女子同士のお喋りは楽しい
妹さんに舐められて涎でびしょ濡れになった体は、妹さんの魔法によって綺麗にしてもらった。
前世で読んでた小説とかで、でっかい生き物に舐められて涎でびしょ濡れになるっていうシーンあったけど、まさか自分が体験する羽目になるとは……。
ちょっと遠い目になりながらも、押しかけとはいえお客さん相手に何も出さないのもあれかなと、アングレカム用に作り置きしている私の顔の倍はあるクッキーを家から運んできた。
あと、折りたたみ式のテーブル。地面の上にドーンと置くのはどうかと思って。
テーブルの上にクッキーの載った皿を置いて、大人しく待っていてくれていた妹さんとテーブル越しに向き合った。
『さっきはごめんなさいねぇ。ついテンション上がっちゃって』
「綺麗にしてもらったから大丈夫ですよ。あと、お口に合うかは分かりませんが、よければクッキーをどうぞ」
『あら、ありがとう! それと、もうちょっと砕けた話し方でいいわよ? お兄ちゃん相手にしてる時みたいな感じで。じゃないとまた舐め回すわ』
「あっはい」
びしょ濡れアゲインは嫌なので、大人しく言うこと聞いとこう……。
あと、自分一人で食べてるのも嫌だからと言われたので家に再び戻り、私の分のクッキーを持ってきた。
そしてお互い改めて自己紹介をして、妹さんが私作のクッキーを大きな口でバクっと食べた。
『美味しいわね』と、ちょっと弾んだ声で言ってくれてちょっと一安心。
少しばかり緊張がほぐれたところで、私もクッキーを食べる。うん、今回はわりかし上手くできてるな。
クッキーを食べつつ好きな食べ物の話とか、私がここでどんな風に過ごしているのか、妹さんの旦那さんや子どもの話など、他愛のない世間話をする。
これがかなり楽しくて、ふと前世での女子会を思い出した。
女友達と喫茶店なんかで集まってお喋りするの楽しかったなぁ。
特に学生時代はお泊まり会をしてゲームやったり、枕投げしたり、朝まで恋バナで盛り上がったりしたっけ。
……よくよく考えたら私ってば相手が竜とはいえ、同性とこんな風にお喋りするのって今世で初めてかも。
あの場所にいた頃は女友達とか皆無どころか、そもそもまともに人と関わることがなかったからなぁ。
そんなことを考え始めると、無性に女友達が欲しくなってきた。
いや、アングレカムと話すのは楽しいよ? けど、彼は竜云々以前に雄なので。
私が求めてるのは女の子同士のお喋り。前世のような、同性だからこそできる会話なのである。
……うん、よし。ダメで元々だ。
当たって砕けろ。できれば砕けたくはないけれど、こればっかりは相手の了承が不可欠だからしょうがない。
すーはーと深呼吸をして、クッキーの無くなった皿をちょっと悲しそうに見つめている妹さんにちょっといいかと声をかけると、皿から私の方へと視線を移す。
「一つ、お願いがあるんだけど聞いてもらっていいかな?」
『ええ、いいわよ。クッキーのお礼もしたいところだったしね!』
快く頷いてくれた妹さんに、ちょっと緊張しながらもお願いを口にする。
「じゃあ……えっと……その……、私と友達になってくれませんか!?」
『…………へ?』
緊張しながらお願いを口にすれば、妹さんは凄く驚いた顔をしてぱかんと大きな口を開けたまま固まった。
あ、この反応はダメなやつですね。砕け散っちゃったかー……。
やっぱり今の無しと、落ち込みつつ言おうとした時。
『――ええ、ええ!! アタシたち友達になりましょう!!』
「へぁ?」
あ、あれ? なんかめっちゃ瞳をキラキラさせながら、『友達なんて初めてできたから嬉しいわぁ!』って喜んでるんだけど……?
当たって砕け散っちゃったわけじゃなかったのか??
