エピソード13
「ねえ、タカ、タカの幸せって何? 」
ユカが再度聞いてくる。
「――ユカが幸せであること、かな」
今、一番願っていることはそれだ。
「そうやって、タカはいつも誰かのことを思ってる。そうじゃなくて、タカは自分がどうなりたいって思うの? 誰にも見えないのだから、ずっとコウの傍にいることもできるんだよ」
ユカが意外なことを言う。
そんなことは考えたこともなかった。
「コウには最愛の妻と子供がいる。幸せでいてくれたら、それでいい」
それ以上に望むことがあるのだろうか。
「ねえ、タカは昔からよく空を見上げてたけど、何を見てたの? 」
「え? 」
そんなことを聞かれるとは思わなかった。
「空を見上げて、切なそうな顔をしてる。どうしてなのかな、って思っていて、それは、コウのことを思っているのかなって思っていたんだけど、一緒に暮らし始めたら違うのかもしれないと思ってきた。確かに、コウのことはとても大切だと思っていると思うけど――何か、もっと大切な何かがあるのかもしれないって」
「――そんなことは考えたことなかったな」
事実だ。なんとなく、空を見上げてしまうことはある。そして、胸が痛くなる。それがなぜか自分でもわからなかった。
「タカの一番大切なものは何? 」
「ユカだよ――悲しい思いばかりさせてしまって、そんな風にには思えないかもしれないが」
「違う」
ユカが笑う。
「タカが私のことを大切に思ってくれてるのはわかってる。でも、一番じゃない」
「そんなことを言われても――」
タカは困った、思い当たることがない。
「少なくとも、私よりひなたぼっこの方が好きだよ。だって、時間を忘れちゃうんだもん。誤解しないでね。責めてるわけじゃない。タカが好きなら、もっと好きなだけひなたぼっこしてきていいよ。でも、ちゃんと帰ってきてね。ここにいられる間は――」
ユカは、最後は涙声になっていた。
「ごめん、ユカ」
おもわず声がでた。
「タカが謝ることないよ。神様には、タカの幸せが見えてたのかもしれないね。タカが幸せならそれでいい。誰かの受け売りみたいだけど」
ユカの声に笑顔がのっているようだった。
「あと、どれくらいいられるの? 」
「わからない」
「神様はまだ寝てるの」
「ああ」
「――もうすぐ、ひと月だね」
「そうだな」
しばらく沈黙が流れる。
「タカ――私は一番の宝物をタカからもらった。タカも・・・・――」
言葉があやふやになり、穏やかな寝息が聞こえてくる。
「ごめん」
タカは呟いた。
時間を忘れたのは、日向ぼっこじゃない。ただ、それをユカには言えなかった。
ただ、それを知られることはないだろうと思う。
ユカに一緒にいると約束したひと月はあとわずかだった。




