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その世界は残酷なれど、旅人は旅をする……  作者: がお!


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116/117

#116 凱旋、そして領主の館

 まだ薄闇が空を覆う時刻。街の中と外を繋ぐ大きな扉が開かれるのを 今か今かと少なくない人たちが行列を作っている。

 商人たちの朝は早い。『時は金なり』と言う様にごく限られた期間に商品を売買し儲けも求める。

 ドゥオさんも同じく開門と同時にも街へ入る為、朝も明けきらぬうちから野営場の撤去を始め門へと駆けこんだ。

 早くから並んだはずなのに、前には何組が並んでおり、少し驚いた。

「彼らは夜の内に到着し、野営もせず並ばれた方々です。下手に野営をするより乗って来た馬車の中でゆっくりとした方が良いですからな、火は使えなく暖は取れなくとも毛布もあれば寒さは凌げますから」

「夜の道は危なくは無いのか」

「山や森の中でなければ知った道。野盗の襲撃は昼夜問うこと無く出逢えば不運として、街の近くまで来たならば其のまま進んだ方が良いでしょう。私も何度か夜道を進んだことはありますからな、山や森の深更の怖さは知っているつもりですが、残念ながら時には無謀な走破を強いられるときもあります。私達には預かりの知れない理由が在るのでしょう。お、開くようですね」

 大きな両開きの扉が外へ向かってゆっくりと開いて行く。

 人の手で動かせそうもないと思えるほどの重く大きな扉が、お腹に響くような軋む音を立てて開いてゆく様は圧巻の一言だった。

 開き切ると道を遮っていた最後の木柵が半回転。中央で道を割るように配され、右側を通る様に指示が飛んだ。

「ようやく通れますな」

 街に入る為列に並ぶ中、出て行く人たちを眺める。商人らしき人も多いけれど、子供たちの姿も混じり、武器を手にしている人たちもいる。多種多様な人たちが街の外へと駆けだしてゆくのを見る中、私たちは街の中へと入っていった。


