ぼうけん は しっぱいした ! めのまえが まっくらに なった 。
今回ちょっと短い。
さて、パルティーのなる木がある場所までかれこれ一、二時間程度は森の中を歩いている。
だがしかし、それっぽい木を発見するには至っていない。
空から見たら割と近い位置にあると思ったけど、どうも違ったっぽいなこれ。
アングレカムが作った道はもう完全に獣道に切り替わっていて、とても歩き難い。
最初の頃はまだ余裕があったけど、これはきつい……。
これは引き返した方がいいかも、と考えて始める。
人並み程度の体力はあると思うけど、無理して進んで行ったら途中で力尽きて動けなくなる未来しか見えない。
道も完全に獣道へと変わってしまったから、これ以上変に突き進むと迷いそうだし。
でもあとちょっとだけと、流れる汗を袖で首にかけたタオルで拭きつつ十分程歩いていたら、座って休めそうな良い感じの切り株を見つけた。
……ここで一旦休憩して、今日はもう帰ろう。
切り株に座って、背負っていたリュックを足元に落としてふうっと息を吐く。
座った途端に足がガクガクしてきたので、かなり自分の体力はやばかったのだと自覚した。
リュックから水筒と弁当を取り出して、水筒の水を飲む。
冷たい水が喉を通って、全身に染み渡るような感覚にまた息を吐く。
「あぁ〜、生き返る〜」
ついついおっさん臭い声が出た。
でもしょうがない。マジで疲れたんだもの。もうちょっと体力つけられるように運動しようかな……。
そんなことを考えつつ弁当を食べるために、箱の蓋を留めていた紐を解いて蓋を開ける。
今日のお昼ご飯は、日本人のソールフードたるお米様を使ったおにぎりである。
まさか、異世界に日本のものと似た米があるとは思わなかったよ。
アングレカムに持ってきてもらった時は思わずガッツポーズしたわ。
素手で食べるので、予備の水筒の水でちょっと手を洗う。
水筒の大きさは一リットルは入るくらいに大きので、ちょっと手を洗うのに使っても結構残る。
これもリュックにかかってる魔法のおかげで、全く重さを感じないんだから凄いよね。二本とも同じ大きさだから、本来なら二リットル分の重さはあるんだから。
「いただきまーす!」
とても便利な物をくれた友達に感謝の念を送りつつ、しっかり手を合わせてからおにぎりを一つ手に取る。
ちなみにお弁当に入ってるのは三個。私の手と同じくらいの大きさ。
具は、今持ってるのが鶏のもも肉を塩胡椒で焼いて軽くレモンをかけたもので、後の二つはシャケに似た魚の身を入れたもの、最後のが塩漬けのきゅうり(異世界にもあったよ)を入れたものだ。
まずはお肉の方からパクリ。
肉の脂と塩胡椒がご飯とマッチしており、いくらでも食べられそう。少し強めのレモンの風味が冷えてちょっとこってりした感じの脂をさっぱりさせてくれる。
シャケに似た魚の身を入れたおにぎりは、まさにシャケおにぎりの味だった。んー、懐かしの味。
塩漬けのきゅうりは、ご飯との相性が素晴らしいの一言。そもそも基本的にきゅうりの漬物というのは、ご飯に合うおかずである。美味しくないわけがなかった。
「んっまい!」
自画自賛と言いたいならば言えばいいさ。
運動した後のご飯は美味しい。これ真理。
「ごちそうさまでした」
三個のおにぎりはあっという間に食べ終えてしまった。弁当を片付け、水を飲み膨れた腹をさする。
満腹になった後すぐに動くと脇腹が痛くなってしまう人間なので、落ち着くまで時折遠くから聞こえる怪鳥の鳴き声に耳を傾けながら、木々の間から見える空をぽーっと見上げる。
……目的地に行けはしなかったけどプチピクニックみたいで楽しいし、また今度体力作りも兼ねてまた来ようかな。
そうして暫くのんびりした後、持っていた水筒をリュックを入れてちゃんと口を閉めてから背負い、さあ帰ろうと一歩足を踏み出した時だった。
とすっと、足元に漫画でよく見るような矢が突き刺さっていた。
どっと汗が全身から溢れる。
恐る恐る矢が飛んできただろう方向を見れば、薄汚れた革鎧を着た男三人がニヤニヤした笑みを浮かべてこちらを見ていた。
一人は弓を持っていたから、たぶんアイツが矢を射ってきたのだ。
「こんなとこに女がいるなんてなぁ。いいもん見つけたぜ」
「痛い目見たくなかったら大人しくしておけよ? じゃないと傷物になっちゃうぜ〜??」
「ま、俺らが味見するから結局傷物になるんだけどな!!」
下卑た笑い声が響く。
アングレカムの結界があるから、あの三人に攻撃されても問題ない。
だから動け。走れ。逃げればこっちの勝ちだ。
そう思うのに、体は凍りついたように動かない。
息が上がる。
どくどくと脈打つ心臓が痛くて、全身冷水を浴びたように冷えている。
男たちがゆっくりとこちらに近づいてくる。
逃げなきゃと思うのに上手く足が動かなくて。
「だぁいじょうぶだいじょうぶ。大人しくしてたら優しくしてやるからよ」
ニヤニヤ笑いが、粘着くような気持ち悪い声が、王城の連中と重なる。
無理矢理足を動かして後退ろうとしたけれど、足がもつれて尻餅をつく。
それを見てまた男たちがゲラゲラと笑う。嗤う。
『穢れた血のお前が生まれてきたことが全ての間違いなのよ』
世話係の冷えた言葉を思い出す。
それは、私が前世の記憶を取り戻した日に言われたこと。
機嫌が悪かった彼女は散々私を蹴った後、冷たい声でそう言ったのだ。
その後も、何度も何度も同じことを言われた。暴力と共に。世話係だけでなく、大勢の人間から。
――お前なんて、生まれなきゃ良かったんだと。
喉から変な音が出る。
男たち三人がゆっくりとこちらに手を伸ばしてくる。
その手があと少しで私に触れるという所で、黒い影が差す。
『貴様等、我が友に何をしたっ!!』
何か温かいものが自分の体を包む。
それになんだかひどく安心して。
まるで電気が消えたみたいに、目の前が真っ暗になった。




