すれ違う想い
カンナside
最近…どこかで声が聞こえると、
その姿を探してる。
そしてその姿が見えると、あたしの胸は、当たり前のようにドキドキ高鳴って、苦しくなる。
少し微笑んだだけなのに、
ただ、髪をかきわけただけなのに、
どんな小さな仕草も、すべてがかっこよく見えてしまって…。
「はぁ…重症かも…」
「なに、さっきからブツブツ言ってるのよ」
ヒナタは、呆れた顔であたしを見てくる。
絶対、本気にならないって決めたのに。
この気持ちを貫いて元の世界に帰る‼︎って、本人の前で啖呵切ったのに。
“夢中にさせてみせる”
若様…あたし、負けちゃったかもしれない。
「そういえば、若様がカンナが帰る前に、もう一度ドリアが食べたいって言われてたらしいわよ」
「えっ?ほんとに?」
モアから聞いた情報に、あたしは調理場に行くと、ドリアを作り始めた。
もう一度だけじゃなくて…
いつでも作ってあげたいよ。
若様が食べたいと言えば…すぐに。
「若様~!! 部屋にいる?若様?」
ドリアを作って若様の部屋を訪ねると、出かけてしまったのか、
留守だった。
せっかく作ったのに…。
しょうがない、自分で食べるかと思い、食堂へ向かうと、
カチャッと背後で聞こえた扉が開く音。
あれ?若様?
「なんだ…いたんじゃない。寝てたの?」
「いや…」
若様は、小さくそう呟いて扉を大きく開ける。
その仕草に、あたしは若様の部屋に入った。
テーブルの上にドリアを置くと、
目を見開いて笑みを見せた若様。
「ちょうど、食べたいと思っていたのだ。私の気持ちを察したのか?」
うん!そうだよ‼︎とでも言いたかったけど、
「モアに聞いたの。冷めない内に食べて‼︎」
「あぁ〜。いただく」
若様は椅子に腰を掛けると、ドリアを食べ始めた。
「お前は本当に料理がうまいな」
そう言って、コクコク頷きながら、ドリアを口に運ぶ。
その言葉が嬉しくて、
この人が喜んでくれることなら、
なんでもしたいと思ってしまう。
「好きな人のために料理を作って、“美味しい”って言ってくれた瞬間がとっても幸せ」
思わず、心の中の気持ちを口にしていたあたし。
若様は、食べていた手を止めると、
横に立つあたしを見上げた。
あっ…。
なんだか、これじゃ、“若様が好きです”って告白してるようなもんだ。
「お、おかわりもあるから…いっぱい食べて!!あぁ〜今日の夕食もドリアにしよっかぁ〜」
「カンナ…」
気持ちを悟られてしまいそうで、
それを誤魔化すように、
ペラペラしゃべり出したあたしを、
止めるかのように、呼んだ若様。
「な、なに?」
「確認したいことがある」
「えっ?うん…確認?」
「鏡と指輪は、誕生日におばあ様からもらったんだったな?」
どうして急にそんな話…と思いながらも、コクリと一度うなずいたあたし。
「おばあ様の名はなんという」
「おばあちゃんの名前?…名前はキネだけど…。それがどうかしたの?」
若様は、あたしから視線をそらすと薄く小さなため息をついて、ドリアを見つめた。
「いや、もうすぐいざよいだ。やっとおばあ様にも会えるな」
「えっ?」
「もしかすると、その日、私は青龍の地に入っていて、見送りはできないかもしれない」
ちょ、ちょっと待ってよ…。
なんで…急にそんな話ししだすの?
見送りは…できない?
ううん。
見送りなんてどうでもいい。
そんな風に突き放されたら、
なんだか悲しくなってくる。
「…若様に会えなくなるのは…寂しいな」
若様の表情を伺いながらそう呟いてみたら、
彼は、無表情のまま何も答えてくれることなく、ドリアへ視線を落としたまま。
「しょうがない♪ 若様が見送ってくれないなら、帰るのは来年のいざよいに…」
「だめだ!!」
「えっ?」
あたしの言葉をさえぎるように否定してきた若様は、
鋭い視線であたしを見上げてくる。
「私がいようがいまいが関係ない。お前はいざよいの日、必ず元の世界に帰れ!!いいな?」
「な、なんで急に…そんなこというの?」
「お前も帰ることをずっと望んでいただろう?」
「うん…そう。あたし…元の世界に帰りたい。おばあちゃんが心配だし、ユリにも会いたい…だけど」
もう耐えきれなくて、あたしは、
目の前に座っている若様の体に抱きついていた。
「若様とも…離れたくないよ…」
ギュッと大きな体を抱きしめながらしがみついても、
彼は何も反応してくれることはなかった。
「私もそう思っていたが、勘違いだった」
えっ?
「…勘違い?」
若様…。
ど、どういう意味?
あたしを冷たい視線で見上げてきた若様は、ゆっくりと口を開く。
「もう…お前を傍に置きたくないんだ」




