緒してもらえませんか!」
「いや、そんなご迷惑かけたのはこっちですから。泣かせちゃいましたし」
「……だめですか」
「なのでこちらに奢らせてもらえるなら喜んで」
「え……」
「頼んだ物件がひとつ内定するごとに成果報酬で。そうだな、最初は私の行きつけの居酒屋からで、だんだんグレードアップしていきましょうか」
「は、はい! 嬉しいです! 頑張ります私!」
「あ、私の会社のメンバーも誰か連れて来てもいいですか? 仲間に里山さんを紹介したいんです」
「え。あ、そっか。……ええ、もちろんです!」
ん? この反応。
そっち方向に来ちゃったのかな。
モテ期きてんのかな。
いやいや、さすがに新卒の女の子が50近いおっさんにそれはないな。
いやでもユキナのちょい下と思えば。
ミズホに至っては18歳だしな。
でもあれは仕事のパートナーで付き合いも深いし……。
いや、この感じはなんか脈アリな感じしかしないぞ。
だとしたらややこしい。
なんか社交辞令にできそうにないリアルな誘いをしてしまったぞ。
やっぱりやんわり断ろう……とそう思った時。
「藤沢さん! ありがとうございます! 私絶対に頑張りますから! すぐ決めてきますからね!」
とびっきりの笑顔でそう言って里山さんは走って店に戻っていってしまった。
やる気に溢れてるな。
大丈夫かな。
うん。里山さんはまあ勘違いだと思おう。
仮になんかそんな感じでもユキナとミズホがガンガン来るから引くだろう。
それより良縁なら仲間にしたいしな。
不動産に強い仲間は必要だ。
食事のときはそっちの方向に持っていこう。
で。
いよいよ古杉くんと三花くんに打ち明けるタイミングだ。
………なんて言おうかな。
愛車のセコイアで自宅に向かう。
考え事をしながら走っていると――突然、アラートが鳴ったのだった。