困惑していると、興奮冷めやらぬという様子の妹さんにまたベロンベロン体を舐められる。
この人、じゃなくてこの竜テンション上がると相手を舐める癖があるのかな?
せっかく綺麗になった服がまたずぶ濡れになってしまった。
でも、こんなに嬉しそうにしてくれるとこっちも嬉しくなっちゃうなぁ。
ついにやにやしてしまいそうになるのを頑張って堪えつつ、喜びを露わにする妹さんが落ち着くまで大人しく舐められること暫く。
ようやく落ち着いた妹さんがぐっしょりした私の姿を見て、『ご、ごめんね……』と謝り魔法で体を綺麗にしてくれた。
『アタシったら昔からテンション上がっちゃうと、相手を舐め回しちゃうのよねぇ。嫌なら嫌って言ってちょうだいね。止める……のは無理だけど、なるべく我慢するように頑張るから』
「ううん、大丈夫。友達になってくれて本当に嬉しいよ。これからも遊びに来てくれるかな?」
『もっちろん!! お兄ちゃんがブチ切れようが、嵐呼ぼうが、山噴火させようが、本気の殺し合いになろうが来るわよ!!』
「殺し合いはやめようか!?」
いや本当に殺し合いはやめてくれ。兄妹同士で軽率に命のやり取りしないで。
ていうか、もしかして意外とアングレカムと妹さん仲悪かったりする?
そんな疑問を覚えながら、どうか殺し合いはやめてくれと懇願した。
いやまあ、殺し合い云々前に言っていた言葉もまあまあ物騒だったけれど!
やっぱりこの兄妹仲悪いのか??
若干の不安を抱いていると、それが顔に出ていたのか『あ、別に仲が悪いわけじゃないわよ?』と、妹さんがはっきりと否定してきた。
『アタシたちは変わり者であってもやっぱり竜だからね。特に雄って独占欲が強いから』
「……? えっと?」
『あれ??……あ、そっかそっか。そういえば、お兄ちゃんったらかなりのヘタレだったわね』
「??」
彼女の発言に何がなんだか分からず首を傾げれば、彼女も不思議そうに首を傾げたが、何事かを呟いた後一人納得したようにうんうんと頷いている。
何を納得したんだろうか?
妹さんの様子に困惑していたら、こちらの様子に気がついた彼女はちょっと悩んだ様子で唸った後、口を開いた。
『……んー、要するにね。貴女を妹のアタシ含め他の奴に取られるのが嫌なのよ』
「あー」
そう説明されてなるほどと納得する。
友達が別の相手に取られて嫉妬する感じだろう。
それで兄妹での殺し合いが始まるとか、ちょっと怖いなと思うけど。
『貴女と仲良くなったって知ったら、お兄ちゃんきっと嫉妬しまくるわねー』
「それは大丈夫なやつなの??」
『大丈夫大丈夫。たぶん』
「たぶんって……」
『まあそんなことより、もっとお喋りしましょ! せっかく友達になったんだし貴女のことを、リグレーのことをもっとたくさん知りたいわ』
「……そうだね。うん。私も妹さんのこともっと知りたいな」
無邪気に笑う妹さんに、まあ兄妹の殺し合いが絶対に起こるわけでもないしと、浮かんでしまった怖い想像を頭から追い払う。
せっかく友達になれたんだし、楽しまないと損だよね。
『そういえば今更だけど、アタシのことはレーティアって呼んでちょうだい』
「あれ? 竜って基本名前持ってないんじゃなかったっけ?」
『番のいない竜はね。番がいる竜は相手に名付けをしてもらうのよ』
「そうなんだ。じゃ、改めてよろしくねレーティア」
『ええ、よろしくリグレー!』
それからクッキーを追加しお茶も淹れて夕方まで話に花を咲かせていたのだけれど、『なに勝手してくれとんじゃこの愚妹がー!!』と怒れるアングレカムの登場により、楽しい時間は終わりを告げたのだった。