「ようこそ、ルルスス商会へ。旅の御一行様のご来店、歓迎致しますよ」

 街へ入りまず来たのはルルスス商会。ドゥオさんは行商人為、街に商店は持っていない。其の為商品を扱うに大きく分けて二つあると。

 一つは所属の商会へ荷を降ろす事。もう一つは、直接契約した雇用主へ送り届ける事。

 露天を広げることも在るけれど、商会の無い外れ村の人々相手に売るときであって、様々な商会のある街では折衝を避けるため出さないとの事。

 商会を介しての売買は保障が付くけれど仲介費用が出る為儲けは少なく、直接契約は儲けが大きくても何かあった時は自分の力で解決しなければならない。

 どちらも違反が判明した場合は商会から追放されるそうだけど、追放処置はそう滅多にないって言っていた。

 大抵は罰則だけだそう。

 今回は商会を通じての売買になる為、荷は商会へ下ろす事となっている。

 そして昨日取った獣の皮はネムロスさんとの個人契約になる為、契約書をやり取りしなければならない。

 毛皮一枚に紙を使用しては儲けも無くなる事から、薄板を使用しての契約となる。

 ネムロスさん曰く、其処までする必要は無いと言ったけれど、商人として契約書は絶対であり、出どころを問われた時に契約書となる物がなければ盗品と疑われても仕方ない。

 盗品を扱ったとなると信用も信頼も失墜し商人としては死んだも同然となる。

 其処まで言われれば引き下がるしかなかったようだ。

 傷も少なく綺麗な皮であったが鞣す前の皮、商品として売るには人の手を加えなければならない。

 必然、安めの買い取り価格になる訳で。

「本当ならばもう少し出したかったのですが」

「いや、俺も元狩人。この状態の皮であればこの程度であろうよ」

「ありがとうございます。では此方に署名を」

 鉄筆を以って薄板へと署名し終えると、ドゥオさんは袋を差し出して来た。

 中を確認したネムロスさんは、懐へといれ。

「世話になった。何時になるかは分からぬが遅くとも明日中には顔を出そう」

「えぇ、私が居られませんでしたならば言付けして頂けると、後でご連絡を差し上げます」

 こうして私たちは店を出た。

「毛皮ってどれだけで売れたのですか」

 売れた値段を聞くなど失礼かと思ったけれど、気になったのは仕方ない。店の中で聞かなかっただけでも良しとして欲しい。

「贅沢せねば昼と夜ぐらいは食べられる程度だな」

 ……安いのか高いのか判断突かない。

「鞣す前の毛皮が一つだけであれば此の程度であろうよ。少し色を付けくれもいる」

 本来、数体分を鞣した後売る事で十分な利益を出すものを、ただ剥いだだけの状態、しかも一体分だけでも買い取ってくれた事はかなり気遣ってくれたとの事。

 通常ならば何処へ行っても門前払いであっただろうと。

 其れよりも大きいのはルルスス商会との繋がりを持てた事。其れは港町までの交通の手段を得られるかもしれないとの事。

 でなければ地図も無く雪が降るかもしれない中を歩く事となるかもしれなかった。

 道に迷う可能性があり、雪を避けるにはこの街で足止めとなる事もあり得た。

 危険な行程も、道に詳しい行商人が居れば危険度も低くなり、港町へ何事も無く辿り着く可能性が大きくなる。

 毛皮を安く買い叩かわれるのであれば、此処で彼らの縁を切るつもりではあったと。けれど色を付けてくれた事は此方にまだ何かしら期待をしているとも言えた。

 ドゥオさんが何を考えているのかは分からないけれど、港町まで同行するに否との判断は今のところ無い様子。

 商人で在る以上は何かしら思う所は在るのだろうけれど、其れを知るにはもう少々彼らと触れ合う時間が必要だろう。


 ルルスス商会へ寄ったとは言え、まだ時間は早い。朝ご飯もまだな状態、食べなくとも耐えることは出来るけれど、ネムロスさんがどう考えているのか。

「領主の返事があれば良いのだが、其れまでの時間潰しか。さて、どうするか……」

「返事を聞きに行くのはいつぐらいに行くの?」

「俺の知っている領主だが、朝は机仕事の追われて忙しいと、昼過ぎぐらいが尋ねるに良いと聞いた。此処の領主にも当てはまるかは分からんがな」

「まだまだ時間が在るわね」

 返答を聞いたお姉ちゃんは空を見上げてため息を吐きながら呟いた。

「ならば武器屋さん巡りを提案いたします。失った短剣の代わりを、買えはしないでしょうが見てみたいです」

 店は開いている、時間はある。他にすることもなければフォスレスさんの提案を特に否定する理由はない。

 ネムロスさんも矢を補充したいのか往くことに賛成。

 矢を買うことも出来るが、狩人であったネムロスさんならば作ることも出来るはず。

 聞いてみたら、矢羽や軸はどうとでもなるが鏃は難しいとの事。

 鏃は無くとも矢として使えるが、やはり鏃は在った方が真っ直ぐに飛び貫通力も違うとの事。

 作成する事も出来なくはないが、手間と時間ばかり掛かり買った方が良いとのこと。

「村に居た頃はどうしていたのですか」

 ちょっとした好奇心。やはり買っていたのだろうか。

「鍛冶を担っていた人が居たのでな、頼んでいた。鏃さえあれば作るのは容易い。緊急の時や今すぐに欲しいと思うときは作ってはいたがな」

「鏃って鉄で作っているのですよね、自分で作れるものなのですか」

「いや、川に落ちている石を使う」

「黒曜石ですね。層を形成し叩くと剥がれるように砕け、鋭利な刃となります。ほぼ全ての川にあり、見つけるのは容易。時に短剣代わりにもなりますし、鏃にすれば鉄の鏃より貫通力はあると」

