重なる面影
カンナside
「シュン様が戻られました!!」
屋敷に響き渡った声に、
食堂にいたあたしたちは慌ただしく立ち上がると、屋敷の廊下を全力で走った。
「シュン‼︎よかった‼︎無事だったのね‼︎」
飛び跳ねて喜んだあたしたち3人を見て、苦笑いをしているシュン。
「シュン‼︎よく帰ってきた」
若様の言葉に、
「ただいま戻りました」
そう言って深く頭を下げている。
「報告したいことがたくさんあります」
「わかった。応接間へ」
若様の後を追って、あたしの前を通り過ぎていったシュン。
無事に帰ってきてよかった…と、
シュンの姿を目で追っていたら、
「ちょっと…シュン‼︎そ、それ…どうしたの?」
ちらっと袖から見えた青アザ。
あたしは、びっくりしてシュンの腕を掴むと、服をめくった。
う、うそ…。
「凄いミミズ腫れじゃない」
「大丈夫だよ。大したことない。それより、ちゃんと玉を見て来たよ。お前たちも応接間に」
シュンは、服を伸ばし腕を隠すと、再び若様のあとを追う。
玉を見て来たって、そんな簡単に言うけど、
あの体を見る限り、きっと、酷い目にあったんだろう…。
あたしが、玉のありかを知ってるなんて言ったから…。
そんなアザを作っても、無事に帰ってきてくれてよかった。
ごめんね…シュン…ありがと。
応接間に入ると、あたしたちと若様にキト、そしてシュンは椅子に腰を下ろした。
「で、白虎の玉はどうであった」
「はい。やはり偽物でした」
えっ?偽物?
そう答えたシュンに、目を丸くしたあたしたち。
『四神玉を持っていることが、
この国の国王であることの証…』
前に教えてくれたヒナタ。
なのに、陛下の持ってる白虎の玉が偽物だなんて。
「じゃぁ〜本物はどっかにいっちゃったんだね…」
あたしがそう呟くと、
「本物の白虎玉は、ベリカ王妃様が…持って行ったそうです」
若様をじっと見つめたシュン。
「な、なんだと?母上が?」
若様は、険しい表情で眉間にシワを寄せた。
「はい!マリ王妃がそう言ってましたので、間違いありません」
「鳳凰の鏡を持っていらしたのは記憶にあるが、白虎玉は知らない。そうか…母上が…。それにしても、マリ王妃とも絡み、よく無事で帰った‼︎」
若様が“よくやった”と付け足すと、
シュンは、なんだかさみし気な表情で下を向き俯いた。
「リシル陛下が…助けてくださいました」
「「「えっ?」」」
さっきから、度肝を抜かれっぱなしのシュンの発言に、
あたしたちは驚かされてばかり。
それでもシュンは極めつけを口にする。
「おそらく…若様ご生存も…ご存じかと…」
若様が生きてることを…知っている?
“カイリ殿下を知っているか?”
“もし生きておられるのなら、王の座を代わっていただきたい”
そうだったのね…。
陛下は何もかも気づいてたから、
あたしにあんなことを…。
彼は、一体何がしたいんだろうか。
何を思い、何を考えているんだろう。
たった2日じゃ彼のことは、何もわからなかった。
だけど、
一つだけわかったことは、
陛下も、出会ったころの若様と同じ。
まるで死んだ魚のような、魂のない、紺色の瞳をしていた。
応接間を出て、あたしたちはそれぞれの部屋へと解散していった。
シュンも辛そうな体を動かしながら、ゆっくりと歩いていく。
「ヒナタ…モア…先に部屋、戻ってて」
「うん、わかった。おやすみ」
2人と別れると、あたしは、シュンの姿を追った。
シュンは、自分の部屋を通り過ぎても、まだ先へ歩いていく。
どこに行くんだろう。
見失わないように、小走りであとを追うと、中庭まで出てきた。
その片隅でうずくまり、両腕を抱えて座ってる後ろ姿。
「シュン…」
「カンナか…。どうした?」
「うん…なんか寝つけなくて…。
それとお礼が言いたかったの。今日のこと。
宮殿まで迎えにきてくれてありがとう…それにこんな体にしてしまって…」
「こんなの大したことないって‼︎それより、カンナたちが無事に帰ってきてくれてよかったよ。お前に何かあったら、若様に殺されるからな」
そう言って、シュンは穏やかに微笑んだ。
「“長い1日だった”…って…若様が言ってた。シュンも…そうでしょ?」
いつも屋敷のムードメーカーで、お酒が大好きで、元気で前向きで、悩みなんかなさそうなくらい明るいシュン。
でも、今夜は違う。
あたしが、この世界に来て、2度死にかけた時と同じ。
屋敷に帰ってきたシュンは、
この世の終わりでも経験したかのような表情をしてた。
「もう大丈夫だよ。元気なカンナの顔が見れたから…」
そう言って、シュンはあたしの頭にポンっと手を乗せた。
シュンの優しい笑顔は、なぜか不思議なくらい、あたしを安心させてくれる。
その笑顔を見ると、すごく気持ちが落ち着くんだ。
「ねぇ?シュンはいくつなの?」
「俺?俺は今年29歳だよ」
えっ?29歳?
うそでしょ?
あたしと同じくらいかと思ってたのに…。
29歳って普通におっさんじゃん。
「ずいぶん若作りだったのね」
「あははっ‼︎なんだよそれ‼︎ 若様とはさ、6歳違うんだ。だから俺は、若様が赤ん坊の時から知ってる」
赤ん坊の若様?
仮にも若様は、この国の皇太子。
そんな身分の人を、赤ちゃんのころから知ってるなんて…。
なら、やっぱりシュンもいいところのお坊ちゃんなのかな?
そんなことを考えていたら、
スーッとあたしの髪に、大きな手が触れた気がして、シュンを見上げた。
「綺麗いな茶色だな…」
「あっ…これはカラー入れてるの…でもだいぶ伸びちゃった」
「カラ?よくわかんないけど…本当の髪は黒?」
「うん…そうだよ…」
そう答えたあたしをじっと見下ろしていたシュンは、
とても寂しげな表情でゆっくりと瞳を閉じた。
「俺…妹がいてさ…」
「へぇ…そうなんだ…」
「同じ名前…」
「えっ?」
「妹も、同じ“カンナ”って名前なんだ」
「へぇ〜偶然‼︎ じゃぁ、今度その“カンナさん”に会ってみたいな♪」
目を細めて苦笑したシュンは、ゆっくりと空を見上げた。
そして、もう一度あたしを見降ろす。
「死んだんだ…15年前…」
「えっ?」
「父上も母上もカンナも…みんな死んだ。なのにさ…俺だけ運よく生き延びちまったんだよ…」
「シュン…」
15年前って…もしかして、またあの戦争で…。
「だから、もし妹が生きてたら、カンナと同じくらいの年になっていたんじゃないかなと思うと、勝手に親近感がわくよ」
そう言って、無理に笑顔を作ったシュン。
じっとあたしを見降ろすその瞳は、
あたしを通して、妹のカンナを見ているのかな…って勝手に思うと、
なんだか胸がぎゅーっと苦しくなる。
15年前の戦争で、ここにまた1人心を痛めてる人がいるなんて。




