エピソード23
久しぶりに村を訪れた。
やはり、落ち着くのは前に住んでいた家の屋根だ。そこを目指して静かに降りた。今日は連れがいた。
太陽は少し西に傾いている。
皆忙しそうに動いていた。暑くなってくると、作業は朝は早くなり、午後は遅くなる。
「働き者だなあ」
彼は感心したような声を出す。
「そうだな」
自分もついこの間まで同じように働いていた。
「で、お前の好きな人ってどれ? 」
不機嫌そうな声で聞いてくる。
シュウとユカは畑で作業していた。ユカが少しふくよかになった気がする。シュウの畑に煙突から煙がでている大きな箱のようなものが置いてある。それは、燻製器かなと思う。
コウはシュウに話かけていて、子供を一人連れていた。
「あそこにいる。話をしている向こう側」
指でさして示した。
「ふーん。名前は? 」
「コウ」
そう答えて、彼をみると笑顔になっていた。
「なんだ」
どうでもよくなったようだ。
「オレたちは何もしなくていいのかな」
タカはぽつりとつぶやいた。
村にいるとそう思ってしまう。
「昔は助けたりしたこともあるんだよ。まあ、特に相棒が。でも、それが続くと助けてもらうのが当たり前っていうか、思い通りじゃないと文句を言うようになったり、ぐうたらしてきたり、まあ、どうにもならない時と神の花だけにした方がいいんじゃないかってことになった」
「そうか」
そういえば、ユカに口止めしたのは、要求されることがないようにだった。
「もうさ、好きなやつのお嫁さんになりたいって言われたってさ。自分でがんばれよって話だろ」
「確かに」
「大昔の話をするとさ。俺がこの体になった時、ここからずっと西の都では、俺たちに仲間は大きく三つの勢力にわかれてたんだ。アスラ爺さんの友達の勢力は金儲けと人間を従えたいって感じで、その息子の勢力は清く正しく生きましょうみたいな感じで。アスラ爺さんはどっちも容認してて、数を増やそうって感じじゃなくて、俺みたいな社会で生きていけないやつを救ってくれるってみたいな感じで。俺と相棒はアスラ爺さんの勢力の中にいたから、困ってる人に寄り添う的な感じでいたんだ。それでも、けっこう数が増えてきて、じゃあ、違うところへ行こうかってなって、ここに来たんだ。森が気持ちよくて居ついた。でも、ここは何もすることがない。みんなで助け合うようになってる。そうだろ? 」
「そうだな」
「神の花くらいだろ」
「そうだな」
タカは頷いた。
「だから、いいんだよ」
彼の横顔は少し寂しいようにも見えた。
「他の所へ行こうと思わなかったのか? 」
空を飛べるのだから移動は簡単だ。
「愛着っていうか、俺たちを受け入れてくれたし、森にずっと手を入れずに残しておいてくれる。良いねぐらもあるし。なんといっても蛹の時に安心できるところがあるのは大きいよ」
「相棒がいた時は良かっただろうが、一人なら仲間が欲しくなるんじゃないか」
そう言ってから、タカは彼が仲間を作ろうと思えばいつでもできるのだと思い出した。
「仲間っていっても誰でもいいわけじゃないから。俺はもう一度相棒に会いたいと思ったから、ここでずっと待ってた。あいつなら、きっと。生まれ変わった後でも会いに来てくれるって信じてた」
「生まれ変わった後でもわかるのか? 」
魂は同じでも姿形は違うだろう。
「もしかしたら違うのかもしんないけど、こいつになら何されてもいいやって思うくらい好みのやつがいたらそういうことにしようってことにした」
「え? 」
今、なんかすごいことを聞いたような気がした。
「なんか思い出さない? 違ったらそれはそれでもいいんだけど。あいつとの出会いも好みってだけだったんだから。同じっちゃ同じ」
「どのくらい待ってたんだ? 」
彼がいままでどの位一人で生きてきたのだろうと思う。
「さあ、人間の人生の数十周か位かなあ」
「そんなに――それだけの間に好みのやつがいなかったのか? 」
気の遠くなるような時間だ。
「いたよ。何人も」
「じゃあ、なんでそいつを仲間にしなかったんだ? 」
タカが不思議に思うと、彼は不服そうな顔で見てきた。
「お前はいやだったの? 」
「いや、そういうわけじゃなくて、早く仲間が欲しいんじゃないかと思っただけだ」
「そりゃさ。そうだけど。これからずっと長い時間を一緒に過ごすのかあって思うと、見た目はせめて俺より年上が良いって思うじゃん。そしたら、いつの間にか結婚して子供がいたりして。そうなると、だめじゃん。それの繰り返し」
それはそうなるよな、村の規則上――とタカは思った。
自分はたまたま、ちょっとすり抜けたわけだ。
タカは空を見上げた。いつも感じていた切なさがない。見上げてみていたものは何だろうと思う。
手は彼の肩へ延び抱き寄せていた。
「何か思い出したのか? 」
彼が驚いたような声を出す。
「こうしたいと思っただけだ」
何かを思い出したわけじゃない。ただ、空を見上げて何を見ていたのだろうと思う。それが、以前、最期に見ていたものかもしれない。だとしたら――。
「俺名乗ってなかったけど、コウっていうんだ」
彼の言葉に一瞬息を忘れた。
「――オレは」
「知ってるよ。タカ。俺の相棒と同じだ」
「――そうか」
タカは大きく息をはいた。
長い時間を待っていたのは彼だけではなかったのかもしれなかった。