「……だそうだ。見つけるのは容易ではあるが数を揃えるにはやはり時間と手間が掛かる。今度試して見るのも良いな」

「はい。楽しみにしています」

 雑談に花を咲かせつつ武器屋と思しき看板を見つけては入って、冷やかしを繰り返す事二度程。

 国が違えば文化も違う。そして法も違えば規定も変わる。

 どちらが優れているのでなく、様々な積み重ねや考え方によって方向性が変る。

 当然店内に飾ってある種類も変わる。趣向性も在るだろうが、二つの武器屋に関して言えばどちらも対人戦に重きをおいた武器が豊富であった。

 大通りの店らしく価格も見栄に見合うだけの数字になっている。

 店を冷やかすと謂うより、手が出なくて引き下がったという方が正しかった。

「鏃だけと思ったがやはり単体だけで売ってはいないか」

「短剣を失くしたのは痛いところです。服も一着、ボロ切れと成り果ててしまいましたし」

「消耗が早い。此の先も同じようであれば、直ぐに懐が寒い事となるが」

「流石に今回が特別と思いたいところです」

 其れはそう思う。今回のような事が続くようであれば命が幾つあっても足りない。

 其の時はお姉ちゃんと共に離れることを提案したいけれど、私達二人で生きて行けるのかが不安な所。

 無理してでも二人に付いて行った方が良いのか、離れたほうが良いのかは分からないけれど、今は此の二人について行くと決めた。

「私達の面倒を最後まで見るのでしょ。其れが約束なのだから守ってもらうわよ」

 お姉ちゃんも同じ気持ち。

 私も二人を見つめ、力強く頷く。

「そうですね、約束は守らないといけません。なるべく戦いは回避する方向で旅をしましょうか」

 買うことは出来なかったけれど、其れでもお店巡りは楽しい。

 どの様に使うのかも分からない道具をみて、いつかは食べたいと思うような料理の話をして、最後に今日泊まる宿の相談をする。

 不安な表情を浮かべたかと思うと笑顔へ。思い悩んだと思えばまた笑う。

 明日からの事を思えば不安しか無いけれど、今此の時ぐらいは笑っていても罰は当たらない。の、はずだったのに。

「ネムロス一行か」

 野太い声。振り向くと兵士の鎧を着た大柄な男が立っていた。

「領主殿の使いか」

「もう一度聞く、ネムロスとはお前であっているか」

 此方の意を介さぬ物言い。其の目には私達には全く興味がないかの様に、自分に与えられた仕事をするだけの様相だった。

「あぁ、俺がネムロスだ」

「伝言だ、すぐに館へ来るようにと。確かに伝えたぞ」

 一方的に言って、返答も聞かずに横を通り過ぎ、雑踏の中へと消えていった。

「どうやら散策は此処までのようだな」

「鬼が出るか蛇が出るか……出来るならば今日とは言わず、数日の宿を確保出来ると良いのですが」

「不吉な事を言う割に、楽観的なことも言うのか」

「今回の件で実行犯は捕まえましたが、首謀者は闇の中ですからね。私達に出来ることはありませんし、手伝うことも出来ません。ならば彼らの心配をするより自分たちの心配をしたほうが良いでしょう。差し当たっては港町へ向かうには数日此処に留まるかも知れませんからね」

 取りあえず話すなら、向かいながら話そうかとなり、領主館へ歩き出した。

「数日分の宿代か。確か重要ではあるが港町までの道程をどうするかもある、そして港町に着いたからと言って直ぐに船に乗れるわけでも無かろう」

「何処へ行っても待たされるのですね」

「そして滞在費がかさむ訳ね」

「他にも予測し得られない出費と言うものは沢山あります。この服や短剣を失くしてしまった様に」

 最早旅はお金持ちの道楽とでも言うのかと言う程、お金が掛かってしまう。

「少しでもと行商に頼み込めぬかと交渉して見たものは良いが、判断材料も足りぬうちは難しいか」

「此ればかりはこの先も続く問題です」

「節約に倹約、金策を画策するも、身銭は脆く崩れる。ただ旅をするだけでも難しいものだな」

「ならもっと獣を狩って、其の毛皮を商人さんへ売ればどうでしょう」

「一頭や二頭であれば食い扶持として余った皮も売れるやも知れぬが、過分に狩れば街の組合が黙ってはおらぬだろうよ。誤魔化すにも限度はある、何よりも食べ切れもせぬ肉を得ても持て余すだけだな」

「地に根を張り生きる人たちは繋がりを持ちます。其れは生き行く上でとても重要な事です。根ざさねば其の地の水を得る事は難しく、旅人に根は無く風と共に彷徨い逝くのみ」

「水を得んとすれば別の手段を得よと言った所か。其れには大いに賛同はするが、実際の手段となると頭が痛いところだな」

「国が変われば事情も変わる、持てうる手段が一つでは行き詰るでしょう。何処かへ所属する手もありますが、状況次第で在り様も変化させる事も必要になって来るでしょうね」

「一つに拘らず多様性と、複数の手段か。厳しい事ではあるが、出来なければ、此れぐらい乗り越えられなければ旅を続けるのは無理なのだろな」

「弱音を吐くのは構いません。けれど、諦めてしまえば道が開ける事もありません。私にも責任がありますからね、一緒に考えましょう」

「其処は期待している」

 話している内に見えてくるのは少しばかり見慣れた屋敷。

 もう何度目になるのか覚えてなけれど、何度見ても少し竦んでしまう。

「さて、伝令を使ってまでの呼び出しだ。何が出てくるか……」

「楽しみですね」

 ネムロスさんの言葉を奪う様にフォスレスさんが続く。

 私としては鬼も蛇も出てきてほしくは無いのだけどと、そう思いながら屋敷の門の前へと立った。

 


いつも読んで頂きありがとうございます。

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