めちゃくちゃフレンドリーな元邪竜の花嫁
寒く厳しかった冬が終わって、命芽吹く温かな春が来た。
冬の終わりと同時に戻ってきたらしい怪鳥たちが、今日もすっごい声で朝から鳴いている。
「今日もいい天気だねー」
『饅頭も美味いのぉ』
庭で地面に座って仲良く日向ぼっこしながら、最近手に入った餅米で作った饅頭に二人で舌鼓を打つ。
あの日。アングレカムに番になってほしいと告白された日の夜、私は彼と番契約なるものをして彼と番になった。
なったんだけど……契約した瞬間に意識失って、目覚めたのが二週間後だったというのに心底びっくりした。
なんでも寿命が違い過ぎるから、色々と調整するのに時間がかかってしまったらしい。
でも、相性が良い方だったから二週間で済んだとも言ってた。そうじゃなかったら、もっと長いこと……それこそ丸一年くらいは寝ててもおかしくなかったって。
……相性云々って言うよりも、眠っている間に飲まされていたという世界樹の実ジュースがなんか影響したような気がするんだけど……気のせいかな?
聞いたらなんか全力でアングレカム目を逸らしてたけど。一体どんくらい飲まされたのかなぁ。
ちょっぴり遠い目になったが、おかげで早めに目覚められたからいいかと自分を納得させる。
考え込んでてもしょうがないしね。
『思えば、あっという間の一年だったのう』
ボソッと呟いたアングレカムに同意する。
実家である王家から邪竜の花嫁だと生贄にされて、でもいざ会った彼はめちゃくちゃフレンドリーで、行き場の無い私をここに置いてくれて。
転生した頃は、人生なんてクソゲーだ。異世界転生しても夢もなにもありゃしないと絶望していたけれど、今は違う。
「ねえ、アングレカム。ありがとうね」
『ぬ? なにか礼を言われるようなことをしたか?』
「私を君の正真正銘の花嫁にしてくれたこと」
おかげで今すっごく幸せ。
微笑めば、彼は照れたように少しだけ顔を赤くした。
巨体に似合わずちょいちょい可愛いとこあるよね。
ニコニコしていたら、『なにを笑っているのじゃ』とじっとりとした目を向けられた。
本当のこと言っただけじゃない。拗ねない拗ねない。
「……あっ、そういえばもう春だけど、新しい花嫁が来たらどうするの?」
『ん? ……ああ、国から送られてくるアレな。それならば、お主が眠っている間に契約を破棄したからもう来ぬよ』
「えっ」
言ってなかったかと首を傾げるアングレカムに、聞いてないと首を横に振った。
ただ、契約を破棄して大丈夫だったのかなと若干心配なる。
だって契約のおかげで国は邪竜に襲われないって思ってたから、それが失くなったらもしかして襲われるんじゃないかって不安に思った挙句、討伐部隊とか組んで襲ってこない?
そんな懸念を伝えると、アングレカムはそれはナイナイと笑う。
『なんせ、契約を破棄することを嫌がって散々駄々をこねよる国王たちを適当に脅して、二度と関わらぬとしっかり魔法で契約したからの。もしも破った場合、それ相応の罰が下る』
「じゃあ特に心配はしないでいいんだね」
力強く頷いてくれたので、安心する。
あんな実家とは二度と関わりたくないからね。
それから暫く他愛のない話をしていたら、レーティアがやって来た。
『遊びに来たわよー!』と、元気に手を振って。
そういやレーティアってば、私を洞窟に置き去りにしてから全く会ってなかったな。
番になった後、念話が使えるようになったから話はしていたけど、直接会うのは久しぶりだ。
『馴染んでないうちに会うのは、あんまり良くないからね』と言っていたので。
それなのに遊びに来たということは、もう大丈夫ということなのだろうか?
『また突然来よって……後でお主の番にグチグチグチグチ文句言われるの我なんじゃけど』
『まあまあ、いいじゃない。そんなことより、リグレー! 無事に番になれて本当に良かったわ! というわけで、はいこれどうぞ!』
言い終わらないうちにレーティアから魔法をかけられ、一瞬目の前が真っ白な光に覆われる。
そして光が消えた後、レーティアが魔法で作ってくれた鏡で私の姿を見せてくれた。
先程まで私は水色のワンピースを着ていたのだけれど、今は純白のドレスを着ていた。
沢山のレースがあしらわれたそれは、前世テレビや雑誌で見慣れたもの。ウェディングドレスだ。
ヴェールは無く、貰ってから大事にしている髪飾りがさっきまでと違って、なんというか他の小さな髪飾りと一緒にとても上品な感じに付けられている。
「レーティア、これって……」
『この前念話で話してた時に、前世の人間の結婚式のことを教えてくれたでしょ? それでこっちの人間の結婚式の服も調べてみて、同じようなのがあったから作ってみたの!』
パチンとウインクして、茶目っ気たっぷりに言う。
『ウェディングドレス、着てみたかったんでしょ?』とやさしい顔で笑う彼女に、もうなんてお礼を言っていいのか分からない。
とりあえず感謝の気持ちを込めて、彼女の足に抱きついた。
それにしても魔法を使ってとはいえ、髪飾りもウェディングドレスも全部自作と言うのだから、本当に器用だなこの兄妹。
めちゃくちゃ嬉しいですありがとう。
ひとしきり感謝の言葉を伝えて、ずっとこっちを見ていたアングレカムの方に振り返る。
近くまで寄って行って、くるりと一回転。
似合うかなと聞けば、ゆっくりと頷かれた。
『とてもよく似合っておるよ、我が花嫁』
甘さをたっぷりと含んだ声で褒めてくれた。
それが嬉しくて、今度はアングレカムに抱きつこうとしたらふわりと体が宙に浮かんで、彼の背中に乗せられた。
「わわ、とと……。なんで急に背中に乗せたの?」
『いや、人間だと番になったばかりの頃に出かけるのだろう?』
「ああ、新婚旅行ね。……え、今から行くの?? 突然過ぎない??」
『はてさて、どこに行こうか』
『帰りに寄れるならあたしのとこに寄ってよ。子どもたちを紹介したいわ』
「ねえ私の話聞いてる?」
話している間にも青空へと舞が上がっていく二人に、もうこれはなにを言ってもダメなだなと悟る。
流石兄妹と言うべきか、二人ともちょいちょい人の話を聞いてくれなくなるよね……。
苦笑を浮かべながらも、あそこがいいここがいいと話す彼等に混じる。
今世初の海がいいと言いながら。
「ねえ、アングレカム」
『なんじゃ?』
「好きだよ。これからもずっと一緒にたくさん楽しいことをして、一緒に笑って泣いて、それで最期は一緒に死んでね」
『もちろん』
そうして、私たちは新婚旅行だと言いながら長い間あちこちに行って、トラブルに巻き込まれたり、これはもう新婚旅行じゃなくてただの旅行だと気がついてレーティアに呆れられたりするのだが。
それはまだまだずぅっと後の話。
これにて終幕。
お付き合い、ありがとうございました。




