至れり尽くせりな森生活!
私が邪竜の花嫁として、ドナドナされて置いていかれた日から早くも十日が経った。
慣れない森での生活だし、体力は人並み以下だからそれなりに苦労するだろうと思っていたけれど、そんなことはなかった。
というのも、邪竜がマジで優秀だったからだ。
まず一日目にして、長いこと使われてなかったせいでかなり中が荒れていたログハウスを新品同然にしてもらい、さらになんとお風呂と水洗トイレを魔法で作ってもらえて、現代日本に負けず劣らずのライフラインを整えてくれたんだ。
食器類とか家具とかその他諸々生活に必要な道具も、前世の物と形や使い方が一緒という便利さ。
というのも話半分で私が別の世界転生者なんだよねー、こっちには無い便利道具とかもたくさんあったんだよー、という話をした結果、魔法で再現できることは再現してもらえた。
ちなみに転生者云々の話は驚かれなかった。なんでも偶にいるらしい。転生者だけでなく転移者も時々現れるそうな。
てかそもそも、邪竜と契約した初代国王自身がなんと転生者だったそうで。
『我と普通に話して、普通に「じゃ、何十年かに一度話し相手あげるから、うちの国のことちょっとだけ守って」と、お願いしてきたのよ』
と、実に楽しげに笑っていた。
なんて豪胆な転生者だろうか。いやほんと、よくもまあこんなザ・ドラゴンな見た目の厳つい邪竜にそんな契約持ちかけたもんよ。
中身超フレンドリーだったからしたんだろうけど。奴こそ陰の者たちが恐る真の陽キャ。
そんなこんなで、邪竜のおかげで森の中で生活しているとは思えないくらい、だいぶ楽をさせてもらっている。
食料も初日に宣言した通り運んできてくれて、肉や魚だけでなく山菜などもログハウスの中にある食料庫はパンパンだ。
岩塩や胡椒なんかの調味料もどこからか調達してくれているため、味のレパートリーも塩味だけになったりしない。
ぶっちゃけ、今の生活の方が城で暮らしていたよりも遥かに良い暮らしができている。
お腹いっぱいご飯が食べれて、美味しい果物をおやつに食べることができて、そしてなにより毎日お風呂に入れる!
私一応王族だけどいらない子だったから、毎日お風呂になんて入れてもらえなかったのよね。
生贄として邪竜のとこに行く前はお風呂に入ることはできたけど、それまでは基本水で濡らした布で拭くことしかしなかった。
お風呂に入れるのは本当に時々。それも、残り湯で入るので汚いしお湯は温くなってるか、冬だと水と変わらない状態になっているっていう。
けど、ここなら常に一番風呂!
しかも邪竜が魔法で作ってくれた特別性のお風呂だから、備え付けてある魔石から魔力が供給されることによって、毎日いつでもどんな時でも綺麗であったかいお湯に浸かれるという。
なんて素晴らしい! 美容効果などがある薬草を魔法で石鹸や化粧水などに加工して渡してくれるという、痒い所にまで手が届くレベルの至れり尽くせりぶり!!
もう本当に邪竜には感謝感激雨霰。夜に足向けて寝れ寝ないわ。
「というわけで、感謝の気持ちを込めに込めたハードクッキーです。召し上がれ」
『うん、ありがとう。とっても嬉しいけど、どれもこれもリグレーの顔と同じ大きさだね? クッキーってもっと小さいものだった気がするんじゃが??』
「気持ちを込めた結果だよ!」
『そっかー』
なんだがちょっと引き気味な邪竜。何故だ、感謝の念を込めて作っただけなのに。
ちなみに私の顔と同じ大きさなのは、そのくらいじゃないと大体六階建てくらいの大きさはある邪竜には、普通の大きさじゃ物足りないだろうと思ったからだ。
だから頑張った。オーソドックスな丸い形だけでなく、星形やハート型など型抜き無しでも作れるような形にして、それを二十枚を二日かけて焼いた。
プレーンだけじゃ飽きるだろうから、邪竜がどこからともなく持ってきたドライフルーツやパルティーを混ぜ込んだのも作った。
こんなんじゃ、全くお返しにならないだろうけど。私なりのせめてもの気持ちだ。
あと、お菓子はクッキーくらいしかまともに作ったことがなかったからというのも理由の一つではある。
あ、でもパンケーキなら作れるな。……今度はパンケーキのタワー作るか。ホイップクリームってこの世界にあるんだろうか?
つらつらとそんなことを考えながら、さあ食べてくれたまえと邪竜に一枚クッキーを差し出す。
邪竜はクッキーを大きな爪で器用に摘んで、暫くじっとクッキーを見つめた後意を決したように口に入れ、ガリゴリ音を立てながら咀嚼する。
『……うむ、かなり硬いがなかなかいけるな。顎が鍛えられる』
「結構美味しいよねハードクッキー。今回は甘いのしか作ってないけど、ハーブ塩とかしょっぱいのも結構美味しいんだわ」
『そうなのか。では、機会があればハーブ塩のハードクッキーも作っておくれ。材料はもちろん我が調達してくるとも』
「なにからなにまで本当にありがとう!」
『ああ。……感謝されるのは少し擽ったいが、こういうのも良いなぁ』
「そりゃあ感謝の一つや二つ、三つや四つ無限にするよ。ここまで色々してくれてるんだから」
本当にこの邪竜は、初対面の頃から色々なことをしてくれた。
食と住をきっちり整えてくれて、衣の方も相談すれば春夏秋冬の服を揃えてくれたし。
いつか、いや……毎日少しずつでもこの大きな恩を返していかないと。
返しきれる気は全くしないけど、それでもできる限りは返していきたい。
邪竜がいてくれたからこそ、私は今こうして元気に生きていられるわけだし。
素直にそう伝えれば、邪竜は金色の目をクッキーを摘んでいる方とは反対の手で覆った。
『……うぅ、リグレーは本当にいい子じゃな。今まで話し相手になってくれていた花嫁たちとは違うの。身の回りのこともきちんと己で行っていることだしのぉ』
「? 今までの花嫁はそうじゃなかったの?」
『そりゃまあ、いいとこのお嬢さんばかりじゃったからな。着替えも食事の準備も何一つまともに一人ではできんかったよ。だから必ず使用人が数名付いてきておったし、基本的には皆偉そうじゃったわ』
「邪竜相手に!? 命知らず過ぎない!?」
『だって我、人間たちと戦わずに国王と契約交わしちゃったからなぁ。しかも何をどう曲解されたのか分からんが、我が国王に負けて服従を誓ったみたいな感じで話が広まっちゃってて』
「なんで??」
いや、マジでなんで??
というか国王は訂正しなかったの? え、別にそれでも問題無いから訂正しなくて良いって言ったの? マジかよ……。
なるほど……ビクビクおどおどされながら話すのは面倒だったったのか。いや、気持ちはなんとなく分かるよ。分かるけどさぁ。
一応最強種としてのプライド的なのは無いの? 皆無? そっかー。
……こんなんでどうして花嫁(生贄)っていう、解釈がされるようになっちまったんだろうなぁ。ほんと。
幸せそうにガリゴリクッキーを食べる邪竜を見つつ、そんなことを考えた。




