File9 俺と後輩と道標
「...しかし、お前も思い切った行動に出たな」
「何が?」
会話の後、俺と大宮の会話が一気に広がりを見せて、少しブームになっているらしい。
昨日から随分とアクシデントに巻き込まれてんな。俺...
圭介がゲラゲラと笑いながら、俺たちの会話を一部始終をちゃんと聞いていたらしい
それよか...俺とんでもない事したか?
「だってよ。お前、それ、あいつに勝ったら、自分から天宮に告白しますっていってるようなものじゃん。」
「...あ」
「気づいてなかったのかよ。お前ほんと抜けてるよな。」
そうだよ。何で気づかなかったのさ。俺告白するって言っちゃったよ。
あのときは売り言葉に買い言葉な感じで答えちゃったけど、結構やばい状況なんじゃ
と思った瞬間遠くから砂埃がこっちに向かってきている。
「貴様ぁ〜」
ドドドドと走ってくる吉澤さんとその他大勢の人達
...ってかあれは間違いなく見覚えがある。
「常盤〜お前、氷川優希さんを裏切るつもりか〜」
「そうよ、貴方。麗奈ちゃんを裏切るなんて死刑に値するわよ」
氷川優希FCと氷川麗奈FCの人達だ。ってか昨日の事なのに、何をバカなこと言ってるんだこいつら。
「はぁ?何トチ狂った事言ってんだテメェ等。」
「大体お前は、優希くんの彼氏だろ。何一人勝手に別の女に手ェ出そうとしてんだ」
「そうよ。貴方の義務はただ一つ。麗奈様を幸せにしてあげる事。それだけしか考えちゃいけない立場なのに...」
こいつ等...昨日といい今日といい身勝手すぎるだろ
なんで俺がそこまで奴等のために働かなきゃならんのだ
「何を言っている。君は氷川FCの名誉会員ではないか」
「誰が名誉会員だ。誰が...」
「頼むよ〜君がいないと彼女達の笑顔が見れないじゃないか」
こいつ等、交渉下手すぎだろ
仮にもこいつ等何らかのエキスパートを目指してるのに他を疎かにしすぎじゃないか
相変わらず性能が尖りすぎなんだよ幾ら何でも...
それにどういう意味だ?元気がないって...少なくとも、麗奈の方は昨日話した限りだと元気そうだったがな..
「お前らの見間違いってことはないのか?」
「あり得ぬわ。我等氷川親衛隊。彼女達の事なら、火の中、水の中を裸一貫で何でも言うことを聞くつもりの我らに知らぬことなど何一つとしてない」
...こいつらのせいで元気が無いんじゃないだろうか。
FC会員の奴らをぼんやりと眺めながら思った
そして、会長らしき男が説明を受ける
「...だから、君が彼女達を元気付けてあげてくれ」
「何で、俺なんかに...」
「頼む」
会長さんの本気の目が俺に訴えかけるように見つめてくる
...こいつ等もこいつ等で色々と思う所はあるのだろう。
本来なら、俺なんかに頼るべきじゃないのは十分承知の上で、こうして頼みに来ているのは痛いほど伝わってくる。
「分かったよ。引き受ける。引き受けりゃいいんだろう」
「本当か!!済まない。有難う」
ワァーと騒ぐ後ろの集団
よっぽど心配だったんだな。彼女達の事
FCって結構倫理観にかけるって場合もあるだろうが、彼らは多分大丈夫な感じがする。
ってかここまで本気で空いてくれる人達がいるってのは羨ましい事だよな
まぁやりすぎなところは目を瞑ろう...
何と言うかあれに近いな。普通に親バカっぽい感じがした
別に彼らとそんな大して年の差がある訳でもない筈なのに
まぁ、心配になる気持ちはよくわかるが...
