女友達とはとても頼もしい
アングレカムに避けられている。
それを察してからも、私は未だにその理由を彼に聞けないでいた。
嫌われてしまったのかもしれないと思うと、どうしてもアングレカムに話しかける勇気が湧かなかった。
嫌われてしまった原因が直せるものならばまだいいけれど、そうじゃなかったらどうしたらいいか分からない。
そうしてなんの進展も無いまま時間だけが過ぎていき、あと大体一ヶ月位で春となる。
つまり、もう三ヶ月以上はまともにアングレカムと話せていない。
朝起きた時に挨拶したり、帰ってきたらおかえりと言ったり、何かあった時に話をしたりすることはあるけれど、前のように話せてない。
食事だって別々だ。外で一緒に食べることはしなくなってしまった。
そして、今日もダメだった。
朝早起きして出かけようとするアングレカムとなんとか話そうと思っても、どんな話をすればいいのか分からなかった。
こんなこと、前は無かったのに。
「もうダメかなぁ……」
ベッドの上で膝を抱え、ぐすっと鼻を啜った。
寂しいのと情けないのとで、じわりと涙が滲む。
胸が苦しくて、ズキズキと痛む。
どうすればいい?
どうしたらいい?
どうしたら――アングレカムに捨てらないで済む?
頭の中がぐちゃぐちゃで、ろくな考えが浮かんでこない自分に怒りすら感じ始めたその時。
『やっほーリグレー! 遊びに来たわよー!』
外から聞こえてきた声に、弾かれたように体が動いた。
ベッドを降りて駆け出す。
靴も履かずに裸足のまま外へと出て、家の前で待っていたレーティアが目を丸くして私を見た。
『ど、どうしたの?』
問いかけてきた彼女に答えず、その大きな体に飛びつく。
『ほ、本当にどうしたの!?』と、狼狽える彼女の真っ白で綺麗な体に押しつけていた顔を上げ、溢れる感情のままに名前を呼んだ。
「れーてぃあぁぁぁ」
『ねえ本当にどうしたの!?』
動揺したのか、大きく上下に揺れた彼女尻尾が地面に叩きつけられ、巨大なクレーターを作り上げる。
いつもなら怖いと思うようなことだったけれど、今はちっとも気にならなかった。
地震の如き大きな揺れも。
そんなことよりアングレカムに嫌われたかもしれないことが、捨てられてしまうかもしれないことが怖くて。
「あんぐれかむにきらわれたぁぁ!」
『……は??』
普段なら恐ろしいど低音ボイスも気にならず、ただただ彼女に引っ付いて小さな子供のようにわんわんと泣いたのだった。
*
『落ち着いた?』
「ぐすっ、ごめん。落ち着いた。ほんとごめん」
『いいのよー。泣きたい時に泣かない方が体に悪いしね』
あれから気が済むまでレーティアにしがみ付きながら泣いた。
そりゃもう我ながらドン引きしてしまう程度にギャン泣きした。
しかしそんな私に呆れるどころか、レーティアは私が泣き止むまで大人しく待ってくれて、泣き止んだ今は魔法で出した水球で瞼を冷やしてくれた。
ついでに出て行った水分を補うようにと、飲み水用の水球まで出してくれたっていう。
その優しさにまた泣きそうだ。
そして今すぐに穴掘って埋まりたい。
友達相手とはいえ、まだ二回しか直接会ってない――何度か念話で話しかけられたりはしてた――相手の前でギャン泣きするなんて……めちゃくちゃ恥ずかしい。
なにやってんだ私。ほんとマジでなにやってんだ。好意に甘えてる暇あったら墓穴掘ろうよ。
恥ずかしさのあまり地べたに座り込んで、訳の分からんことを考えていたら『それで』と、レーティアに声をかけられた。
俯けていた顔を上げると、空の色と同じ瞳と目が合った。
『お兄ちゃんに嫌われたってどういうこと?』
「そ、それが……」
黙っている理由も無かったのと、目の前でギャン泣きしてしまった申し訳なさから、正直に話した。
ここ暫く、アングレカムが家を長いこと空けるようになったこと。
挨拶はしたりするけれど、前と違ってろくな会話が無いこと。
一緒に食事をしないかと言っても、断られてしまったこと。
さっき散々泣いたのに、話しているうちにまた視界が滲んできた。
話せば話すほど、胸の痛みが強くなる。
「あき、明らかに、さけ……られてて……。それで、きらわれたんじゃ……ないかっ、て……」
ぽたぽたと、また涙が零れ落ちて地面を濡らす。
あんなにたくさん泣いたのに。干からびちゃうんじゃないかって位泣いたのに。
まるで壊れた蛇口から水が溢れるように、涙が止まらない。
もうなにをどうすればいいのか、分からない。
前世で友達と喧嘩別れをしてしまった時は、こんなにも悩んだりしなかったのに。
ちょっと間うじうじしたりはしたけど、こんなにみっともなく泣き喚いたりなんかしてなかった。
どうして今はこうなのだろう?
どうして今は胸が張り裂けてしまいそうなくらい、辛くて苦しいんだろう?
『リグレー』
思考の渦に飲まれていたら、静かな声で名前を呼ばれた。
『お兄ちゃんに会えなくて、寂しい?』
その言葉に、反射的に頷いた。
「さびしい」
しゃくり上げながら、呟く。
「さびしいよ」
会えなくて寂しい。
話してもらえなくて寂しい。
あの綺麗な金色の目で、見てもらえないことが寂しい。
どうにかなってしまいそうになるくらいに、寂しくて堪らない。
『それじゃ、やることは一つね!』
楽しげにそう言ったレーティアが、ばさりと大きな翼を広げる。
アングレカムのコウモリのようなそれとは違って、鳥のような純白の羽が美しいそれを。
『お兄ちゃんに会いに行くわよ! そんでもって、一発ぶん殴る!』
高らかに告げたレーティアを呆然と見上げていたら、突然体がふわりと浮いて「みょっひょあ!?」と変な悲鳴が出て、全然止まらなかった涙が引っ込んだ。
そしてそのままふよふよと飛んで、レーティアの背中に乗せられた。
……って、ちょっと待て! レーティアってば今、お兄ちゃんに会いに行ってぶん殴るとか言わなかったかなぁっ!?
「まってむりまって! レーティア!!」
『雌っていうのはね、時には雄をぶん殴って分からせないといけない時があるのよ!!』
「それは竜同士の話であって、私関係無いんじゃないかな!?」
全力で抗議の声を上げたが、なんのその。
レーティアは『いっくわよー』と言って、私の意見はガン無視で空へと飛んだ。
『人を乗せて飛ぶのって初めてだけど、ちゃんと結界とかで保護してるから安心してね』
「なに一つとして安心できないスピード緩めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
『一緒に風になるのよ!!』
ビュンビュンと凄まじい勢いで後ろへと流れていく景色に、私はただ悲鳴を上げ続けることしかできなかった。
この女友達とても頼もしいけど、人の話聞かないとかあるのどうかと思うなほんとっ!!




