エピソード19
シュウが収穫した野菜の盛られたかごを持って家に入ってくる。
「もう、雨があがったよ」
声が少し不服そうだ。もう少し待てば雨の中作業しなくても良かったということだろう。
「ユカ、体を温めておけよ」
気遣いも忘れない。
「うん」
「今のうちに魚をとってくるよ」
「気をつけてね」
今度は網と桶を持って家を出て行く。
「タカも日向ぼっこしてくる? 」
ユカが聞いてくる。
「いや、今はやめておくよ」
すぐに陽は落ちる。それよりも考えていることがあった。
ユカが夕食の支度を始める。
タカはそれをぼんやりと眺めていた。
夜も更けてくると、音が響くように感じる。
外が静かなのは雨はあがっているのだろう。
ユカは寝る準備をしていた。
「ユカ」
タカは声をかけた。
「話は明日にして」
答えはいつもと同じだ。
「聞いていてくれるだけで良い」
タカが言うと、ユカは何も言わずに着替えて布団をかぶった。
「オレは森に行くことにするよ。オレにできることは何もなさそうだ。ユカ幸せにな。じゃあ――」
行くよ、と言おうとした時、ユカが起き上がってベッドから降りると寝室の引き戸の前で両手を広げた。
「いかないで」
まさかなユカの行動にタカは何も言えずにいた。
少し沈黙が流れた。
「どうしてもだめなら、私も森へ連れていって」
「それはできないよ。森には家も田畑もない。人間は生きていけない」
「なら、私もタカと同じ体にして」
「それもできない。そもそも、どうしたらできるのかわからない。それに、おそらく、この体は成長しない。今のユカの体にはどうなってしまうのかわからない」
「――傍に居たいだけなのに」
「でも、オレが不甲斐ないばかりにユカを幸せにはできない」
「私は幸せだったよ。タカはいつもやさしかったし」
「ユカがそう言ってくれても、オレは自分がいやになる。ユカのことは大切に思う。でも、どうしようもないんだ」
ユカの手が力なくおりる。
「私が傍にいるのはつらくさせるだけ? 」
「それは違うよ。そうなら、会いにきたりはしない。ユカと過ごした時間は一番安らぎがあった。楽しかった」
「ほんとに? 」
「ああ。無事なことを知らせるだけのつもりだったのに、長居してしまったのは未練だな」
「それでもいってしまうの? 」
「人が森では生きていけないように、オレは村では生きづらい」
「そう――でも、時々帰ってきてくれるとか」
「それはやめておくよ。ユカをしばりたくない。お別れだ」
タカは引き戸をあけて寝室を出た。
「タカ」
ユカが寝室の入り口から呼ぶ。その声に答えてはいけないと思った。シュウに聞かれてしまう。けれど、どうせ知られている。
「タカ、タカ? 」
ユカが何度も呼ぶ。
戸を開けないと出られない。戸が閉まっているということは家の中にいることはわかる。
「元気でな」
ユカに声をかけ戸を開けると「タカ」とユカの声が追ってくる。外へ出ると星空に満月の明るい夜が迎えてくれた。
背後の戸が開かれる音に、あわてて飛び上がった。
「タカっ」
ユカが呼ぶ。それはもう答えてはいけない声だ。
上を見上げるユカをタカは見降ろしていた。
このまま森へ行ってしまうのが良いと思ってはいても、体が動かない。せめて、ユカが家の中に入るまで見守りたいと思っていた。