それに元気が無いってのは気になるな。
いや、まぁ俺も関係してくる話なのかもしれんが、気にはなるし、行ってみるか。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
何か周りが騒がしい
風の噂で、生徒会の人間と2年の常盤礼治という一生徒が勝負をするらしい。
氷川優希はそう思った。
先輩の周りはいつも賑やかだ
本人は気付いてないんだろうけど僕なんかよりよっぽどスターな気がする。
良くも悪くも人が集まってくる。
僕はその光景がとても眩しく見えた
ここは天下の令成学園
ここに入ってくる人達は、何かしらのスペシャリストか実力者だろう。
先輩もここで1年以上生活しているのだ。
多かれ少なかれ、有名になるのは仕方のない部分は多いと思う。
...僕も将来の夢がある。
姉さんは今でも、ハリウッド女優を目指しているがぼくは今だにそれを大っぴらに言える自信がない。
それに、姉さんと違いお洒落じゃないし、自信がある訳でもない
それに、昨日先生に言われた台詞を思い出す。
「...まだまだ演技にのめり込めていないね。演技の基本はその世界観キャラになりきること。それがまず第一歩だよ」
「無理をしていないかい?君はまだまだこれからだよ。」
正直に言うと、僕自身スランプに入っている。
今迄、演技すると自然に入り込めているのに、今は中々入れない。
周りは一足飛びに成長していくのに、自分はまるで成長していない感じがする。
正直に言ってると焦っているのだ。
何をやってもうまくいかない現状と周りのレベルの高さに
それでだろう。いつものFCの人たちが心配してくれているのは...
屋上で空を見上げながら「はぁ」とため息をついていると、ギィとドアが開いた
そっちの方を見ると常盤先輩が立っていた。
「いい天気だなぁ、相変わらず。」
「...先輩?どうしたんですか。こんな所で」
「ん?いやなたまに一人でここで食ってるのよ。昼飯」
手に手提げ袋を持っていた。
あぁそういえば、もうお昼か...
「先輩...結構食べるんですね。」
「まぁな。弁当とか作って来たんだけど、駄目だね。昼になる頃にはすぐ無くなっちゃう。」
「学食は混むからなぁ」と言いながら、屋上のフェンスに背を預け、買って来たパンを食べる。
ボーッと見ていたら、先輩が、こっちにパンを差し出して来た
『食うか?」
「...有難うございます」
先輩と二人っきりで飯を食べる。
鳥の囀りといい感じに風が吹いているのが心地いい
「なんか、悩みでもあんのか?」
「..別に、そんな事ないですよ。」
「まぁ、悩みなんて、人それぞれだからなぁ」
俺がいうのも変な話かと笑いながら、答える。
「先輩の好きな人って、会長さんだったんですね。」
「あれ、もうそこまで、話広がってんだ。」
「結構人気の話題ですよ。なんたって、大宮書記さんと一騎打ちって感じですから」
「それもそうか」と呟く礼治
勇気はパンをぎゅっと握りしめながら、言う。
「この学校って、相変わらずすごいですよね。」
「まぁな。」
「僕初めてですよ。周りに勝てないって思っちゃたの」
「ハリウッドだっけ?その夢」
「知ってたんですか?」
「麗奈に聞いた。」
「正直言って、自信はあったんです。うまくやれる自信は...でも、僕より上は沢山いて、だんだん向いてるのかすらわからなくなっちゃって...」
「早速、挫折を知っちゃったってことね。まぁ、よくある話だわな。」
「先輩はどうやって克服したんですか?やっぱり頑張るしかないんですかね。」
僕は先輩の方を見つめたが、先輩はけろっとした感じで呟いた。
「別にいいんじゃない。お前がそう思うなら」
「え?」
「努力なんて、誰かから言われてやるもんじゃなく、自分自身でやるものさ。辛いことも沢山ある。挫けそうになることもある。現に俺も一度はテニスやめようって思った事あったしな。」
「...そうなんですか?」
「そりゃそうさ。みんな親切にはしてくれてるけど、俺的にはキツかったね。勝てない日々が続いて。でも諦めきれなかったから、今の結果がついているとも言える。」
「でも、それはあくまで俺の場合の話。お前はお前の道があるんだ。ゆっくり見つければ良いさ。まだまだ一年生。人生まだまだこれからだぞってな。」
と頭をくしゃっとしながら、先輩は僕の横にプリンを置く。
「甘いもんでも食って元気出せ。そしてそっからゆっくり考えな。お前は、氷川優希っていう人間で、少なくともお前を応援してくれる人達がいるんだからな。」
「...ハイ」
先輩はそう言いながら、屋上を去っていた。
そして、僕は先輩からもらったプリンを食べる。
このプリンはよく僕が食べるプリンだ。特に甘さが気に入っている。
いつも食べた時に幸せを感じる好きな味
でも、何故かいつもより身体がとってもあったかくなる感じがした。




