エピソード18
数日が経った。
ユカとシュウは仲良くやっているように見えた。
タカは小さくため息をついた。
雨が降っていた。こういう日は共同作業はないし、野外での活動は最小限になる。当然ながら、家の中での作業だ。細工ものを作ったり、保存食を作ったり。そして、裏の戸は開いていない。
結局タカは寝室で壁にもたれて時間をつぶすことになる。
時々ユカが用事をつくって寝室にきて、少し話をして戻っていく。
相談したいとユカは言っていたが、そんな話は一切ないし、問題になりそうなこともない。
自分たちが生活を始めた時の方がぎこちなかったし、どうしたらいいのかわからないことが多かったように思う。
シュウにそんなことは感じない。
戸惑うこともなく、生活はスムーズに進んでいく。ユカが嫌がるような様子もない。
『堂々と傍にいられる』と言ったシュウの言葉が思い出される。そして、裏口が閉じたままの意味をシュウは理解しているだろう。
この家に二人きりなわけじゃない、と。
ユカが度々寝室に来る意味も。
そして、みんな窮屈な思いでいる。
仲間はずれは自分だ。そろそろ離れる時間かもしれない。
雨があがった時に――。
そうタカは思った。
それから、雨は三日続いた。
それで、今日は午後から共同作業が行われることになった。最小限の作業しかしないので、一家で一人出て欲しいとの話で、シュウはユカに家で休んでいて良いと言ったのに、ユカは付いていった。今、タカは家の中で一人だった。
書置きを残して家を出ようかとも思ったが、後悔する気がする。ただ、ユカが話を聞いてくれない。
晴れたら森へ行くと言おうとしたのだ。何度も。
でも、ユカに話しかけようとすると、後で聞くとか、明日にしてとか。すぐシュウのところへ行ってしまうか、布団をかぶってしまう。無視するわけではなくて、陽にあたらなくて大丈夫かとか何か欲しいものがあるかとか、気にはしてくれる。
けれど、話は聞いてくれない。
どうするべきか――。
良い案は浮かばないまま、戸が開いてシュウとユカは戻ってきた。
シュウがお湯をわかし「おれは畑の収穫をしてくるから、ユカは早く着替えるといい」といって、すぐに家を出ていった。
良いチャンスだとタカは思った。
シュウが近くにいるとユカと話しづらい。話すということの仕組みがわかっていないからだ。たぶん、相手に意識を向けて言葉にすると伝わるように思える。コウにだけ聞えた時のように。ただ、ユカの傍にシュウがいた場合、シュウにも意識が向いてしまうかもしれない。それに、ユカは答えづらいだろう。返事をしてくれないと、伝わったのかわからない。
作業をして疲れて帰った時ではある。こんな時に話すことではないだろうが――。
「ユカ」
タカはユカに話かけた。
「ごめん、タカ。話は後にして」
いつものように話を止める。
「お疲れ様。体は大事にしろよ」
話したいこととは別のことを言葉にした。伝えておきたいことではある。
ユカの返事はなかった。少しして。
「タカは大丈夫? 」
気遣う言葉は声が震えていた。
「ああ。ほとんど動いてないからな」
「よかった」
その声は本当に安堵しているようだ。
オレはそろそろ森にいくよ――それだけの短い言葉を出すのが躊躇われた。
「雨はまだ続きそうか? 」
また、あたりさわりのない言葉を続けた。
「雨は弱くなってきたよ。空も明るくなってきたし」
「そうか。それはよかった」
話しながら、ユカはもうわかっているのだろうと思った。次に話をする時は別れる時だと。




