心奪われる
目を見開いて陛下を凝視しすぎてしまったあたしに、
さすがの陛下も不審に思ったのか、少し首をかしげた。
「カンナ…と言ったか?」
蓮…じゃないの?
「カンナ…どうしたの?カンナ?」
放心状態のあたしに、横からヒナタとモアが顔を覗き込んでくる。
ち、違う…。
顔も声も全く一緒だけど、
話し方や雰囲気が…全然違う。
それに蓮は、青い瞳をしていない。
「カンナとやら…さっきまでの勢いはどうした」
屋敷まで、どうやって帰ってきたのかわからない。
ヒナタの背中に乗せてもらって、
飛んで帰ってきたような気もする。
「カンナ!いったいどうしちゃったの?」
屋敷の門の前で、あたしの肩をグラグラ揺らしながら聞いてくるヒナタ。
白虎玉どころじゃなかった。
今日しか玉を見るチャンスはなかったのに。
「なんか…ごめん…。陛下に心奪われそうだった」
「ええぇぇ?」
「はぁぁぁ?」
あっけに取られてるヒナタとモアに、あたしは蓮と陛下の関係を説明した。
「好きな人と同じ顔~?!!!!」
もう屋敷中に聞こえるんじゃないかと思うくらいのバカでかい声で、
目を真ん丸くして驚いてる二人。
「前に話したでしょ?友達のユリと、モアが同じ顔ってこと。陛下があたしがあっちの世界で付き合ってた人と、瓜二つなの」
「ちょ、ちょっと!!カンナ!惑わされちゃだめよ?…陛下は敵なんだからね!!」
「う、うん…」
「“うん”…じゃないわよ!!陛下は、若様を追放して、若様の母上様まで殺して皇帝になったのよ?」
「わかってる…」
「心が揺らぎそうになったら思いだして!? 若様のことを…。白虎のことを…。流白村のことを…。モアのことを…。思い出すのよ?いい?」
わかってる。
15年前の戦争がなければ、モアだってあんな生活を送らなくてすんだんだ。
あの人は、蓮じゃない。
蓮じゃないんだ…。
「もう、会うこともないだろうし、大丈夫だよ」
でも、それだけじゃない。
あたしは、陛下から目をそらしたかった。
こないだ、ルリに嫉妬して、
もしかしたらあたし、若様を好きになってしまったかもしれないって思った気持ち。
その気持ちの後ろめたさを、
陛下を通して、蓮に見られている気がして…。
「はぁ…本当、今日は参った」
「もう!!しっかりしなさいよ!!」
「帰ってきたのか」
「若様…」
屋敷の中に入ると、入口で待ち構えていたように立っていた若様。
「無事でよかった。で、白虎の玉はどうであった」
「あぁ〜。うん。ごめん。見れなかった」
「……?」
なんだか若様とも、まともに目が合わせられない。
そんなあたしを、哀れむかのような瞳で見つめてくるヒナタとモア。
「あたし、疲れたからもう寝るね」
「ヒナタ…ちょっと来い」
「はい…」
「カンナのあの態度はなんだ!宮殿で何かあったのか?」
「えっ?あの…なんて言うか…」
「どうした」
「………」
「いいから言え!」
「………」
「ヒナタ‼︎」
「は、はい…。こ、皇帝陛下に…心奪われそうだった…みたいです」
「なんだと?」
「あぁ…若様に言ったこと秘密にしてください!!カンナに殺されちゃう」
部屋に戻って、ベッドの中でうずくまっていると、
「入るぞ‼︎」
ノックもせずに、ずかずかと部屋に入ってきた若様。
「ど、どうしたの?」
「話がある」
若様は、ダンダン‼︎って大股であたしに近づいてくると、ベッドに腰を下ろした。
疲れたから寝る…って言ったのに…。
あたしは、仕方なしに、布団から出ると体を起き上がらせた。
「なぜ報告にこない」
「えっ?」
「今日の宮殿での様子だ」
「あ、あぁ…」
「見てきたのだろ?」
「うん。そう…見てきた…」
「弟は、どんな王だった」
どんなって…蓮そっくりで。
信じられないくらい瓜二つで。
蓮なわけないのに、
思わず“蓮…”って名前を口にしてた。
「よ、よくわからなかった…ごめんなさい」
そう言って、ゆっくりと若様を見上げると、
目を細めてあたしを見降ろす視線が、なんだか冷たい。
小さなため息を吐いた若様は、
いきなりあたしをベッドに押し倒してくる。
「ちょっと‼︎」
抵抗する間も無く、重ねられた唇。
「いや‼︎…若様‼︎やめて‼︎」
「もう、思い出さなくていい」
「……?」
「今は、弟のことは考えるな」
「考えて…ないよ」
「なら、私のことを考えろ」
「えっ?」
「この世界にいるときは、私だけを見ていろ。ほかの男のことを考えることは許さない」
一度離れた唇はまたつながれて、何度も求めてくる。
今までの若様と違う、激しいキス。
どうしちゃったの?
若様…なんか変。
何度も角度を変え、絡めてくる唇。
このキスを受け入れてはダメだと頭ではわかっているのに、体がいうこと効かない。
“陛下を通して蓮に見られてる”
……っ‼︎
不意に陛下の顔が頭に浮かんで、
ハッと我に返ったあたしは、
若様の口元を片手で塞いだ。
そんなあたしの態度に、若様は体を離すと、改めてベッドに座る。
あたしも起き上がり、隣に腰を下ろした。
「“話しがある”と言ったのは、弟のことではない」
「じゃぁ…何…?」
じっと見つめてくる紺色の瞳。
その瞳に耐えられなくて、思わず、先に視線をそらした。
「カンナ…」
「ん?」
「ずっと、私のそばにいてくれないか?元の世界には帰らず…」
「えっ?」
「考えてほしい」
若様…今…なんて?
何を…言ってるの?
元の世界に…帰らず…?




