大体全部お兄ちゃんが悪い
『お兄ちゃんに会いに行ってぶん殴るわよ!』と言ったレーティアの背に乗せられ、どれくらいの間飛んでいたのだろうか。
気がつけばさっきまでとは違って、飛ぶスピードがだいぶ緩やかになっていた。
いや、落ちないと分かっててもあのスピードはマジで怖かったんだけど!?
レーティアと比べると、アングレカムがどれだけこっちに気遣って飛んでくれてたかが分かるよね!!
もう怖くて下が見れなかったよ!!
『あそこの洞窟の中にお兄ちゃんがいるわ』
悲鳴上げるのも疲れてレーティアの背中でへばっていたら、ふわりと音も立てずに彼女が地面へと降り立った。
どうして居場所が分かるかと聞くと、魔力の残滓を追ったとのこと。便利だな。
うつ伏せに倒していた体を起こして、背中の上から辺りを見渡す。どうやら海の近くの岩場らしい。
後ろの方に海があって、正面には実に険しそうな崖が聳えていてレーティアな余裕で倒れそうな穴がある。
たぶんあそこが洞窟の入り口なんだろう。
何かあった時のためにと、レーティアは私を背中に乗せたままのしのしと歩いて洞窟の中に入っていく。
洞窟の中では、色とりどりの水晶みたいな物が岩壁や地面から生えていて、キラキラと光っている。
そのため、入口から離れて外からの光が差さなくなってしまっても、ランプなどの灯りが必要無いくらいには明るかった。
「ねえ、レーティア。あの光ってるやつなに?」
『魔宝石よ。魔力を宿した宝石。魔力が濃い場所なんかで採れるもので、魔力の影響でキラキラ光るの』
「……魔力の濃い場所って、魔力中毒になったりするから人間にとって危険地帯なのでは??」
『ちゃんと保護してるから、この辺りのものを飲食しなければ大丈夫よ』
レーティアの説明になるほどと頷く。問題無いなら安心だ。
それにしても、この岩壁と地面から生えてるやつが全部魔宝石っていう宝石なのか。
レーティアの背中の上でぼへーと、闇の中でキラキラ輝く魔宝石を眺めていると、大きな開けた場所に出た。
そこはもうなんていうか、さっきまで通ってきたちょっと薄暗い道と違って、魔宝石が岩壁や地面だけでなく天井にも所狭しと生えていて、外にいるかのように明るい。
その場所の奥。
行き止まりとなっている場所に、見慣れた後ろ姿があった。
どうやら向こうはこちらに気がついていないらしい。
レーティアはのっそのっそと歩いて、アングレカムに近づくと声をかけた。
『お兄ちゃん!』
『……ぬ? レーティアか? すまんが今ちょっと手が離せなくてな』
『歯ぁ食いしばれこのダメ雄!!』
『ごふぁ!』
そして、振り返ったアングレカムの横っ面を尻尾で勢い良くぶっ叩いた。
黒い巨体が吹っ飛び、壁に叩きつけられる。
……いやいやいや!! なにしてんの!?
突如として振るわれた暴力と、アングレカムが激突したことにより大きく揺れた挙句、ピシピシと嫌な音を立て岩壁に大きなヒビが入ったのを見て血の気が引く。
崩落するのではと最悪の予想をしたけれど、しかしすぐにレーティアが放った七色の光が岩壁に当たると、瞬時にヒビが修復された。
岩に押し潰されてバッドエンドとかならんくてよかった……!
いやまあ、ここに竜が二匹もいるんだからそんなことにはならなかっただろうけれど、それでもああいうのは本当に心臓に悪い。
内心安堵の息を吐いていると、壁に叩きつけられたアングレカムが体を起こして、『突然なにするんじゃ!!』とレーティアに怒鳴った。
そんな兄の様子に彼女はふんと鼻を鳴らして。
『大体全部お兄ちゃんがダメ雄なのが悪いのよ』
と言って、そっぽを向いた。
よく見れば両頬が膨らんでいて、ちょっと可愛いなって思ってしまったわ。あの尻尾の威力はまったくもって可愛くないが。
アングレカムはそんな妹の態度に、『なんなんじゃほんと』とぼやいている。
まあ突然暴力振るわれたらそういう反応するよね。
『それで、お前はなんでここに来たんじゃ。しかもリグレーまで連れて』
そう言ってレーティアの背中に乗っている私の方を見たけれど、目が合うと慌てたように逸されてしまった。
そんな彼の態度に胸がズキリと痛んで、思わず溢れそうになった涙をどうにか止めようとしてぎゅっと目を瞑る。
『大体全部お兄ちゃんのせいよ』
深呼吸してどうにか心を落ち着かせようとしていたら、吐き捨てるようにリグレーがそう言った。
『我のせい……?』
『お兄ちゃんがリグレーのこと避けまくってるから、この子はお兄ちゃんに嫌われたんじゃないかって泣いてたのよ! お兄ちゃんが、ダメ雄なせいで!!』
『そそそ、それは本当か!?』
『そうよ!!』
『っ、リグレー!』
レーティアなら肯定に、アングレカムが私の名前を呼んだ。不安そうな、申し訳なさそうな声で。
ゆるゆると顔を上げれば、少しぼやけた視界にアングレカムの狼狽した顔が映った。
こうしてしっかり目を合わせたのはいつぶりだろう?
こちらを心配そうに見つめる瞳には、嫌悪や侮蔑の感情は見えなくて。
胸の奥から湧き上がってきた衝動のまま、転がるようにしてレーティアの背中から降りて、アングレカムなら元へと駆け寄る。
その時慌てたような声でなにかを二人から言われたような気がしたが、構わず走ってアングレカムの大きく逞しい足に抱きついた。
『りぐ、』
「あんぐれかむぅぅぅ」
『えっ、ちょ、泣いてる!?』
『なにあたしの友達泣かしてるのよこのダメ雄!!』
『いやこれは我もさっぱり分からないくてだなっ!?』
「きらいにならないでぇぇぇぇぇ!!」
『あばばば……!?』
そうしてレーティアの時のように、暫くの間アングレカムに抱きついたまま、「嫌いにならないで」と懇願しながらわんわん泣いた。




