エピソード17
シュウが初めて泊まった次の日、朝早くに戸の閉じる小さな音が聞えた。
タカはシュウが出ていったのだと思う。家に入ってくる時に何も持っていなかったことを考えると、ユカが朝ごはん用に作ったおにぎりとかタオルや着替え等は、倉庫の方へ持っていっているのかもしれない。それを取りにいったのだろう。
ユカは安らかな表情ですやすや寝ていた。
雨は上がったのだろう。雨音はない。
どれほど時間が経ったろうか、戸が開く音がした。シュウが戻ってきたのだと思う。
まだユカは寝ている。
そろそろ起こした方がいいのではないかと思ったが、寝顔を見ているともう少し寝かせてあげたいと思ってしまった。
しばらくすると、ガタンガタンと音がする。外では歩いている人の声も聞こえるようになってきた。そろそろ起こした方が良いらしい。
「ユカ」
名前を呼んでみた。
まだ夢の中だ。
物を飛ばす要領で、ユカの体をゆすってみた。
「え? 」
声をあげてユカが目を開ける。
「ユカ、そろそろ起きないと」
タカは声をかけた。外からも人の声が聞こえる。
「え、もう、そんな時間? 」
驚いたように、ユカは飛び起きる。
急いで着替えると、寝室から出た。そして「え? 」と声をあげて止まる。そして、小さく息をすると「おはよう」と言った。
「ユカ、昨晩は寝られなかったのか? 」
シュウの声が聞えた。
「逆よ。よく寝られた。寝すぎちゃった。もう行かないといけないよね」
「ごはんを食べるくらいの時間はあるよ」
「でも、何も用意してないの」
「昨日、ユカが作ってくれたおにぎりを分けよう」
「――ありがとう」
ユカはすんなりシュウの提案に従った。ぐずぐずしている時間はないと悟っていたのだろう。
食事をすると、二人は慌ただしく家を出ていった。
寝室で様子を伺っていたタカは、表の戸が閉まる音を聞いて、立ち上がった。ふと、ベッドの脇に置かれた桶が気になった。
昨晩、ユカが使っていたものだ。片付ける時間はなかったのだろう。これくらい片付けてもわからないだろうと台所に運び、桶の中の水を流すと、桶はいつものところに置いた。
ふと、裏口をみると戸があけられている。時間はなかったろうに、開けていってくれたのだと思った。
ユカは、初日からぐっすり寝られたようだから、心配することはなかったのかもしれないと思う。
自由に動けるのは、二人が共同作業に行っている間だ。その間に森へ行くことを選んだ。
まず、彼のところへ行って穴の中を望みこみ声をかける。いつものように返事はない。いつもなら、中に入って座り込むのだが、やめておいた。時間を忘れてしまう。
叢に降りて寝転がる。温かい光が体に吸収されるのを感じる。確かに気持ちは良い。
けれど、早々に打ち切って、ユカのもとへと飛んだ。
裏口から覗くと、ユカが一人台所に立っている。
「ユカ、シュウは? 」
ユカに声をかけた。
外にはいなかった。
「おかえり。早かったね。シュウは長老のところへ行った」
ユカが振り向く。声も明るい。
「荷物は今朝運んだんだって。全然気がつかなかった。台車で一回運んだだけで済んだって言ってたけど」
「そうか。ユカは何してるんだ? 」
「お団子をもらったから、赤い豆煮てるの。蜜をかけてお昼ご飯にしようと思って」
「おいしそうだな」
「うん。タカも食べられるといいのに」
「おいしい太陽を食べてきたよ。今は腹いっぱいだ」
「そっか」
返事はそう残念そうでもない。それが救いだったりする。必要なこともできることも全然違う。分かち合えることはない。
シュウが戻ってきて、昼食を終えると、シュウは木材を家の中へ運んできた。
「何を作るの? 」
ユカが聞く。
「ついたて。見えないところがあった方が便利だろ」
「――そうかも」
「何か欲しいものがあったら言ってくれ。コウが木材をたくさん集めてくれたから」
「作りたいものがあったんじゃないの? 」
「必要なくなったものもある」
「――そっか」
「水瓶がひとつ増えたから、晴れてるうちに水を運んでくるよ」
「ありがとう」
「おれの分でもあるから」
シュウは台車を持ってくると、空らしい水瓶を乗せた。
「私も行く。何か手伝えるかも」
ユカが戸を開けて、シュウを待つ。
戸が閉まると、家の中は静かになった。




