本当に欲しかったもの
“考えてほしい”
…そんなこと言われても…。
一日疲れ切ってる頭が、この言葉を理解しようとフル回転してる。
もう、どうにかなってしまいそうだ。
「違う。考えるのはあたしじゃない。若様の方よ。あとさき考えずにそんなこと言うけど、それで、もしあたしが、本気で帰りたくない‼︎って言いだしたら、どうするの?」
「………」
「若様は皇帝になるんでしょ?
そうなったら、あたしは若様のそばにいれる?そんなことできるわけない。若様だってそれがわかってるから、期限つきのあたしに、気持ちをぶつけてこれるのよ」
「そうではない」
「あたしは怖いの。もし若様にうかつに惹かれてしまったら、帰る決心がなくなってしまいそうで、すごく怖い」
「なら、私に惹かれればいい」
「えっ?」
「私に惹かれて、帰らなければいいだけの話しだ。お前がそばにいるなら、皇帝の座など捨てられる」
ちょ、ちょっと…‼︎
ほんとに、何を言いだすの?
「その変わり、一生、私のそばにいろ」
「若様‼︎いい加減にしてよ‼︎もうやめて。若様どうかしちゃってるよ。
冗談でも、“皇帝の座を捨てられる”なんてこと言わないで!
4ヶ月後にあたしは元の世界に帰るし、冷静に考えれば考えるほど、あたしはユリやおばあちゃんや元の世界を捨てられない」
「カンナ…」
「もう、ほんとに疲れたから寝させて‼︎」
無理やり若様を立ち上がらせると、背中を押して、部屋を追い出した。
カイリ side
バタンっと閉められた扉にため息が漏れる。
いつか、言おうと思っていた言葉。
ずっと秘めていたこの気持ち。
今すぐ、カンナを私のものにしたかった。
“皇帝陛下に…心奪われそうだったみたいです”
カンナはこの屋敷にいる。
今でも十分そばに置けている。
なのに、こんな焦ってしまうとは、
…弟に嫉妬でもしたのか。
部屋に戻ると、それを追うかのように、扉をノックする音が響いた。
「キトか…」
「はい。失礼いたします。今回の白虎玉については、残念な結果に終わりましたが、玉がなくとも、現青龍を崩壊させることは十分可能です。どうかお気を落とさず」
「……?気を落としているようにでも見えたか?」
「はい。随分と顔色が優れないご様子でしたので…」
「そうか…」
「それと、近々、作戦を開始してもいいほど、準備が整ってまいりました」
青龍を崩壊させる準備。
ずっと憎しみだけで生きてきた。
母を殺された恨み。
白虎を崩壊させられた恨み。
義母上を…前皇帝であった父上をずっと恨み続けてきた。
だが、なぜだか、それで私が得たものなど何も無い。
今更、亡くなる間際、母上が私に言った言葉を思い出す。
“カイリ…王妃を恨んではいけません…父上を憎んではいけません”
疑ったことなど一度もなかった。
幼きころから、私は母上のカタキを打ち、皇帝になるのだと…そう思っていた。
そして、皇帝になるためには、王位継承者の証である鳳凰の鏡が必要なんだと。
それが手に入れば王の座を取り返せると、ただそう信じていた。
15年もかけて、ようやく見つけた鳳凰の鏡。
そして、突然、私の前に現れた女。
カンナから言われた言葉が、なぜか耳の奥でこだまする。
“あなたにその力があるなら助けてください。その力でたくさんの尊い命が救われるんです”
“カタキを討つのが目的なんでしょ?
それでカタキを討ったあと、ついでに王になるの?そんな王を民はどう思うかな”
“若様…大丈夫だよ。お母様の形見…必ず見つかるから…”
私が必要としているものは、
本当に欲しているものは、
探していたものが手に入ると、
これではなかったことを実感する。
「なぜ…私は皇帝になるのだろうか…」
思わず口にした言葉に、
「鏡を献上したのは、あなた様の母上様です。べリカ王妃さまのカタキをうち、新しい国を作りましょう」
キトは力強くそう言い切った。
「わかっている…だがその先が、ぼんやりとしか見えない」
「若様…あなた様らしくない。どうなさったのですか?」
「………」
「ならば一つ。例え話をいたしましょう。これはなんです?」
突然、棚に飾られている真珠を取り出したキトは、
私の目の前にかざしてくる。
「真珠だ…それがどうした」
「そうです。真珠です。若様は我々家臣に“これは高級な真珠だ”とおっしゃい、我々もそれを信じてきました。
だがある日突然、“やっぱりこれはただの石ころだった”と言い出した…。
今までずっとあなた様を信じてここまでついてきた何百の家臣たちは、一体この先どうすればよろしのですか?」
わかっている。
キトの言いたいことはよくわかる。
目的を忘れたわけではない。
私だって人間だ。
少しくらい揺らいでしまうこともある。
「私が皇帝になるのは、今の世を変え、身分制をなくし、民のためにも平和な世を築くためだ」
「どうかその心を見失わないでください」




