第5話 試飲会
お話ごとの登場人物
第一王子派
・セヴェリウス ヴィスコンティ侯爵。フローラの祖父。
・シモンズ伯爵(死亡) ・フェルネル伯爵(死亡)
第三王子派
・ローデン侯爵 ・オルデンベルク侯爵 ・アーデルハイム公爵
王都のオルデンベルク侯爵邸。
東方から渡ってきた貴重な酒を手に入れたという侯爵が、晩餐もほどほどに、数名の内輪だけを集めた試飲会を開いていた。
飾り細工の施された重厚な木製の卓には、ナッツやチーズをはじめとした酒の肴と、いくつものグラスが並んでいる。
ワインに琥珀色の蒸留酒、薬草酒。その中には、東方から伝わった無色透明の蒸留酒もあった。
思い思いの酒を手にする侯爵たち。
けれど、グラスの中身は少しも減っていなかった。
集まった者たちが皆、険しい表情で語り合っているからである。
「――シモンズ伯爵の件は、間の悪いただの急死だ。それなのに、ヴィスコンティ侯爵ときたら……」
「あの方は昔からそうであろう。大義名分を掲げて、自らが中心となることで、これまでやってきた」
「だからといって、我々を疑うのはお門違いではないか」
第一王子エドワードに忠義を尽くすヴィスコンティ侯爵。
けれど、彼の忠義が純粋なものだけではないことは、周知の事実であった。
「伯爵の件を、いいように利用しておる」
オルデンベルク侯爵がグラスに口をつける。
「それよりも、子爵家の件を忘れてはいないだろうな?」
「もちろんだ。侯爵邸には何もなかった。だが、子爵邸へ送った者が戻らなかったなど、到底信じられぬ」
「中立ではなかったのか?」
「あの侯爵の息子だぞ?」
「いや。侯爵が先を読んで、何か仕掛けていたのかもしれぬ」
「ならば、なぜ子爵家だけなのだ?」
誰も答えを持ってはいなかった。
残されているのは、結果だけ。
確証のない出来事が、疑惑と疑念を呼び込み、議論は途切れることなく続いていく。
「――エドワード殿下の側では、ヴィスコンティ侯爵が大きな影響力を持っている。侯爵が警戒を強めているのであれば、このまま見過ごすわけにはいかない」
「我々には、アルフレッド殿下をお守りする義務がある」
側近らしき男や、居合わせた侯爵たちが賛同する。
熱を帯びていく一同を、静かに諫める声が上がった。
「――アルフレッド殿下は、そのようなことを望んではいない。異母兄とはいえ、エドワード殿下を慕っておられる」
「殿下を担ぎ上げることこそ、殿下のお望みに反する」
アーデルハイム公爵に続き、オルデンベルク侯爵も言った。
第三王子を支える二人の重鎮の言葉に、一瞬、その場が静まり返る。
けれど、その中の一人――酒が回り始めたローデン侯爵は、口を閉ざしていることができなかった。
「だが、殿下は武をもって国を支えるという志を持っておられる。我々が支えずして、どうする?」
その言葉に、再び場に熱が灯る。
「殿下は、ご自身の力で国を守ろうとしておられる」
「いずれ、殿下こそ次にお支えするに相応しい方だと、皆が気づくのではないか?」
「殿下も陛下の血を継いでおられる」
熱くなるローデン侯爵たちに、アーデルハイム公爵が指先で卓を数度叩いた。
「殿下に、そのようなお気持ちはない。よいな?」
あの第三王子が、第一王子を蹴落とそうと考えるはずがない。
ないのだ。
だが、一度周囲で燃え上がり始めた炎を収めるのは、並大抵のことではなかった。
「閣下。お言葉ですが、こちらも備える必要があるでしょう」
ローデン侯爵の言葉に、アーデルハイム公爵は首を振る。
「シモンズ伯爵の死に、我々は関与していない。ならば、我々が騒ぐ必要はない」
「殿下が望まれるままに、お支えすればよい」
アーデルハイム公爵とオルデンベルク侯爵の言葉に、ローデン侯爵は不満げに口を閉ざした。
結局、これといった結論が出ることはなく、その夜の試飲会はお開きとなった。
数日後。
ローデン侯爵が、軍事演習中の事故で亡くなった。




