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嘘つき

足が思うように進まない。


壁を頼りながら、自分の部屋を目指してるつもりでも、フラフラして力が入らない。


なんで?


どうして?


頭の中は、その言葉だけしか浮かんでこなくて、


涙が、瞳にじわりと溜まってくる。



「カンナ?」



背後で呼ばれて、ゆっくりと振り返ると、そこにはシュンが立っていた。


はっ…として、すぐさま涙を拭う。



「どうした?」



「えっ?どうもしないよ?」



そう伝えても、ポタポタと勝手に溢れてくる涙。



「…なんか…あった?」



「あぁ〜。もうすぐいざよいだから、ちょっと寂しくなっちゃって…」



シュンは、あたしに近づくと、

ふわっと包み込むように抱きしめてくる。



「カンナ…ありがと…」



耳を当てた大きな胸から聞こえてきた声。



「えっ?何がありがとう?」



「あぁ〜…えっと。一年間、いろいろありがと‼︎ってこと」



「あたし…お礼言われるようなこと、なんもしてないよ」



体を離してそう言うと、シュンは穏やかに微笑んでいた。



“カンナ…生きててくれてありがとう”



シュンは、なぜか何度も“ありがとう”と呟きながら、またあたしを抱きしめた。


「向こうに帰っても元気でな」



「…うん」



「風邪とか…ひくなよ」



「うん…」



「ちゃんと飯食って、健康に気をつけろ」



「う、うん…。大丈夫よ。シュン…どうしたの?」



「えっ?いや、カンナが心配なんだよ」



あぁ〜。あたしを“妹のカンナ”と重ねてるのね。



「シュン…ありがと」



それからも、屋敷の中で、若様の姿を見るたびに、


あの日見せられた、冷めた瞳で見下ろす視線を思い出す。


もう、あたしは用無し…。


でもやっぱり、若様の態度に納得がいかない。


あれ程まで言い寄ってきた若様が、なんで急にあんな態度…。


あたしをそばに置きたくない理由をはっきり聞きたい。


あんなに、毎日口説かれて、


ここまであたしをこんな気持ちにさせといて、


振り向いたらバッサリ捨てられた。


酷すぎる。


何か…理由があるんだよね?


本心じゃ…ないでしょ?


そう信じたいよ。


どうしても納得がいかなくて、


あたしは、もう一度若様の部屋を訪ねた。



「理由を聞かせて?何か理由があるんでしょ?」



部屋を訪ねて、若様を前に唐突に話しをしだしたあたし。


眉間にシワを寄せ、明らかに不機嫌そうな若様の表情。



「もうその話しは終わったはずだが…」



書類に目を通しながら、面倒くさそうに呟く。



「あ、あたし…‼︎若様が…好きなの」



書いていたペンを止めた若様は、


真横に立つあたしを見上げてきた。



ずっと言いたくても、


言えなかった気持ち。


今さら、自分が本当はどうしたかったのか気づいて涙があふれてくる。


もう二度と会えなくなるなんて耐えられない。


ずっと若様の傍にいたいの。


ううん。


傍にいたいなんて、そんな図々しいことまで望まない。


せめて同じ世界で、生きていたい。



「どうしても、帰らなきゃ…だめ?」



視線をそらすことなく、あたしをまっすぐ見つめてくる若様は、ゆっくりと口を開いた。



「最近…重荷なんだ…」



えっ?


重荷?


今の誰が言った言葉なの?


どうか聞き間違いであってほしいと願いながら彼を見つめた。



「若…様…?」



「近々、朱雀皇女との縁談が決まりそうで…お前が私の傍にいると、彼女がいろいろと勘違いする」



ルリと…縁談?



「ルリと…結婚するの?」



「わかってほしい」



その言葉を最後に口を閉ざした若様。


ただただ、

涙があふれてきて止まらない。


聞きたいことはいっぱいあった。


言いたいことも山ほどあった。


でも、それらは声にならずに、

涙だけがポタポタとこぼれ落ちていく。


権力や後ろ楯なんていらないって…言ったじゃない。



“カンナ…お前が好きだ”



ずっと、そばにいろって、


この世界に残れって言ったじゃない。


その気持ちは、もうどこにもないの?




“一生…そばにいてくれ”



嘘つき…。







カイリside



“若様が…好きなの”



ずっと言わせたかったその言葉。


他のどの男にも渡さない。


カンナは私だけのモノに…そう願っていた毎日。



“カンナ様が白虎の皇女様と知られれば、間違いなくお命狙われるでしょう”



母上すら守れなかった。


お前だけは、絶対に亡くしたくないんだ。


生き続けてほしい。


白虎王が命に変えて守った命。


私のそばに置くことで、お前を危険に晒したくはない。


白虎の皇女とわかった今、


お前の命を確実に守れる方法は、元の世界に返すことしかできないんだ。



「ルリと…結婚するの?」



うっすらと涙が溜まっていたカンナの瞳。


他に帰す理由が見つからなかった。


手放さなければいけないのに、


どんな言葉を言えば帰る決心がつく?



好きだ…カンナ。


誰よりも、愛してる。


別の世界で生きた運命を憎み、


私たちを引き裂いたあの戦争を、

心から恨む。



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