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勇者がフルアーマーを脱いだら、現代日本では国宝級イケメンでした  作者: スアップ


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第2話 迷宮の入り口、職務質問という名のクエスト

アスファルトの冷たさが、背中に刺さる。

 俺――佐藤勇者句は、意識を取り戻すと同時に立ち上がった。視界は鮮明だ。女神の光によって、聖域不可侵大帝国での戦いで受けた致命傷は癒え、肉体はかつてないほど万全の状態だった。


 だが、周囲の状況は最悪だった。

 俺はまだ、魔王との最終決戦に挑んでいた時の「重装鎧」を身に纏ったままだった。周囲の人間たちが、信じられないものを見る目で俺を凝視している。


(なんだ……? この異様な視線は)


 その時、俺の肩に強い力がかかった。振り返ると、そこには紺色の制服を着た男が二人。警察官という、この世界の「衛兵」のような存在か。


「おい、君。……その格好、ちょっと署まで来てもらえるかな?」


 職務質問。俺は女神が言っていた「平和な迷宮のルール」を思い出した。ここは戦場ではない。敵意を見せれば、この国での攻略が最初から頓挫する。


「……了解した。同行しよう」


 俺が静かに腰の聖剣に手をかけた瞬間、警察官がギョッとした表情で叫んだ。


「おい! 何か抜くな! ……っていうか、それ、何だよその棒切れは!」


 俺は腰から剣を抜いた。だが、そこにあったのは聖剣ではなく、公園で子供が振り回すような「木剣」だった。女神の「無力化」が、剣の本体にまで及んでいたのだ。


「……木剣か。なるほど、この国の法では、刃物を持ち歩くことは許されないのだな」


 俺が真顔でそう答えると、警察官はさらに呆れた表情を浮かべた。俺は困惑した。なぜこの程度のことで、彼らはこれほどまでに情緒を乱すのか。


 その時、人混みを掻き分けて、一人の少女が駆け寄ってきた。

 彼女は頭に「猫耳のカチューシャ」をつけ、露出の多い布地で身を包んでいた。俺は一瞬、女神の導きで獣人族の戦士が遣わされたのかと目を細めた。


「ちょっと! その人に何してんのよ! ……って、すごい! めっちゃリアルなフルアーマー!」


 少女は俺の鎧を触り、目を輝かせた。警察官が「君、離れてなさい」と彼女を制するが、彼女は止まらない。


「えっ、猫耳? この種族は……」

「はあ? 猫耳? ……ああ、これ? コスプレだよ! あたし、転生モノのファンだからさ。……待って、あんた、もしかしてマジもん?」


 少女は俺の顔を覗き込み、そして周囲を憚らず叫んだ。


「ねえ! ……待って、あんた、もしかして異世界から来たでしょ!? 匂いでわかるよ、こっちの世界の住人じゃないっていうか、その……空気の濃度が違うっていうか!」


 彼女の鋭い指摘に、俺は少し驚いた。彼女は「転生者」という概念を理解しているようだ。この迷宮において、彼女は希少な「ガイド役」になるかもしれない。


「……そうだ。佐藤勇者句さとう ゆうしゃく。この地に降り立ったばかりだ」

「勇者句!? 変な名前!やば、名前まで勇者じゃん! ……あたし、ハル。お腹空いてない? 異世界から来たなら、まずは地球の味を教えないとね!」


 ハルと名乗った少女は、俺の返事も待たずに俺の手を引いた。警察官たちは、結局何がなんだかわからず、俺たちを「変なコスプレイヤーの二人組」として見逃した。これも女神が授けた「平穏な死角」のおかげか。


 連れてこられたのは、極彩色に彩られた賑やかな飲食店だった。

 運ばれてきたのは、赤いソースが絡まった湯気の立つ麺。


「これ、『ナポリタン』っていうの。自称、異世界の勇者様への歓迎の品ね!」


 フォークを手に取り、一口食べる。……衝撃が走った。

 甘酸っぱく、そしてどこか懐かしい味。魔王討伐の旅で食べていた干し肉や硬いパンとは比較にならない、この世界の文明の結晶。


「……美味い」


 俺の言葉に、ハルは嬉しそうに頬を緩めた。


「でしょ? ……あんた、名前も鎧もヤバいけど、なんか放っておけないし。これから日本での生活、あたしがサポートしてあげるよ。……勇者様、この迷宮を一緒に攻略しようか?」


 ハルとグラスを合わせる。

 剣を木剣に変えられ、名前も奪われた俺の、新しい冒険のパートナー。

 この「佐藤勇者句」としての人生は、魔王城を攻略するよりも、ずっと予測不能な毎日になりそうだ。

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